NFTはなぜ流行らない? -NFT市場に相場をもたらすダイナミックプライシング-
NFTは流行っていない
Twitterで、自社アカウントで、NFT関係のアカウントをフォローしようとして、キーワードを "NFT" にしてユーザ検索したところ、日本語がメインで、フォロワー数が1万を超えるアカウントは非常に少く、その多くは、NFTマーケットプレイスでデジタルアートを売っているクリエータでした。日本国内でNFTマーケットプレイスを展開する企業などのTwitter公式アカウントを検索しても、フォロワー数は千人以下がほとんどでした。
これは、TwitterにおけるNFTクラスタは、他の多くのクラスターと比べてかなり小く、恐らく現在、日本国内で、積極的にNFTに関わっている人たちの人数は、ざっくりですが、せいぜい数万人程度と考えられます。
マスコミその他で、NFT関連の動向が、かなり報道されている割には、まだまだ知名度が低く、また、その仕組みを理解する人も少く、積極的に利用する人は、実際にはかなり少ない、と推察されます。
NFTはどう利用されているか?
では、実際に、NFTはどういう場面で最も利用されているか?を見てみると、実は低価格のアイコン画像の取引なんです。アイコン画像は、SNSなどで個人を最初に表現する重要なアイテムですから、広く拡散された画像ではなく、一品モノをNFT市場で入手するというのは利用価値があります、しかもその価格は数百円程度で、比較的手軽に購入できるようです。よって、マスコミで時々大きく取り上げられるような 一品モノのデジタルアートの高値落札 などは、かなりレアケースだと考えられます。
NFTとはなんだろうか?
NFTは、美術品の鑑定書、あるいはイヌやネコなどペットや、競走馬などの血統書に近いものです。したがって、インターネット上で配信される一般的なデジタルコンテンツをNFT化する意味はありません。
インターネット上のデジタルコンテンツ、つまりニュースなどの記事、ブログ、エッセイ、動画、などなどは、無料配信されるか、広告媒体としてマネタイズされるか、あるいは有料配信するか、などで流通しています。このようなデジタルコンテンツは一品モノであることはかえって情報の拡散を阻むものです。たとえば、新聞記事をNFT化して、落札した一人だけが読める、などというのは全くナンセンスです。こういう場合は、多くの新聞社がやっているように、サブスクリプションで有料配信するのがもっとも適しています。
ブログなどの記事、エッセイは、note がやっているように、単に、記事を100円程度の低価格で有料配信するだけでよいのです。
また、NFTにすれば、デジタルコンテンツの流通が全てトレースできる、というのも、実際には幻想です。
ビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)の場合、ブロックチェーンに記録された持ち主の移行そのものが送金にあたるので、仮想通貨がブロックチェーンから切り離されたら、通貨でも資産でもなくなります。
しかし、NFTとして、所有者情報がブロックチェーンに記録されているデジタルアートが、NFTから切り離されたらどうでしょう?それでも、アートとしての価値はありますから、切り離した後でも、アートとして流通するし、またその場合は、そのアートのトレースは不可能になります。
デジタルコンテンツ流通の本質はNFTではない
デジタルコンテンツをマネタイズする、つまり有料で流通させる本質はNFTとは無関係です。これまでのnote のような、ブログやエッセイの低価格での有料配信、あるいは、新聞記事やYouTube動画などのサブスクリプションによる配信は、ブロックチェーンとは無関係に存在してきたし、今後も存在し続けるでしょう。そして、前述のように、NFTでもっとも頻繁に利用されている、SNSのアイコン画像の販売なども、アイコンを必要とする人が、アイコンクリエータに有料での作成を依頼すればよいのです。そこにNFT化する意味はありません。
デジタルコンテンツ流通に必要なのは「相場」
実は、「相場」がないのがデジタルコンテンツの流通でもっとも大きな課題です。
例えば、自動車には、中古車市場があるので、新車を買ったら、しばらく乘ったあと、中古車として売却すると、購入価格から売却価格を引いた差額で自動車を利用できたことになります。普通は、新車価格より中古車売却価格は安いのですが、希少価値のある自動車なら、売却価格が購入価格を上回ることがあります。不動産も同じで、こちらは、優良物件を購入して値上がりを待って売却すると儲かることがあります。そして、絵画や彫刻、骨董品なども、買って、売ってで儲ったり、偽物を掴まされて売ろうにも売れず、なんてこともあります。
つまり、中古車市場でも、不動産市場でも、骨董品市場でも、相場があるので、相場の変化を予想して、投機的利益を追求することができ、それが市場を活性化させ、流通を活性化しています。で、金融市場もまさにそれで、株式市場もFXも、上手く取引すれば、投機的利益が得られる、ということで、魅力があるのです。つまり、相場です。
相場は、ミクロ経済学の原理で、需要と供給から決定されます。中古車価格が高くなるのは、需要が大きく、一方で中古車として出回っている数(供給)が少ないので、高値で取引されるのです。これは不動産市場でも、骨董品市場でも、株式市場でも同じです。売りに出される数(供給)が少く、需要が多ければ値上がりし、一方、需要が少く、供給が多いものは、値崩れします。これが相場です。
しかし、デジタルコンテンツは、取引の「相場」が形成されにくいのです。デジタルコンテンツは、複製コストや配信コストがほぼゼロなので、供給はほぼ無限、一方で、需要はさまざまです。だから、インターネット上では、無料配信が一般的になります。デジタルコンテンツをマネタイズするには、広告を貼り付けるか、あるいはサブスクリプションか、低価格での有料配信しかないと、思われています。そして、有料配信で購入した人は、購入したデジタルコンテンツを売る場がありません。つまり、投機的利益の追求はデジタルコンテンツでは非常に難しいのです。すべては、デジタルコンテンツに相場を与える方法がない、と思われていたからです。
