
【Startup Culture Lab.オープンセッションレポート】スタートアップ経営者が語る!事業成長を支える組織カルチャーの秘訣
イノベーションを起こし急成長するスタートアップならではの、人材・組織開発に関する学びと知見を広くシェアする研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。2024年度も56社の研究対象スタートアップが決定し、全12回に渡るセッションとワークショップを通じ、急成長するスタートアップの組織支援を進めていく。
1月16日に、2025年度の研究メンバー募集開始を記念して、特別編「Startup Culture Lab.体験会」が開かれた。その前半では、「事業モデルにフィットした組織カルチャーの作り方」をテーマにしたオープンセッションを開催。
急成長を遂げてきたスタートアップ経営者たちは、どのようにして自社の事業モデルに適合した組織カルチャーを構築し、それを進化させてきたのだろうか?
本セッションでは、異なる事業モデルで成功を収めてきたスタートアップ3社(アルファドライブ・CARTA HOLDINGS・eiicon)の経営者をゲストに迎え、事業モデルと組織カルチャーの関係性や醸成方法について具体例を交えながら議論が行われた。その模様をお届けする。

<登壇者>
・麻生 要一 氏 / 株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO
・宇佐美 進典 氏 / 株式会社CARTA HOLDINGS 代表取締役 社長執行役員
・中村 亜由子 氏 / 株式会社eiicon 代表取締役社長
「組織文化」で急成長を牽引する3社のリーダーたちの戦略
イベントの冒頭では、登壇者たちがこれまでのキャリアや組織運営での経験を紹介した。最初にマイクを渡されたのは、株式会社アルファドライブの麻生要一氏だ。リクルートで新規事業開発を経験した後、自ら起業しM&AとMBOを経験したという。
「これまで数百人から1000名ほどの規模の会社が直面する、経営課題を目の当たりにしてきました。私自身も経営者として直面してきた課題について、みなさんの学びになるように話していければと思います」
▲麻生 要一 氏 / 株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO
次に語り始めたのは株式会社CARTA HOLDINGSの宇佐美進典氏。大学時代の友達と2人で起業したのち、M&AとMBO、そして上場を経験したという。現在は電通グループでデジタルマーケティング事業などを手がけるCARTA HOLDINGSの代表を務めており、1,000人規模の組織をマネジメントしていると語った。
「これまで企業の創業期から、スタートアップ的なカルチャー、そして大企業のかっちりとしたカルチャーも経験してきました。その中で学んできた組織カルチャーの重要性について、今日は話していければと思います」
▲宇佐美 進典 氏 / 株式会社CARTA HOLDINGS 代表取締役 社長執行役員
最後に自己紹介したのは、モデレーターを務めた株式会社eiiconの中村亜由子氏。大企業の新規事業として立ち上げた事業をMBOして独立・起業した同社。2023年に50名ほどで独立した組織が今では100名ほどに成長してきているという。
▲中村 亜由子 氏 / 株式会社eiicon 代表取締役社長
事業モデルと組織カルチャーのシナジーを高めるための視点とは
最初のテーマとして議論されたのは「事業モデルと組織カルチャーの関係性」について。登壇者たちは、それぞれの経験を基に、どちらか一方に偏ることなく両者をバランスよく整えることの重要性を強調した。
リクルート時代の経験を語ったのは麻生氏。当時は目標数値から逆算して、事業戦略や組織戦略があり、それ故に失敗も数多く経験してきたという。多くの組織の問題を目の当たりにしてきたことで、自身が起業する際には「『Why』を中心に据える」ことを重視してきたと語る。
「どうして僕たちはこの時代に起業したのか、この会社で何を成し遂げるのか、という議論を重ねました。事業モデルも組織カルチャーもない状態で、Whyを明確にしたのです。次に話したのが組織カルチャーや事業モデルではなく採用です。最初に話したWhyに共感してくれた人のうち、誰を入れるのかエントリーマネジメントをしました。そうしたことで、激しい変化にも対応できる一体感の組織を作れたと感じています」
麻生氏の話を受けて、中村氏から「社外取締役として、他社を見ている時はどうか」という質問が投げかけられる。その質問に対して、麻生氏からは「事業モデルと組織カルチャー、どちらを優先しても成功しているケースはある」と答えた。
「成功したケースを分析してみると、シンプルな事業モデルなら、先に事業モデルを明確にして、そこから組織カルチャーを設定しても成功しています。一方で、新規事業をたくさん作ったり、事業モデルを複合的に組み合わせる場合、組織カルチャーをベースにした方がいいでしょう。
また、難しいのは、企業規模が一定数を超えてポートフォリオ経営になった場合です。各カンパニーで事業モデルに合わせた組織カルチャーを持っているので、全体をマネジメントするのは難しいように感じます」
続けて、ポートフォリオ経営における組織カルチャーのマネジメントについて、リクルートでの取り組みを説明した。
「リクルートでは多様な事業モデルを展開しており、各事業部の組織カルチャーも全く違います。それをカルチャーレベルで統合しようとしてもうまくいきません。そこで、事業モデルのレイヤーで統合しようとして生まれたのが『リボンモデル』(※)です。
『リボンモデル』があることで、異なる事業部の人たちが、自分たちの会社での位置づけを確認できるようになり一体感を持てるようになったのです」
麻生氏の話を受けて、宇佐美氏が一貫性の重要性について語る。
