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事業共創の壁を乗り越えるためのTIPSとは?――物流企業、CVC、大学などが集結。セイノーが主催する第7回『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』レポート!

事業共創の壁を乗り越えるためのTIPSとは?――物流企業、CVC、大学などが集結。セイノーが主催する第7回『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』レポート!

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物流業界は、2024年問題や環境対応などの課題が山積している。セイノーホールディングスはそれらに向き合うため、「オープン・パブリック・プラットフォーム(※)」の概念のもと「Team Green Logistics」を掲げ、業界の枠を超えた連携を推進。さらにValue Chain Innovation FundへアンカーLPとして参画し、物流にとどまらずバリューチェーン全体の発展を目指している。

こうした取り組みの一環として開催されてきたのが『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』だ。去る9月17日に行われた第7回はオンラインで実施され、セイノーグループをはじめ、物流企業、CVC、大学など幅広い関係者が集結。CVC活動を軸に、オープンイノベーションの実践と定着を図る場として、体系的な知見の共有やスタートアップの挑戦が披露された。本記事ではその模様を紹介する。

(※)社内外、業種の違いを問わず連携した(オープン)、誰もが使える(パブリック)、物流プラットフォームを構築し、プラットフォームの利用者それぞれの効率化や価値向上、更にはインフラとして産業・環境・生活への貢献を実現する構想。

バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速・定着へ

セイノーホールディングス株式会社 オープンイノベーション推進室 課長 本丸浩士氏

まずはセイノーホールディングス オープンイノベーション推進室の本丸氏が、本イベントの趣旨とこれまでの取り組みについて説明を行った。冒頭で本丸氏は、セイノーグループにおけるオープンイノベーション活動の全体像を示した。

これまでの取り組みとしては、2019年と2023年にCVCファンドを設立し、複数のスタートアップへの出資と連携を進めてきたことを紹介。また、これまでのサミット開催実績についても触れ、「当初はセイノーグループ内の会議体として始まったが、昨年9月からは『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』と名称を改め、グループ企業以外の皆様にもご参加いただける場へと広げてきた」と振り返った。

「SEINO CVC」サイトでは、投資先スタートアップの情報が随時更新されている。

さらに具体的な協業事例として、自動運転技術を開発するT2社との取り組みを紹介。「第2回のサミットでご登壇いただいたT2社と、公道を使った自動運転トラックの実証実験を進めている。現在も東京〜大阪間で毎日、自動運転トラックを走行させており、佐川急便、日本郵便、JPロジスティクス、福山通運とともに取り組んでいる」と語り、業界横断の実証実験が進んでいることを強調した。

続いて本サミットの目的について、「バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速と定着を目指している」と説明。今回もセイノーグループだけでなく、大学、物流企業、金融機関、CVCといった多様な参加者が加わっていることを紹介した。そして最後に、「スタートアップの皆さんと一緒に今後どんなことができるのか、どんなサポートが可能かといった意見交換の場としていただきたい」と呼びかけ、締めくくった。

共創実現に向けたTIPS

株式会社XSprout 代表取締役 香川脩氏

続いて、コーポレートベンチャリングを最適解に導く総合アドバイザリーを提供する、XSprout代表取締役の香川脩氏が登壇した。

▲XSproutは、eiiconの事業共創のノウハウと伴走支援機能、Spiral Capitalグループの投資ノウハウとCVCの運営支援機能を融合させることで、クライアント企業に対してコーポレートベンチャリングの総合的なアドバイザリーを提供している。

香川氏はこれまでに数々のオープンイノベーションプロジェクトを推進した経験から、「共創実現に向けたTIPS」として、①はじめに②事業共創はなぜ難しいのか③実践する上での留意点④実際に起きたコミュニケーション齟齬の実例、という4部構成で説明した。

①はじめに

まず香川氏は、スタートアップとの事業連携を推進するための体系的な知識を獲得し、実務上の留意点を理解することが本日のゴールだと位置づけた。そして「スタートアップと直接やり取りする際、必要となる“実務のリアルなポイント”を持ち帰っていただきたい」と語りかけた上で、事業サイド向けの「実例に基づいた話」を意識的に届けたいと強調した。

