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物流を核としたバリューチェーン全体への拡張戦略。100億円規模のCVC運営による大企業のイノベーション戦略とは?

物流を核としたバリューチェーン全体への拡張戦略。100億円規模のCVC運営による大企業のイノベーション戦略とは?

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24兆円という巨大市場であり、250万人以上の労働就業者が存在する物流業界。世の中を支える重要なインフラであり、すべての産業に不可欠な領域であるにもかかわらず、物量増加、労働力不足など、そこには様々な課題が横たわっている。

そうした物流業界の課題解決にスタートアップとともに挑戦すべく、物流大手セイノーホールディングス株式会社と、オープンイノベーション支援に特化したVCであるSpiral Innovation Partnersは、2019年12月に1号ファンド「Logistics Innovation Fund」を設立。物流周辺領域のスタートアップ投資を行うファンドとして、設立から現在までに個別企業投資17件実行済み、1件意思決定済み、FoF投資5件実行済みとなっている。

そして2023年7月、業界全体の課題を解決すべく、2号ファンドとして「Value Chain Innovation Fund」を70億円で設立したことを発表した。すでに個別企業投資3件およびFoF投資1件を実行している。

――そこで今回、セイノーホールディングス株式会社 執行役員の河合秀治氏と、Spiral Innovation Partners 代表パートナーの岡洋氏にインタビューを実施。これまで運用してきた1号ファンドの成果や、2号ファンド設立の狙いなどについて詳しく話を聞いた。

物流業界全体のバージョンアップと課題解決を目的とする1号ファンド

――まずは、ファンドのこれまでの活動を振り返っていきたいと思います。1号ファンドである「Logistics Innovation Fund(以下LIF)」は2019年に組成されました。セイノーホールディングスがファンドを立ち上げた背景についてお聞かせください。

河合氏 : 私たちは、2016年からオープンイノベーションに取り組んできました。オープンイノベーションには、アクセラレータープログラムや業務提携など様々な形があると思いますが、当社としては同じ船に乗ってスタートアップの事業も一緒に育てていきたいと考え、CVCという形を取ったのです。

私たちのようにグループ会社が数十社ある場合、外部のファンドではどうしても遠い感覚がありますが、グループ内のCVCであれば身近な存在として話がしやすいと思います。とはいえ、はじめはグループ各社も少し様子を見ている印象でした。しかしここ最近は、急速に距離が縮まっていると感じています。

▲セイノーホールディングス株式会社 執行役員 オープンイノベーション推進室室長 兼 事業推進部ラストワンマイル推進チーム担当 河合 秀治 氏

――CVCの活動をグループ全体に周知するために、なにか工夫をされたのですか?

河合氏 : 昨年の10月、投資先のスタートアップが取り組んでいることやソリューションについて、グループ会社に対して発表する機会を設けました。その評判が非常によく、距離感がぐっと近づくきっかけになったのではないかと思います。ただ、まだCVCを認知していない部門もあるため、今後もこうした取り組みを継続して、より身近な存在にしていきたいですね。

――Spiral Innovation Partnersがファンドの運営パートナーですが、どのようなきっかけでジョインされたのですか?

岡氏 : セイノーホールディングスさんには、2016年に立ち上げた私たちのゼネラルファンドのLPとしてご参画いただいています。そこから3年ほど私たちの動きを見てくださる中で、「今後は機動的なCVCが必要だ」というご相談をいただきました。私たちも以前より産業変革やオープンイノベーションをテーマにファンドを運営していたため、CVCという形式には期待もあり、「ぜひ一緒に」と申し出たことがきっかけです。

私自身、従来のCVCには強い課題感がありました。たとえば、事業提携が出来ないと出資しないとか、PoCをやったのに半年後に出資を断られるとか、担当者が2年で異動するため出資した会社の管理ができていないとか、本当にたくさんの問題があったんです。

そういう事例を見ていて、”新しいCVCのカタチ”が必要だと考えていました。セイノーさんには、その課題にチャレンジするきっかけを与えていただいたと思っています。また、1号ファンドは物流業界特化型のセクターフォーカスファンドということで、あえてセイノーさんの名前を冠しないという英断にも大きな期待を感じました。

▲Spiral Innovation Partners 代表パートナー 岡 洋 氏

――確かにファンド名は「Logistics Innovation Fund」で、”セイノー”の名は入っていません。なぜ、社名を冠さなかったのですか?

