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【Startup Culture Lab. 2025年度 #2レポート】「事業と組織を前進させる“目標管理”のあり方とは?」——組織を変える経営・HR・現場視点から語られたリアルに迫る

【Startup Culture Lab. 2025年度 #2レポート】「事業と組織を前進させる“目標管理”のあり方とは?」——組織を変える経営・HR・現場視点から語られたリアルに迫る

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イノベーションを起こし急成長するスタートアップならではの、人材・組織開発に関する学びと知見を広くシェアする研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。2025年度で3期目を迎える本プログラムは、スタートアップ企業が急成長の過程で直面する“組織課題”に向き合い、解決策を共に探っていくことを目的としている。

6月11日に開催された第2回のテーマは「事業と組織を前進させる“目標管理”のあり方とは?」。本セッションでは、成長企業の経営者や人事責任者が登壇し、「目標管理とは何か」「組織を前進させるために必要な視点とは」といった問いに対し、それぞれの立場から知見を語った。

登壇者が実際に取り組んできた経験をもとに、リアルな現場を深掘りしたセッションの様子を紹介する。

<登壇者>

・麻生 要一 氏 / 株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO

・金野 真実 氏 / ワークデイ株式会社 Senior People Business Partner

・中園 拓也 氏 / 株式会社SHIFT  人事本部 コーポレート人事部長 

・広瀬好伸 氏 / 株式会社Scale Cloud 代表取締役社長 (当日モデレーター)

各登壇者の自己紹介

この日のモデレーターは、株式会社Scale Cloudの広瀬氏。同社は、独自の経営理論「Scale Model」に基づき、経営管理SaaS『Scale Cloud』とコンサルティングサービスを提供している。『Scale Cloud』は、全社の業績目標を各部門のKPI目標に紐付け、日々の業務と接続するためのマネジメントシステムだ。広瀬氏は、CFOやIPO支援の経験を踏まえ、「業績目標を掲げるだけでなく、各部門でバラバラに管理している財務数値や非財務数値(KPIなど)を統合し、共通認識持つことが重要。事業全体の状況を見える化・構造化して全体最適にPDCAをまわすことが、業績目標の達成度を高め、またその再現性を高める力になる」と語った。

▲広瀬好伸 氏 / 株式会社Scale Cloud 代表取締役社長 (当日モデレーター)

次に自己紹介したのは、複数の上場企業で取締役を務める株式会社アルファドライブの麻生氏。リクルート子会社の創業や新規事業開発部門の責任者を経て現職に至る。アルファドライブは新規事業開発分野の総合支援カンパニーだ。近年は“アーティスト”として作品を発表し、起業家とアートをつなぐ活動も展開している。「魂を込めて描いた絵が、会議室では得られない表情や対話を引き出した」と語り、目標管理にも共感や想いが不可欠だと強調した。

▲麻生 要一 氏 / 株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO

続いて自己紹介したのは、外資系人事歴20年超の経歴をもち、現在はワークデイ株式会社でSenior People Business Partnerを務める金野氏。同社は人事・財務・プランニングを統合するクラウド型AIプラットフォーム「Workday」を提供している。金野氏は「人事は制度運用にとどまらず、経営の推進力であるべき」と語り、目標とデータをリアルタイムで連携させる重要性を強調した。

▲金野 真実 氏 / ワークデイ株式会社 Senior People Business Partner

最後に自己紹介したのは、株式会社SHIFTで人事責任者を務める中園氏。正社員400名から約6,000名へと急成長した組織を、制度設計とエンゲージメント施策で支えてきた。「成長に伴う組織のひずみは常にあったが、その都度目標を見直し、社員の声を反映することが不可欠だった」と語り、「社員の納得感」が成長の鍵だと強調した。

▲中園 拓也 氏 / 株式会社SHIFT  人事本部 コーポレート人事部長

目標管理の基本的な考え方

続いて参加者の前提知識をそろえるため、冒頭ではモデレーターを務めた広瀬氏が「目標設定」の構造化と数式化について、理論的な整理を行った。

企業には当然ながら売上などの全社的な業績目標が存在するが、達成するために各部門や個人の目標をどのように設定し、どうすれば一貫性を持ってつなげていけるのか。これは多くの組織で共通の悩みだ。

