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国内物流スタートアップの現在地と未来とは?――バリューチェーン全体の共創を推進するセイノーが主催する第5回『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』レポート!

国内物流スタートアップの現在地と未来とは?――バリューチェーン全体の共創を推進するセイノーが主催する第5回『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』レポート!

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セイノーホールディングスでは、物流業界の2024年問題や環境問題などの社会課題に対し、「オープン・パブリック・プラットフォーム(※)」の概念のもと、「Team Green Logistics」のスローガンを掲げ、他社連携を推進。そしてValue Chain Innovation FundへアンカーLPとして参画し、物流業界のみならずバリューチェーン全体の発展を目指している。

このような取り組みの一環として、セイノーグループ企業を対象にスタートアップ連携を促進すべく、「SEINO OPEN INNOVATION SUMMIT」を開催してきた。4回目(2024年9月開催)からはグループ内に限らず外部企業にも範囲を広げ、去る12月18日には5回目となる『Value Chain Innovation Fund SUMMIT』をオンライン形式で開催。VCキャピタリストによる講演や、スタートアップ2社によるピッチが行われた。本記事では、その模様をお届けする。

(※)社内外、業種の違いを問わず連携した(オープン)、誰もが使える(パブリック)、物流プラットフォームを構築し、プラットフォームの利用者それぞれの効率化や価値向上、さらにはインフラとして産業・環境・生活への貢献を実現する構想。

バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速・定着に向けて

セイノーホールディングス株式会社 執行役員 オープンイノベーション推進室 室長 河合 秀治 氏

まずはセイノーホールディングス株式会社 執行役員 オープンイノベーション推進室 室長 河合 秀治 氏が、本イベントの趣旨とこれまでの取り組みについて説明を行った。

セイノーホールディングスは2019年に「Logistics Innovation Fund」を、2023年に「Value Chain Innovation Fund」を組成し、複数のスタートアップと様々なプロジェクトに取り組んできた。そこから生まれたひとつの事例として、自動運転技術を活用した物流サービスを提供するスタートアップT2社との取り組みに河合氏は触れた。

そして河合氏は本イベントの趣旨と目的として、「バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速・定着に取り組みたい。本日ご参加の企業様・団体様とともに推進したい」と述べた。

国内物流スタートアップの現在地と未来

Spiral Innovation Partners株式会社 Logistics Innovation Fund Value Chain Innovation Fund General Partner 岡 洋 氏

●SEINO CVCについて

次に、Spiral Innovation Partners株式会社 代表パートナーの岡 洋 氏が、「国内物流スタートアップの現在地と未来」というタイトルで講演を行った。岡氏は、投資業務の傍ら様々な企業のアクセラレーション、オープンイノベーション、セイノーホールディングスのCVCをはじめとするコーポレートベンチャーキャピタルのサポートを行っている。特にセイノーホールディングスとは、1号ファンドから共同で設立・運用をしている。

セイノーホールディングスのCVCは、パートナー企業を巻き込んで投資をしている。これは、セイノーホールディングスのみならず、業界全体のバージョンアップと課題解決を進めていくという目的を掲げているからだ。投資領域は、1号ファンドでは物流領域に絞っていたが、2号ファンドからはバリューチェーン全体を対象に価値提供できるスタートアップに投資をしている。

●スタートアップ市場について

国内スタートアップの資金調達の規模感は、2010年頃は1,000億円に満たなかったところから、右肩上がりで現在は9,000億円ほどの規模にまで成長してきた。また、エクイティファイナンスと並行してデットファイナンスの市場も拡大傾向で、2,000億円近い規模にまで伸びている。

両者を合わせると、実に1兆円規模の資金がスタートアップに投下されているということになる。かつ、1社あたりの調達額も年々大きくなっている。そして、時価総額も跳ね上がっており、ユニコーン企業が15社ほどにまで増加している。大きな資金調達を背景に、資金調達までの平均的な年数の中央値は下がり続けており、より加速度的に成長して市場に上がっているトレンドが見て取れる。

この背景にあるのが、岸田政権時に発表された「スタートアップ育成5か年計画」だ。そこで掲げられる3本の柱の1つが「オープンイノベーションの推進」であり、大企業にもこの一翼を担ってもらいたいというのが国の方針だ。こうした背景もあり、CVCの数は増加していると、岡氏は説明した。

