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神戸市内の特色ある5社が共創パートナーを募集! 2期目を迎える神戸市主催のOIプログラム「Flag」を紐解く<前編>

神戸市内の特色ある5社が共創パートナーを募集! 2期目を迎える神戸市主催のOIプログラム「Flag」を紐解く<前編>

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神戸市が2022年度より開催している、オープンイノベーションプログラム「Flag」。神戸市内に拠点を置く企業が募集テーマを掲げ、応募企業とともに共創でイノベーションの創出に挑むプログラムだ。初開催となった昨年度は、神戸市内の10社が掲げた募集テーマに対して、218件の応募があり、111件のマッチングを実施。そのなかから、32社とのディスカッション・共創機会を創出したという。

今年度は「Flag」をバージョンアップし、2回目となるプログラムを開催する(応募締切:2023年9月5日)。募集テーマを提示する神戸市内の企業は小池農園こめハウス/伊福精密/好日山荘/ラッキーベル/センサーズ・アンド・ワークスの5社だ。農業、金属加工、アウトドア、上履き、赤外線センサと、神戸らしい個性的な中小企業が集結した。

本プログラムの始動にあたりTOMORUBAでは、プログラムを主催する神戸市役所の職員、およびホスト企業5社の代表に話を聞いた。本プログラムを開催する背景や今年度の注力ポイント、プログラムにかける期待などについて、前編・後編の2記事にわたり紹介していく。

――今回の前編記事では、「Flag」を主催する神戸市役所に加え、ホスト企業2社(小池農園こめハウス/伊福精密)へのインタビューをお届けする。

【神戸市役所】今年度は中小企業をホスト企業に迎え、事例の数を増やすことにコミット

――神戸市は今、イノベーションのエコシステム構築を加速していますが、神戸市の掲げるビジョンや、本事業に取り組む背景についてお聞かせください。

武田氏: 神戸市全体では「神戸2025ビジョン」という計画を策定し、2021年度から5年間の実施期間で取り組みを進めています。そのなかで「海と⼭が育むグローバル貢献都市」を大きく掲げているのですが、この活動もその一環です。私たちのミッションは大きく2つあります。1つは「若者に選ばれる街にすること」、もう1つは「経済の活性化」です。

それぞれについて詳しくご紹介すると、前者については東京一極集中が進んでいることもあり、より選択肢がある東京で就職先を探す学生たちが多くいます。この現状に対して、若者たちが「神戸で起業しよう」「神戸で就職しよう」と思える街を目指し、若者の起業・就職に繋がる機会を創出する取り組みを進めているところです。

後者については、神戸は重工業や食、ファッションなど多岐にわたる産業が発展してきた地域です。しかし、既存産業が従来のイメージからまだ抜け切れていないところもあると思っています。新しい取り組みを導入しなければ、既存産業も活性化しません。ですから、「イノベーションの創出」を掲げて、スタートアップの支援やオープンイノベーションの促進に注力しています。

既存産業や地元を活気づけ、若者が活躍できる神戸をつくりあげ、神戸でイノベーションが次々に生まれる環境を築くことができれば、ひいてはそれが、世界に貢献する都市になると思うのです。

▲神戸市役所 経済観光局 新産業創造課長 武田卓 氏

――スタートアップをはじめイノベーション創出に挑戦したい人たちから見て、京阪神エリアや神戸の魅力はどのような部分にあるのでしょうか。

武田氏: 政府がグローバル拠点都市(※)を選定しており、東京圏・中京圏・京阪神圏・福岡の4つのエリアが選ばれています。そのなかで、筑波なども含めて広大なエリアをカバーする東京圏と比較すると、京阪神はコンパクトでまとまりやすい距離感だと思います。また、イノベーション創出を応援する環境も整備されてきました。大学・企業・自治体・金融機関といったプレイヤーが可視化され、アプローチがしやすくなったと考えています。

神戸だけを見ても、非常にコンパクトな都市ですから、支援者たちとつながりやすいことが魅力です。また神戸市では、スタートアップ支援施策の一環で、「500 Global」というシリコンバレーを代表するアクセラレーターと連携してきた実績やシアトル、シリコンバレーにオフィスを置いており、アメリカとも接点を持っています。

