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スタートアップとの事業連携のポイントとは?――バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速と定着を目指す『Value Chain Innovation Fund Summit』をレポート!

スタートアップとの事業連携のポイントとは?――バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速と定着を目指す『Value Chain Innovation Fund Summit』をレポート!

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Value Chain Innovation FundへアンカーLPとして参画するセイノーホールディングスでは、2024年問題や環境問題などの社会課題に対し、「オープン・パブリック・プラットフォーム(※)」の概念のもと、「Team Green Logistics」のスローガンを掲げ、他社連携を推進している。

その取り組みの一環として、セイノーグループ企業を対象にスタートアップ連携を促進すべく、「SEINO OPEN INNOVATION SUMMIT」を開催してきた。4回目にあたる今回は、グループ内に限らず外部企業にも範囲を広げ、去る9月18日に『Value Chain Innovation Fund Summit』と銘打ったイベントをオンライン形式で開催。VCキャピタリストによる事業連携ポイント解説や、スタートアップ2社によるピッチが行われた。本記事では、その模様をお届けする。

(※)社内外、業種の違いを問わず連携した(オープン)、誰もが使える(パブリック)、物流プラットフォームを構築し、プラットフォームの利用者それぞれの効率化や価値向上、さらにはインフラとして産業・環境・生活への貢献を実現する構想。

バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速と定着が目的

セイノーホールディングス株式会社 執行役員 オープンイノベーション推進室 室長 河合 秀治 氏

オープニングでは、セイノーホールディングス 執行役員 オープンイノベーション推進室 室長の河合氏から、CVCの活動概要とイベントの目的について説明があった。

これまで同社では、CVC活動としてSpiral Innovation Partnersと共に二つのファンドを組成(以下図参照)。それぞれのファンドの投資先からニーリーとVALT JAPANが、本イベントでピッチを行うと紹介した。

過去3回の「SEINO OPEN INNOVATION SUMMIT」は、セイノーグループ内に限定して実施していたが、4回目を迎える今回はグループ外の参加者も迎えている。河合氏は「バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速と定着が、本イベントの目的」だと語り、「グループ内外を問わず、オープンイノベーションについて意見を交換する場にしていただきたい」と、参加者に呼び掛けた。

スタートアップとの事業連携推進のための手引き

Spiral Innovation Partners株式会社 Logistics Innovation Fund Value Chain Innovation Fund General Partner 岡 洋

●オープンイノベーションを前提とした事業連携は当たり前の時代

続いて、Spiral Innovation Partnersの岡氏から、「ベンチャーキャピタリストによる事業連携のポイント」というテーマで講演が行われた。岡氏は、投資業務の傍ら様々な企業のアクセラレーション、オープンイノベーション、セイノーホールディングスのCVCをはじめとするコーポレートベンチャーキャピタルのサポートを行っている。

Spiral Innovation PartnersがGPとして運営するセイノーホールディングスのCVCは、パートナー企業を巻き込み共に運用をしている。これは、セイノーグループだけではなく、業界全体に資するスタートアップに投資をするためだ。そして投資領域としては、1号ファンド「Logistics Innovation Fund」ではロジテック中心に投資をしていたが、2号ファンド「Value Chain Innovation Fund」からは荷主のバリューチェーン全体を対象に価値提供できるスタートアップに投資をしている。現在、物流事業を中心に27社に投資を完了している。

まず、岡氏は「事業連携」という言葉の定義として、「オープンイノベーションを伴う事業連携、特にスタートアップとの連携」だと定義した。そして「技術が急速に進化し、顧客のニーズも多様化、様々な社会課題が発生している。その中で自社だけのノウハウ、リソース、技術だけで対応するのはもはや不可能であるからこそ、オープンイノベーションを前提とした事業連携は当たり前だというマインドセットになることが重要」と語った。

オープンイノベーションにより、自社では導き出せないアイデアや様々な視点が得られ、自社にないネットワークも獲得できる。さらに他社の技術やリソースを活用することでリスク分散、資源の有効活用につながり、イノベーションをスピードアップでき、競争力も向上する。岡氏は「一朝一夕にはいかない難しさはあるが、今日はそのヒントをお伝えしたい」と話した。

●オープンイノベーションのプロセス

続いて岡氏は、オープンイノベーションの一般的なプロセスを示し、各プロセスについて解説をした。「目的・ゴールの明確化」「内部準備」「パートナーの選定」「事業共創」「実行・管理」のうち、特にプロセスの前半の部分が重要だと強調した。

まずプロセスの1つ目「目的・ゴールの明確化」として、「自社の事業に対するインパクトを、社内で議論できる状態をつくることが望ましい」と岡氏は話した。事業におけるインパクトの大小、時間軸も短いものから長いものまであり、一緒くたにやってしまうと効率的に取り組むことができない。そのため、経営層が5年後10年後を見据えてプロジェクトを見ていく必要がある。そして、目的や目標を掲げた上で、イノベーション担当部署以外の事業部にも、その取り組みを浸透させていくことが非常に重要なポイントだと説明した。

