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【Startup Culture Lab. 2024年度 #7レポート】プライム上場企業・アトラエや経産省の政策担当者が登壇!ーー成長を加速させる評価報酬制度とストックオプション活用法とは?

【Startup Culture Lab. 2024年度 #7レポート】プライム上場企業・アトラエや経産省の政策担当者が登壇!ーー成長を加速させる評価報酬制度とストックオプション活用法とは?

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イノベーションを起こし急成長するスタートアップならではの、人材・組織開発に関する学びと知見を広くシェアする研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。2024年度も56社の研究対象スタートアップが決定し、全12回に渡るセッションとワークショップを通じ、急成長するスタートアップの組織支援を進めていく。

第7回のテーマは、「成長を加速させる評価報酬制度とストックオプションの活用法」だ。従業員のパフォーマンスを正しく評価し、それに基づいた報酬を提供する「評価報酬制度」は、企業の成長と持続的な発展に欠かせない要素だ。特に急速な変化が求められる環境では、従業員のモチベーションを維持し、優秀な人材を惹きつけるため、透明性と公平性を持った評価報酬制度が求められるだろう。

また、ストックオプション(以下、SO)は、企業の長期的な成長と従業員の貢献を結びつける効果的なインセンティブとなっている。SOを通じて従業員が企業の成功を自分ごととして捉え、短期的な報酬以上に長期的な視点で会社と共に成長するモチベーションを高めることができるはずだ。

今回は、実際に評価報酬制度やSOに関わっている専門家や経営者をゲストに迎え、トークセッションを行った様子をお届けする。

<登壇者>

・岡 利幸 氏 / 株式会社アトラエ 取締役CTO

・佐藤 友美 氏 / (株式会社WiL 100%子会社 )株式会社TBA HR Director ※モデレーター

・由井 恒輝 氏 / 経済産業省 イノベーション創出新事業推進課 課長補佐

・唐澤 俊輔 氏 / Almoha共同創業者COO / Startup Culture Lab.所長

多様なバックグラウンドを持つ登壇者が語る評価制度の最前線

セッションの冒頭では、登壇者からそれぞれ自己紹介が行われた。最初に話し始めたのはアトラエの岡氏だ。アトラエに新卒1期生として入社した同氏は、営業を経験した後にエンジニアに転向したゼネラリストである。現在は組織作りをリードしていくチームを発足させ組織と事業の両面を加速する取り組みに注力していると語った。

「アトラエは世間でティール型組織という言葉が流行る前から、フラットな組織を構築し、創業当初から自律分散型組織を目指してきた会社です。評価制度も上下の関係に縛られず、自分を評価する人を自分で決めるなどユニークな人事制度を設計しています。SOもフラットな組織にマッチした形で設計しているので、今日はその点についてもお話できればと思います」

▲岡 利幸 氏 / 株式会社アトラエ 取締役CTO

続いて自己紹介したのは、本セッションのモデレーターであり、WiL100%子会社であるTBAの佐藤氏だ。WiLの投資先や、大企業とのJVに出向して組織開発の支援をしている同氏。結婚を機に一度はキャリアを中断するも、5年前に再びビジネスの現場に戻ってきた経歴を持つ。

「私は大学在学中に、リクルートの創業者である江副浩正さんと知り合いまして、江副さんが創業したスペースデザインに学生社員として入社しました。その後、バイオベンチャーに参画してIPOを経験します。

次に、友達とアパレルブランドなどを立ち上げたのですが、出産を機に10年間主婦をしていました。小学校受験と中学受験も楽しませてもらい、約5年前にビジネスの現場に復帰し、現在はWilの100%子会社で、様々な起業家の方の支援をさせてもらっています」

▲佐藤 友美 氏 / 株式会社TBA HR Director

次に自己紹介をしたのは、経済産業省でスタートアップ政策に携わっている由井氏。もともと弁護士をしており、現在も法律事務所ZeLoに所属しながら経済産業省に出向しているという(現在弁護士登録は抹消中)。最近ではストックオプションに関する制度に関わったようだ。