直近3年間は、国連機関とともにSDGsの課題解決に向けたプログラムも実施。とくに、脱炭素ソリューションに関心の高い欧州と交流を深めています。このように、国内にとどまらず世界と接点を豊富に持っているので、グローバルに展開したい企業にも魅力的ではないでしょうか。

※グローバル拠点都市とは、世界と伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成に向け、有識者と内閣府、経済産業省、文部科学省からなる選定委員会によって選出された都市のこと。

――エコシステム拠点形成を進めるにあたり、神戸市が現在、抱いている課題感は何でしょうか。

武田氏: 今後は成功事例をより増やしていく必要があると考えています。挑戦を応援する土台は整備されましたが、まだ多くの事例は生まれていません。スタートアップが神戸市内に増えても生き残っていくためには、既存企業の協力やコラボレーションが必要であり、その結果としてイノベーションが生まれてくるものだと思います。ですから、その事例を増やすことに注力していく考えです。

――そうしたなか、2回目となるオープンイノベーションプログラム「Flag」の募集を開始されました。今年度の狙いや変更点についてお聞かせください。

武田氏: 昨年度は初開催でしたから、主に神戸市内の大企業をホスト企業として迎え、共創パートナーを募集しました。しかし、大企業の多くは自社でオープンイノベーションを実践しています。より広範に本活動を展開していくため、今年度は神戸市の中小企業をホスト企業に迎えることにしました。中小企業のなかからロールモデルを生みだし、神戸市全体を変えていきたいと思っています。

▲2023年3月に開催された昨年度の「Flag」のデモデイ。神戸新聞社×omochiの共創プロジェクト「新聞を活用した学習プログラムを開発し、社会課題を発掘・解決する力を育成」が審査員最優秀賞を受賞した。

――昨年度のプログラムから生まれた共創事例のなかで、とくに印象的だったものは?

武田氏: アシックスさんが自社のスポーツ事業と、全く異なる領域の農業をかけあわせ、新しい事業の創出にチャレンジされたことは印象的でした。農業は神戸市の主要産業のひとつでもありますから、そうした観点でも興味深い事例でしたね。

――最後に本日お集まりの皆さんより、今年度の「Flag」にかける想いをお伺いしたいです。

板戸氏: 私は今年の4月から本事業に参画することになったため、各プロジェクトを追いかけていくのは今年が初めてです。今年のホスト企業は中小企業で、皆さん自社の事業にとても熱心に取り組まれています。ですから、前年を超えるような画期的な事業が生まれるのではないかと期待していますね。

▲神戸市役所 経済観光局 新産業創造課 係長 板戸優貴 氏

岸本氏: 私は昨年度からこの事業に関わっていますが、率直に言ってこの事業が大好きです。昨年度も、短期間で成果を生み出すために困難な状況が数多くありましたが、参加者の皆さんが非常に前向きに取り組んでいらっしゃる様子が印象的でした。

私は今、社会人5年目ですが、社会人10数年目の大先輩の方が、「このプログラムで働き方が変わりました」とおっしゃっているのを聞き、感銘を受けたりもしましたね。今年度のホスト企業の皆さんもどのようなプロジェクトが生まれるのか楽しみにしていらっしゃいますし、私自身もワクワクしています。プログラム終了後には、皆さんに笑顔になっていただけるような取組みにしたいです。

▲神戸市役所 経済観光局 新産業創造課 岸本花奈 氏

武田氏: 今年の目標は、中小企業のなかから5件の共創事例を生み出すことです。中小企業の皆さんからは「スタートアップは自分たちには関係ない」「オープンイノベーションの進め方が分からない」という声を耳にすることもありますが、「隣の会社の社長ができるのであれば、自分の会社でもできるはず」と感じてもらいたい。そのために、成功事例をたくさん作りだし、公表できる1年間にしたいと思っています。

――続いて、今年度のホスト企業2社へのインタビュー内容を紹介する。

【小池農園こめハウス(農業)】「持続可能な都市近郊農業を実現する 神戸モデルの創出」

▲株式会社小池農園こめハウス 代表取締役 小池潤 氏

――御社は、消費地から近い神戸市西区で農業を営まれていますが、神戸の農業の現状や課題感についてお聞かせください。また、本プログラムへの参画理由もお伺いしたいです。

