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【ワクチン輸送にも採用!】QRロガーで輸送中の品質を追跡。フィンランド発、世界で導入相次ぐLogmoreのデバイスとは?

【ワクチン輸送にも採用!】QRロガーで輸送中の品質を追跡。フィンランド発、世界で導入相次ぐLogmoreのデバイスとは?

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巣ごもりによるEC需要に伴い、宅配便数は急上昇。各国へのワクチン輸送も始まり、正確で安全な物流の重要性はますます高まっている。そんななか、にわかに注目を集めているのが輸送中の宅配便の品質をクラウド上で監視する独自サービスを展開するフィンランドのスタートアップ「Logmore」だ。

同社のクライアント数は、過去12か月で700%に成長。すでに日本にも進出しており、ホンダトレーディングなど複数社が同社のサービスを導入済みだ。昨年には、マイナス100度までの極端な低温管理にも対応する新サービスをスタートさせ、コロナワクチンの配送管理にも携わる。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】の第二弾では、Logmoreのビジネス戦略と展望を、グローバルセールス部門の部長を務めるLauri Erik Lehikoinen(ラウリ・エリック・レヒコイネン)さん(以下、エリックさん)に聞いた。

輸送時の温度・湿度・衝撃・光・傾きをQRコードで管理


Logmoreが提供するのは、QRコードが印字された小型デバイス・QRロガーと品質管理データが記録されるクラウド上のプラットフォームだ。QRロガーは輸送する荷物に取り付け・取り外しができるタイプと、輸送時のパッケージに一体化したタイプが存在する。

荷物を出荷する際は、スマートフォン、またはiPadでQRコードを読み取ることで位置情報が記録される。出荷後は、荷物の温度・湿度・衝撃・周囲光・傾きの状態が正常であるかがクラウド上で追跡できる。一定間隔で品質が測定され、一度の輸送で平均的に2000回の測定が行われるという。


▲レポートのサンプル。輸送時の品質管理情報は出荷ごとにグラフで表示され、データはエクセル形式でダウンロードできる。

監視中に荷物に異常があった場合、メール、SMS、クラウド画面上でアラートを通知し、荷物の輸送が完了すると、上記のグラフを含む品質管理レポートが閲覧できる。荷物1個単位の“ミクロ視点”の情報だけでなく、どの地点で多く問題が発生しているかといった“マクロ視点”の情報も得ることができるため、どの物流会社や航空会社を選ぶべきかの指標にもなる。その結果、輸送時の品質管理の向上につながるのだ。

現在、Logmoreは食品・飲料、物流、医薬品業界のクライアントを世界中に350社以上抱えており、特にコロナ禍となった過去1年間は驚異的な伸び率となった。

輸送中の品質管理を提供する類似サービスは他にも存在するものの、温度しか測定できない、クラウドではなくUSBにデータが保存される、アンドロイドのスマートフォンしか利用できない等、不便さが見られる。

同社は競合他社の不便さを改善し、どのスマートフォンやタブレットでもQRコードから情報を取得でき、暗号化されたクラウド上にデータが保存される仕組みを採用している。QRコードを利用した輸送中の品質管理の仕組みは、同社唯一だという。このような先進性が多くの企業に選ばれている一因かもしれない。

廃棄物の削減だけでなく「業務の効率化」も推進

Logmoreをはじめとした宅配便の品質を追跡するサービスが生まれた背景には、輸送中のトラブルが世界中で頻繁に起きている現状がある。特に国境を超える長距離移動で多発しており、冷凍食品が解凍された状態で届いた、輸送中に荷物が紛失した、荷物が一向に到着しない、といった声が利用者から多く聞かれる。

「世界中で最大30%の食品や医薬品が、輸送中のトラブルにより品質が悪化し廃棄されているといわれています。弊社のQRロガー利用者の統計では、約20%の荷物が輸送中に問題を抱えているという結果が出ました。これらのトラブルの原因をQRロガーによって特定できれば、改善を図ることが可能です」

QRロガーは宅配便の品質管理を主な目的としているが、輸送時の紛失・遅延の原因究明にも役立つかもしれない。


エリックさんは、QRロガーによる作業効率化とクラウドによる安全な情報管理のメリットも主張する。

「これまで一般的だったUSBタイプのデータ記録ロガーは、荷物の品質を確認する際、パソコンにUSBを挿入してデータを確認する必要がありました。しかし、弊社のQRロガーはQRコードのスキャンにより自動的にクラウド上にデータが転送されるため、荷物ごとにUSBを抜き差ししたり、データの転送を待ったりする必要がありません。データは暗号化されており、安全に保存することが可能です」

同社の統計によれば、USBタイプのデータ記録ロガーを使用して品質管理を行う場合、年間160日間の労働時間が必要なのに対し、QRロガーはわずか6日でUSBタイプと同様、あるいはそれ以上の品質管理ができるという。

利用料金はQRロガーが1ユニット9ユーロ(約1,200円)〜で、さまざまな条件により変動する。例えば、片道の輸送(Single use)で温度管理のみなら、90日間までの利用で9ユーロ、往復の輸送(Multi use)で温度・湿度・衝撃の管理なら、1年間の利用で27ユーロ(約3,500円)となる。