広瀬氏は目標を構造として分解し、さらに可能な限り数式化することの重要性を指摘する。たとえば「売上=契約単価×契約数」というように、ビジネスプロセスをロジックツリーに落とし込み、因果関係を明示できれば、全社目標と部門・個人目標を論理的にひも付けやすくなる。

このような「構造化」と「数値化」は、目標管理をただの精神論で終わらせないための基本的なアプローチだ。

一方で、こうしたロジックツリーがきれいに成り立つ領域ばかりではない点も議論のポイントだ。

売上や生産性のように数式で表せる指標は扱いやすいが、社員満足度と退職率の関係性など、数値化が難しい領域も多い。社員満足度が1ポイント上がったからといって、退職率がどれだけ下がるのかを正確に表すのは難しく、KPI設計には必ずしも明確な答えがあるわけではない。

また、構造化できたとしても、目標の細分化の粒度をどうするかは組織運営において大きな論点となる。

全社目標を部門目標に落とし込み、さらに個人レベルまでブレイクダウンしたときに、積み上げた結果が本当に全社目標と整合しているのか。この積み上げ型の整合性が取れていないと、現場の目標達成が全社にとって意味を成さなくなるリスクがある。

このように、目標を「構造」と「数値」の両面から捉え直すことで、組織にとって意味のあるKPI設計が可能になる――そうした前提を参加者で共有したうえで、続くセッションでは、実際に目標管理を組織でどう運用しているのか、各社の登壇者が具体的な工夫や試行錯誤のプロセスを語っていった。

目標設定後の進捗管理――理論的なKPI設計と感情起点のバランス

次に「進捗管理」をテーマに、設定した各部門および各個人の目標に対して、その進捗状況の確認をどのようにしているか、またその頻度について語られた。

まず、モデレーターの広瀬氏から話を振られたSHIFTの中園氏は「目標達成できなかったことに関しては、基本的に“触れない”。『じゃあ次どうするか?』しか話しません。」と話す。

目標設定はもちろん行うが、設定したシートは回収しない。なぜなら、あくまで“本人のためのもの”だからだという。上司と握った上で、自分の成長のために活用してくださいというスタンスであり、評価の会議も、半分は「どうやって次の業績を上げるか」の戦略会議になっているのだ。つまり、進捗管理しない進捗管理といえる。

ワークデイでは「クォータリーチェックイン」という制度を導入しているという。ポイントは「自分で振り返ること」と「上司がそれを受け止めて対話すること」だと金野氏は指摘する。

まず、定性的な目標に対して、本人の振り返りと他者からのフィードバックの2軸で評価を行う。退職率や採用数といったKPIに加えて、個人の成長意欲やチームへの貢献度など、数値化が難しい指標も「評価すべき価値」として明示的に扱っている。

加えて、記録を残す仕組みも大事にしていて、社員の成長やキャリア志向がしっかり蓄積される。これは人事異動の際や、パフォーマンスが落ちた時のサポートにもつながる“エビデンス”として活用される仕組みで、この記録が社員の未来の支援につながるという。

一方で、アルファドライブの麻生氏から飛び出したのは、目標があるから失敗するという逆説的な指摘だった。

たとえば、「見込み100」という数字でも、社員によってその意味合いや精度が異なる、また、「前年比150%」という目標が経営層からトップダウンで降りてくるが、それが現実的でない場合、現場の士気をむしろ削ぐ結果になることも多いと言い、「一番大事なのは、本人が本当にやりたいことを目標にすること。」と話す。

最終的には“人間の感覚”や“信頼”の要素が不可欠で、困った時に助けを求められる“心理的安全性”があること。進捗を追う必要すらない。登る壁が高いから苦しくなる。その時に「助けて」と言える関係性、文化があれば十分で必要なのは状況が“見える”ことが大事なのだという。

さらに麻生氏は「目標の分解ができるかどうかは、ビジネスモデル次第だ」と続ける。

「SHIFTのように成長を描けるビジネス構造が作れているなら、数式化や構造化は非常に有効。でも、僕が社外取締役を担っているエンタメ領域では、例えば大型アーティストがツアーをやるかどうか”で収益が全く変わる。コントロールできない要因によって業績が左右される不確実性が高い構造だったりする。数式で分解するという行為が意味を持ちにくいビジネス構造の場合がある」と語った。

社員への支援の仕方 自律的組織のつくり方とは?

