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熱量が高まる神奈川県のオープンイノベーション促進事業「BAK」。事業化に向けて動き始めた17のプロジェクトを紹介。伊藤羊一氏&常盤木龍治氏が登壇したセミナーの様子もレポート!

熱量が高まる神奈川県のオープンイノベーション促進事業「BAK」。事業化に向けて動き始めた17のプロジェクトを紹介。伊藤羊一氏&常盤木龍治氏が登壇したセミナーの様子もレポート!

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神奈川県内の大企業等とベンチャー企業との事業連携プロジェクト創出を目指す協議会「ビジネスアクセラレーターかながわ(BAK)」。神奈川県主催のもと2019年度にスタートしたBAKは、約130社の大企業を含む886社(2024年10月時点)が集まる巨大なコミュニティに成長している。

このBAKの中心的な活動が、県内に拠点を持つ大企業等と県内外のベンチャー企業をマッチングし、提供される開発・実証支援金を活用しながら、実証実験の実施に向けた調整、広報支援、伴走支援などにより、共創プロジェクトの推進や事業化を促すプログラムだ。

今年度は、2024年6月より「大企業提示テーマ型」「ベンチャー発自由提案型」の2形式で全国から共創パートナー企業を公募。応募のあった計482件の中から、書類選考・プレゼンテーションなど厳正なる審査の結果、17のプロジェクト(脱炭素推進に資する「脱炭素推進枠」5プロジェクト含む)を採択した。

▲BAKでは、採択プロジェクト毎に開発実証費を神奈川県が支援している。

本記事では、採択されたプロジェクトの概要を紹介するとともに、共創プロジェクト開始に先立って10月10日に開催されたセミナー『BAK Seminar Day~イノベーションの極意~』の様子をレポートする。今年度のBAKからは何が生まれるのか。イノベーションを生み出すためのヒントとは。

大企業等とベンチャー企業による“17のプロジェクト”が共創のステージへ

「大企業提示テーマ型」は、県内に拠点を持つ企業22社が示した各テーマに対する連携プロジェクトの提案をベンチャー企業から募集し、424件の応募数があった。また、「ベンチャー発自由提案型」では、自社の技術やアイデアに基づき、大企業等と連携して実施したい社会課題解決プロジェクトの提案をベンチャー企業から募集し、58件の応募があった。――応募総数482件から採択されたのは、17件のプロジェクトとなる。

採択プロジェクトごとに開発・実証支援金500万円(内、脱炭素推進枠プロジェクトには750万円)を神奈川県が支援。併せてコンサルタントの伴走、開発や実証実施、広報活動の継続実施を行い、事業化を目指していく。――以下に、採択された17件のプロジェクトについて、その概要を紹介する。

●「脱炭素推進枠」 採択5プロジェクト(ベンチャー企業五十音順、下線)

エーエスピー × 森永乳業】

共創テーマ:微酸性次亜塩素酸水を用いた殺菌・保存性向上技術による、加工用農産物の食品ロスの削減

株式会社エーエスピーは、未活用農水産物を粉末化して食品の原料にするなど、これまで廃棄されていた農水産物の有効活用に取り組んでいる。一方、森永乳業株式会社は、安全で、高い殺菌効果のある「ピュアスター生成水」(微酸性次亜塩素酸水)を販売している。この生成水をドライミスト化し、保管中の農作物を濡らさずに殺菌することで、カビの発生を抑制する実証を行う。この取組を通じて、原料化前に腐敗し廃棄される農産物を削減し、焼却処分の減少によるCO2排出量と食品ロスの削減を目指す。

カマン × 湘南ベルマーレ】

共創テーマ:リユース容器を活用した廃棄物ゼロスタジアムの実現~持続可能な仕組みづくりに向けて~

株式会社カマンが構築した、アプリの活用によりリユース可能な食品容器を配布・回収・洗浄・再配布する循環型システムについて、株式会社湘南ベルマーレが管理するスタジアムで開催されるサッカーの試合において実証実験を行い、キッチンカー等における使い捨て容器の廃棄量削減と、リユース容器の回収率向上、容器の運搬・洗浄に係るコスト削減を検証する。将来的には、Jリーグ全体での実施や、サッカー以外のスポーツやイベント会場にも展開し、プラごみの減少によるCO2の削減と継続可能なリユースの仕組みづくりを目指す。

