
世界初の「人型ロボット格闘技大会」中国で開催 市場をリードする米中企業の最新動向
ヒューマノイドロボット(人型ロボット)市場が加熱している。MarketsandMarketsの調査によると、人型ロボット市場は年平均成長率(CAGR)39.2%で成長し、2025年の29億2,000万米ドル(約4,233億円)から2030年には152億6,000万米ドル(約2兆2,120億円)に拡大すると予想されている。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第65弾は、世界的に熱視線が注がれる「人型ロボット市場」に着目。同市場を牽引する中国企業「Unitree Robotics」と米国企業「Figure」「テスラ」のアプローチや最新動向を紹介する。
サムネイル写真:人間のように学習・推論するFigureの人型ロボット(Figureのプレスリリースより)
幅広い技を披露し、場内を沸かせた人型ロボット
2025年5月25日、中国杭州で世界初のヒューマノイドロボット格闘技大会「Mecha Fighting Series」が開催された。中央広播電視総台(チャイナ・メディア・グループ/CMG)が主催し、中国企業・Unitree Robotics(ユニツリーロボティクス)が開発した幅広い戦闘スキルを持つロボットが本大会に出場した。

▲世界初のヒューマノイドロボット格闘技大会が開催(CGTNの公式YouTubeより)
同大会では、デモンストレーションとしてロボットたちが技を披露した後、トーナメント形式でキックボクシングの試合を展開。試合は、人間のトレーナーによるリモコン操作によって行われた。
▲ヒューマノイドロボット格闘技大会の試合の様子(Unitree RoboticsのYouTubeチャンネルより)
ロボットたちは、ストレートパンチ、フックパンチ、サイドキック、空中スピンキックを披露。攻撃の力強さは物足りない印象だが、スピーディーに技を繰り出す様子が映像から確認できた。倒れても数秒で起き上がって試合を再開し、ギャラリーから拍手が湧くほど白熱したシーンもあった。
試合にあたり、プロのキックボクシング選手の動きのデータを用意し、AIを活用してロボットに動きを学習させたという。2025年8月には、中国・北京で「世界ヒューマノイドロボット競技大会」が開催される予定だ。
【中国】Unitree Robotics/量産化に強みを持ち、低価格を実現
ロボット格闘技大会に出場した人型ロボットを開発したのは、2016年に中国で創業したUnitree Roboticsだ。高性能四足歩行ロボットや人型ロボット、ロボットアームなどをBtoC、またはBtoBで開発・製造・販売する。創業当初から四足歩行ロボットの開発に取り組み、世界で最も早く高性能四足ロボットの一般販売を実現した1社である。
四足ロボットには、消費者/研究向けの「A1」「Go1」「Go2」「Go2-W」と、産業向けの「B1」「B2」「Aliengo」のラインアップがある。2024年3月の報道によれば、同社の四足ロボットは世界の四足ロボット出荷量の60%以上を占め、累計販売量は世界トップだという。

▲「Go2」は逆立ち歩行やジャンプなど動きの柔軟性を持つ(Unitree Roboticsの公式サイトより)
「Go1」の後継機として2023年7月に発売開始した「Go2」は、大規模なAIシミュレーショントレーニングを通じて、逆立ち歩行やジャンプ、握手、片足立ち、座る、飛びかかる、障害物を乗り越えるなどの動きが可能だ。販売価格は1,600米ドル(約23万円)〜。

▲大幅にグレードアップした「B2」は、荷物運搬や障害物にも強い(Unitree Roboticsの公式サイトより)
産業向けでは「B1」の後継機として、2023年11月に「B2」を発表。大幅にグレードアップした本製品は、走行速度が6m / 秒で世界最速レベルに。重い荷物の運搬にも適しており、最大直立荷重容量は120kgで連続歩行荷重は40kg以上となる。安定性と強度にも優れ、滑りやすい路面や凹凸のある路面、40cmの高さや障害物でも安定して走行する。階段を登る際もバランスを維持できる。販売価格は10万米ドル(約1,450万円)となる。
同社では、四足ロボットで培った技術をもとに人型ロボットの開発にも着手。現在、「H1/H1-2」「G1」のラインアップがあり、「G1」にはサッカー向けに設計された「G1-Comp」とボクシング向けの「G1-Boxing」がある。
▲2025年1月に、春節(旧正月)を祝う中国の年越し番組「春節連歓晩会」で「H1」が踊りを披露した(Unitree Roboticsの公式YouTubeより)
「H1」は同社初の人型ロボットで2023年8月に誕生。「H1-2」は、その後継機だ。公式サイトによれば、「H1/H1-2」は市場最高レベルの速度、パワー、操作性、柔軟性を実現。スムーズに階段を昇り降りしたり、ダンスをしたりと多彩な動きが可能だ。価格は9万米ドル(約1,310万円)〜となる。
▲「G1」は軽量・低価格で、さまざまな動きが可能な人型ロボットの最新モデル(Unitree Roboticsの公式YouTubeより)
2024年5月に発表された「G1」は量産型でコンパクトな人型ロボット。販売価格は16,000米ドル(約230万円)〜となる。130cm、約35kgと「H1/H1-2」と比較して軽量設計で、柔軟性と快適性を追求。走ったり、踊ったり、座ったり、モノをつかんで移動させたり、さまざまな動きに対応する。折りたたんで持ち運ぶことも可能だ。
【米国】Figure/学習・推論して自律的に動く
2022年に創業したFigureは、同市場をリードするテスラやボストン・ダイナミクス、AI開発を行うGoogle DeepMindなどの出身者で構成されるスタートアップ。AIを活用した人型ロボットの開発に特化しており、労働力や効率化が求められる産業に革新的なソリューションを提供している。
主力製品は、「Figure 01」と「Figure 02」。身長約170cm、重量約60〜70kg、積載量20kg、稼働時間5時間、歩行速度4.8km/時間(120cm/秒)のスペックを持ち、階段の昇降、ドアの開閉、道具の使用、モノの移動など人間と同等の動作が可能だ。公式サイトを見ると、かなり人間に近いなめらかな動きであることが分かる。販売価格は非公開のようだ。
同社が強みとするのは、ロボットが人間のように学習し、推論すること。時間の経過とともに能力が向上し、より高度な動作をこなせるようになるという。
2025年2月には、知覚、言語理解、学習制御を統合した汎用的なVLA(ビジョン・ランゲージ・アクションモデル)である独自のAIモデル「Helix」を発表。事前トレーニングなしに物体認識、推論、2台のロボットでの協調作業を可能とする。

