音声配信ビジネスが日本でもブレイクする予兆。世界の動向から見える耳の争奪戦
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回は多くの人にとって馴染みの深い「音声配信ビジネス」について紐解いていきます。音声配信ビジネスの元祖といえばラジオですが、テレビやインターネットなどの後塵を拝す形で市場は縮小しています。
しかし、スマホの時代が到来してから、ポッドキャストの普及や、記憶に新しいClubhouseの一大ブームなど、確かに音声配信ビジネスの流れが来ているのは確かです。インターネットのコンテンツはテキスト、画像、動画と、どんどんリッチになっていく中、なぜ大手もベンチャーも音声配信に参入していくのでしょうか。
音声広告の国内市場は立ち上がったばかりだが、爆発的に拡大する予測
国内の音声配信ビジネスがどれくらい活気があるのか客観的に示すデータはまだ少ないですが、ひとつ指標になるのは音声広告市場です。
調査会社のデジタルインファクトが2020年3月に公開した「デジタル音声広告市場規模推計」では、2019年に7億円と立ち上がったばかりの市場であることがわかります。しかし、2025年には市場規模は420億円となる予測で、まさに爆発的なスタートを切ったところであることが示されています。
出典:デジタル音声広告の市場規模は2020年に16億円、2025年には420億円に
当然、音声配信サービスのビジネスモデルは広告だけでなく課金モデルなどもありますから、実際の音声配信ビジネスの市場規模はさらに大きいものとなるはずです。
GAFAがこぞって音声配信ビジネスに参入するのはなぜか?
音声配信ビジネスの世界(主に北米)の動向をみてみましょう。アメリカではまさに音声配信サービスは戦国時代に突入しています。ビジネスインサイダー・インテリジェンスの調査では、アメリカのポッドキャスト利用者は2020年に1億670万人に達すると予測しています。
これまでポッドキャストの主なプレイヤーはAppleだったが、SpotifyがGimlet MediaやAnchorといったポッドキャスト企業を買収し、音声配信ビジネスに参入してきたことで競争が激化しています。
さらに後述しますが、AppleだけでなくGAFAがこぞって音声配信ビジネスに参入しています。大きくふたつの理由があります。
可処分時間の争奪戦は耳の領域に進出
コンテンツ産業全般に言えることですが、ユーザーの可処分時間をいかにして獲得するかがキーポイントとなっています。Netflixが業績発表時に「ライバルはFortnite」と発言したことが話題となりましたが、それほど可処分時間の争奪戦は苛烈になっています。
ゲームや動画といったコンテンツは視覚と聴覚を占有しますが、音声コンテンツでユーザーが使うのは聴覚だけなので、“ながら”でもコンテンツを楽しむことができます。それをブルーオーシャンと見込んだビックテック企業がこぞって参入している背景があります。
2021年初旬にはClubhouseが大流行しましたが、この大流行を受けてTwitterがClubhouseとそっくりなクローン機能であるSpacesをリリースしています。良くも悪くも大手テック企業がクローン機能をリリースするということはそれほど音声配信ビジネスがホットな領域であることを示しているのです。
音声データはスマートスピーカーの精度向上にダイレクトに影響
GAFAら大手テック企業が音声配信ビジネスに参入する理由の本命はスマートスピーカーの精度向上のためでしょう。スマートスピーカーは人の言葉を認識しますが、認識の精度を決めるのはAIの性能です。
そして、AIの精度を高めるにはビッグデータが必要です。それも音声データである必要があります。質の良い音声データを大量に集めるにはどうすれば良いかを考えると、必然的に音声配信ビジネスを自社で運営する、もしくは音声配信サービス事業者を買収するのが手っ取り早いのです。
音声配信ビジネスの国内市場はどうなる?押し寄せる海外勢と新興の国内勢
アメリカでは車で通勤する人が多く、通勤時にポッドキャストを聴く文化が定着していたこともあり、ポッドキャスト市場がすでに成熟しています。日本国内では前述した通り音声配信市場はここ数年で立ち上がったばかりですが、コロナ禍での在宅需要を受けて成長の兆しを見せています。
国内で存在感を示しているAppleやSpotifyのポッドキャスト包囲網に割って入るように、Voicyやstand.fmといった日本発の音声配信サービスが生まれています。
参考記事:音声ビジネスの可能性 ー Voicyに込められた創業者の想い
アメリカのテック企業の流行が数年遅れて日本にも上陸してきた歴史を考えると、これから日本でも耳の可処分時間の争奪戦と、日本語の音声データを日本語のスマートスピーカーの精度向上に利用するというパラダイムシフトが起こる可能性が高そうです。
【編集後記】Netflixを見ることすら面倒な人に耳のコンテンツはうってつけ
筆者もヘビーなポッドキャスト聴取者なのですが、ポッドキャストの何が良いかと言われると、やはり“ながら”で楽しめることです。Netflixも大好きではあるのですが、気合を入れないと見始められません。もはや動画を見ることすら面倒になりつつあります。
家事をしながらポッドキャストを聴くのが生活の一部になっていますが、ポッドキャストが広告まみれになるのは微妙な心境です。一方でクリエイターには適切なインセンティブが支払われるべきだとは思うので、どんなビジネスモデルが日本で定着するのか見守っていきたいですね。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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