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「日本だけを変えても意味がない」I’mbesideyouが創業時から世界を視野に入れる理由

「日本だけを変えても意味がない」I’mbesideyouが創業時から世界を視野に入れる理由

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スタートアップ起業家たちの“リアル”に迫るシリーズ企画「STARTUP STORY」。――今回登場してもらうのは、オンラインコミュニケーションの動画解析AIを提供する株式会社I’mbesideyou代表の神谷渉三氏。

コロナ禍で急増したオンラインコミュニケーションにおいて、感情などを可視化する同社のサービスは教育業界や営業現場、組織マネジメントで活用され多くの大企業で導入されている。創業直後から数々のビジネスプログラムで実績を残し、わずか約1年で100件もの国際特許を出願。

国内外のピッチイベントやコンテストで数々の受賞実績があり、様々なアクセラレーターでも採択されている。最近ではアメリカで開催されたSXSW Pitch2022に、日本企業で唯一ファイナリストに選出された。

世界トップクラスのエンジニアを輩出しているインド工科大学からは、3,400人以上ものインターンシップの応募が集まっており、世界でも大きな注目を集めるスタートアップだ。

そんな起業の原点にあったのは神谷氏の「社会全体を学校にする」というビジョン。起業前にもNTTデータで働きながらプライベートで教育事業を立ち上げていた神谷氏が、コロナ禍であえて起業した理由とはなんなのか。強さの秘密とともに語ってもらった。


▲株式会社I'mbesideyou 代表取締役社長 神谷渉三 氏

「ITで世界を変える」志を胸に社会へ

まずは起業を志したきっかけから聞かせてください。

神谷氏 : 初めて「社長になりたい」と考えたのは、子供のころでした。私は生まれも育ちも愛知県の田舎で、地元の窮屈な環境やいじめられた経験から「いつかは自由に生きられる環境を手に入れたい」とずっと考えていて。その答えが社長になることでした。

いつかは社長になるという夢はずっと持ち続けていて、新卒でNTTデータに入社してからも「自分が社長だったらどうするか」と常に経営者の目線で考えていました。その経験が実際に起業した今でも活きています。

ーーなぜNTTデータに入社したのでしょうか。

神谷氏 : 世の中を変える仕事をしたかったからです。就職活動の時は「世の中を一番変えられる仕事はなんだろう」と考えていて、当時出した答えがITでした。当時はWindows95が発売されるなど、世の中が徐々にデジタル化し始めた時代だったのです。

ーーNTTデータに入社してからのキャリアについても聞かせてください。

神谷氏 : 入社して最初の2年はシステム営業をしていました。当時はあらゆる業界がデジタル化し始めた時代で、アナログな現場にどうやってITを落とし込み、業務を効率化させるか考える仕事です。千本ノックさながらに案件をこなし、基礎的なビジネス力を身につけられました。

その後はBSデジタル放送のプロジェクトでもチームリーダーやYahoo! Japanの営業責任者、BPRのために中国にBPOセンター立ち上げの仕事も任せてもらいました。起業前にはM&Aやアライアンスの仕事もしており、スタートアップへの出資経験もあります。NTT データでは、本当に様々な経験をさせてもらいましたね。


息子の存在が日本の教育課題を解決するきっかけに

ーー今のビジネスに繋がる「教育」に関心を持ち始めたきっかけも教えてください。

神谷氏 : 教育に関心を持ったきっかけは息子の存在です。それまで「ITが世の中を変える」と思っていたのですが、息子が生まれたのをきっかけに「世の中を変えるのは子どもたちだ」と考えを改めるようになりました。

そんな息子が小学校に入学してから、元気がなくなったのを見て「決められた通りに授業を受ける日本の教育はおかしいんじゃないか」と思うようになって。もっと子どもたちの個性を認め、お互いに尊重し会える世の中を作りたいと思い、小学生と多様な大人たちが交流できるNei-Kidというプロジェクトを立ち上げました。

ーーNei-Kidとは、どのようなプロジェクトなのでしょうか。

神谷氏 : 「親が歩まなかった人生をこどもたちに見せよう」をコンセプトに、社会で働く人々の生き様をこどもに見せるためのプロジェクトです。歌手や忍者の末裔、ビジネスの現場で活躍するコンサルタントなど、様々な大人との出会いを作ることで、こどもたちにいい影響を与えようと思ったのです。