河合氏 : そもそもの目的は業界やお客様の繁栄であり、たまたまそのプレイヤーがセイノーだったということだけだからです。ちょうど1号ファンドのLIFを組成した2019年頃は、まさにロジスティクス系スタートアップが増えてきたタイミングでした。

構想から組成まで、1年ほどの時間を要しましたが、そうした背景もあったことから、「ロジスティクス」を全面に出したことは良かったと思います。やはり1号ファンドが成功するかどうかで、その後の展開は変わってきますからね。

スタートアップとの協業により、物流周辺領域に大きな価値を発揮

――1号ファンドLIFの成果は公表されている通りだと思いますが、河合さんにとって特に印象に残っている事例について教えてください。

河合氏 : ひとつ目の事例である、オンライン薬局を運営するミナカラ社との協業です。こちらは濃飛西濃運輸(2023年4月、西濃運輸と統合)の拠点に「ミナカラ薬局」を立ち上げることで、医薬品流通に大きな変革を興す事例でした。

この協業をスタートした直後、コロナ禍により医薬品の宅配ルールが変わってきたことも追い風になりました。倉庫内に調剤薬局があるということは、圧倒的に時間効率、配送効率が向上します。これを、セイノーグループだけで実現しようとしても難しいでしょう。ミナカラ社のようなスタートアップと協業したからこそ価値を発揮できた、大きな事例です。

岡氏 : この事例は、当時の濃飛西濃運輸さんが動いてくださったということがキーになります。濃飛西濃運輸さんは岐阜県関市に拠点を構えるグループ会社でした。このような地域の会社が動くことにより、他のグループ会社も触発されるんですよね。

その背景には、セイノーさんのオープンイノベーション推進室の功績があります。ミナカラさんの話が来た時に、「これを実現するなら濃飛西濃だ」とすぐに調整に入ったことで、わずか半年で倉庫内に薬局が立ち上がりました。もしあの時、違った意思決定をしていたら展開は変わっていたと思います。

河合氏 : まさにグループ各社がこの事例に触発されて、他のエリアでも同様の取り組みが進んでいるところです。

▲セイノーホールディングスとミナカラは、石川県白山市の物流センター内に調剤薬局を共同開発。2021年2月より稼働を開始した。(画像出典:ニュースリリース 

――エアロネクスト社との事例も、世の中に大きなインパクトを与えるものですね。

河合氏 : そうですね。産業用ドローンを開発するエアロネクスト社とは、共同で新たな配送ソリューション「SkyHub®」を立ち上げ、ドローンを活用した新スマート物流事業への参入を実現しました。

こちらは1年間で全国30ほどの自治体で実証実験を行いました。複数の地方自治体と「内閣官房 デジタル田園都市国家構想」における連携協定を締結しているほか、KDDI社など上場会社同士の業務提携にもつながっています。

こうした事例をみてみると、スタートアップ×セイノーという2者間だけではなく、自治体や大学や大企業といった複数者による連携の方がインパクトが大きいですね。エアロネクスト社の事例も、ドローンと物流だけではなく、通信や自治体が入る座組であることで、幅が広がっていったと思います。

岡氏 : 通常、ステークホルダーが増えると協業はスタックしがちですが、そこをハンドリングできているのは素晴らしいなと思いました。

河合氏 : スタートアップとの共創だからこそかもしれません。これが上場企業同士だけになると、お互いのポジショニングやリスク回避などから入るため、範囲が狭まってしまいがちです。スタートアップを介すると、関係者がすべて同じ方向を見据えることができると感じています。

ロジスティクスから、バリューチェーン全体にアプローチする2号ファンド

――ここからは、2号ファンドである「Value Chain Innovation Fund(以下VIF)」について伺います。1号ファンドは「ロジスティクス」を冠していましたが、なぜ2号ファンドは「バリューチェーン」を名称に掲げているのでしょうか。