小池氏: 神戸の都市部から車で約30分、地下鉄が通り、西神ニュータウンと呼ばれる住宅地もある神戸市西区では、米をはじめ畜産、果樹、野菜、花卉などの農業がさかんです。この地域の農業の特徴は、マーケットが近いという利点があることです。一方で課題は、全国的に知られている「丹波篠山」のようなブランド力がないこと。また、都市部に近いことから働き手は流出しやすく、農家の後継者不足は深刻です。獣害も増えていますね。

そうしたなか、私たち小池農園こめハウスでは、神戸の農業を守っていくために「神戸米」の商標を取得してブランド化を図り、耕作放棄地を増やさないように作業を受託しながら、神戸の里山を守る取り組みを進めています。

また、持続可能な農業の仕組みを構築しようと様々な活動を企画。その一例として、甲子園球場11個分、約44ヘクタールの農地を活用した農業ツアーや援農体験などの企画を展開してきました。本プログラムには、これまでの活動を今まで以上に盛りあげていきたいと考え、一緒に取り組むパートナーを募集するために参画することにしました。

――今回、「持続可能な都市近郊農業を実現する 神戸モデルの創出」というテーマを設定されました。共創パートナーと、どのようなアイデアを実現したいとお考えですか?

小池氏: 神戸市西区には休耕地がたくさんあるので、そうした場所を有効活用して、たとえば企業の従業員を対象にした農業体験を、福利厚生プログラムとして実現できるとおもしろいのではないかと思っています。あわせて、農業や食が心身に与える効果を数値化し、よい影響があることを可視化したいです。また、農作物を「つくる」だけではなく、「食べる」体験も組み合わせて、新しい農業ツアーを企画していきたいですね。

コロナ禍で対面の研修や歓送迎会のように集まって飲食する機会が減りました。人々の意識も変わりましたから、企業はそれらを復活させない可能性もあると思っています。とはいえ、会社としてはよいチームをつくっていかなければなりません。そのような場合に、農業体験が選択肢のひとつになればと思います。

――具体的に、どのような農業体験をイメージされていますか?

小池氏: たとえばお米づくりだと、田植えや収穫を企業の従業員の皆さんに体験していただきます。年間で予算を組んでいただければ、生育の途中経過を見てもらうこともできるでしょう。最終的に収穫したお米を食べたり、加工した新米を取引先にプレゼントしたり、さまざまな企画が考えられると思います。取引先への贈答品は、商品券やビールなどが主流ですが、自分たちで耕作したお米を渡すと、より想いのこもった挨拶ができるのではと思います。

▲神戸市西区内に、広大な農地を持つ小池農園こめハウス。

――本プログラムで活かせる御社の強みは?

小池氏: 約44ヘクタールの農地を保有しているため、それらを活用できます。また私自身、農家の12代目で長年培った農業の技術がありますし、近隣農家とのネットワークも構築できています。花卉や果樹などを扱う農家さんともつながりがあるので、お米に限らず、年間を通してのイベントも開催できると思います。

また、8年前に開始した「Kobe Foo Style」の取り組みにおいて、数々のイベントや農家ツアーを開催してきました。法人向けの開催実績はありませんが、個人グループ向けの開催実績は豊富です。生産者と消費者が連携するCSA(Community Supported Agriculture)の確立も進めているところです。

加えて、自社で全量米の直販を行っているため、営業力もあると自負しています。神戸市内のレストランや居酒屋といった販売先とコネクションがあることも、当社の強みのひとつだと思います。

――それでは応募企業に向けて、一言メッセージをお願いします。

小池氏: 私たちは農業が得意分野です。農業と組み合わせて何かを形にしたいと考える企業も多く存在すると思いますので、ぜひ気軽にご応募ください。一緒に神戸の未来を変えていきましょう。

【伊福精密(金属加工)】「日本のものづくりを 持続可能にする仕組みの創出」

▲伊福精密株式会社 代表取締役社長 最高技術責任者 伊福元彦 氏

――御社は、神戸市西区で3D金属造形サービスを展開しておられます。本プログラムに参画を決めた背景は?