目標設定や進捗管理の方法は、企業文化やマネジメント思想によって大きく異なる。次に、最後のテーマである「達成に向けた支援」に話が移り、設定された目標に対して、その進捗を確認しながら各部門および各個人がその目標を達成するために、どのような支援をしているかが語られた。

「達成できなかったことは問わず、次に何をするかに注目する」と中園氏は話す。SHIFTでは「壮大なおせっかい」という人的資本に関するポリシーを打ち出し、従業員の生活面まで支援対象として捉えている。例えば、離婚問題には弁護士の紹介、介護には社内の経験者ネットワークの活用など、徹底した寄り添い方が特徴的だ。

自社で開発した人材マネジメントシステムには、従業員ごとの詳細なデータ(450項目以上)を蓄積。プライベートの充実度や働くうえで重視することまで把握し、必要に応じて異動やマッチングを提案する。

このような支援を可能にするのが、圧倒的なデータ収集力だ。全社にe-learning形式で定期的に出されるアンケートは回答率100%を徹底。3日で90%、1週間で99%という数字を誇る背景には、「未回答の20%に何が起きているか」の重要性へのこだわりがある。

各施策についても、事前に「どの項目を上げるための施策か」を明確化。アンケート結果との因果関係を数値で追うことで、たとえば離職率の低下やエンジニア単価の上昇といった成果への寄与を可視化している。データ活用の先には「誰が何に悩んでいるか」まで見通す組織の姿が見え、登壇者の間でも驚きの声が上がった。

また、ワークデイでも自社ソリューションを活用し、スキルや経歴、社歴、ジョブタイトル、所属組織など社員同士のプロフィール情報はある程度可視化されている。それを参照することで、「この人にメンターをお願いしたい」といった自発的なアクションを促す。フィードバックを送り合う文化も根付き、誰がどんなフィードバックを受けているかもシステム上でオープンになっている。各社員のチームや会社への貢献が客観的に把握できるだけでなく、本人にとっても自らの行動の意義を実感する機会となり、結果として、自発的な挑戦や協働へのモチベーションが高まっているという。あくまで社員の“自律”を尊重するスタイル。支援は必要なときに引き出してもらえればいいという考え方だ。

アルファドライブの麻生氏は、組織フェーズによって支援の在り方も変化すると指摘する。スタートアップの特性として創業初期は「自走できる人材」しか受け入れられない。だが成長に伴い、新卒や多様な人材を受け入れるようになると、支援の量や質も問われる。

「支援が必要な人を採用してしまったが、組織側にその余裕がない」――そんな矛盾を避けるには、「支援を前提とした採用基準」を見誤らないことが重要。つまり、目標設定や支援の在り方は、人事戦略と密接に連動しており、すべては“採用”から始まっていると語った。

最後に登壇者への質疑応答が展開された。「個人のWillと会社ニーズがずれる場合の対処法」に関する質問が寄せられ、アルファドライブの麻生氏は「採用こそがすべての組織課題の根本であることが多い。ズレがあれば見直しや配置転換も視野に入れるべき」と率直に語った。

SHIFTの中園氏には「施策と数値のひも付け方」について質問があった。アンケート結果を徹底してデータ化・可視化する文化の重要性を強調し、「3日で回答率90%、1週間で99%達成」という実例を交えて説得力ある実践を紹介。仮説検証についても「外れても構わない、検証こそが価値」と柔軟なスタンスを示し、終始和やかなムードでセッションは幕を閉じた。

取材後記

目標管理と聞くと、数値化されたKPIや論理的な構造設計を思い浮かべがちだ。しかし今回のセッションを通じて見えたのは、感情や信頼といった“人間らしさ”も目標達成の原動力になるという視点だ。数式で整えられた管理だけではなく、「本人がやりたいこと」や「助けてと言える文化」こそが、社員が自走するためのポイントだ。スタートアップという変化の激しい環境において、“構造化された目標”と“個の意思”が両立するあり方を模索し続ける姿勢はどの組織にとっても多くの示唆を与えてくれるものだった。次回以降のテーマにも注目していきたい。

※過去の「Startup Culture Lab.」の関連記事をシリーズとしてまとめています。こちらからご覧ください。

(編集・文・撮影:入福愛子)

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