Nobest × サンエー】

共創テーマ:太陽光発電設備の故障や廃棄問題の解決に向けた、設備管理システムの開発

AI・IoT技術に強みを持つ株式会社Nobestと、太陽光発電設備の導入や保守点検事業を行う株式会社サンエーの連携により、太陽光発電設備の管理の簡易化及び故障をリアルタイムで検知し、原因を特定できる、自動遠隔監視システムの開発と、その導入効果の検証を行う。この取組により、故障等による発電停止を最小限に抑え、発電効率を向上させることが可能となる。将来的には、パネルごとの発電状況や故障履歴等を確認・追跡できる機能の付加により、太陽光パネルのリユースによる長期利用に繋げることで、大量廃棄問題を解決し、CO2排出量の削減と太陽光発電の更なる普及を目指す。

Beer the First × 明治】

共創テーマ:乳製品の生産過程で発生した副次原料のアップサイクルによる、環境にやさしいクラフト飲料の開発

廃棄間近の様々な食品素材をアップサイクルしてクラフトビールを製造している株式会社Beer the firstが、株式会社 明治の乳製品生産過程で発生した副次原料(牛乳から乳脂肪分と水分を除いた「SNF原料」)を活用して、「ミルク」クラフトビールやサワー、ノンアルコールドリンクなどの新製品を開発し、テストマーケティングを行う。これにより、廃棄食品の削減・有効活用によるCO2排出量の削減と、若者をメインターゲットにした多様な飲料市場の開拓を目指す。

メンテル × 富士工業】

共創テーマ:空調効率を高めて光熱費削減と快適性向上を両立させる既存店舗向け空気環境改善サービス

株式会社メンテルが提供する、AIを活用して個別の店舗毎に最適な空気環境を提案するアプリと、富士工業株式会社が製造する、室内の温度ムラを解消するサーキュレーターを掛け合わせ、既存の小規模店舗でも簡単に導入できる空気環境改善システムを開発し、導入による省エネルギーやCO2削減の効果を検証する。将来的には、このサービスをコンビニエンスストアなどに展開し、空調設備の利用効率化による店舗でのCO2排出量と光熱費の削減を目指す。

●脱炭素以外採択 12プロジェクト (ベンチャー企業五十音順、下線)

イージーエックス × 箱根DMO】

共創テーマ:パーソナライズされた、混雑しない旅行プランを提案するAIシステムの開発

株式会社イージーエックスが有するデータ分析・AI技術と、箱根DMOが有する道路混雑予測データ・観光客のアンケートデータ等を活用して、旅行者の属性や興味・関心に合った、混雑を避ける旅行プランを提案するシステムを開発し、効果を検証する。この取組により、箱根エリアの観光客を対象に混雑を回避できる周遊観光を促進し、満足度と観光消費額拡大につなげるとともに、将来的には、他のエリアでも展開し、オーバーツーリズム解消や広いエリアでの周遊促進を目指す。

AC Biode × ボッシュ】

共創テーマ:廃棄プラスチックや有機廃棄物の低温分解と生成成分の有効活用による新たな資源循環モデルの確立

ボッシュ株式会社の工場等で発生した、廃棄プラスチックや動植物に由来する有機廃棄物を、AC Biode株式会社が有する約200度の低温で分解する技術を用いて、水素やモノマー(プラスチックの最小単位)等に分解する実験を実施し、生成した水素等の成分分析を行う。この取組により、焼却処分する廃棄物等を削減するとともに、生成した水素等を化学技術メーカーへ販売することで、新たな資源循環モデルの確立を目指す。

エグゼヴィータ × グリーンハウス】

共創テーマ:食生活などの生活習慣の改善を通じて従業員を健康にする健康経営支援サービスの開発

エグゼヴィータ株式会社が有する、日々の行動データをウェアラブルデバイスから自動で取得しAIで解析する技術と、株式会社グリーンハウスが展開するフードサービス事業を通じた栄養指導などのノウハウを組み合わせ、食事に重点を置いたAIによる生活習慣の分析と、改善アドバイスを行うサービスを開発し、効果を検証する。この取組により、企業向けに健康経営支援サービスを提供し、健康経営を推進する企業数の増加を目指す。