河合氏 : 私たちセイノーグループは物流を通して国家社会に貢献することを掲げ、総合物流業を営んできました。そのため1号ファンドLIFでは物流領域にフォーカスしていたのですが、お客様が抱えていらっしゃる課題は物流に関するものだけではありません。もちろん物流は私たちの事業の本丸なのですが、物流領域のスタートアップとの取り組みだけでは、お客様や業界全体の課題は解決できないと考えました。

それを超えた周辺領域、つまりお客様のバリューチェーン全体に期待があるはずです。その中で、セイノーホールディングスは今年6月に中長期の経営の方向性である「ありたい姿とロードマップ2028」を策定しました。

そこでは水平方向の物流と合わせて、垂直方向でバリューチェーン全体への価値提供を目指そうとしています。そうした背景から、2号ファンドのVIFではコンセプトを広げ、バリューチェーン全体にアプローチするようにしたのです。

――物流を軸としながらも、バリューチェーン全体を投資対象にしていくのですね。

岡氏 : バリューチェーン全体に広がっていくのは自然な感覚で、「本当はここまでできたらいいのに」と考えることはたくさんありました。たとえば倉庫管理システムを提供するとなると、それだけではなく中で働く人についても本来はサポートできた方がいいですよね。

また、物流だけではなく販売データをもとに調達に対するフィードバックを行うことができれば、顧客のサプライチェーンマネジメント全体に寄与できるはずです。さらには、法務や会計などホリゾンタルな仕組みを提供することで、物流がさらに良い流れになるかもしれません。そうした色々なアイデアを実現するために、VIFを立ち上げることになりました。

投資領域がバリューチェーン全体になるというと広範に感じられるかもしれませんが、調達、製造、販売サービスなどにおいて企業が抱えている課題を、物流の側面から解決できるよう投資をしていきたいと考えています。

▲VIFにおける投資領域のイメージ(画像出典:ニュースリリース 

VIFはオープンイノベーション戦略の重要なエンジン

――既に2号ファンドで投資が決まっているスタートアップはありますか?

河合氏 : はい。スタートアップ3社、VC1社への投資を実行しています。物流領域ではなく、よりバリューチェーン上流の受発注や需要予測、在庫回転といった領域ですね。ここが効率化されれば、下流側に流れてくる情報も整備されていくでしょう。

たとえば、従来はいつ・どこから・どの程度荷物が発送されるか分からないため、トラックを大量に用意していました。それが3日前に需要予測が正確にできれば、必要な台数が分かるようになるはずです。情報流・物流・金流のバランスが取れると、全体のバリューチェーンが効率化されていきます。

岡氏 : よくロジテックのスタートアップは少ないと言われるのですが、ロジスティクスが絡まない産業はありません。一見ホリゾンタルにサービス提供していても、物流業界に進出したいという声はよく聞きます。そうしたスタートアップの受け皿にもなっていきたいと思います。柔軟に価値提供をしていきたいと考えているので、ぜひ2号ファンドを活用していただきたいですね。

――最後に、今回の2号ファンドも含め、セイノーホールディングスのオープンイノベーション戦略についてお聞かせください。

河合氏 : この数年で、オープンイノベーションは私たちのエンジンのひとつになりました。これからも色々な方の力を借りながら、新しい価値を創っていきます。「ありたい姿とロードマップ2028」でも、成長戦略の一部としてオープンイノベーションを明記していますが、VIFはその主力として大きな鍵になっていくと考えています。

取材後記

LIFの承継ファンドとして、物流領域を引き続き核としながらも、その川上・川下にも投資領域を拡大するVIF。70億円で設立し、100億円の規模を予定しているという。LIFではアプローチしにくかった荷主企業のバリューチェーン全体に価値提供を行うスタートアップに投資領域を広げることで、さらに事例のバリエーションも増えていくことだろう。スタートアップのみならず、自治体や他の上場企業も含めた共創の座組が組めることも、このファンドの強みだ。今後の展開に注目していきたい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:齊木恵太)

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