このプロジェクトは経済産業省が主催する人材育成プログラム「始動」で2017年はシリコンバレー選抜に、2018年には副代表が優秀賞をいただきました。始動で2期連続採択されたプロジェクトは前にも後にもありません。

他にも起業家教育のプロジェクトの立ち上げにも参画しました。

ーーなぜ起業家教育を始めようと思ったのでしょうか。

神谷氏 : 息子が成長し、Nei-Kidとは別の教育が必要だと感じたからです。教育ビジネスでは大先輩の仁禮彩香さんらと一緒に、小中高生向け完全オンライン起業家教育「Time Leap Academy」を立ち上げました。ビジネスの第一線で活躍する方々を講師に招き、全国の子どもたちが自己実現できる場を作りたいと思ったのです。

NTTデータで会社員として働く傍ら、自身でもスモールビジネスのファウンダーをし、仁禮さんの下でスモールビジネスの従業員を経験。さらに、当時はNTTデータやNTTドコモでM&Aやアライアンスも担当していてバイサイドも経験しました。起業前にスタートアップ起業家以外の働き方をすべて経験したことになります。

大人と子供の良質な出会いを量産するために

ーーNTTデータを退職し、I’mbesideyouを起業したきっかけを教えてください。

神谷氏 : 実は私の中では起業とは思っておらず、Nei-Kidからピボットした感覚なんです。「社会全体を学校にする」というビジョンは変わらず、Nei-Kidでぶつかった壁を超えるために手段だけを新しくしました。

NTTデータを辞めた理由は、社内の新規事業として始めるとスピードが鈍化すると思ったからです。自分たちのサービスをいち早く社会に届けるためにも、他の創業メンバー2人(CSO 安藤高太朗、CTO 能勢康宏氏)と会社を辞めて独立しました。

ーーNei-Kidでぶつかった壁とはなんですか?

神谷氏 : 素晴らしい出会いを再現できず、事業をスケールできないことです。こどもにいい影響を与えると言われている人格者でも、すべての子供にマッチするわけではありません。その子供に対して、どんな大人がマッチするのか定量的に判断できなければ、いい出会いを意図的に生み出せないと思ったのです。

加えて、コロナ禍では取り組みをオンライン化するしかなく、余計に大人と子供のいい出会いを作り出すのが難しくなりました。そこでオンラインの画像を動画解析AIで認識して感情を数値化できるI’mbesideyouのサービスを作ったのです

ーーI’mbesideyouがどのようなシーンでどのように使われているのか教えてください。

神谷氏 : オンライン教育の現場はもちろんのこと、オンラインセールスやHR、メンタルヘルスで活用されることも多いです。例えば塾などの教育現場では、過去に著しく成績が上がった生徒や解約になった生徒の特徴をAIで発見し、生徒の成績向上や解約率低下のために使われています。

セールスの現場では過去の商談動画から受注・失注に共通する傾向をAIで発見して営業効率アップのために使われています。社内でも1on1などの画像を解析して組織のブラックボックスを解消したり、メンタル不調を事前に防ぐなど、様々な目的で使われています。

ーーなぜ動画解析AIを使おうと思ったのでしょうか?

神谷氏 : NTTデータで「デジタル・オブザベーション」システムを作ろうとしていたので、動画解析AIの技術についてはもともと知っていました。デジタル・オブザベーションとは、ユーザーの理解を深めるために行うオブザベーションをデジタルで行うこと。

ユーザー理解を深めるためにユーザーインタビューをする方が多いと思うのですが、インタビューで本音を引き出すのは困難ですよね。デザイン・シンキングではインタビューよりも、ユーザーの行動を観察するオブザベーションの方が効果的だと言われています。

しかし、長時間ユーザーを観察するオブザベーションは時間もコストもかかりますし、実施するには様々な制約もあります。そこで、動画解析AIを使ってユーザーの表情を分析する「デジタル・オブザベーション」に注目しました。このコンセプトは海外からも評価されました。

この技術を使えば、再現性を持って大人と子供のいい出会いを生み出せると思ったのです。

ーー動画解析でサービスを作ろうとしてから、どのように動いたのか教えてください。

神谷氏 : 社内の優秀なメンバーに声をかけました。一緒に起業した能瀬や安藤は前職でも、動画解析やAIの仕事をしており、高い技術力を持っていたので、私が構想したサービスを作れるか相談したんです。

2020年のGW直後に相談したところ、彼らはわずか一ヶ月でシステムを開発してくれて。その間、私は本当に市場があるのか調査し、十分にマーケットがあることを確信して起業に至ったのです。


世界を見据えてビジョンを描いてほしい

ーー会社設立から1年で、SXSW Pitch2022のファイナリストに選ばれるなど数々のコンテストで輝かしい成果を残していますよね。事業フェーズをどのように認識していますか?