EpicAI × 日揮グローバル】

共創テーマ:プラントの長寿命化に向けた3Dモデル生成AIの開発と3Dプリンタによるパーツ製造

株式会社EpicAIが有するAI技術と、日揮グローバル株式会社の国内外のプラント建設における3Dプリンタ活用に関わる知見を組み合わせ、図面や写真等の情報をもとに、短期間で簡単にプラントのパーツを3Dモデル化し、3Dプリンタでの製造が可能となるAIシステムを開発する。この取組により、在庫が無くなっても必要な部品を素早く調達できる仕組みを構築するとともに、将来的には、老朽化したプラントの長寿命化や製造業におけるサプライチェーンの変革・付加価値創出を目指す。

きゃりこん. com × セコム医療システム】

共創テーマ:医療現場で「働き続けたい」を実現する支援プラットフォームの構築

株式会社きゃりこん.com が提供する、従業員のコンディション診断ツール・オンライン面談等を組み合わせたサービス「toHANAS」を、セコム医療システム株式会社が提携する病院において活用し、従業員の想いを可視化するとともに、病院として解決すべき優先課題を明らかにすることで、管理者をサポートする仕組みを開発し、効果を検証する。この取組により、各医療機関の組織的な経営改善に繋げ、医療現場で長く働くことができる環境を整備し、持続可能な医療の実現を目指す。

GUGEN Software × イントラスト】

共創テーマ:養育費受給率向上を目指す離婚後の子育て包括支援パッケージの提供

離婚後の養育費の支払いや、離れて暮らす親子の面会交流をサポートするアプリ「raeru」を提供するGUGEN Software株式会社と、養育費保証サービスを提供する株式会社イントラストが連携し、離婚後の子育てを「raeru」アプリを活用して包括的に支援するパッケージを開発する。この取組により、地方自治体や民間による支援など、「raeru」アプリを通じて全ての支援にアクセスできる仕組みを構築し、離婚後も子育てしやすい環境づくりと養育費の受給率向上を目指す。

Cranebio × 日本ゼトック】

共創テーマ:簡便・高感度な歯周病菌検出キットの開発~健口から始まる未病改善~

歯周病原因菌の高感度検査技術を開発するCranebio株式会社と、高機能ハミガキ剤の販売やオーラルケアの啓蒙に取り組む日本ゼトック株式会社が連携し、歯周病に罹患している可能性を早期に発見できる、高感度で簡便な検査キットを開発する。将来的には、検査キットを活用することで国民のオーラルケアに対する意識を高め、生活習慣病の原因となる歯周病の予防に取り組むモデルを構築し、医療費の削減や健康寿命の延伸を目指す。

tayo × 三菱総合研究所】

共創テーマ:研究者の知識に気軽にアクセスできる「産学連携型」技術調査サービスの開発

大学や公的研究機関の研究者と企業をマッチングさせるビジネスSNSサービスを提供する株式会社tayoと、多くの民間企業や地方自治体等に対して調査や支援業務を行う株式会社三菱総合研究所が連携し、研究者が持つスキル等を可視化するデータベースを構築することで、研究者による低価格な調査を実現するサービスを開発する。この取組により、知識や技術を持った研究者と、研究者の知見や技術を求める企業等がつながりやすくなる仕組みを構築し、様々な分野での産学連携の促進と、研究人材の活用を目指す。

hab × IR】

共創テーマ:子ども・福祉限定相乗りタクシーサービス~地域のチカラで子ども・福祉の移動弱者を救う!~

hab株式会社が提供する子ども専用相乗りタクシーサービス「hab」と、放課後等デイサービスを運営する株式会社IRが持つ児童福祉現場の運用ノウハウを掛け合わせ、「放課後等デイサービス」等の児童福祉施設における送迎負荷の解消に向けて、自家用車を活用した児童福祉領域限定の送迎実証を行う。将来的には、地域のタクシー会社と連携した自家用車による輸送手配で、人材・車両不足を克服し、地域が一体となった新しい福祉輸送モデルを確立し、児童福祉領域における送迎課題の解決を目指す。

