
DaigasグループのSIer・オージス総研が、社会インフラの安定稼働や自社サービス開発で培った技術力を提供――「農業・畜産業」「介護」「ものづくり」「ヘルスケア」の社会課題解決を目指す共創プログラムを始動!
大阪ガスのIT戦略事業会社として1983年に創業したオージス総研は、都市ガスという社会インフラを支えるシステムの構築・運用を通じて蓄積してきた高度な技術力・開発力に強みを持つシステムインテグレーターとして知られている。また、現在では大阪ガスを中心とするDaigasグループのみならず、エネルギー・製造・金融など幅広い業界のグループ外企業に対しても、様々な付加価値の高いサービスを提供することで事業を拡大している。
そんなオージス総研は、スタートアップの持つ先進技術/デジタルサービスと、同社の社会実装力・開発力を掛け合わせて社会課題解決に挑むオープンイノベーションプログラム『OGIS Open Innovation 2025』の開催を発表。「農業・畜産業」、「介護」、「ものづくり」、「ヘルスケア」という以下4つの共創テーマを設け、エントリーの受付を開始した。(※最終応募締切:2025年8月29日)
<募集テーマ>
1.農業・畜産業:省人化や効率化を実現する次世代ソリューションの開発
2.介護:介護現場の人的負担を軽減する業務支援・自動化ソリューションの開発
3.ものづくり:ものづくり現場の暗黙知を見える化し、現場の人手不足や高齢化に挑むソリューションの開発
4.ヘルスケア:バイタルデータを元に予防や行動変容を促し、健康寿命の延伸に資するソリューションの開発
そこで今回TOMORUBAでは、プログラムの開始にあたり、本プログラムをリードするオージス総研 新規事業推進部の3名にインタビューを実施。プログラムを開催するに至った背景や、プログラムを通じてスタートアップと共に実現したいこと、さらにはオージス総研としてスタートアップに提供できるアセット・リソースなどについて詳しくお聞きした。

【写真中】 株式会社オージス総研 新規事業推進部 新規サービス開発センター センター長 安藤崇周氏
【写真右】 株式会社オージス総研 新規事業推進部 新規サービス開発センター ビジネスクリエイションチーム 市木宏和氏
【写真左】 株式会社オージス総研 新規事業推進部 新規サービス開発センター ビジネスクリエイションチーム 中西圭太氏
大阪ガス発のユーザー系SIerとして、幅広い業界の顧客にサービスを提供
――始めにオージス総研の主な事業領域や特徴についてお聞かせください。
安藤氏 : 当社は1983年に大阪ガスの100%出資で設立されたシステムインテグレーターであり、都市ガスを中心とする様々なインフラを支えるシステムの設計・開発・運用を担ってきました。また、大阪ガスを中心とするDaigasグループの案件だけではなく、幅広い業界のお客様にサービスを提供するなど、外販比率の高い会社でもあります。
さらに近年では、受託型のシステム開発にとどまることなく、新規サービスの開発にも積極的に取り組んでいます。私たちの所属する新規事業推進部は、会社の新たな事業の柱となり得るような新規事業の創出をミッションに掲げて活動しています。

――現在のオージス総研の強みや競合優位性について教えてください。
安藤氏 : 当社は国内でもいち早くオブジェクト指向/UMLモデリング技術を導入するなど、IT業界におけるオブジェクト指向技術の発展をリードしてきました。当社が長年携わってきた都市ガス供給などに関わるインフラシステムは、絶対的な安定稼働が求められるシステムです。
当然、システムの分析・設計段階から構造化を実施する必要があり、そのような手法・方法論からなる様々なメソドロジーを構築し、堅牢性が求められるシステムの開発に活かしてきました。また、ビジネスモデリングを起点とする業務の可視化にも当社の強みがあると考えています。
――昨今のマーケットや顧客課題の変化に伴い、どのような事業の変革・進化が求められていると感じていますか?
安藤氏 : 高度な技術や高い安定性が求められる領域においては、今後も引き続きフルスクラッチのシステム開発ニーズが絶えることはないでしょう。ただし、その一方ではクラウドやSaaSなど、多くの人が手軽に利用できるサービスの需要が大きくなっていることも間違いありません。当社としては、このようなITに寄せられる様々な期待事項に対して的確にお応えしていく必要があると考えています。
たとえば最近では、株式会社Relicの小学生向け教育サービス「カンガエMAX。」に当社の自然言語モデルを用いたAI採点システムを提供しているほか、ビジネスユースに特化した生成AIサービスである「Biz-AIナビ」、ルールベース開発プラットフォーム「yonobi」など、BtoB/BtoCを問わず、様々な自社サービスを開発・提供しています。

▲小学生向け教育サービス「カンガエMAX。」の採点処理フロー図。オージス総研が開発したAI採点システムが導入されている。(画像出典:オージス総研プレスリリース)
市木氏 : ファイル転送サービスの「オフィス宅ふぁいる便」も、当社が昔から手掛けているサービスの一つです。ユーザー系SIerの中では、硬軟織り交ぜた様々なサービスをリリースしていると思いますし、幅広いお客様の課題や要望と向き合う中で培ってきた技術・経験も当社の強みになっていると考えています。