●物流スタートアップの現在地

その中で、物流スタートアップがどのような状態なのか。バリューチェーンに沿ってスタートアップをプロットしたところ、川上から川下まで広くスタートアップがある。そしてSEINO CVCもまんべんなく投資ができているという。また累計5億円以上を調達しているスタートアップを時価総額別にプロットすると、SEINO CVCではアーリーステージを主として投資してきたことが見て取れる。

続いて、設立年別にプロットしてみたところ、2010年代後半に物流スタートアップが勃興していることが分かる。これらの企業は順調に企業価値を高めており、現在の物流スタートアップ市場をけん引する存在だ。

一方、2020年以降設立されたスタートアップの中にも、数年で大きな時価総額・資金調達額を実現している企業がある。「これは、スタートアップ市場の成長のみならず、CVCの出現が大きく寄与していると考えられる。素早い成長を実現する企業が生まれていることが、物流スタートアップの現在地」と、岡氏は解説した。

●物流系CVCの現状

続いて岡氏は、セイノーホールディングスをはじめとする物流系CVCの現状について、各社を比較しながら説明した。大きな動きとしては、2024年に日本郵政が200億円のファンドを設立したことだ。この新ファンドでは、より事業に紐づいた投資を行う。これは業界にも大きな影響をあたえるだろうと岡氏は予測している。

2020年代に入ってから、物流業界のCVCはファンド化の波が訪れており、ファンドの規模も大きい。加えて、CVCを運用しながら他のファンドにLP投資をするフレームを取っているところが多い。網羅的に出資をすることで、スタートアップの情報を逃さないようにしているという。

CVCの設立時期は、物流スタートアップの勃興を追う形で2020年代に固まっている。その要因について岡氏は、「2010年代に生まれたスタートアップが事業会社から出資を受けられる規模になってきたことが大きい。加えて、新しい領域にもチャレンジしていく動きから、スタートアップへの資金供給が発生している」と述べた。

さらに岡氏は「2010年代後半の物流スタートアップ業界は、あまり色の付いていないVCマネーで成長してきた。それが2020年代に入り、CVCのような事業会社の色の付いた資金やアセットを活用して成長を続けている」と考察した。

●セイノーホールディングスにおける事業会社との連携

物流系CVCの現状を受け、「まさにセイノーホールディングスではこれが実現できている」と、岡氏は続けた。セイノーホールディングスの事業連携の実績を見ると、資金調達ラウンドのリードポジションを担っており、出資先も前向きに事業連携を模索している関係性を築いているという。

この後ピッチを行うTENTやAzit、ラストワンマイルのルート最適化サービス「Loogia」を展開するオプティマインドなど、さまざまな事業連携が進んでいる。

「CVCの色の付いた資金を、スタートアップサイドが受けられるようになってきた。そして事業会社としても事業アセットを提供できるタイミングになったため、共創がこれから本格的に進んでいくだろう」と、岡氏は物流業界の市場トレンドについての見通しを話した。

●物流スタートアップ3つのトレンド

そして岡氏は物流スタートアップ業界のトレンドを3つ挙げた。1つ目は、「物流スタートアップによるM&A・事業譲受」だ。Shippioによる協和海運の買収、ハコベルによるモノフル「トラック簿」の事業譲受など様々な事例がある。

トレンド2つ目は「大企業資本による物流スタートアップの設立」だ。たとえば、ハコベルはセイノーホールディングス、ラクスルによるJV化をした後、福山通運や郵政キャピタルなどの物流企業が資本参加している。「事業会社が音頭を取りながら、外部資金を集めるために1社で抱えるのではなく外部に出して成長させようというムーブメントが起きている」と岡氏は述べた。

3つ目のトレンドは、「スタートアップの事業モデルの進化・複雑化(コンパウンド、垂直統合)」だ。これまで単一的な事業を展開するスタートアップが多かったが、事業の成長や資金供給により、こうしたトレンドが生まれている。岡氏は、より物流スタートアップが「筋肉質」になってきた、と表現した。たとえば、セイノーホールディングスの出資先であるエアロネクストはドローンの知財を扱う会社だが、ネクストデリバリーという会社を立ち上げることでドローンの社会実装を自社で進めるところまで踏み込んできている。