「事業モデルごとに、どういう組織カルチャーがマッチするかという手本があると思います。ただし、正解はないので、事業モデルと組織カルチャーの一貫性は常に考え続けなければなりません」
※リボンモデル……ビジネスモデルを需要と供給、カスタマーとクライアントを両端とするリボンに見立て、それらをどのように「集め」「動かし」「結びつけるか」を考察するもの。マッチングモデル(プラットフォームビジネス)での課題設定や戦略立案に使われることが多い。
「短期的な利益追求と組織の歪み」組織カルチャーが崩壊する瞬間
続いて会場からは「組織カルチャーモデルが壊れるときは?」について質問が投げかけられる。その問いに対して即座に「経営者がカルチャーにフィットしない意思決定をしたときだ」と答えたのが麻生氏だ。
「短期的な売上のために、経営者は企業のカルチャーに合わない意思決定をすることがあります。カルチャーに合わない人を採用したり、カルチャーに反することをして売上を作ったり。そのときこそ、組織カルチャーが壊れる瞬間です。
ただし、利益を追い求めるのは経営者の宿命なので、そこから逃げてはいけません。それでも事業モデルや組織カルチャーを犠牲にしてしまうと、組織が壊れるリスクが高まります。そのために、割に合わない代償を支払うことにもなるのです」
続いて宇佐美氏は、組織カルチャーが壊れないよう定期的に社内アンケートを行い、組織の課題を洗い出しているという。
「私たちは半年に一度、従業員向けの調査をして課題を洗い出し、どんな課題があるのか明確にしています。ときには社員が会社に誇りを持てていないときもありますし、ときには経営カルチャーが浸透していない時もあります。
また、社内の問題だけでなく、外部環境によって事業モデルの変革が求められる時もありますし、それに応じて組織カルチャーを変えなければいけません。調査結果をもとに、常に適した組織カルチャーが維持できているか議論を繰り返しています」
組織拡大に伴う階層化を乗り越えるためには?
続いてセッションテーマは「組織規模が拡大したときに意識すべきこと」だ。そのテーマについて、真っ先に発言したのは宇佐美氏だ。
「組織の規模が大きくなると、組織の階層が増えます。30名くらいの組織なら、マネージャーとメンバーくらいの階層なので、全員が顔を見ながら働けるはずです。しかし、組織が100名ほどになると、マネージャーの上に部長や役員などが必要になり、トップが思っていることが、現場に伝わりづらくなってしまいます。
50人ほどの組織なら飲み会などのコミュニケーションでカバーできますが、数百人規模になると難しくなるでしょう。そのため、仕組み作りが必要です」
モデレーターの中村氏は、より具体的に宇佐見氏が作ってきた仕組みにも深掘りしていく。
「最もシンプルなのは、チームごとにミッション・バリューを可視化することです。この部署は何をするチームなのか、KPIを作るのと同じようにミッションも作り、チームに浸透させるのが大切です。
また、最近では社内でバリューチェーンも可視化しました。自分たちのチームのバリューばかり意識していると視野が狭くなってしまいがちですが、お客様から見た時に、自分たちはどんな価値を提供しているか意識してもらうためです。自分たちが会社全体の中で、どのような立ち位置にいて、どんな価値を創出しているのかを可視化したカードを作り、確認できるようにしています」
全く違う視点から、麻生氏は「社内の管理業務をいかに減らせるか」という問題提起を行った。
「組織が大きくなると、必然的に社内での調整が必要になってきます。10名以下の組織なら、社内の調整がほとんど必要ないため、全員が顧客を向いていれるはずです。しかし、組織が大きくなると総務や法務といった間接部門の業務が増えていきます。それは営業部門などでも同じです。データを入力したり、申請書を書いたり、直接売上に繋がらない業務が増えていくのです。組織が大きくなった時に、こういう業務を最小限に抑えることが、組織を健全に保つ秘訣だと思います」
組織カルチャーと人事制度の連動が事業モデル変革の鍵
最後に、中村氏から「事業モデルを変革する時に、どのようにして組織カルチャーも変革させるのか」という問いが投げかけられた。宇佐美氏からは「組織ビジョンを明確化すること」という答えが返ってきた。
「目指す組織をしっかり言語化して、それに合わせて人事制度を作り直してきました。ときには、新しい組織に合わない人がいるかもしれませんが、そのような人には『あなたには他の組織のほうがマッチするかもしれません』と伝える勇気も必要です。
もちろんコミュニケーションの仕方には注意が必要ですが、組織カルチャーに合う人・合わない人を明確にして、境界線を引いてあげることが重要だと思います」
麻生氏からは、「評価基準とモニタリングシステムを作り込むこと」というコメントが返ってきた。
「組織カルチャーというのは、単純に言えば『何をしたら褒められて、何をしたら怒られるのか』を表したものです。事業モデルを変えたり、組織を統合したりする時は、評価基準が変わる時もよくあるはずです。
どういう人が評価されるのか明確にし、それが社員から見てわかりやすくモニタリングする仕組みを作ることで、組織カルチャーの変革もスムーズに進むと思います」
取材後記
本セッションでは、事業モデルと組織カルチャーの関係性について、多くの実践的な視点が共有された。成長するスタートアップにおいて、事業の進化とともに組織の在り方を柔軟に変化させることが、持続的な成長につながるーーそれが登壇者たちの共通認識だ。
本セッションを通じて明らかになったのは、「カルチャーは単なる理念ではなく、事業の成長を支える実践的なツールである」ということ。組織を成長させるうえで、いかに事業戦略とカルチャーを結びつけるか。これは、スタートアップに限らず、多くの企業が直面する共通の課題と言えるだろう。本イベントでの議論が、組織カルチャーの在り方を見直し、新たな成長のヒントを得るきっかけになれば幸いだ。
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(編集:眞田幸剛、文:鈴木光平)