自分たちの想像を超えるアイデアと出会うためにプログラムを公募型に変更
――今回、スタートアップとの共創を目的とした『OGIS Open Innovation 2025』を実施する背景について教えてください。
安藤氏 : これからの世の中では、センサーやロボティクスとITを組み合わせたサイバーフィジカルの融合が進んでいくと考えています。そのようなテクノロジーが人間の能力を代替し、労働集約的な世界を変えていくのであれば、そこに大きな市場が生まれることは間違いありません。当社としても積極的にチャレンジすべき領域であると捉えています。
また、センサーやロボティクスの技術を有するようなスタートアップは、プロトタイプまでは作ることができても、その後の安定運用を行うためのリソースが足りていないと聞くことがあります。スタートアップの技術と当社のITリソースや開発力を掛け合わせることで、「社会課題解決に資するような新規事業を創出したい」と考えたことが、今回のプログラムを実施する背景となります。
――オージス総研では、昨年もソーシング型でスタートアップとのオープンイノベーションプログラムを実施されたと伺っています。手応えはいかがでしたか?
安藤氏 : 昨年はソーシング型でしたが、現在もそのうちのいくつかの取り組みが進行している状況です。まだ具体的な内容を公開できる段階ではありませんが、そう遠くないうちに形になると思っています。
中西氏 : 昨年度のプログラムでも様々なスタートアップとお話させていただけたので、オープンイノベーションのノウハウ獲得にはつながりました。今年度については、昨年度の経験も踏まえた上でさらに多くのスタートアップとお会いしたいですし、より多くの共創を通じて新しいビジネスを創出していきたいと考えています。

――なぜ、ソーシング型だったプログラムを公募型に変更したのですか?
安藤氏 : 昨年度はこちらからお声掛けをしたスタートアップとのオープンイノベーションだったので、必然的に私たちが既に考えついているアイデアがベースとなっていました。そのため、こちらが思い付いていないようなアイデアが生まれにくい状況であったことも確かであり、そこが昨年度の課題だったと認識しています。今年度は、私たち自身が思いも付かないようなアイデアも含めて検討したいと考え、公募型のプログラムを実施することにしました。
システム開発力・グループのネットワーク・先端分野技術者など、豊富なリソースを提供可能
――今回のプログラムを通じて、オージス総研がスタートアップに提供できるリソース・アセットなどがあれば教えてください。
安藤氏 : アバウトに言ってしまうと「システム開発力」ということになります。また、当社が経営的に安定していることも大きなポイントになると思っており、スタートアップの皆さんから見ても長い目線でお付き合いいただける会社であると自負しています。さらに言えば、当社はDaigasグループの一員であるとともに、当社自身もオージス総研グループというグループを持っているので、これらのネットワークを活用した展開も十分に考えられます。
市木氏 : 当社のお客様のほとんどは大手企業です。そのため、大手企業がシステムに求める安定感やセキュリティのレベル、コミュニケーションの取り方などを熟知しており、そのような知見も提供できると思います。
中西氏 : AIやデータ分析など、研究開発系の技術分野においても一定の技術者を確保しているので、そのようなメンバーの協力を得ることも可能です。
安藤氏 : 他のSIerと違って独立した技術部門を持っていることも当社の強みです。先端的な実験にもトライすることが可能ですし、内容によっては直接プロジェクトに入ってもらうこともできると思います。

▲データ分析や映像解析からUI/UX設計に至るまで、幅広い技術・開発力を有しているオージス総研。スタートアップの提案内容に見合った技術者をアサインし、共創プロジェクトを推進していくことが可能だ。
――今回のプログラムでは、スタートアップとの共創を通じてどのようなゴールを目指していくのでしょうか?
安藤氏 : 私たちは実証実験や研究開発がしたい訳ではありません。世の中の課題解決を実現するビジネスとして社会実装していくつもりです。また、売上としては5年で5億〜10億円規模のビジネスを目指していきます。
中西氏 : 1つのサービスだけで5億〜10億円となると難しいかもしれないので、基本サービスに付随する派生サービスを組み合わせることで、トータルで5億〜10億円になる形でもいいと思います。
フィジカル領域に強いスタートアップと目指していく共創テーマそれぞれに込められた社会課題解決への想い
――今回のプログラムでは「農業・畜産業」「介護」「ものづくり」「ヘルスケア」という4つの共創テーマを設定されていますが、このようなテーマを掲げられた理由について教えてください。
安藤氏 : ITがとくに力を発揮しやすいのは「生産性の向上」であり、これまでは金融など、比較的効果が発揮されやすい業界を中心にIT化が進められてきました。その一方、どうしても人間の力が必要になる労働集約型の業界・業種・領域は、IT化から取り残されてきた歴史があります。今後、少子高齢化が進み、生産人口が減っていく中で、今すぐにでも生産性を上げなければならないのが「農業・畜産業」「介護」といった領域であると考えています。
中西氏 : 「ものづくり」に関しては、生産管理などを中心にIT化・システム化が進んでいますが、生成AI・画像解析・音声分析といった新しい技術を活用することで、これまでにシステム化できていなかった領域でのビジネスを創出したいと考えています。「ヘルスケア」に関しては、世の中における健康経営のニーズに着目したテーマとなります。当社も人が資本のSIerであるため、当社自身が最初のユーザーになるような展開も考えています。
――スタートアップとの具体的な連携方法について、イメージしている座組の形などがあればお聞かせください。
中西氏 : 「農業・畜産業」「介護」については、スタートアップが有するセンサーやロボティクスなどのフィジカル領域の技術を、当社が開発する管理プラットフォームに載せて社会実装していくようなイメージを検討しています。
――スタートアップとの共創において、具体的に活用できそうな技術・ソリューションなどがあれば教えてください。
安藤氏 : 金融商品のリスク管理ノウハウを電力取引に応用した「EneRisQ」というソリューションがあるように、リスク管理やリスクの見える化に関するノウハウは活用いただけると思います。また、先ほどお話しした「カンガエMAX。」のAI採点システムなどもあります。分析や予測に関するエンジンも複数開発しているので、共創の内容によっては使えるかもしれません。

