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「GNSS」が位置情報インフラとして注目されている背景とは?スマート農業やドローン運用など国内の活用事例も紹介

「GNSS」が位置情報インフラとして注目されている背景とは?スマート農業やドローン運用など国内の活用事例も紹介

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新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。

今回のテーマは「GNSS(全球測位衛星システム)」です。近年、自動運転やドローン、スマート農業などの新興産業において、位置情報の正確性は欠かせない要素となっており、GNSSはその中核を担う存在です。GPSに代表されるこの技術は、世界中で多様なシステムが展開され、精度や利用可能性の向上が進んでいます。本記事では、GNSSの概要と進化、主要なシステム、活用事例、そして今後の展望について解説します。

GNSSとはGPSも含む現在地を把握するシステムの総称

GNSSとは、人工衛星を用いて地球上のあらゆる地点で現在地を把握するためのシステムの総称です。最も広く知られているのは米国のGPS(Global Positioning System)ですが、GNSSはこのGPSを含む包括的な概念です。

具体的には、ロシアのGLONASS、EUのGalileo、中国のBeiDou(北斗)、そして日本の準天頂衛星システム「みちびき」など、各国・地域による独自の衛星測位システムがGNSSに該当します。GPSはその一部であり、GNSSはこれら複数の衛星システムを統合的に活用することで、より高精度で安定した測位を可能にしています。

GNSSの基本的な仕組みは、複数の衛星から発せられる信号を受信し、その信号到達時間の差をもとに位置を三次元で算出するというものです。現在では4つ以上の衛星からの信号を受信することで、緯度・経度・高度に加えて、時間情報も高精度に得られるようになっています。

GNSS注目の背景にはスマートシティ、MaaS、スマート農業などの先進技術がある

GNSSの利用はスマートフォンによる地図アプリやカーナビのナビゲーションといった日常的なものから、測量、航空航法、船舶の運航、ドローンの航行、自動運転など、より高精度を求められる領域へと広がっています。これに応じて、センチメートル級の測位を可能にする「RTK(リアルタイムキネマティック)」や「PPP(精密単独測位)」といった技術も発展してきました。

近年、GNSSが改めて注目されている背景には、社会全体のデジタル化が加速していることが挙げられます。特に、スマートシティ構想やモビリティの高度化(MaaS)、スマート農業、スマート建設といった分野での実装が進み、リアルタイムでの正確な位置情報が事業の根幹に関わるようになってきました。

また、5GやIoTといったネットワーク技術の進展により、センサーデバイスや車両、機械などあらゆるモノがインターネットにつながるなかで、GNSSはそれらを空間的に連携させる「空間のインフラ」としての役割を担うようになっています。

日本では、GPSに加えて前述した準天頂衛星「みちびき」を活用した高精度測位インフラが整備されており、都市部や山間部でも安定した位置情報を得ることが可能です。みちびきは準天頂軌道を通るため、日本の上空に常に1基以上が存在し、安定した信号受信を可能にします。

参照ページ:みちびき

GNSS市場は年平均成長率10%を超える成長率

GNSS市場は今後数年で急速な成長を遂げると予測されています。Fortune Business Insightsの調査によると、世界のGNSS市場は2024年時点で301.37億米ドルの規模を持ち、2025年には335.04億米ドル、2032年には703.21億米ドルに達すると見込まれています。これは、2025年から2032年の期間において年平均成長率(CAGR)10.8%という高い成長率を示しており、GNSSが今後の産業基盤技術としてますます重要性を高めていくことを示唆していると言えるでしょう。

市場成長の要因としては、まずスマートフォンや自動運転車、ドローン、農業機械といった多様なデバイスへのGNSS搭載の広がりが挙げられます。また、都市計画や交通管理、インフラ整備などの領域で、リアルタイムで正確な位置情報のニーズが高まっていることも後押しとなっています。特にロケーションベースのサービス(LBS)の利用拡大や、5GやIoTとの融合により、GNSSの用途と精度は飛躍的に進化しているのです。

また、地域別では北米が最大市場を形成しており、高精度な測位システムの導入が進んでいます。次いでヨーロッパ、アジア太平洋地域も堅調な成長を見せており、中国やインド、日本などがその主要な成長ドライバーとなっています。政府主導の衛星星座の拡充や民間企業の技術革新も、市場の拡大に貢献しています。

活用が広がるGNSSの導入事例

GNSSの高精度化により、さまざまな分野での応用が進んでいます。以下に代表的な事例を紹介します。

・スマート農業の事例:ヤンマーの自動操舵システム

ヤンマーは、GNSS(全球測位衛星システム)を活用した「ガイダンス・自動操舵システム」を提供しており、既存のトラクターに後付けするだけで、自動運転が可能になるソリューションを展開しています。GNSSによって圃場内の走行経路を可視化し、自動操舵機能で正確な走行を実現しています。長時間の操縦や熟練者の技術を必要とする農作業も、誰でも簡単かつ高精度に行えるようになります。これにより、作業効率の向上や夜間作業の対応、省力化・省人化が図られ、持続可能な農業の推進に大きく貢献しています

参照ページ:GNSSガイダンスシステム・自動操舵システム - 農業|ヤンマー

・ドローン運用の事例:災害対応とインフラ管理における活用

国土交通省では、GNSSとドローンを組み合わせた取り組みが各分野で進んでいます。たとえば、河川管理では、GNSSを活用したドローンによる自律飛行で広大な河川区域の巡視を実施し、氾濫リスクや不法占拠の把握に活用されています。

また、道路・鉄道の分野でも、橋梁やトンネルの点検にドローンを導入することで、作業員の安全確保と効率化が図られています。さらに、被災地ではドローンとGNSSを用いた三次元マッピングで土砂災害や浸水状況を即時に把握し、復旧計画に役立てられています。これらの実用化は、レベル3の目視外飛行の制度整備や民間連携によって、さらに拡大が期待されています。

参照ページ:国土交通省のドローン活用事例

・建設現場での効率化:三共建設の事例

北海道士別市に拠点を置く三共建設株式会社では、GNSS受信機「HiPer SR」と携帯端末「監督さん.V」を組み合わせることで、従来2人以上で行っていた丁張り作業を1人で完結できるようにしました。これにより、視通が効かない現場でも作業効率が大幅に向上し、人手不足への対応や施工精度の向上にも貢献しています。特に山間部や広域現場における測量・施工管理の自動化・省力化の面で、高精度GNSSの導入は大きな効果を発揮しています。

建機の自動運転や、土工量の正確な把握などにもGNSSが使われています。これにより施工の効率化や省人化が図られ、慢性的な人手不足への対応策ともなっています。

参照ページ:GNSS活用事例(HiPer SR) / 三共建設株式会社 / 2014年11月 | トプコン ポジショニング ウェブサイト

編集後記

GNSSは、単なる「現在地を知るための技術」から、あらゆる産業の基盤インフラへと進化しています。スマート農業やドローンといった新領域はもちろん、既存の物流や土木といった産業にも革新をもたらしています。今後、都市インフラや宇宙産業との融合も視野に入り、GNSSの果たす役割はますます拡大していくでしょう。企業としてもこの技術の進化に注目し、新しいサービスや事業機会に活用する姿勢が求められます。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

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  • 木元貴章

    木元貴章

    • 有限会社Sorgfalt
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  • 小岩井悠太

    小岩井悠太

    • 不動産投資会社
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