「私が所属しているのは、AI×契約書のリーガルテックスタートアップと共に創業された法律事務所です。そのため、周りにもスタートアップが多く、事業成長の過程で壁にぶつかる様子を間近で見てきました。

また、スタートアップがエクイティ・ファイナンスをする際やストックオプションを発行する際にも弁護士としてサポートしてきたので、本日はそのような観点から話をしていきたいと思います」

▲由井 恒輝 氏 / 経済産業省 イノベーション創出新事業推進課 課長補佐

最後に自己紹介を行ったのは、Startup Culture Lab.所長を務める唐澤氏。Almohaを共同創業し、人事システム開発および経営・組織コンサルティングを行う同氏は、これまで様々な企業の評価制度を見てきたと言う。

「これまで大企業からスタートアップ、デジタル庁と様々な組織の評価制度を見てきました。その経験をもとに人事システムを開発しているため、今日はその中で私が学んできたことをお話していきたいと思います」

▲唐澤 俊輔 氏 / Almoha共同創業者COO / Startup Culture Lab.所長

成長する組織の人事制度は? 制度変更の頻度と給与に関する法律リスクを解説

最初のテーマとして、モデレーターの佐藤氏が提示したのは「いつから人事制度を設計していくべきか」という問い。これに対して「組織が30人ぐらいになったら」と具体的な返答をしたのは唐澤氏だ。

「組織が30人に満たなければ、社長が全員の顔を見ているので、人事制度がなくても個別に対応していくことができます。しかし、30人を超えたあたりから個別での対応が難しくなっていくので、人事制度の設計を考えた方がいいでしょう。

その時に注意してほしいのが、制度を作り込まないこと。等級も3~4段階でゆるく作って、運用しながら自分たちにあった制度に調整していくのがおすすめです。100人くらいの組織までは、それくらいの意識で大丈夫だと思います」

それに対して、佐藤氏からは「成長が激しいスタートアップは、頻繁に制度を変えても大丈夫なのか」という質問が入り、唐沢氏は次のように答えた。

「組織は振り子のように、両極端に揺れるのを繰り返して成長していくものです。そのため成長中のスタートアップが制度を変えるのは致し方ありません。しかし、あまり大きな変更を頻繁に繰り返すと、制度の評価ができないためアップデートしていく意識が重要です。

最初にゆるい制度を作って、運用しながらブラッシュアップしていくのがおすすめなのも、そのような意味合いを含んでいます」

佐藤氏からの質問が続く。「制度を変えた際に給料が下がることがあるが、気をつけるべきことは?」という問いに答えたのは、弁護士としても活動していた由井氏だ。法律的な観点から、不利益変更の厳しさについて語った。

「制度の変更に伴って給与水準が変動することがありますが、これにより一方的に給料を下げてしまうと、後々訴訟トラブルになる可能性があるので注意が必要です。そのようなリスクを下げるためにも、猶予期間を設けて、丁寧に合意形成を図るのがおすすめです。

例えば、制度を変えたタイミングでは、今の給与を継続したまま『次の評価のタイミングで、この水準に達しなかったら給与が下がるから頑張ってね』と合意をとっておきます。ポイントとしては、丁寧に説明すること、そして合意についてしっかりとテキストベースでも残しておくことです。労働者に不利益な合意は、それが真意に基づくものなのか厳しく判断されますし、曖昧なままにしておくと、不満が募ることもあるので気を付けなければなりません。」

「評価制度は会社を成長させるためのもの」 アトラエが実践する理想の人材像に近づくための制度とは

話題はアトラエにおける評価制度の考え方に移る。ユニークな人事制度を実施している同社は評価制度をどのように捉えているのだろうか。岡氏が次のように語る。

「評価制度とは、本来会社を成長させるためのものです。それがいつの間にか”納得感”というキーワードで運用されてしまうケースが少なくありません。もしもメンバーを納得させるために制度を運用していて、それが会社の成長を阻んでいるとしたら、一度マインドを切り替える必要があります。