神谷氏 : まだPMFは達成していないと思います。私たちのサービスが本当に一人一人の幸せを創り出している、という実感はまだ得られていないからです。

ただし、今の方向性は間違ってはいないと思うので、よりサービスの質を高めて本当にユーザーを幸せにできるサービスにブラッシュアップしていきたいですね。私たちのサービスはユーザーが増えればデータも増えて、より質の高いサービスになっていくので、今の取り組みを根気よく続けていきたいと思います。

逆に言えばPMFをしていない今の段階で、これだけの成果を出せているので大きなポテンシャルを感じています。

ーー今のような成果を出せている秘訣を教えてください。

神谷氏 : 人材の質の高さだと思います。スタートアップは最初の10人で成長が決まると思っているので、かなりこだわって採用してきました。また、私たちはインド工科大学から3,400人以上のインターンの応募があり、これは世界でもトップクラスです。インドの学生たちからは、GAFAよりも期待されているということになります。

当初は1,000人の応募を目標にしていたので、この成果には驚きましたね。現在はインターンだけでなく卒業生の正式採用も行っており、ハイクラスなエンジニアを採用できています。

ーーなぜインド工科大学からインターンを募集しようと思ったのでしょうか。

神谷氏 : 国内では優秀なエンジニアを採用できなかったからです。創業当初は国内でエンジニア採用をしていたのですが、誰も私たちの開発スピードについてこれなくて。ある時、CTOにどうしたら開発スピードを上げられるか聞いたら「遅い人を入れないでほしい」と言われたんです。

私はリソースさえ増やせば開発スピードが上がると思っていたのですが、レベルの低い人を入れるとかえってスピードが遅くなると言われて反省しました。そこでメルカリの小泉さん(メルカリ 取締役会長 小泉文明氏)に相談したところ「その開発領域なら最初からグローバルで人材を探した方がいい」と言われて。

それからは世界のどこにマルチモーダルAIの優秀なエンジニアがいるか必死に探しその答えがインド工科大学でした。

ーーなぜインド工科大学の学生たちから人気なのか理由を教えてください。

神谷氏 : いくつかあると思いますが、一番の理由は私たちのビジョンに共感してくれたからだと思います。エンジニアは誰しも自分の技術で社会の役に立ちたいと思っていて、私たちのサービスなら世界中の人を幸せにできると思ってもらえたからこそ、多くの学生に興味をもってもらえたのではないでしょうか。

加えて日本からCEOとCTOが直接ビジョンを語りに行ったことで、私たちの熱意が伝わったのだと思います。私たちは英語でコミュニケーションができるので、いちいち日本語を覚えなくていいのも人気の理由の一つかもしれません。

ーー最後にこれから起業する方にメッセージをお願いします。

神谷氏 : 私たちは世界を学校にし、自分の息子ひいてはみらいの子どもたちを幸せにするためにビジネスをしています。多くの起業家も同じようにビジョンを持っていると思うのですが、それが日本だけで実現しても意味がありません。

どんなに日本が豊かになっても、世界の情勢が変われば日本の生活が守られる保証はどこにもありませんよね。世界中の人たちが同じように幸せにならなければ意味がないんです。

I’mbesideyouは、創業時からそのような想いでビジネスを作ってきたので今があると思っています。せっかく起業するなら、月から地球を眺めるように世界を見て、自分が何をすべきか考えてほしいと思います。思考の枠が日本に限定されてしまうと、それだけでビジネスも小さく収まってしまうので。

何かを始めるなら、ぜひ大きな視野で目標を立て、その実現のために何が必要か考えてください。どうせ人間いつかは死ぬのですから、目標が高くても怖気づかずに挑戦してほしいと思います。


(取材・文:鈴木光平、撮影:加藤武俊)

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