ビー・ケース × ハウス食品グループ本社】

共創テーマ:STOP食物アレルギー!子どもの鶏卵アレルギー予防に向けた新製品開発

子どもの食物アレルギー減少に向けた離乳食補助食品の開発・販売を行う株式会社ビー・ケースと、アレルゲン分析技術・品質保証に強みを持つハウス食品グループ本社株式会社が連携して、医学的根拠に基づく鶏卵アレルギー予防食品を開発し、県内の医療機関等の協力のもと、安全性や効果を検証する。この取組により、子どものアレルギー発症リスクを減少させ、子育てしやすい環境の整備と子どもの未病改善を目指す。

VIE × JTB】

共創テーマ:脳科学と地域資源を活用した「ニューロミュージック」によるウェルネスツーリズムの開発

VIE株式会社が開発した、イヤホン型脳波計による脳波計測や脳にリラックス効果などの影響を与える「ニューロミュージック」を生成する技術と、株式会社JTBが有する観光に関するネットワークを掛け合わせ、宿泊施設や観光施設と連携した旅行中の新たな体験コンテンツを開発する。この取組により、各地域の「音」を活用したリラクゼーション体験コンテンツを提供し、観光満足度向上と、ストレス軽減やリラックスの促進などによる、新たなウェルネスツーリズムの実現を目指す。

Herazika × 日本漢字能力検定協会】

共創テーマ:子どもの学習意欲と自信を取り戻す「オンライン自習室」を活用した学習習慣化サービスの開発

株式会社Herazikaが提供する、個人のやる気に頼らず家庭学習の習慣化を進める小学生向けオンライン自習室サービス「ヤルッキャ」と、公益財団法人日本漢字能力検定協会が実施する、誰もがどの級からでも挑戦できる「漢検」を掛け合わせ、小学生の学習計画づくりからサポートする仕組みを新たに開発し、利用率や家庭学習の習慣化の効果を検証する。この取組を普及させることで、学習に対する意欲や集中力などの非認知能力を高め、多くの小学生に学習習慣を根付かせるとともに、学習を続けられる体験や結果を得られる体験を通じた、小学生の「自己効力感」の向上を目指す。

――以上が「BAK2024」に採択された17のプロジェクトの概要だ。次に、共創プロジェクトの立ち上げに向けて熱量を高めるため、10月10日に京セラみなとみらいリサーチセンターで開催された『BAK Seminar Day~イノベーションの極意~』の模様を紹介する。講師は、伊藤羊一氏と常盤木龍治氏の2名だ。本セミナーには、新規事業やオープンイノベーションに関わる多くのビジネスパーソンが参加した。

【BAK Seminar①】 『ともに未来を創ろう』 講師:伊藤 羊一氏

最初に紹介するのは、武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 創設者であり、学部長でもある伊藤羊一氏のセミナーだ。ここでは、アントレプレナーシップ(起業家精神)の重要性とその養い方について語られた。

【講師】 伊藤 羊一 氏

武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部 学部長

Musashino Valley 代表/LINEヤフー/Voicyパーソナリティ

次世代リーダー育成のスペシャリスト。2021年に武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し学部長に就任。2023年にスタートアップスタジオ「Musashino Valley」を設立。また、ウェイウェイ代表として次世代リーダー開発を行う。東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行、プラス、ヤフーで経営や新規事業開発、マーケティング、人材育成に従事。著書『1分で話せ』は65万部超のベストセラー。

●失われた30年、日米のGDPに決定的な差をつけた要因は?

伊藤氏は、「日本は失われた30年に苦しんでいる」と切り出す。経済成長率の低下、時価総額の減少、国際競争力の低迷、そして人口減少が続いている。40年後には総人口が9000万人に減少するという試算もあり、生産年齢人口の激減が事業に与える影響は避けられない。この状況に対処するには、「新しいことを始めるか、古いものを抜本的に構造改革するか、外に出ていくかしかない」と伊藤氏はいう。

また、過去40年間の主要国のGDP推移を振り返ると、アメリカや中国は成長している一方、日本は停滞している。特に「1995年を境に日本が別の国のようになった」と指摘。この年に『Windows95』が発売され、インターネットの民主化が始まったことが背景にあると説明する。アメリカはインターネットを活用して、GAFAと呼ばれるテックジャイアントを生み出すなど、GDPを高め続けてきた。一方で日本はそうはならなかった。この理由について伊藤氏は「アントレプレナーシップの違いだと思っている」と持論を展開した。

