台頭する次世代のサブスク形態「サブスクリプションコマース」とは?事例を交えて支持される理由を解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
「月額制」で利用できる動画や音楽のサブスクリプションサービスが一般化する中で、最近注目されているのが「サブスクリプションコマース」です。これは、定期的に商品やサービスを配送・提供する新しいビジネスモデルで、消費者の利便性や体験価値をさらに高めています。
従来のデジタルサブスクとは異なり、実際の商品を通じてブランドと顧客をつなげる仕組みは、小売業や食品、ファッション業界をはじめ、幅広い分野で急速に広がっています。本記事では、サブスクリプションコマースの特徴や成功事例を紹介し、この新たな潮流がもたらすビジネスチャンスを探ります。
従来のサブスクとサブスクリプションコマースの違い
従来のサブスクリプションサービスは、動画配信サービスや音楽ストリーミング、ソフトウェア利用など、主にデジタルコンテンツやサービスに焦点を当てた月額制モデルが主流でした。このモデルでは、利用者が定額料金を支払うことで、無制限または一定範囲内でのコンテンツ利用が可能となります。
一方、サブスクリプションコマースは、実際の商品を定期的に提供するビジネスモデルです。顧客がサービスの一部として商品を受け取るため、体験価値や利便性がより重視されています。
サブスクリプション型コマースの最大の特徴は、消費者とブランドの間に継続的な接点を作り出す点です。企業は、顧客が商品を使用するたびにブランド体験を提供できるため、ロイヤルティの向上や長期的な関係構築が期待できます。さらに、AIやデータ分析を活用して、個別の嗜好に応じたパーソナライズ化が進むことで、消費者満足度をさらに高める仕組みが整えられています。
サブスクリプションコマースの主な種類
サブスクリプションコマースにはサービスの提供方法にいくつかの種類があります。
1.リピート型
消耗品や日用品など、定期的な補充が必要な商品を提供するモデルです。例として、カプセル式コーヒーメーカーのネスプレッソや、スキンケアブランドのオルビスが挙げられます。
参照ページ:定期購入 | ネスプレッソ公式
参照ページ:オルビス定期お届けプログラム
2.ボックス型
サプライズ要素のある商品を定期的に届けるモデルです。食品や化粧品、ペット用品などのジャンルで人気があり、たとえば「Oisix」の食品宅配や、季節の花がとどく「ブルーミー」などが代表的です。
参照ページ:定期ボックスとは?|Oisix
参照ページ:ブルーミー
3.アクセス型
一定の月額料金で利用者が商品やサービスにアクセスできるモデルです。たとえば、衣服のレンタルサービス「エアークローゼット」や、ワインのサブスクリプション「エノテカ ワインの頒布会」が該当します。
参照ページ:エアークローゼット
参照ページ:ワインの頒布会、サブスクリプション | エノテカ - ワイン通販
4.パーソナライズ型
利用者の嗜好やライフスタイルに合わせてカスタマイズされた商品を提供するモデルです。たとえば、季節や体調に応じてサプリメントの配合を変えるサービス「サプスク」や、体質チェックの結果に応じて漢方を提案する「Yojo」があります。
参照ページ:サプスク
参照ページ:パーソナル漢方薬局 YOJO
サブスクリプションコマースの市場規模
サブスクリプションコマース市場は、近年急速な成長を遂げています。調査会社のグローバルインフォメーションのレポートによると、市場規模は2024年に1,575億4,000万米ドル、2029年には3,108億5,000万米ドルに達すると予測されています。予測期間中の年平均成長率(CAGR)は14.56%と、非常に高い成長率です。
出展:サブスクリプションeコマース:市場シェア分析、産業動向と統計、成長予測(2024年~2029年)
市場の拡大の主な要因は、消費者の利便性を重視した行動の変化や、企業側のデータ活用とパーソナライゼーション技術の進化によるものです。サブスクリプションコマースは、単発の購入モデルに比べ、継続的な収益を生む安定したビジネスモデルとして注目されています。
業種別で見ると、飲食品のサブスクリプションサービスは、この市場を牽引する主要分野の一つです。グローバルの市場では、ミールキットを提供する「HelloFresh」やスナック定期便の「Graze」などが人気を集めています。これらのサービスは、食事の準備を簡略化し、多様な食材や健康志向の商品を提供することで、消費者に新しい価値を提供しています。
地域別では、北米が市場の中心として主導的な役割を果たしています。クラウドソリューションやデジタル化の進展、eコマースの急成長が、この地域の市場拡大を支えています。米国では、送料無料や解約の柔軟性といった特典が定期購入サービスの普及に大きく貢献しています。代表的なサービスには、「Dollar Shave Club」や「Chewy」などが挙げられます。
市場はさらに細分化が進み、美容、衣料品、ペット用品など多様な分野での展開が予想されます。企業は戦略的パートナーシップや新技術の導入を通じて競争力を高め、消費者の多様なニーズに応える形で市場拡大を続けています。サブスクリプションコマースは、消費者にとって利便性を提供し、企業にとっては安定した収益基盤を確立するための重要なビジネスモデルとして、今後ますます成長が期待されます。
参照ページ:サブスクリプションeコマース:市場シェア分析、産業動向と統計、成長予測(2024年~2029年)
編集後記
サブスクリプションコマースは、単なる購入モデルから、顧客とブランドが継続的につながる新しいビジネスの形を提供しています。特に、飲食品や美容、ペット用品といった日常生活に密着した分野での成長が顕著で、利便性やパーソナライゼーションを求める消費者ニーズに応えています。
今後、日本国内でもさらに多様なサブスクリプション型コマースの展開が予想されます。これをビジネスチャンスと捉え、いかに顧客に新しい価値を提供できるかが鍵となるでしょう。企業にとっては、従来の商品提供を超えた「顧客との関係構築」が重要なテーマになることを改めて感じるトレンドでした。次の成長分野に目を向けつつ、この分野の進化を注視していきたいと思います。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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