伊福氏: 私は製造業がもう少し高く評価されてもいいのではないかと思っています。将来、当社の従業員の子どもたちが、「製造業で働きたい。伊福精密で働きたい。」と言ってくれるような、明るい製造業の未来をつくりたいのです。

そうした想いから、当社ではデジタルや3Dプリンティングなど、新しい技術を積極的に取り入れてきました。これにより、100年先、500年先も残るものを製造できる会社になっていきたいと思っています。

――御社は金属加工に3Dプリンターを導入するなど、先駆的な動きをされていますね。

伊福氏: そうですね、血筋が関係しているのかもしれません(笑)。私の父が「伊福工作所」という今の会社の前身を立ちあげたのが1970年。当時はまだ旋盤加工やフライス加工などで金属を削る作業が主流でしたが、当社は先駆けてワイヤーカット放電加工のできる設備を導入しました。父も私も機械が大好きで、高級車を買うのはためらいますが、高価な工作機を買うことには何のためらいもありません。純粋に工作機械や機械いじりが好きなのです。

――本プログラムでは、「日本のものづくりを 持続可能にする仕組みの創出」という募集テーマを掲げられました。どのような考えから、本テーマを設定されたのでしょうか?

伊福氏: たとえば、お寺の中で長期保存されている仏像は、特殊な環境で保管され、50年や100年に1回は改修が行われます。そうすることで、約1500年にもわたり原型をとどめています。一方で一般家庭にある仏像は、長持ちしたとしても50年が限度ではないでしょうか。決して木製を否定するわけではないですが、100年先、500年先まで残していくためにはメタル(金属)製がいいのではないかと思っているのです。

また別の観点で、日本の製造業では今後、自動化がさらに進むでしょう。そうなった場合に、私たちの持つ経験値をしっかりと残していかないと、ある日突然ものがつくれなくなる可能性もあります。そこで重要となってくるのが、3Dプリンターです。日本のメタルマーケットでは、3Dプリンターの導入は進んでいません。

現状の日本は、40代・50代の腕のたつ熟練工らが、器用に工作機を操って素晴らしい製品をつくります。この状況は10年先、20年先も大きくは変化しないでしょう。

しかし、今の主力世代がリタイアしはじめる頃には状況は変わってきます。次の世代への技術移管がうまく進めば問題はないですが、うまくいかなかった場合、工作機から3Dプリンターへと変えざるを得ません。なので当社は、現段階から工作機と3Dプリンターの両刀使いにしているのです。

▲伊福精密では、3D金属プリンターまたは樹脂3Dプリンターを用いた3D金属造形サービスを提供している。

――なるほど。本プログラムでは、どのようなパートナーとともに、どのようなアイデアを実現したいですか?

伊福氏: 私の想像できないような提案をくれる企業とペアを組みたいと思っています。当社は工作機と3Dプリンターを使った金属加工が得意ですから、それと組み合わせて「こんな使い方ができるのでは」という思いもつかないアイデアに期待しています。

“全国に散在する「後世に残したいもの」をデータに変換し、いつでも再現できるプラットフォームの構築”や”絵画や美術品などだれもが同じものを楽しみ、感じられる場の創造”、”ものの寿命を延ばして「使い続ける」サービスの創出”といったように共創アイデアの例はいくつか挙げていますが、これらはあくまで私が思いつく範疇なので、まったく違うアイデアも大歓迎です。

――最後に応募企業に向けて、一言メッセージをお願いします。

伊福氏: 堅苦しい関係性ではなく、プログラムの最後には2社で口をあけて大笑いできるようなプロジェクトにしたいと思っています。タイトなスケジュールのなかで、マネタイズまで目指すとなると、大変な局面もたくさんあるでしょう。望ましい成果をあげられないかもしれません。しかし、最後には2社で大笑いができる、そんな活動にしたいですね。

取材後記

昨年度は大企業との共創だったが、今年度は中小企業との共創に大きく変化した「Flag」。本記事ではホスト5社のうち、農業と製造業に携わる2社を紹介した。お二方とも家業を継ぐ代表取締役であり決裁者。迅速で大胆な決断が期待できそうだ。また、神戸市主催のプログラムであることから、行政のバックアップも心強い。続く後編記事では、今回紹介した2社とはまた違う、個性的な3社(好日山荘/センサーズ・アンド・ワークス/ラッキーベル)のリアルな声を紹介する。

KOBE OPEN INNOVATION 「Flag」 2023  9/5(火)応募締切

(編集・取材:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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