各社がこぞってトレンド予測する若者世代の「セルフケア」はなぜ今注目を集めているのか?
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回は若者世代から注目を集めている「セルフケア」について解説していきます。セルフケアはこれまでもコンスタントに注目されてきた分野ですが、2023年に入ってからさまざまなメディアやマーケティング研究機関が若者世代のセルフケアがトレンドになっていると発表しています。若者はどのようにセルフケアをしていて、そこにはどのようなインサイトが隠れているのでしょうか。
的中率80%のトレンド予測「Pinterest Predicts 2023」ではセルフケア関連のテーマが多数トレンド入り
ピンタレストが毎年発表している「Pinterest Predicts」のトレンド予測は3年連続で的中率80%を超えており2023年度も注目度が高くなっています。今回発表されたトピックは27におよび、Z世代の関心トピックだけに絞ると以下の14のトピックがトレンド入りしました。
1.エアリースタイル
2.オレンジウェディング
3.ツートンヘアカラー
4.ミニブーム
5.OOTF
6.座りすぎにサヨナラ
7.変化するデート
8."ロムコム" ファッション
9."マッシュ"ルーム
10."青?ピンク?" の枠を超えて
11.トレイントレイン
12.ペーパークラフトに夢中
13.レイブがブーム
14.海藻は新しいビタミン
出典:Pinterest Predicts:2023 年のトレンド予測
このトレンド発表を受けてPinterest Japanが開催した「Predicts プレスイベント」では、同社でインサイトリードをつとめる本田絵里子氏が登壇し、特に重要性が増しているカテゴリである「ウェルビーイング」について言及しています。本田氏はトレンド予測の全体的な傾向として「個の確立・個の時代」「自己表現・セルフエクスプレッションの多様化」「セルフケアの重要性」の3つをテーマとして挙げています。
これらのテーマはいずれも「セルフ」が軸になっており、その背景として本田氏は「コロナによるさまざまな変化、不安定な経済や政治状況が続いている中、より自分の軸をもつこと、そして自分自身をケアしたり表現していくことが重要になっていくのではないか」とコメントしています。
また、Pinterest Predicts 2023の発表を受けて日経トレンドでも特集が組まれています。同記事でもキーワードはセルフケアであるとしており、消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN」に所属する電通の千葉貴志氏はこのトレンドの背景として「以前は一人=寂しい状態という共通認識があったように思う。しかし今は、あえて一人を選ぶ人が増加している。一人でいることに対して、肯定的に捉えられるようになった社会的背景が影響しているのではないか」とコメントしており、“一人”に対する認識が変わりつつあることを示唆しました。
博報堂、CCCなどマーケティング研究機関がセルフケアを特集
セルフケア需要の高まりはマーケティングに直結するだけに、国内でもマーケティング研究機関がセルフケアについて研究・発信しています。
CCCマーケティング総合研究所と伊藤忠ファッションシステムが2022年12月に共同で立ち上げた「SANSEI PROJECT(世³プロジェクト)」では、キックオフイベントとして『デジタルネイティブ世代のセルフケアに見るちょっと先の未来』と題して、セルフケアに注目するイベントを開催しました。イベント内で、セルフケアをテーマにした背景は「ストレスフルな不安定社会をサバイブするため自分の心身ケアが必須」だと解説しています。
デジタルネイティブ世代の志向性は「生活満足度が高い」「自立意識が高い」「趣味や好きなことを持ちたい」という特徴があり、彼らが一番欲しい時間は「睡眠」、「趣味・自由時間・入浴」という結果が出ており、このことからもセルフケア需要高まっていることがわかるとのことです。
また、博報堂のウェブマガジンによる連載「ヒット習慣予報」では『肯定感セルフケア』をテーマに挙げています。2016年から「肯定感」で検索する人が非常に増えているとして、その背景には「肯定感を高めるための取り組みをしている人」が増えていることがあるとしています。記事内では肯定感を高める習慣として「コミュニティで肯定感UP」「タスク管理で肯定感UP」「自分磨きで肯定感UP」といった事例を挙げてセルフケアの機運の高まりを紹介しています。
GQがセルフケアの新トレンドとして「ソロデート」を紹介
英版GQでは、セルフケアの最新トレンドとして「ソロデート」というコンセプトを紹介しています。ソロデートとは「おひとりさま」や「ソロ活」と同様のコンセプトですが、こうした活動をTilTokでは「#solodate」とハッシュタグをつけて投稿することがムーブメントとなっていてすでに再生数は2億回を超えているとのことです。
記事内では、ソロデートが流行した背景のひとつにはセルフケアが注目されている流れがあると解説しています。ソロデートを実践する人たちへの取材では以下のようなインサイトが報告されています。
・自分とロマンティックな時間を過ごすことで、うちなる自分を見つめ、より結びつきを強める助けとなります
・誰かと付き合ったり、“誰かのための自分”でいたりするのは、やめようと思ったんです
・ひとりで楽しく時を過ごすのは満足度が高いです。バーンアウト予防にもなるし、肩の荷をおろすチャンスにもなります
・他人のことばかり気になって、自分のことはほっておきがち。いっぽう、ソロデートは、自分の幸せやメンタルだけを考え、自分のためだけに動くことができます
自分と向き合う時間がなくなっている昨今において、ソロデートは気軽に実践できるセルフケアのひとつとして若者に受け入れられているようです。
セルフケア需要を狙った商品・サービス
紹介してきたように、若い世代を中心にセルフケアの需要が拡大しています。こうした需要を狙った商品やサービスは近年、多様な形で市場に流通しています。
シオノギヘルスケアでは、2021年より定額制で自分にあった医薬品、健康食品、検査キットなどが届く『セルフケア Art Box』をリリースしています。プランごとに決まった数の商品を自由に組み合わせて自宅まで届けることができ、自分に合った商品を選択するためにセルフケアタイプチェックや相談窓口の利用ができるというものです。
また、前述の日経トレンドでの特集でも言及されていたセルフケア需要に向けた商品として、サントリーのアルコール飲料『BAR Pomum(バー・ポームム)』があります。商品コピーには「BAR Pomumは、せわしない毎日に、何もしない時間を楽しんでもらうために生まれた、ちょっと贅沢な果実のお酒です。」と書かれており、狙っているターゲットはまさにセルフケア意識の高い若者であることがわかります。
【編集後記】Withコロナ・Afterコロナの象徴としてのセルフケア
さまざまなメディアやマーケティングの研究機関がセルフケアを2023年のトレンドだと予測していることを紹介しました。面白いのは、それぞれのセルフケアに対する取り上げ方が画一的ではなく、広義でのセルフケアとして取り上げていることです。2020年から世界は新型コロナの感染拡大に苦しめられ、外出できない期間が続きましたが、その間に自分と向き合うことや、自分をケアすることの重要性をあらためて認識したのではないでしょうか。セルフケアの流行はWithコロナ・Afterコロナの象徴とも言えるでしょう。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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