その前提で評価制度を考えるなら、会社の状況に応じて柔軟に作り直せるようにすべきです。私たちは社内の有志チームが評価制度を作っていて、メンバーは自主的に集まってくれた人たちです。エンジニアや、データサイエンティスト、労務など幅広いポジションの人たちが集まっています。

もちろん、私たちも評価制度がどうあるべきか正解を持っているわけではありません。意欲あるメンバーが実際に評価制度作りに関わることで、その難しさを痛感し、よりよい制度を作ろうとする意識が何より大事だと思っています」

単に会社が作った評価制度に従って評価されるのではなく、評価制度を作る側の人や評価する側の人の思考を知ることが重要だと語る岡氏。そのような思いから、同社ではユニークな360度評価を行っている。

それが、「自分を評価する人を自分で選ぶ」という取り組みだ。最終的な調整はあるものの、基本的には自分が選んだ5人の評価と自己評価が自分の給与に反映される。誰しもが評価する立場になる可能性があることで、評価というものについて考えるきっかけになると言う。

常識外れの制度に、登壇者から質問の手が一斉に挙がった。唐澤氏からは「自分に都合のいい評価をしてくれる人を選ぶのではないでしょうか」とみんなが気になる疑問が上がる。

「それも認めたうえで、成長するためのマインドセットも伝えています。『優しく評価してくれる人と、厳しく評価してくれる人、5年後のあなたを成長させてくれる人はどちらですか』と。

誰しも目の前にある評価や給与は高めたいと思いますが、長期的にみたらどちらが成長に繋がるのか、どうすれば生涯賃金を上げられるのか一度しっかり立ち止まって考えてほしいと思っています。自分の成長にとって適切な評価者を選ぶことも、その人のスキルであり大事な仕事の一つだと捉えています」

続いて「評価基準はどのように設定しているのか?」と質問する由井氏に、岡氏は「理想の人材から逆算して考える」と返答した。

「どのような人を高く評価するかという問いは、その会社における理想の人材を考えるのと同義です。高い評価を得られる人材を採用しているはずですし、そのような理想とのギャップを埋めるために、フィードバックを通して成長させるのが評価制度だと思っています。

昇給を考える際も、理想の人材像から逆算して考えていくので、どんな人物に成長していってほしいか明確にすることが何より重要ですね」

スタートアップに朗報! SOの法改正で人材獲得が加速

続いて佐藤氏から、登壇者に対して次のような質問が投げかけられた。「資金調達したタイミングで優秀な人材を採用する際、それまでの報酬制度にマッチしないケースも出てきます。こうした時には、どうすればいいのか?」。その問いに対し、唐沢氏が次のように答える。

「本来、資金調達をしたからといって、給与レンジを上げるのはよくありません。しかし一方で、それまでにない上のレベルの人材を採用できるチャンスもあるので、柔軟に考える必要があります。

冒頭に話した『評価制度をゆるく作っておく』というのも、こういう時のためです。最初から細かく採用しておくと、優秀な人材を採用するために、いきなり役員として入ってもらわなければならないこともあります。そのため、等級ごとの給与レンジは下限だけ決めて、上限は設けないのがおすすめです。

大事なのは、評価と報酬の関係に合理性を求めないこと。報酬について理屈を説明するよりも、本人が納得感を持って成長のために頑張れるようなコミュニケーションをするべきだと思います。とはいえ、入社してから給与を下げるのはお互いに気持ちよくないので、一時的にボーナスなどで納得できる給与を提示して『入社して1年でこのレベルに上がれば報酬も上げます』という約束をしておくといいかもしれません」

