
縦型ショートドラマはなぜ流行る?大手もスタートアップも参入する活況の理由と国内の事例を解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは「縦型ショートドラマ」です。TikTokやYouTube Shorts、Instagram Reelsなど、縦型動画が日常のメディア消費に定着するなか、数分で完結するショートドラマ形式のコンテンツがZ世代を中心に急速に拡大しています。単なるエンタメではなく、ブランディングや販促の文脈でも注目され、企業や自治体がストーリーテリングを活用した広告として取り組む例も増えています。本記事では、縦型ショートドラマの概念や注目の背景、事例、そしてビジネス活用の可能性について解説します。
縦型ショートドラマ市場は世界で急速に拡大
縦型ショートドラマとは、主にスマートフォンユーザー向けに制作される1〜5分程度の短編映像コンテンツを指します。特徴的なのはその「縦型(9:16)」フォーマットで、TikTokやInstagram Reels、YouTube ShortsなどのSNSで視聴されることを前提として設計されています。内容は恋愛、サスペンス、コメディなど多岐にわたり、視聴者がスクロールするたびに物語が展開していくテンポの良さが支持され、Z世代を中心に高い人気を集めています。
こうした縦型ショートドラマの市場は、アジアを中心にグローバルで急成長しています。YH Researchのレポートによると、「グローバル・ミニプログラムショートドラマ市場」は、2024年時点で100億ドル弱の規模に達し、2031年にはその9倍以上にあたる783億ドルに拡大する見込みとされています。
参照ページ:グローバルミニプログラムショートドラマのトップ会社の市場シェアおよびランキング 2025
市場の中心地のひとつである中国では、縦型ショートドラマが既にビジネスモデルとして確立しつつあります。WeChatの「ミニプログラム」や抖音(Douyin)といったプラットフォームで配信される作品の中には、視聴者からの課金や広告収益、さらには商品購入と連動した“ドラマ型コマース”として機能している例も見られます。2024年時点で中国は世界の市場シェアの過半数を占めており、映画の興行収入を超える市場規模に達したと伝えられています。
参照ページ:中国のショートドラマ、市場規模が500億元突破へ
セグメント別では、スマートフォンを主軸とするモバイル向けコンテンツが市場の大半を占めており、今後もモバイル視聴のニーズにあわせたコンテンツ開発が鍵を握ります。また、米国市場も徐々に規模を拡大しており、ハリウッドスタジオによる縦型シリーズの制作や、Netflixなど大手配信プラットフォームの参入も視野に入っています。
国内でも加熱する縦型ショートドラマの活用事例
国内でも縦型ショートドラマの需要は高まっており、大手からスタートアップまで、多くのリソースを投下して注目のドラマを製作しています。
・NTTドコモ×吉本興業×Mintoの事例
NTTドコモは、縦型ショートドラマを活用して若年層との接点強化に取り組んでいます。2022年にはショートドラマ専門スタジオGOKKO CLUBの制作で「ドコモ×青春」と題した特設ページを開設し、年間20億再生、総フォロワー数270万人を記録。

出典:ドコモ×青春
さらに、NTTドコモは2024年12月に、吉本興業グループのFANY、そしてスタートアップのMintoと共同で縦型ショートドラマプラットフォーム「FANY :D」(ファニーディー)をリリースするなど、この分野への注力を進めています。
参照ページ:縦型ショートドラマプラットフォーム「FANY :D」、 2024年12月3日よりリリース
・ABEMAの事例
ABEMAは、若年層に人気の恋愛リアリティーショー『今日、好きになりました。』の世界観を広げるかたちで、縦型ショートドラマアカウント『今日々是好日(こんにちにちこれこうじつ)』を2025年3月に開設しています。

TikTokやInstagramを通じて、高校生のリアルな日常や恋愛を描いたショートドラマを毎週配信しており、開設から1か月で総再生数5,400万回、総フォロワー数15万人を突破するなどの反響を得ています。また、同アカウントではタイアップ広告メニューも提供されており、Z世代に響くストーリーテリングを活用した広告展開が可能です。
・emole(エモル)の事例
スタートアップ企業「emole(エモル)」は、縦型ショートドラマの配信アプリ「BUMP」を展開する急成長中のプレイヤーです。2022年12月にサービスを開始して以来、アプリの累計ダウンロード数は190万を超えており、2025年3月には第三者割当増資および融資により、電通ベンチャーズやAngel Bridgeなどから総額8億5000万円を調達したことを発表しています。

出典:BUMP
編集後記
スマートフォン中心の生活が定着した現代において、縦型ショートドラマは単なるエンタメの枠を超え、若年層とのコミュニケーション手段としても注目されています。従来の映像作品よりも低コストかつ短期間で制作でき、SNSとの親和性も高いため、今後さらに広告や販促の分野での活用が広がっていくでしょう。
本記事で紹介したように、NTTドコモやABEMAといった大手のみならず、emoleのようなスタートアップも参入し、市場全体が活況を呈しています。特に“ドラマ型コマース”など、新たなビジネスモデルの台頭も見られ、今後の成長に期待が寄せられます。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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