次のプロセス「内部準備」では、「自社のどこ、誰にどんなアセット、ノウハウがあるのか、イメージできますか?」という投げかけをよくするという。これをイメージできるだけではなくすぐに活用できるのか、あるいは活用するためのルールやルートが整備されているかが重要だ。岡氏は、「事業連携の相手に求めるだけではなく、自社がどこまで整備する必要があるのかは、頭に入れておいていただきたい」と述べた。

セイノーグループでは、そのためのハブとなる部署「オープンイノベーション推進室」を設置し、そこで各事業部のニーズやアセットを把握しながら、日々スタートアップと向き合い、連携のサポートをしている。岡氏はその事例を示しながら、「そういった社内全体の動きを集約する組織を設置するのもいいし、各事業部にオープンイノベーション担当者を配置するのもいいと思う。柔軟に、自社のアセット・リソースを行き来できるようなプレーヤーの存在が必要だ」と語った。

それが準備できたときに、ようやく「パートナーの選定」が始まる。ここにもアクセラレータプログラムやCVCなど様々な方法がある。セイノーホールディングスのCVCでは、その領域に投資をするのかを明文化しており、関わる全員が一定の認知を持って語れるようになっているという。それからグループ全体でオープン・パブリック・プラットフォームといった取り組みを掲げ、パートナーとの事業連携を進めやすい状態をつくっている。

●事業連携に重要な、社内・社外コミュニケーション

さらに岡氏は、事業連携を進めるために大切な2つのこととして、社内のコミュニケーションと社外のコミュニケーションを重視する必要性を語った。

例えばセイノーホールディングスでは、CVCを立ち上げる際、社内のキーパーソンへの課題ヒアリングを徹底して行った。現在も、社内のどこに課題やニーズがあるのか、日々探索を続けているという。それを元に、アクセラレータ、ピッチイベントなどを通してスタートアップとのマッチングを行っている。「社内コミュニケーションをないがしろにしてしまうと、せっかく紹介しても事業連携がうまくいかない。だからこそ、しっかりと設計していかねばならない」と、岡氏は述べた。

そして、「相手を知ること」も重要だ。一度面談しただけでは事業連携はうまくいくはずがなく、相手が何を望んでいるのか、そこに対してどういったリソースを提供できるのか、何度も議論を重ねることが必要だと、岡氏は強調した。特にスタートアップが大企業に求めるのは、資金、ブランド、人的リソース、自社にない技術などだ。そういったものを自社から提供できるのかを考えながら、議論を進めていかねばならない。また、ビジョンや期待値の明確化、そして相手の企業文化への十分な理解などにも配慮することも重要だ。

●惜しみなく、駆け引きなくリソースを提供することの重要性

続いて岡氏は、セイノーグループの事業連携の事例を2例提示した。ひとつは、オンライン薬局を運営する株式会社ミナカラと、旧・濃飛西濃が、物流センター内に調剤薬局を共同開発した事例だ。過去に事例のない物流倉庫内に薬局を立ち上げるというプロジェクトを、薬局設立のノウハウを持つミナカラと、倉庫運営のノウハウを持つセイノーグループの共創により実現。薬のサプライチェーンの短縮化を実現できた。

もうひとつは、ドローン技術の株式会社エアロネクストとの共創だ。セイノーグループでは資本だけではなく、トラック配送のオペレーションノウハウや、共同配送を行う上で必要なパートナーの探索など、様々なリソースを提供しながら、物流ドローンの社会実装に向けて取り組んでいる。「このように、相手が何を望んでいるのか、自社が何を提供できるのか、惜しみなく、駆け引きなく提供することが重要」だと岡氏は述べ、プレゼンテーションを締めくくった。

投資先スタートアップによるピッチ

続いて、SEINO CVCが投資しているスタートアップ2社によるプレゼンテーションが行われた。

●株式会社ニーリー 執行役員 影山 憲太郎 氏

2013年創業のニーリーは、月極駐車場を中心としたモビリティ領域に対するプロダクトを提供しており、累計で102億円の資金調達を完了している。主力事業としては月極駐車場オンライン契約サービス「Park Direct」だ。駐車場の募集から契約、契約後の業務管理をすべてニーリーが行うモビリティSaaSである。直近では約74万台の月極駐車場情報を掲載しているという。

「従来は、駐車場を探す時は街を歩いて探して空きを確認し、契約も紙管理など非常にアナログなマーケットだった。それが『Park Direct』を導入いただければ、スマートフォンの位置情報や地域名などのキーワードから駐車場情報や空き状況もすぐに確認できる。そしてオンライン契約・決済が可能。管理会社に対しても、オンラインリアルタイム管理ができるシステムを提供し、アナログなマーケットをデジタルに切り替えていく」と、影山氏はビジネスモデルを説明した。また、ニーリーは法人車両の駐車場管理システム「Park Direct for Business」も展開している。駐車場の探索から契約、管理をアウトソースでき、駐車場契約書類や車検証も一元管理ができるサービスだ。

さらなる事業推進として「駐車場や車の情報、車検証や免許証などのデータを保有しているため、その情報を基盤に例えば車両の買い替えの提案をしたり、保険の案内をしたりとプラットフォームとしての事業展開を進めていきたい」と、影山氏は語った。そしてEV充電のニーズが多いことから、充電インフラを設置することで法人車両のEV化を推進する支援もしているという。