逆に、スタートアップが優秀な人材を採用したくても、適切な報酬を提示できない時に活用するのがストックオプション(SO)だ。佐藤氏はアトラエのSOの活用法について質問し、岡氏は次のように話す。

「SOを発行する際に大事なのは、しっかりと背景や想いを説明すること。なぜSOを発行するのか、傾斜をつけるなら、なぜ傾斜をつけるのかデータとともに説明します。評価制度の話と通じますが、単にSOを受け取るだけの視点だけでなく、SOを出す側の視点も知ってほしいからです」

SOの話の流れで、佐藤氏は国を挙げてSO活用を推進していることも説明した。「失われた30年」と揶揄される日本経済を回復させるために、国としてもSOを使いやすいよう法律を整備しているという。その整備に携わってきたのが由井氏だ。

「直近の法改正によってSOの発行が容易になったため、スタートアップが人材獲得のためにSOを使いやすくなりました。

スタートアップは非公開会社のため、従来の法律では、SOを発行するにあたって、基本的に発行の都度、株主総会決議をしなければなりませんでした。しかしそれでは、SOの発行に手間と時間ががかかり、人材獲得戦略としてSOを活用しづらいという状況がありました。

直近の法改正によって、ストックオプションの大枠だけを株主総会で決定すれば、細かい条件等は取締役会の決議のみで都度決定して、SOを発行できるようになりました。これにより、例えば、投資家との間で合意をしたSOプールの枠内で、機動的にSOを発行することできるようになり、人材採用の際にSOの付与を約束するなどして、人材獲得戦略の幅を広げることが期待されます。他にも細かい法改正がありますが、このセッションでは少なくとも以前よりSOの発行が容易になったことだけは覚えておいてもらいたいと思います」

SOの発行が容易になったことで、受け取る側のメリットも大きくなると由井氏は言う。SOは早く受け取るほどメリットが大きいが、これまでは発行が手間だったため半年から一年に一度の株主総会でまとめて発行していた。

それでは入社したタイミングによっては、入社とSOを受け取るタイミングに大きなタイムラグが発生してしまい、本来のメリットを受けられない。法改正によってSOの恩恵を最大限に受けられるようになったと語る。加えて、由井氏は現在整備が進めらている未上場株式のセカンダリー市場についても説明した。

「セカンダリー市場とは、二次流通市場とも呼ばれ発行された株式や債券を、投資家間で売買する市場のことです。スタートアップが発行するSOに対応する株式には譲渡制限があり、会社の許可なしには売ることもできませんし、これを買いたい人を探すのも容易ではありません。

未上場株式のセカンダリー市場が整備されることで、SOに対応する株式を容易に売買できるようになり、上場を待たずして現金化することも可能になります。これまでExitするまでは単なる紙切れだったSOが現金化しやすくなることで、報酬としてより身近に感じられるようになり、スタートアップへ多くの優秀な人材が集まってくるようになると思います」

セッションの最後には、唐沢氏が締めの言葉として評価調整会議の重要性について、次のように語った。

「人が人を評価する以上、公正に評価するのは限界があります。そこで重要になるのが評価調整会議というもので、1次評価が上がってきてから2次評価する場のことです。『Aさんをこう評価するなら、Bさんもこう評価すべきだよね』と話し合いながら、その会社で求められる人物像やバリューを明確にしていくのです。

個別の人を評価しながら、それまで抽象的だった『理想のメンバー像』が具体化されていくので、評価に困っている企業はぜひ取り入れてみてください」

取材後記

岡氏や唐沢氏が語っていたように、評価制度を決める際には「理想の人材」を明確にすることが重要だ。これから評価制度を作る際には、どんな人材に成長してほしいのか、どんな制度設計が必要なのか考えてほしい。そして、給与だけでなくSOもうまく活用するのが、今後のスタートアップに欠かせない成長戦略となるだろう。

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(編集:眞田幸剛、文:鈴木光平)

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