海中の見えない廃棄物「ゴーストギア」の問題点とは。解決が難しい理由や、解決に向けた3つのアプローチを解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤー、そしてそれらを実践・検討する企業の経営者は、常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「ゴーストギア」です。海洋プラスチック問題の中でも、近年とくに注目を集めているのが、海に放置された漁具が長期間にわたり環境負荷を与え続ける「見えない廃棄物」の存在です。本記事では、ゴーストギア問題の全体像とともに、予防・軽減・回復という3つの解決アプローチを整理し、具体的な事例を交えて解説します。
人の手を離れても漁獲機能を持つ「ゴーストギア」
ゴーストギアとは、廃棄・流失・紛失された漁網や釣り糸、ロープ、かごなどの漁具が、所有者の管理を離れたまま海中に残り続ける状態を指します。「幽霊漁具」という名称のとおり、人の手を離れてもなお漁獲機能を持ち続け、魚類や海洋哺乳類が絡まって死亡する「ゴーストフィッシング」を引き起こします。
これらの漁具の多くはナイロンやポリエチレンなどの合成樹脂で作られており、海中で分解されにくい点が特徴です。その結果、長期間にわたって生態系を傷つけるだけでなく、劣化の過程でマイクロプラスチック化し、海洋汚染をさらに深刻化させます。世界的な脱炭素やネイチャーポジティブの潮流の中で、ゴーストギアは「次に向き合うべき海洋課題」として注目されています。
なぜゴーストギア問題は解決が難しいのか
ゴーストギア問題の難しさは、発生源が分散している点にあります。大規模漁業だけでなく、小規模な沿岸漁業やレジャー釣りも含め、多様な主体が関与しており、一律の規制や回収スキームを構築しにくいのです。また、海底や深海に沈んだ漁具は可視化が難しく、回収には高いコストと専門技術が求められます。
さらに、海は国境を越えてつながっているため、一国だけで完結する問題ではありません。こうした構造的な課題が、ゴーストギア対策を複雑にしています。
ゴーストギア解決に向けた3つのアプローチ
現在、ゴーストギア対策は大きく3つの方向性で整理されています。
1つ目は、そもそもゴーストギアを「生まない」ための予防策。
2つ目は、流失してしまった後でも被害を最小化する軽減策。
3つ目は、すでに存在するゴーストギアを回収し、資源として循環させる回復(回収)策です。
以下では、それぞれの代表的な事例を紹介します。
・予防策の事例:生分解性という新しい選択肢
予防策として注目されているのが、漁具そのものの素材や設計を見直すアプローチです。その代表例が、NEDOが推進する研究成果です。
NEDOのムーンショット型研究開発事業では、これまで「海では分解しない」とされてきた市販の釣り糸の中に、海洋環境下で生分解が進むものが存在することを実証しました。東京大学や九州大学などが参加したフィールド試験では、実際に海中や海底に釣り糸を長期間設置し、時間経過とともに強度が低下し、表面に分解の兆候が現れる様子が確認されています。
この成果は、使用時には十分な強度を保ちつつ、万が一流失した場合には自然に分解が進む漁具設計の可能性を示すものです。ゴーストギアを「回収する前に、発生しにくくする」という予防的発想は、今後の漁業資材開発の重要な方向性といえるでしょう。
参照ページ:これまで分解しないとされていた市販の釣り糸が海洋で生分解することを発見しました | ニュース | NEDO
・軽減策の事例:自己開放型漁具という発想
一方、すべてのゴーストギアを完全に防ぐことは現実的ではありません。そこで注目されているのが、被害を最小限に抑える軽減策です。その代表例が「自己開放型漁具」です。
自己開放型漁具とは、一定期間が経過すると留め具や結束部分が外れ、漁具としての機能を失う設計を採用したものです。例えば、かご漁やトラップ漁に使われる装置に、時間経過で劣化する素材や水圧で作動する仕組みを組み込むことで、流失後に魚を獲り続ける状態を防ぎます。
このアプローチは、既存の漁業方法を大きく変えずに導入できる点が特徴です。完全な生分解を待たずとも、生態系への影響を抑える「中間解」として、各国で実証や導入が進んでいます。
・回復(回収)策の事例:リファインバースグループの循環モデル
すでに海に存在するゴーストギアに対しては、回収と資源循環を組み合わせた回復策が重要です。その好例が、リファインバースグループの取り組みです。
同社は、ダイビング団体や地域と連携し、伊豆稲取などで廃漁網の回収プロジェクトを実施しています。回収された漁網は、金属部品などの異物を丁寧に取り除いたうえで、自社工場にて再生ナイロンペレット「REAMIDE」へとアップサイクルされます。この再生素材は、アパレル製品やインテリア、建材など、さまざまな用途に活用されています。
単なる清掃活動にとどまらず、回収物に経済的価値を持たせることで、継続可能な回収スキームを構築している点が特徴です。ゴーストギア対策を「環境保全」と「事業」の両立で進めるモデルとして、注目されています。
参照ページ:<イベントレポート>伊豆稲取で「廃漁網の回収とリサイクルプロジェクト」を実施 | 株式会社リファインバースグループのプレスリリース
編集後記
ゴーストギア問題は、単なる環境対策ではなく、新たなビジネス機会とも結びつきつつあります。生分解性素材の研究開発、スマート漁具、回収・再資源化のインフラ構築など、多様なプレイヤーが関われる余地があります。TNFDなど自然資本を重視する枠組みの広がりとともに、海洋課題は企業価値評価とも密接に関係していくでしょう。
ゴーストギアは、海の中にあるがゆえに見えにくく、後回しにされがちな問題です。しかし、予防・軽減・回復の3つを組み合わせて考えることで、技術とビジネスの力で解決に近づけることが見えてきました。ネイチャーポジティブが求められる時代において、海洋課題への向き合い方は、企業の姿勢そのものを映し出す鏡になりつつあります。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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