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観光の新しい形「サステナブルツーリズム」とは?オーバーツーリズムの処方箋としての側面や成功事例を解説

観光の新しい形「サステナブルツーリズム」とは?オーバーツーリズムの処方箋としての側面や成功事例を解説

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新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーや、それらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。

今回取り上げるのは「サステナブルツーリズム(持続可能な観光)」です。気候変動やオーバーツーリズムといった課題に直面する中、観光業界でも持続可能性を重視した新たなモデルが求められています。この記事では、サステナブルツーリズムの基本的な定義から背景、国内外の実例、今後の展望までを簡潔に解説します。

経済・環境・社会の観点からなるサステナブルツーリズムとは

サステナブルツーリズムとは、観光による経済的な恩恵を維持しつつ、環境や地域社会への悪影響を最小限に抑え、観光地の文化的・自然的価値を次世代に継承することを目的とした観光のあり方です。

国際連合世界観光機関(UNWTO)は、サステナブルツーリズムを「現在および将来の経済的、社会的、環境的影響を十分に考慮に入れ、訪問者、産業、環境、地域社会のニーズに応える観光」と定義しています。

その中には以下の3つの要素が含まれます:

・環境保全:自然資源や生態系を保護し、観光がもたらす環境負荷を軽減する

・社会的包摂:地元住民との関係性を重視し、観光による恩恵を地域にもたらす

・経済的持続性:観光によって地域の雇用や収入を安定させる

このように、サステナブルツーリズムは単なる観光スタイルではなく、観光産業の持続可能な成長戦略と位置付けられています。

参照ページ:サステナブル・ツーリズムの推進|日本政府観光局

サステナブルツーリズム推進の背景にあるオーバーツーリズムの影響

サステナブルツーリズムを語るうえで避けて通れないのがオーバーツーリズムです。オーバーツーリズムとは、観光客の数が観光地の受け入れ能力を超えた状態を指し、地域の環境、社会、文化に悪影響を及ぼす現象です。特定の人気観光地に旅行者が集中することで、自然景観の損傷、騒音・ゴミ問題、交通渋滞、家賃や物価の高騰、地域住民の生活環境の悪化など、深刻な問題が顕在化しています。

例えば、イタリアのヴェネツィアではクルーズ船による大量の観光客流入が住民の生活に支障をきたし、街の景観や環境への影響が国際的な議論を呼びました。スペイン・バルセロナでも、観光客向けの短期賃貸住宅の急増により住宅価格が高騰し、地元住民の住環境が脅かされています。日本でも、京都や鎌倉などの観光都市で同様の課題が指摘されており、通勤・通学への影響や観光公害が問題となっています。

オーバーツーリズムは、地域の観光資源を疲弊させるだけでなく、観光そのものへの拒絶反応を引き起こすリスクもあります。そのため、観光地では訪問者数の制限や入場料制度の導入、地域住民との協議による観光戦略の見直しなど、対策が求められています。こうした背景から、より分散型で持続可能な観光のあり方としてサステナブルツーリズムへの関心が高まっているのです。

参照ページ:オーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた取組 | 持続可能な観光地域づくりのための体制整備等の推進|観光庁

サステナブルツーリズムが注目される背景

サステナブルツーリズムが注目される背景には、オーバーツーリズムだけでなく以下のような社会的・環境的課題の顕在化があります。

・気候変動と環境意識の高まり

観光は交通手段(特に航空機)や宿泊施設のエネルギー消費により、温室効果ガスの排出源にもなっています。持続可能な旅の方法を模索する動きが広がっています。

・地方創生と観光の役割

観光は地域経済の牽引役である一方で、地域資源の過剰利用は地域の魅力を損なうリスクもあります。持続可能な観光によって、地域の価値を守りながら長期的に経済効果をもたらす必要があります。

・コロナ禍からの観光再設計

新型コロナウイルスによるパンデミックは観光業界に大打撃を与えましたが、それを機に観光のあり方を見直す動きが加速しました。より質の高い体験や分散型観光が重視されるようになっています。

国内外のサステナブルツーリズムの事例

・北海道・ニセコ町のエコツーリズム

ニセコ町では、豊かな自然環境とアウトドア資源を活用しつつ、エコツーリズムの普及に力を入れています。地元住民がガイドとなる仕組みや、自然環境を学ぶプログラムを通じて、訪問者と地域住民との持続的な関係構築を目指しています。

参照ページ:持続可能な観光 (サステナブル・ツーリズム) | 観光・イベント | 北海道ニセコ町

・小豆島・棚田の景観保全ツアー

香川県の小豆島では、棚田の美しい景観と農業体験を組み合わせた観光プログラムが人気です。参加者の一部費用が棚田保全活動に使われるなど、観光と保全の両立を図っています。

参照ページ:【ガイド付き】中山千枚田と農村歌舞伎舞台を満喫する散策&体験ツアー

・「欧州グリーン首都」に選定されたスロベニア・リュブリャナ市

リュブリャナは環境配慮型都市として知られ、市内中心部では車両の乗り入れを制限し、公共交通機関や自転車シェアの導入を進めています。2021年には「欧州グリーン首都」に選ばれ、持続可能な観光のモデル都市として評価されています。

・コスタリカの自然保護と観光

コスタリカでは国土の25%以上が自然保護区に指定されており、観光収入の多くが環境保護に再投資されています。エコロッジや自然観察ツアーが観光客に人気で、自然と経済の好循環を実現しています。

サステナブルツーリズムの今後の展望と課題

サステナブルツーリズムの普及には、多くの可能性と同時に課題も存在します。

・データの可視化と評価指標の整備:観光地の環境負荷や地域経済への貢献を定量的に測る仕組みが求められます。

・民間企業・自治体の連携強化:宿泊業者、交通機関、地方自治体が連携し、持続可能な観光モデルを共創する必要があります。

・訪問者の意識改革:旅行者自身も持続可能な行動(ゴミの持ち帰り、地域経済への配慮など)を意識することが不可欠です。

・サステナブル認証制度の普及:観光事業者の持続可能性を評価する第三者認証の整備が、信頼性のある選択基準となります。

日本においても、環境や文化を守りながら観光を成長させるためには、地域主導の取り組みと、旅行者との共創が不可欠です。

編集後記

サステナブルツーリズムは単なる「流行」ではなく、観光業界が将来にわたって持続するための必須条件となりつつあります。とりわけ日本のように観光資源が豊富な国においては、環境と経済、地域社会をバランスよく育む観光戦略が求められます。今後は自治体や企業だけでなく、旅行者一人ひとりの意識が鍵を握ることになるでしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)

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