▲デモンストレーションでは、「食品を片付けて」という指示を2台で協力してこなした(Figureのプレスリリースより)
例えば、2台のロボットの前に複数の食料品を並べ、「見たことがないアイテムだと思うけれど、どこに片付けるべきか考えて、協力して片付けてほしい」と自然言語で指示をする。すると、2台のロボットはそれぞれのアイテムを認識して、冷蔵庫に入れるモノとそうでないモノを振り分け、協力して作業を行った。(※動画)
6月7日には、荷物の仕分けにおいて大幅な進化を遂げたと発表。2月に物流環境に初導入してから、約3ヵ月で多様な梱包に対応できるようになり、人間レベルの器用さとスピードに近づいているという。
変形可能なポリ袋や平らな封筒でも確実に処理できるようになり、実行速度もパッケージあたり約5.0秒から約4.05 秒に短縮。視覚と制御の向上により、配送ラベルがスキャンに適した方向に正しく配置される確率が以前の約70%から約95%に上がった。さらには、プラスチック製の封筒を軽くたたいてしわを伸ばし、バーコードの読み取りを改善するなど、以前よりも高度な動作を示すようになったという。
Figureは、BMWや「米国最大級の企業」(社名非公開)との契約を獲得しており、産業現場での実用化を進めている。2025年1月末には、米国最大級の企業との契約締結により、今後48ヵ月で10万台の人型ロボットを出荷できる見込みだと公表した。
【米国】テスラ/Optimus第3世代が2025年内に先行販売予定
2021年に人型ロボット市場に参入したテスラでは、危険を伴う、あるいは反復的で単調な作業を行うための汎用性の高い人型ロボット「Optimus(Tesla Bot)」を開発している。
同社ではXやYouTubeを通じて、「Optimus」の情報を発信しているが公式サイトでは詳細を公表していない。2021年の参入時の発表では、「Optimus」は身長約173cm、体重約57kgで頭部に8つのカメラを搭載しているとされている。
▲テスラ内では「Optimus」が自律的にタスクを実行しているとのこと(テスラの公式YouTubeより)。
2025年1月のテスラによる投稿では、オフィスと研究室のほか、工場でも「Optimus」が自律的にタスクを実行していると報告。ニューラルネットワークを使って電動の手足を制御することで、変化に富んだ地面も歩くことができるようになったとして動画を添えている。

▲マスク氏の最近の投稿では、「Optimus」が踊る様子が披露されている
また、5月13日のマスク氏の投稿では、「Optimus」が軽快にステップを踏む動画が公開されている。本投稿についてチームメンバーは、「RL(強化学習)を用いたシミュレーションで完全に学習済みであり、近日中にさらに追加予定だ」とつづっている。
YouTubeチャンネル「TESLA CAR WORLD」によれば、2025年10月から12月に同社史上最大にアップグレードした「Optimus」第3世代の先行販売を開始予定だという。販売価格は2万米ドル(約290万円)〜3万米ドル(約440万円)を想定しているそうだ。
編集後記
人型ロボット市場が盛り上がっている印象はあったものの、これほどまでに何でもできるスーパーロボットに進化していたこと、軽量タイプなら約230万円から購入できることに驚いた。Figureの最新AIモデル「Helix」の能力があれば、片付けや掃除、簡単な調理、子どもへの教育など家庭内で十分に役立つと考えられる。数年後には、人型ロボットと人間の協業が当たり前の時代がやってくるかもしれない。
(取材・文:小林香織)