フェムテックで先行する欧米と追従する日本。市場が活気づいている背景とは?
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回ピックアップするトレンドは「フェムテック」です。「○○テック」という言葉は増えてきていますが、フェムテックはここ数年で耳にするようになったものの、まだ認知度の低い領域と言えます。
フェムテックは欧米では活況を迎えていますが、日本ではやっと盛り上がり始めたところです。グローバルではフェムテックがどのようにとらえられていて、国内の動向はどうなっているのか解説していきます。
フェムテックに含まれるカテゴリとは
フェムテックとは「Female(女性)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた言葉で、女性の健康を改善させるテクノロジーを用いたソフトウェア、製品、診断、サービスのことを指します。具体的には生理、妊娠・産後ケア、骨盤・子宮のケア、更年期ケア、そのほか一般的なヘルスケア・ウェルネスといったカテゴリを含んでいます。
さらにフェムテックは、人工知能(AI)やチャットボット、IoT、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析、仮想現実(VR)といったデジタルヘルスを駆使してヘルスケアの動機付けをするという意味も含まれることがあります。
フェムテックの市場規模はグローバルで2025年で5兆円に
米国のコンサルティングファームのフロスト&サリバンの調査によると、フェムテックの市場規模は2025年にはグローバルで5兆円超(500億ドル)にまで成長する見込みです。
同調査では、フェムテックへの投資額についても言及されており、2017年のデジタルヘルスへの投資件数は227件で、金額は115億ドルに到達しました。また、パーソナライズされたウェルネスは投資分野の中でもトップ5に入っており、その中でもフェムテックは2014年以降10億ドルの投資を集めています。
2020年の日本国内の“全スタートアップ”の資金調達額の合計が約5000億円であることを考えると、フェムテックがグローバルでいかに活況を迎えているかがわかります。
出典:FemTech: Digital Revolution in Women's Health
一方、矢野経済研究所の調査によると日本のフェムテックの市場規模は2021年に600億円を超える見込みとなっています。
出典:矢野経済研究所、フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場調査の結果を発表
国内外でフェムテックスタートアップが急増中
フェムテックにフォーカスしたスタートアップは近年急増しています。フェムテックの展示会『Femtech Fes!』などを開催する団体fermataが公開したマーケットマップによると2020年4月時点で海外のフェムテックスタートアップは318社ありました。2019年9月の前回調査から97社増となっており、活況ぶりがわかります。
出典:2020年3月版 最新海外Femtech(フェムテック) マーケットマップ発表!
同様の調査で、国内を対象にしたマーケットマップには51社が名を連ねました。
出典:2020年4月版 日本国内Femtech(フェムテック) マーケットマップ発表!
フェムテックスタートアップの台頭は大手の動きにも影響しています。丸紅はエムティーアイ、カラダメディカと提携し、働く女性の健康課題改善をサポートする総合的なフェムテックプログラムの共同開発を推進するなど、共創事例は増えています。
参照記事:丸紅 × エムティーアイ × カラダメディカ | 働く女性の健康課題改善をサポートする総合的なプログラムの共同開発へ
フェムテックをめぐる欧米と国内の認識には差がある
ここまで述べてきた通り、フェムテックは国内外で盛り上がりを見せていますが、活況の背景には欧米と国内で少し差があります。
前出のフロスト&サリバンのレポートによると、フェムテックに注目が集まる背景として『SHEconomy』の台頭があるといいます。SHEconomyとは、モルガン・スタンレーが米国国勢調査局のデータを元に発表した報告書『Rise of the SHEconomy』で定義された造語で、「女性が動かす経済」という意味があります。というのも、米国では2030年に25〜45歳の働く女性の45%が独身であるという調査結果が報じられ話題となっています。
SHEconomyの台頭とともに、女性は消費者、意思決定者、医療専門家、介護者としての影響力のある役割を担うようになり、経済は活性化すると『Rise of the SHEconomy』では結論づけています。女性がよりパワフルになっていく社会では、当然フェムテックも成長するという考え方です。
出典:FemTech: Digital Revolution in Women's Health
国内の認識に目を向けてみます。前出の矢野経済研究所のレポートの市場概況には国内のフェムテックに注目が集まった背景は「SDGsの認知拡大」「海外から遅れて日本に『フェムテック』が伝わった」「女性向け製品が『フェムテック』の枠を得た」などと分析しています。先行する欧米に比べて認識に差があり、まだまだ国内はフェムテックの理解を深める余地があると言えるでしょう。
【編集後記】フェムテックといえば生理ショーツ?
本文の最後にも触れていますが、国内では既存の女性向け製品が「フェムテック」の枠を得たもの、具体的には生理ショーツが先行してプレゼンスを発揮しているように感じます。スタートアップだとnagiやBé-Aが生理ショーツを展開しており、そこにユニクロや無印良品といった大手が参入することで国内のフェムテックの認知拡大に貢献しています。
今後、生理ショーツ以外の分野で注目を集めるスタートアップが国内でも続々と出てくることを期待しています。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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