そして影山氏は、3つの協業案を提示した。1つ目は、企業の遊休地の活用だ。大手の事業会社などが所有する遊休地を月極駐車場に切り替え、ニーリーが集客支援から管理を引き受け、マネタイズを進めていく。2つ目は、法人車両管理だ。社用トラックや営業車両を停める場所が手狭になったり、既存駐車場とのやり取りが非常に煩雑であったりと、総務部門などの負担が大きい。ニーリーと協業することで、その負担を軽減できる。そして3つ目は、EV充電器の設置だ。「輸送車両のEV化を進めるうえで、支援ができることがあればぜひお声がけいただきたい」と、影山氏は呼びかけた。

参加者からは、時間貸し駐車場との連携、トラック駐車対応、港湾地区対応などについて多くの質問が寄せられた。

●VALT JAPAN株式会社 CEO 小野 貴也 氏

VALT JAPANは、「就労困難者の大活躍時代をつくる」をビジョンに掲げ、2014年に創業。代表の小野氏が製薬会社で精神疾患系の薬品を担当している際、服薬により症状は改善していくものの、就労には困難がつきまとうという実態に衝撃を受け、医薬品では解決できない就労困難者問題にチャレンジすべく立ち上げたスタートアップだ。

小野氏は、解決したい社会問題として2つ挙げた。「ひとつは、日本の労働人口減少問題。そしてもう一つが、就労困難者問題。労働人口約6700万人のうち、5人に1人にあたる1500万人が障害や難病を抱える就労困難者と言われている。この労働市場の不均衡を是正することで、まったく新しい経済モデルをつくろうとチャレンジをしている」という。

そこで着目しているのが、全国に約2万か所ある就労継続支援事業所だ。障害や難病のある人が、これらの事業所で就労をしているが、就労継続支援事業所の中でも、B型事業所の平均工賃は1万6000円程度と非常に低い。これには、民間企業からほとんど仕事を請けられていないという構造的な問題があるという。

このような問題に対し、VALT JAPANでは、全国の就労継続支援事業所のネットワーク化に着手。各事業所単位でみると20名程度の小規模施設だが、全国約2万か所を束ねると、日本を代表する企業グループを遥かに超える労働供給力となる。

これらを巨大なアセットとして民間企業に労働力として提供する、就労困難者特化型BPOプラットフォーム「NEXT HERO」を立ち上げた。受注者責任はすべてVALT JAPANが担い、品質オペレーションも同社が設計。民間企業からデータ入力やAI開発、物流といった業務を受注している。

そして全国の就労継続支援事業所に再委託を行うことで、全く新しい仕事の流通を生み出していくビジネスモデルだ。工賃にも強烈なインパクトを創出しているという。「今後はより、企業のオーダーに応えられるよう、デジタルイノベーションセンターを自社事業所としてオープンさせ、DX拠点として様々なパートナー企業との協業を進めていきたい」と、小野氏は語った。

さらに小野氏は、セイノーホールディングスとの協業案として、ドローンロボティクスオペレーションセンターの設立と、物流付帯作業の受託を提案。「新しい未来づくりを一緒にしていきたい」と決意を述べた。

参加者からは、生産性と賃金、育成の利点と課題、通勤支援、海外展開などについて質問が寄せられた。

大きな社会課題は、イノベーションのチャンス

セイノーホールディングス株式会社

代表取締役社長 田口 義隆 氏

最後に、セイノーホールディングス 代表取締役社長 田口氏より総括が行われた。田口氏は「人口減少による人手不足、そしてグリーン化への対応、この2つが大きな課題意識としてある。ただ、この2つは我々にとって大きなチャンス。スタートアップとの協業で、既存インフラを効率化していくことができる」と述べた。

さらに田口氏は、「この課題は当社グループだけではなく、業界全体、あるいは業界を超えて解決していきたい。受発注ではなく共創の姿勢が重要であり、ぜひ色々なパートナーと対話をしていきたい」と締めくくった。

取材後記

物流業界におけるオープンイノベーションを積極的に推進するセイノーグループが、本気で外部共創を推進していることがわかるイベントだった。岡氏が紹介したように、「オープンイノベーション推進室」がグループ会社含め全国行脚してキーパーソンとの連携をつくり、現場のリアルな課題がリアルタイムに寄せられるような仕組みを構築している。そしてセイノーグループ内でもスタートアップ共創の意識が高まっていることは、ニーリーとVALT JAPANのピッチに対して多くの質問が寄せられたことからも見て取れた。「バリューチェーン全体におけるオープンイノベーションの加速と定着」という今回のイベントの趣旨にあるように、きっと今後も企業の垣根を越えて躍動していくであろう、セイノーホールディングスの活動に期待したい。

(編集:眞田幸剛、文:佐藤瑞恵)

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労働時間規制、ドライバー不足、燃料高騰、温暖化――物流業界の課題に立ち向かうセイノーホールディングス。業界全体の変革を目指し、オープンイノベーションで挑むその姿に迫る。