プログラム終了後も継続的に協力し合えるパートナーシップを構築したい
――4つの共創テーマの中で、個人的な思い入れがあるテーマや期待されているテーマなどがあれば、その理由も含めて教えてください。
安藤氏 : 私は「農業・畜産業」です。土地の力や人間の力は偉大だと思いますが、それを上回るような生産性向上を実現できれば、世の中が大きく変わっていくはずです。ただ、それはIT単体では実現できないことなので、スタートアップが有する様々な技術・ノウハウを組み合わせて実現していきたいですし、「ITリソースが足りないために実現できない」というスタートアップがいれば、ぜひ私たちのITリソースを活かす形で共創していきたいと考えています。
市木氏 : 個人的には「ものづくり」に注目しています。当社は日頃から様々な製造業のお客様とのお付き合いがあり、様々なシステムを開発してきました。今後は、顕在化したニーズに対するソリューション提供にとどまらず、潜在的な課題をユーザーと共に探し出す姿勢がより求められると感じていますので、今回のプログラムを通じてそのようなソリューションを生み出すことができれば面白いなと考えています。
中西氏 : 私も「ものづくり」のテーマに注目しています。今まで当社がITで解決してきた課題のさらに先にある課題にアプローチするような事業を生み出してみたいです。
センサー・カメラ・衛星写真など、実体のあるものから取得した情報とシステム開発やAI構築を組み合わせることで、人間にしか判断できなかったことをシステムで判断できるようにしたり、設備の稼働を上げることで今まで作れなかったものを作れるようにしたり、点検周りの効率化を図ったりするなど、様々な共創を実現していきたいですね。

――最後になりますが『OGIS Open Innovation 2025』へのエントリーを検討している企業に向けてのメッセージをお願いします。
市木氏 : スタートアップの皆さんそれぞれがお持ちの技術やサービス、アイデアにフィットするような部門・人員をアサインする予定です。今回のプログラムを通じて良いご縁が生まれることを期待しています。
中西氏 : 今回のプログラムは最初のきっかけでしかないと思っています。プログラムが終わった後も5年、10年とお付き合いできるようなパートナーシップを築いていきたいと考えていますので、ぜひ積極的にご応募いただければと思います。
安藤氏 : 「お客さまの心を心として仕事を進めます。優れた品質と高度な技術を追求します。あたたかさ たくましさ たのしさを大切にします。」――これはオージス総研の企業理念です。
「たのしさ」を企業の文化として謳っている会社は珍しいと思いますが、私たちも今回のプログラムを通して、皆さんと一緒にたのしく大きなことができればいいなと思っています。もちろん、事業を生み出す過程では厳しい局面も訪れるとは思いますが、そんなときでもたのしさと多様性を大事にしていきたいですよね。
取材後記
今回、公募でのオープンイノベーションプログラムを初めて実施するオージス総研。大阪ガスのIT戦略事業会社として培ってきた高度な技術力や開発力、数々の大手企業のシステム開発を担ってきたSIerとしての経験値、さらには様々な先端技術の研究開発に携わる技術者の存在など、多くのスタートアップにとって魅力的なリソースを有する企業であることに疑いの余地はない。
『OGIS Open Innovation 2025』では、「農業・畜産業」「介護」「ものづくり」「ヘルスケア」という4つの共創テーマが設定されているものの、インタビューでも語られていた通り、同社が予想し得ないようなアイデアの提案も期待されているため、その他のテーマ含め幅広いスタートアップにチャンスがあると言えそうだ。応募締切は2025年8月29日。少しでも興味を持った企業は、積極的に応募を検討してほしい。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)