クラウドのプラットフォームは別途料金が発生し、10人までのユーザーが利用できる月額19ユーロ(約2,500円)の「Plus」と、ユーザー数が無制限でダッシュボードのカスタマイズ等が可能な月額49ユーロ(約6,400円)の「Premium」から選択可。いずれも、毎月20回分の出荷データの保存が含まれる。それ以上の規模になる場合は、個別で見積もりを取得できる。

大手製薬5社がコロナワクチンの輸送に採用

新型コロナウイルスが流行し、ワクチンの開発が進む最中、Logmoreでは−100度〜+100度までの温度管理に対応する新サービスの提供をスタート。痛みやすいmRNAが配合されたワクチンは超低温で輸送する必要があり、厚生労働省の資料ではファイザー製は−90〜−60度、モデルナ製は−15〜−25度が輸送時の条件とされている。

今年3月には国際輸送物流の大手企業DHLが、700万人分以上のワクチンを輸送する際の品質管理パートナーとして、LogmoreのQRロガーを採用した。まずはヨーロッパ内の輸送時に利用され、今後数ヶ月のうちに欧米、アジアなど他の大陸にも拡大していく見通しだ。

「現状、ファイザーをはじめとする大手の製薬企業5社がQRロガーを導入しています。秘密保持の観点からくわしいことはお伝えできませんが、現在も複数国の政府や機関との交渉を重ねており、急速な拡大の展開が予想されます」


このコロナワクチンの輸送に対応する新サービスは大きな反響を呼び、世界中のメディアで報道されたそうだ。

「北欧やヨーロッパを中心に現地語のメディアでも多く報道され、問い合わせが急増しました。社会的価値の高いサービスをタイムリーに提供できたことが功を奏したと思っています」

同社は昨年4月、北欧企業への投資や日本進出を後押しするベンチャーキャピタル、Nordic Ninja(ノルディック・ニンジャ)などから、シリーズAで総額450万ユーロ(約5億8,700万)の資金調達を実施している。エリックさんは、この調達の目的について「急速に拡大するグローバルのクライアントに対応するため」と語った。

ホンダトレーディングに聞く日本での活用事例

既出のとおり、同社はすでに日本企業との取引がある。その1社であるホンダトレーディングに利用状況を聞いたところ、2020年10月から中国現地法人の本田貿易(中国)有限公司にて、QRロガーを導入したそうだ。現状は輸送時の品質管理ではなく、倉庫保管における商材の位置情報と鉄素材の部品のサビ防止を目的とした温度・湿度管理に利用しているとのこと。

当初は輸送時の利用を考えていたが、QRロガーと連携しているGoogle Mapが中国国内で作動せず、倉庫での利用に留めているそうだ。これは中国でGoogleの利用が制限されている影響かもしれない。Logmore側に確認したところ、「位置追跡を利用したいとの要望は先方から受けているが、検証が追いついていない状態」との返答だった。とはいえ、倉庫内の限定的な利用でも導入によるメリットがあったという。

「これまでは人的に倉庫内部品の温度・湿度の管理をしていましたが、QRロガーの導入により、簡単かつ低コストでの管理が実現しました。今後は蓄積したデータベースを活用し、サビ発生時の保管状態の確認・検証といった活用シーンの拡大に期待しています」(ホンダトレーディングの担当者)

ホンダトレーディングでは、2021年3月頃からカナダ現地法人のHonda Trading Canada Inc.でもQRロガーを導入。担当者は、「オプションでも構わないので、リアルタイムでの位置追跡機能が付加されれば、さらに用途が広がる可能性を感じます」とコメントを寄せた。


Logmoreにはフィンランド本社に日本語を話すスタッフが在籍するほか、ノルディック・ニンジャの創業メンバーである日本人の宗原智策(そうはら ともさく)さんが取締役に就任しており、日本での事業拡大に有利な環境が整っているようだ。

「日本には巨大な市場機会だけでなく、ノルディック・ニンジャをはじめとした現地との強固なつながりもあります。弊社の強みであるQRコードは日本で発明されたため、他国よりQRコードの利用率が高い環境も魅力です。第4四半期には日本での事業拡大を計画しており、大阪か東京エリアに拠点を構える予定です」

ヤマト運輸の発表によれば、2020年度の宅配便取扱実績は過去最高だったそうだ。物流業界のひっ迫した状況はより深刻さを増しているが、リソースや管理体制の不足をLogmoreをはじめとしたITサービスが補えれば、現場で働く人々の負担が軽減し、同時に利用者の満足度も向上させられるかもしれない。ニューノーマルな暮らしが求められる現代で、LogmoreのQRロガーは非常に伸びしろのあるサービスではないだろうか。

写真提供:Logmore

編集後記

筆者自身は、国外に居住していて宅配便トラブルに見舞われたことはないが、周囲の海外居住者からはたびたび不満が聞かれ、コロナ禍では明らかにトラブルの増加傾向が伺える。アメリカでは配達員が荷物を盗んだと疑われるケースもあったとか。日本を含め各国の物流体制は、コロナ禍で限界に達しているのかもしれない。DXが改善の助けになることを期待したい。

(取材・文:小林香織

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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。