そんな中で、デジタルコンテンツでも相場を与える方法として登場したのが、NFTです。NFTでデジタルコンテンツを購入したら、NFT市場で売ることができます。しかも、ブロックチェーンで取引情報が改竄不可能な形で記録されているので、安心して取引ができます。そして、買ったときの価格より高い値段で売ることも不可能ではない。そして、原則一品ものとして販売すれば、供給は1(一品のみ)で、需要があれば、落札価格が決まり、それが相場を形成します。
そうです。NFTで相場が決まるのは、単純に、原則一品ものだからです。供給量を1にしている場合にかぎって、相場が需要によって変動するわけです。これは、しかし「一品もの」であることが本質的であるデジタルアートなどに限られ、デジタルコンテンツの中でも非常にレアケースです。だから、NFTは、最初に述べたように、流行らないのです。
「相場」を作り出すダイナミックプライシング
ここでダイナミックプライシングの登場です。
ダイナミックプライシング(動的値付け)とは、
「売れれば売れるほど値上がりする」
という価格決定法です。
ダイナミックプライシングはかなり昔から存在します。スポーツ観戦チケットでは早い時期買う人には安く売り、チケットの売れ残りが減ってくると、値段があがります。特急列車や飛行機の座席指定も「早張り」などでダイナミックプライシングが使われています。チケットは販売数が決まっているので、最初のうちは供給超過で、価格が安く、次第にチケットの残りが減ると需要超過で価格が値上がりする、ということですから、ダイナミックプライシングはミクロ経済学の価格決定の仕組みをそのまま利用した、とも言えます。
それを、デジタルコンテンツに使ってしまうわけです。
すると、そこに、買った人が売る、という仕組みを導入できます。
ダイナミックプライシングをちょっとだけ拡張して、
「売れれば売れるほど値上がりし、買った人が売りにだした数が増えれば値下がりする」というものです。
それだけです。すると、安い時に買った人が、高くなって売れば売却利益が得られます。つまり、投機的利益追求が可能です。
本来デジタルコンテンツは一つ買えば利用できますが、安いときにたくさん買って、高くなってそれを売り抜けると、かなり儲かるので、デジタルコンテンツを大量購入する人もいますから、それにより、デジタルコンテンツを販売する人は本来の何倍もの売上が得られる仕組みです。
この価格決定法は、特許登録されました(特許第6313532号)。
取引履歴が価格を決定
→改竄不能な取引記録が必要
→ブロックチェーンの多次元化
→ chainmail
長くなりました。最後になります。弊社の提唱する AWExion がNFTであることを書きます。
AWExion は、Art&Work exchange for innovation の略で、オークションとかオーグジョンとか発音します。
https://www.awexion.jp/cgi-bin/a.cgi/.P18800000000000021880000000000002
ダイナミックプライシングの拡張(特許第6313532号)による価格決定機能をもつデジタルコンテンツ取引市場 AWExion を実現する際に、商品であるデジタルコンテンツの取引履歴を改竄不可能な形で記録する仕組みが必要になりました。デジタルコンテンツが過去、誰によって制作され、誰によって買われ、誰が買ったか、それぞれ幾つ取引したか、という記録がしっかりあれば、それぞれの取引における価格決定が可能です。その履歴が改竄されたら、価格が変化して、大変な問題になるわけです。そこで、ブロックチェーンを多次元拡張した chainmail という仕組みを考えました。これは、鎖帷子(くさりかたびら)という意味です。ハッシュ値の多次元的な連鎖で、注文伝票、約定伝票、決済伝票が chainmail の中に記録されます。鎖が一次元的な連鎖ではなく、二次元的に網込まれるのが鎖帷子なので、chainmail としました。NFTなんてものを知る前(2018年ごろ)開発したので、このchainmailによるデジタルコンテンツ取引市場が、NFTである、という認識はありませんでした。つい最近まで、AWExionは、NFTではない、と主張していました。でも、chainmail が多次元化したブロックチェーンで、商品IDを含む各種伝票を網込んでいるので、やっぱりNFTでした。一般的なイーサリアムなどのブロックチェーンは使っていないけれど、P2P技術も使っていないけれど、AWExionは、分散サーバ型のデジタルコンテンツ取引市場で、そして、NFTマーケットプレイスでした。
https://www.awexion.jp/AWExionMovie2022.MOV
以上、長々と読んでいただきありがとうございました。
鬼塚健太郎テルモピレー株式会社
1990年に松下電器(現パナソニック)に入社後、旧通産省の第五世代コンピュータ技術プロジェクトの研究所ICOT、同じく新情報処理プロジェクトのRWCPにて、分子生物学分野での計算機科学応用(いわゆるバイオIT)でタンパク質構造解析、立体構造予測の分野の研究に携わり、その後、パナソニック先端技術研究所にて、医療検査などへの応用展開を図って参りました。その中で、研究開発機関において陽の目を見中っった研究成果、知財、失敗事例などを広く公開して、しかもそれが少額でもマネタイズできれば、と考えるうちに、AWExion プライシングの仕組みを思いつきました。2016年、パナソニック退職後、テルモピレー株式会社を設立し、特許登録、システム開発へて、ようやく2021年に運用を開始することができました。ただ、なかなか普及せず、何とかこちらにて、皆様と繋がりたいと思っております。
テルモピレー株式会社
代表取締役