●物流スタートアップの未来

最後に岡氏は、物流スタートアップの未来について予測を話した。まず、引き続き潤沢な資金供給は続くと考えられる。それにより、CVCの競争も激化していく。翻って、スタートアップは資金以外のサポートを重視し始めるのではないか。スタートアップに選ばれるには、資金以外の事業アセット、事業連携への取り組み姿勢が問われてくるという。

そして豊富な資金供給と事業連携を受け、より急成長するスタートアップが出現するという。このスピード感についていけるかどうかが、成功の分水嶺だと岡氏は話す。以前のように、「実績が出てから話をしよう」と後回しにしていると、スタートアップはあっという間に成長してしまうだろう。

スタートアップによる既存事業の侵食、あるいはロールアップ、ディスラプトも本格化していく。これはつまり、より深い連携や議論ができるということだ。岡氏は「恐れず前向きにとらえて、スタートアップとの連携を深めてほしい」と期待を述べた。

また、テクノロジーの進化により、物流領域以外からの参入も増えてくる。つまり物流企業だけが競争相手なのではなく、これまでにないプレイヤーが参入する中、どのようなポジションを取っていくかも考えていかねばならない。そして、テックドリブンのイノベーションがこれからもっと起こると岡氏は予想している。

CVC等を活用した素早いキャッチアップ、リスクテイクの腹決めをしなければ、気付いた時には社会実装が終わっていたという事態になりかねない。スタートアップと手を取りながら、一緒に進めていきたいと話し、岡氏はプレゼンテーションを終えた。

投資先スタートアップによる事業紹介(TENT・Azit)

続いて、SEINO CVCが投資しているスタートアップ2社によるプレゼンテーションが行われた。

●株式会社TENT 代表取締役 松田 基臣 氏

TENTは、「流通革命で人生に彩りを」をミッションに、「ShareEase業界のトップランナーでありつづけます」をヴィジョンに、モノのレンタルサブスクリプション事業を展開している。サービス開始当初から、モノのシェアリングビジネスを行いたい企業のニーズや課題を解決する、イネーブラー的なポジションを取っている。

具体的なサービスは大きく3つ。メインは「カウリル」というシェアリングのプラットフォームで、企業が簡単にモノのシェアリングサービスを開始できる。これに加えて、モノのシェアリング特有の在庫管理に特化した在庫管理ツール「ZAIKA」と連携をすることで、個体毎の現物管理や収益管理も可能となっている。

さらに、実際の運用オペレーションを代行するフルフィルメントサービス「レンタルストック」も提供している。そして、これらのサービスを組み合わせ、様々な企業のシェアリングサービス運営支援を行うと共に、自社でもシェアリングサービスの運営を行っている。また、ナショナルクライアントや上場企業などとのアライアンスも締結している。

「TENTの目指す姿は、このシェアリングサービスをビジネスとして成立させ、持続可能なビジネスモデルを創り上げること」だと、松田氏は語る。地球によいことやサステナブルなことだけをやっていても、ビジネスとして成立しなければ事業をスケールさせることはできない。せっかくメーカーが良いモノを生み出したとしても、現在の流通は一次で止まってしまうため、市場が拡大している二次三次流通の恩恵を受けることはできない。

一方、TENTが目指すのは循環型流通だ。TENTが掲げるShareEase業界では、良いモノをうみだした企業が賞賛され、持続可能な流通を繰り返すことができる。実際にTENTは、バートンジャパンのスノーボード、マックスの電動工具など、各メーカーの自社商品循環型流通へのチャレンジに伴走している。

続いて、循環型流通の実現に向けたセイノーグループとの取り組み内容について、松田氏は説明する。両社は、2023年の資本業務提携以降、ShareEase市場実現のカギとなる循環型物流領域で連携を深めている。すでに稼働している案件に加え、引き続き、複数の導入検討が進められているという。

新木場倉庫の一部をシェアリング専用のオペレーション拠点とし、実際のオペレーション作業自体もセイノーのスタッフが実施している。そこで運用に関わるフィードバックを得て、TENT側でシステムやオペレーション面の改善を重ねながら共にノウハウ構築を進めている。

主にシェアリングやリセールの運用を進める一方で、荷物の定期的な預かり、BtoBシェアリング用の大型幹線物流、倉庫へのラストワンマイル物流など、セイノーの強みを活かせそうな問い合わせが増えてきており、今後の発展に期待が持てると、松田氏は期待を述べた。