続けて、セイノーホールディングスのCVC活動にも触れた。「CVC活動は投資して終わりではなく、その先にある協業の仕組みづくりが重要。スタートアップを探す段階はオープンイノベーション推進室の役割が大きいが、協業の検討や座組づくり、実証実験、連携拡張といったフェーズは事業部門が主導すべき領域」と整理し、本日の話題は特にその“実行段階”に焦点を当てるとした。

②事業共創はなぜ難しいのか

次に香川氏は、「オープンイノベーションがなぜ難しいのか」を基本から解きほぐした。「オープンイノベーションは、クローズドイノベーションに対する概念。自社の中だけで完結させるのではなく、外部のプレーヤーと意図的に組むことで新たな価値を生み出す手法」と定義したうえで、既存事業と新規事業の違いを改めて指摘した。

既存事業は既に形があるものを推進するが、新規事業はまだ見えていない未来に挑む性質があり、思考法や進め方が大きく異なるという。さらに「大企業にとっては、既存事業の数字や雇用が優先されるため、新規事業に時間やリソースを割くことは難しい」と現実的な壁を説明。そのうえでオープンイノベーションの意義を4点に整理した。すなわち、①時間を買う(外部と組むことで開発スピードを高める)、②強みを強化し弱みを補う③新たな分野に参入する④競合とすら組んで市場を広げる、である。

一方で、事業共創の難しさとしてCVCと事業部門の間の役割分担の不明確さを挙げた。CVCは「スタートアップと引き合わせるところまで」が多いが、その後の進捗管理や事業連携の推進は事業部門に委ねられることが多い。ところがこの責任が曖昧なまま進むと「誰のためのプロジェクトか」が不明瞭になり、結局は形式的な紹介で終わってしまうリスクがある。

「スタートアップからすれば、進捗が見えず誰が意思決定しているのかも分からない企業とは連携しづらい。結果的に『この会社と組んでも前に進まない』と敬遠される可能性もある。だからこそ大企業側がグループ一丸となって当事者意識を持つことが不可欠」と強調した。

③実践する上で留意すべき観点

続いて香川氏は、実践の場で特に意識すべき観点を提示した。本来6項目あるが、今回は時間の関係で二つに絞って紹介した。

第一に「適切な大きさのプロジェクトビジョンを描く」ことだ。新規事業の目的を定義する際に、あまりに抽象的だとスタートアップはアプローチ方法が見えず、逆に具体的すぎると単なる受発注の関係に陥ってしまう。例えば「子育て支援」と言うだけでは広すぎて絞れず、「保育園の玄関セキュリティ」とすると狭すぎる。中間的な「子どもの防犯・見守りのデジタル化」程度の粒度が望ましいと例を挙げた。

第二に「適切な期待値・時間軸で評価する」こと。アウトプットだけでなくインパクトをどう描くかが重要であり、短期的な成果と中長期的な戦略を整理し、社内外の環境を踏まえた仮説を立ててスタートアップに共有すべきだと説いた。そして「事業部門の皆様がビジョンや戦略を言語化してCVCに伝えることで、最適なスタートアップとの橋渡しが可能になる。逆にここが曖昧だと連携の方向性も定まらない」と、注意を促した。

④実際にあった「コミュニケーション齟齬」の実例

最後に香川氏は、自らの経験を踏まえて「コミュニケーションの齟齬が連携を頓挫させることがある」と警鐘を鳴らした。支援していた業界大手企業の新規事業プロジェクトで、親和性が高いと見込んでいたスタートアップとの連携が破談になった事例を紹介した。

初回面談で方向性が合致し、第2回ではスタートアップが提案を提示したが、その際「この事業は成功するのは難しいのではないか」と率直に伝えたことが、大手企業側には「否定的」と受け取られてしまった。「スタートアップは誠実さから本音を伝えたつもりが、メーカーは『どう改善するか』の議論を期待しており、すれ違いが生まれてしまった」と香川氏は振り返った。双方に悪意はなく前向きだったが、前提の違いを埋められないまま、共創は頓挫してしまったのだ。

この経験から得た学びとして「どんなに準備を整えても、事業共創は結局“人と人との関係”。目線のズレは必ず起こるものだと理解し、定期的にフォローや補足を入れていく姿勢が大切だ」と強調した。

投資先スタートアップによる事業紹介(Shippio・X Mile)