さらに、伊藤氏はGAFAの事例を紹介し、アメリカではインターネットの登場が、自分の妄想を実現する機会と捉えられた一方で、日本ではそのような個人の妄想が打ち壊されてきた可能性があると指摘。そのため、意志ある人の妄想を否定せず「わちゃわちゃ喋りながら新しいものを作る」BAKのような環境が重要だと訴えた。

●アントレプレナーシップ(起業家精神)を養うために重要なこととは?

アントレプレナーシップ学部を自らの意志で設立した伊藤氏だが、何かを成し遂げるためには「譲れない想いを創って燃やし続けることが大事」だという。自分の譲れない想いを見つける手段として、過去を振り返る『ライフラインチャート』の作成を提案。伊藤氏自身、社会人になったばかりの頃にメンタル不調を経験し、「人は変われる、FREE, FLAT, FUN」という譲れない想いが生まれ、現在の行動の源泉や使命感につながっていることを紹介した。

また、アントレプレナーシップを「高い志と倫理観に基づき、失敗を恐れずに踏み出し、新たな価値を見出し、創造していくマインド」と定義する伊藤氏は、新たな価値創出には失敗がつきものだと語る。実際、学部設立時にも多くの失敗を経験したが、「譲れない想いがあれば乗り越えられる」とし、起業家だからこそ譲れない想いを持つことが重要だと改めて強調した。

●武蔵野大学アントレプレナーシップ学部で実践する教育手法とは?

武蔵野大学 アントレプレナーシップ学部は、授業の中で起業をするカリキュラムを組んでおり、教員の大半が現役の実務家だという。マインドセット、スキル、実践の3つで構成されているが、「マインドセットは教えられるものではないので、みんなで対話をして、対話の中から自分で気づいていく」という方法を採用している。

具体的には、教員らの話を聞き刺激を受け(INPUT)、考えを深め、仲間と対話を重ねて、気づきを得た後、実践に移す(OUTPUT)という流れを大切にしている。こうしたカリキュラムから、企業協賛やクラウドファンディングで8000万円を集めた『あの夏を取り戻せプロジェクト』も生まれた。同学部の用意した学生寮のフリースペースでは、学生たちが夢を語り合う光景も見られ、「うちの学部は人の夢を笑わないから最高!」という声も寄せられている。伊藤氏は、夢を笑わず応援し続けると「化ける可能性がある」とも述べた。

最後に伊藤氏は「未来は予測するものではなく創るものだ」というアラン・ケイ氏の言葉を引用し、「ここにいる皆さんや周りの人たちと一緒に未来を作っていきたい」と呼びかけ、セッションを締めくくった。

【BAK Seminar②】 『収益化を目指したプロジェクト推進の肝』 講師:常盤木 龍治氏

続いて紹介するのは、『沖縄のIT番長』であり『DX軍師』であり、株式会社EBILABの創業者でもあり…さまざまな異名を持つ“トッキー”こと常盤木 龍治 氏のセミナーだ。ここでは、常盤木氏の経験をもとにした実践知や共創を推進するためのポイントなどが語られた。

【講師】 常盤木 龍治 氏

パラレルキャリアエバンジェリスト

株式会社EBILAB 取締役ファウンダーCTO CSO

岡野バルブ製造株式会社 取締役 DX推進本部長

1976年東京生まれ。2001年よりプロダクトビジネスに約23年間従事し、テンダ、東洋ビジネスエンジニアリング(現ビジネスエンジニアリング)、インフォテリア(現アステリア)、SAP等で活躍。2016年よりパラレルキャリアで、日本を代表する様々な企業のプロダクト企画、開発、事業戦略、マーケティング、人材育成などに携わる。2018年にEBILABを創業し、最高技術責任者/最高戦略責任者/エバンジェリストに就任。

●“トッキー”こと常盤木氏の活動内容と、そこから得られた実践知とは?