今後の取り組みとしては、現在の新木場拠点で培ったノウハウを軸に、循環型物流専用の拠点を設け、全国の主要エリアへと展開をしていく。松田氏は、「ShareEase市場を共に開拓していただけるパートナーも募集している。各企業と物流提携に限らず、流通・サービス面等の連携を検討したい」と呼びかけた。

●株式会社Azit 代表取締役COO 山口 恭平 氏

2013年設立のAzitは、当初はライドシェアサービスを展開していたが、コロナ禍以降はヒトの移動からモノの移動へと事業をピボットさせ、「DeliveryX」を立ち上げた。「DeliveryX(旧:CREW Express)」は、AI配車プラットフォームとプロフェッショナルサービスの2つで構成されており、これらによって配送の効率化の実現を目指す。

顧客ニーズが多様化しEC事業者が色んな配送網を立ち上げなければならないという課題や、配送管理の負荷が増大しているといった車両の不足にもまんべんなく対応できるようサービスを展開している。実際に、九州新幹線の貨物配送事業、クスリのアオキのtoC配送での処方薬デリバリーなど、様々な業界の新規事業立ち上げ支援や業務効率化支援の実績がある。

続いて山口氏は、「DeliveryX」のサービス内容について説明をした。まず、AI配車プラットフォームは、マーケットプレイスとシステムのCMSドライバーアプリから成る。マーケットプレイスでは、全国20万台のネットワークから最適な車両を手配できる。

セイノーホールディングスをはじめ宅配事業を行っている企業の伝票発行を含めたシステムと提携し、一括して「DeliveryX」を用いて配送が管理できるシステムの開発を進めているという。そしてドライバーアプリでは、配送に関わる戦略設計を達成する配車管理・動態管理から、データ分析まで行えるオールインワンプラットフォームを提供する。

「DeliveryX」のプロフェッショナルサービスは、生成AIを活用して業務効率化やコスト最適化を実現するものだ。AI活用コンサルティング、生成AIソリューション開発、コスト最適化シミュレーションの3つを提供している。現在、音声AIを用いた電話業務の自動化といったサービス開発ツール提供を推進している。

一方で、Azitはセイノーホールディングス オープンイノベーション推進室と、出荷と輸送の管理業務の検証開発を進めている。宅配領域での出荷手配や、輸送会社選定、輸送の動態管理、集荷状況、配送状況など、複数の配送会社を用いることによりシステムが煩雑化、属人化している。そうした課題に対して、Azitが一元管理し工数負荷を削減できないかと、検証開発を推進中だという。

最後に山口氏は、「既存のオペレーション業務や配送体制を考慮したうえで、どれだけコストを抑えられるのか、売上向上につながる業務に集中できるかが重要」だとして、「業務効率化のためにAI活用にお悩みの事業者様は、ぜひご検討いただきたい」と述べた。

ファイナンスの力だけではなく、ソフト・ハードアセットの活用を

セイノーホールディングス株式会社

代表取締役社長 田口 義隆 氏

イベントの最後に、セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長 田口 義隆 氏が総括を行った。田口氏は、「日本の人口が減少するなか、どのようにして国力を向上させるかがテーマ。そこで、我々のファイナンスの力だけではなく、ソフト・ハードアセットの活用をしていきたい。そしてこの動きを業界全体に広げていきたい」と述べた。

さらに田口氏は、「ぜひ、セイノーグループのアセット活用の提案をいただきたい。セイノーホールディングスが媒介となって、様々な業界や領域にアプローチすることで、新しい日本に対する世界を展開していきたい」と、今後の展望を語り、イベントの最後を飾った。

取材後記

物流業界におけるCVCの増加、スタートアップへの投資規模の拡大など、岡氏の解説から非常に勢いのある業界であることがわかった。また、TENT社とAzit社のピッチにチャットで質問が多数寄せられたことからも、物流系のスタートアップに対する注目度の高さが見て取れた。セイノーホールディングスの代表・田口氏も強調したように、同社はスタートアップとの連携を通じて業界全体の発展を本気で目指している。様々なスタートアップに対する投資のみならず、資金以外のアセットも活用した業務提携も進んでいる。今後の活動にも引き続き注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)

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労働時間規制、ドライバー不足、燃料高騰、温暖化――物流業界の課題に立ち向かうセイノーホールディングス。業界全体の変革を目指し、オープンイノベーションで挑むその姿に迫る。