続いて、SEINO CVCが投資しているスタートアップ2社によるプレゼンテーションが行われた。

●株式会社Shippio

代表取締役 佐藤孝徳氏

Shippioは、産業の転換点を作ることをミッションに、国際物流・貿易領域のDXに取り組むスタートアップだ。国内の宅配や倉庫に比べて馴染みの薄い“貿易”をあえて主戦場に選んだ理由として、三井物産で10年の経験を積み、2016年にShippioを創業した佐藤氏は「日本は島国で輸出入はなくならない。だからこそこの領域を変えていきたい」と強調する。

続いて佐藤氏は、「グローバル・サプライチェーンはコロナやウクライナ情勢、スエズ運河の通行問題、関税の揺れなどで一段と不安定化している」と国際物流を取り巻くマクロ環境に話題を広げた。そして海運市況のボラティリティが企業活動に与える影響を示したうえで、「物流はDXが進みにくい領域だが、日本は特に取り組みが遅れている。だがこの“遅れ”こそが伸びしろであり、事業機会だ」と位置づけた。

続いて佐藤氏は、「国際物流の一番大きな問題は関係者の多さ」と指摘する。生産・在庫・販売計画、倉庫・陸送・海空運、通関など多主体が電話・メール・FAXで断片的に調整していることによる非効率性を課題に挙げ、「これを我々のプラットフォームで解決する」と方向性を示した。サービスの特徴は、単なるSaaS提供にとどまらず、貨物利用運送の免許を取得し、自ら事業者として直接参入する点にあるという。

現在は、荷主向けには「Shippio Forwarding」「Shippio Cargo」、物流事業者向けには「Shippio Works」「Shippio Clear」を展開。ユーザーは製造・小売・商社・物流事業者など約1,500社がプラットフォーム上で動いており、複数の大手物流事業者での運用もスタートしている。近年は大手物流会社からの問い合わせも増えているといい、「物流品質そのものは既存事業者の強み。だからこそ我々はソフトウェアやDXの部分に集中し、両者の強みを掛け合わせたい」と棲み分けと協業の意義を強調した。

通関事業者をM&Aで取り込み、“直接参画型”の戦略を進めているShippio。2022年に横浜の老舗通関会社である協和海運とのM&Aを実現後、2年4ヶ月で売上6倍もの成果をあげているという。「オペレーションを知る老舗と、DXを知るスタートアップが組めば、経営効率は大きく押し上げられる」と共同体制の強みを説いた。さらに新サービスの通関自動化「Shippio Clear」については、「リリース初週で50件超の商談問い合わせがあった。通関のオートメーションやDXに関心があればぜひ声をかけてほしい」と呼びかけた。

また、人材面での挑戦にも言及した。セイノーホールディングスと連携し、スタートアップへの出向制度が始動しているという。「20年、30年同じ業務に従事してきた人が、突然イノベーションを担うのは難しい。だからこそ出向という仕組みで有望な人材を派遣し、現場で同世代の起業家がどのような挑戦をしているかを肌で感じてほしい」と強調。そして「物流業界はクローズドで人材交流の文化が弱い。この状況を変えていきたい」と展望を示した。

さらにグローバル戦略については、「日本が自由貿易の旗振り役を担える可能性がある」と語る。米中対立や中東情勢などで国際環境が揺れる中、日本と東南アジアはサプライチェーンの新たな拠点となり得ると指摘。経産省や内閣府でもデジタル貿易プラットフォームに関する政策が進み、2028年までに取引の1割をデジタル化する方針が掲げられていることに触れ、「2024年問題の次は“2028年問題”。国際物流のDXが国家的な課題になる」と言い切った。国家政策とも呼応しながら、「Shippioはこの変化の先頭に立ち、産業の転換点を実現していく」と力強く結んだ。

●X Mile株式会社

代表取締役CEO 野呂寛之氏

物流業界に特化した人材採用支援とDXサービスを展開し、ドライバー不足や業務効率化など業界課題の解決を目指すX Mile。創業から7年ほどで全国600名規模の会社に成長している。事業領域は物流業界に特化し、三本柱で構成される。

第一の柱はドライバー採用支援サービス「クロスワーク」だ。物流業界トップクラスの登録数があり、専属のキャリアコンサルタントが転職活動などを支援する。人材紹介実績は国内トップクラスだ。職種はドライバーだけでなくフォークリフトオペレーターや整備士、施工管理者にも広がり、すでに会員は70万人以上、法人2万事業所を支援しているという。地方の中小企業においても成果が出ており、年間100名以上の採用支援に成功した事例もある。