沖縄市に移住して11年目を迎える常盤木氏は、沖縄を拠点に地方創生やDX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的に取り組んでいる。かつて「東洋一のネオン街」と呼ばれた沖縄・コザ地区の街づくりに注力するとともに、「沖縄からMicrosoftやGoogleを超えるような企業体を生み出すアクションをしている」と話す。また、沖縄に限らず、鳥取、石川、三重、宮城、埼玉、宮崎など全国各地を飛び回っており、各地で人材育成プログラムを展開しているという。

企業向けにもDX推進や経営戦略の立案を支援している。例えば、ハウステンボスでは、「やらないこと」を決定して業務の選択と集中を行い、従業員の働き方改革と待遇向上を実現した。カステラの福砂屋では、Microsoftの生成AIシステム『Copilot』を導入し、お詫び文の作成に活かすなど老舗企業のデジタル化を後押ししている。岡野バルブ製造では、新規事業創出に向けた体制構築も進めた。

こうした豊富な経験から常盤木氏は、伝統企業のDXの成功には「異能を否定しない環境が必須」だと協調。また、「自社の技術ありきのプロダクトアウトと市場ニーズありきのマーケットイン、これら両方がないと新規事業は成立しないが、どちらかに偏っていることが多い」と指摘し、バランスを取ることの重要性を説いた。さらに、データマネジメントに関して「イノベーションは必ずデータとセット、データなきDXは存在しない」「データは貯金、データがないと経営無免許運転」と言い切るなど、金言を多数披露した。

●共創や新規事業開発のハマりポイントとは?

共創を成功させるコツについて常盤木氏は、「どうすれば、相手にとって『一緒にやりたい』『協力したい』と思ってもらえる人間になれるか」を考えることが非常に重要だと話す。時には少しスキを見せたり、相談しやすい雰囲気を出したり、あるいは「自社都合をパートナーに押し付けないことを意識してほしい」と伝えた。「両者なら何ができそうか。互いに出し合うことが重要で、突っぱねないことが大事」と述べた。

また、事業のゴール設定に関して「目線が下がった瞬間に事業のゴールが決まる。なぜなら、私たち人類は構想したことは具現化できるが、そうでないことは具現化できないという特性を持っているから」と述べ、視座を高めるようアドバイス。そして、方法論や技術に縛られないことや優先課題を正しく見極めることの重要性も強調した。

●9象限で考える“トッキービジネススクリーン”

共創や新規事業開発を成功させるために、常盤木氏が作成したのが“トッキービジネススクリーン”と名づけたフォーマットだ。これは、マーケティングなどに使われる“GEビジネススクリーン”を改良したもので、実現可能性と有効度に重点を置く。

ハウステンボスでは、このフォーマットを用いた部門横断のワークショップを定期的に開催。その結果、社員全体が経営に参加する意識が高まり、離職率の低下にもつながったと話す。このプロセスは、社内に限らず顧客候補やパートナー候補と実施することも効果的だという。また、事業のロードマップを描くことの重要性も強調。その際、事業の最終ゴールから逆算して描くことを勧めた。

●機能説明ではなく、顧客視点で何が解決されているか?

常盤木氏は最後に、自身が開発した店舗経営ツール『TOUCH POINT BI』について紹介した。このシステムを提案する際には、「機能を説明するのではなく、顧客視点で何が解決されているのか」を顧客に伝えるようにしている。例えば、来店客数を45日先まで予測できる機能よりも、それによって無駄のないシフトが組める点を訴求していると話す。

講演の締めくくりとして、常盤木氏は「ユーザー視点とパートナーの尊重と愛情、誰が笑顔になるためのビジネスなのかを見据え、『死の谷』をこえよう」と呼びかけた。

取材後記

「BAK」から新たに17のプロジェクトが生まれ活動を開始した。886社が参加するこのコミュニティは、多様な企業・組織が集まり異なる視点や知見が交わる場として機能している。これら17のプロジェクトは、コミュニティの力強い後押しを受けながら進展するだろう。開催されたセミナーでは、参加者が新規事業開発に向けた貴重な洞察を得ており、今後の展開への期待が高まる。こうしたセミナーが頻繁に開催されていることも「BAK」の魅力のひとつだ。ビジネスの拡大に前向きなメンバーが集まる「BAK」は、参加企業を常時募集している。興味があれば、ぜひ「BAK」の扉を叩いてほしい。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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