この背景として野呂氏は、人材市場の構造変化を指摘する。「運送会社や建設会社は長らくハローワークを使ってきたが、この10年で利用者数は2,000万人台から1,000万人台へ激減した。若い世代はハローワークを利用せず、スマートフォンで求人を探す。だが物流ドライバー向けの受け皿がなかった」。そこでX Mileは「オンライン版ハローワーク」とも言える仕組みを構築し、デジタルマーケティングを駆使して人材プールを拡大していると説明した。採用支援にとどまらず、定着にも注力する。

野呂氏は「従来のハローワーク経由では離職率が高かったが、我々は採用前にキャリア面談を行い、候補者と企業のギャップを事前に解消している。その結果、半年以内の定着率は90%以上と高水準を維持している」と述べた。

第二の柱は運送会社向けDXツール「ロジポケ」だ。ドライバーや車両の台帳、安全教育、配車表などを一元管理できる。野呂氏は、「法令遵守が求められるアルコールチェックや勤怠管理にも対応し、人・車・安全の基盤を支える」と説明した。小規模事業所から数千台規模の大手企業まで導入が進み、外国人雇用対応の現場教育サービスも提供する。これにより、倉庫や工場での教育課題解決に貢献している。

第三の柱は事業承継マッチングだ。「物流業界の高齢化が進むなか、経営支援領域にも踏み込んでいる」と、野呂氏は紹介した。国交省やトラック協会との連携、業界カンファレンス開催など、業界全体への働きかけも重視しており、直近では1,000名規模の「物流DX未来会議」を主催したことも報告した。

最後にセイノーグループとの関わりにも触れ、「人材紹介、DX領域共に幅広く連携を進めている」と語る。グループ会社のネットワークを活かした連携に期待を寄せる一方で、「我々自身も数十台規模から数百台規模の企業まで支援している。現場での実証実験や製品改善も含め、物流企業の皆様と共に取り組みを進めたい」と述べた。

最後に野呂氏は「人材とDXの両輪で物流産業の構造的課題を解決していきたい」と締めくくった。

「国力向上」と「競争から共創への転換」が、今後の物流業界にとって重要

セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長 田口義隆氏

サミットの最後に、セイノーホールディングス 代表取締役社長 田口氏が総括を行った。田口氏は、今後の物流業界にとって重要な二つの概念を共有した。一つ目は「国力向上」である。「日本が人口減少局面にある以上、いかに国力を高めていくかが重要。これまで活かしきれていない女性やシニア、若年層といった人財を戦略的に活用していく必要がある」と強調した。

あわせて国力向上のための「道具の変更」、すなわちDXによる生産性向上に言及し、「仕事の質を上げることで生産性を高める。そのために時間効率を上げるDXは不可欠であり、これはまさにShippioが進めている国際物流の可視化や、X Mileが提供するユーザーインターフェース改善の取り組みに通じる」と、登壇したスタートアップの実例を挙げた。

二つ目の概念として田口氏は、従来の「競争」から「共創」への転換について触れた。「これまでは市場拡大の中で企業同士が戦う“コンペティション”だった。しかし市場が狭まっていく状況下では発想を変え、お互いの強みや資産を共有し合う“コ・クリエーション”が不可欠だ。共創によってこそ国全体が発展できる」と語りかけた。そして「本日のように具体的な連携のアイデアが登場し、例えば異なるバリューチェーンを持つ企業が結びつけば、さらに新しい可能性が広がる。その受け皿として、このサミットが機能していければと考えている」と期待を示した。

取材後記

回を重ねるごとに、参加企業・団体が広がっていく本サミット。物流を取り巻く課題をバリューチェーン全体でどう解決していくかという視座が随所に示され、産業変革を起こそうとする姿勢が印象的だった。スタートアップ2社のピッチは単なるサービス紹介にとどまらず、国際物流の複雑さを解きほぐす挑戦や、物流人材の採用・教育を支える仕組みなど、業界構造や制度面に踏み込んだ示唆を含み、物流の未来像を描き出した。

また、XSprout・香川氏による体系的な知識整理は、事業サイドが果たすべき役割を明確に示し、参加者にとって実務に直結する学びとなったはずだ。回を重ねるごとに議論の厚みと実効性が増している本サミット。今後もバリューチェーンを横断した共創の実践の場として進化していくことが期待される。

※関連記事:

第4回『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』レポート 

第5回『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』レポート 

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)

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