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神奈川県『YAK』始動から1年――自治体×ベンチャー連携の“仕組み化”で見えてきた成果と次の課題

神奈川県『YAK』始動から1年――自治体×ベンチャー連携の“仕組み化”で見えてきた成果と次の課題

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神奈川県は、大企業との共創プログラム『BAK(バク)』のノウハウをもとに、2025年度から自治体とベンチャー企業をつなぐ『YAK(ヤク)』(=エール“ガバメント×ベンチャー”アライアンスかながわ)を始動させた。県や市町村がベンチャーと連携して、課題の解決や新事業の創出に取り組む事業だ。採択プロジェクトには300万円〜750万円の支援金が提供される。

『YAK』の始動から1年、プログラムは確かな成果を生み出している。初年度は神奈川県のほか複数の市町村が参画し、27の具体的な課題テーマを提示。それに応じたベンチャーとともに、地域コミュニティの活性化や資源循環の推進など、社会実装に向けた多彩な実証プロジェクトがスピーディーに走り出した。

本記事では、この先進的な取り組みを牽引する神奈川県 産業振興課の上野哲也氏と武山周平氏にインタビューを実施。手探りで駆け抜けた1年間の振り返りや、始めたからこそ得られたリアルな手応えと、見えてきた官民連携の難しさ、克服に向けたヒントなどを詳しく伺った。

『BAK』のノウハウを自治体連携へ応用、官民双方のニーズを捉えて仕組み化

――大企業とベンチャーの共創プログラム『BAK』に続き、2025年度から新たに自治体とベンチャーをつなぐ『YAK』を立ち上げられました。その背景を教えてください。

上野氏 : 大企業とベンチャーによる『BAK』は、令和元年(2019年)に開始し多くの連携事例が生まれました。中には、『BAK』をきっかけにM&Aに至るケースもありましたし、実証実験から製品・サービス化されて世の中に送り届けられる事例も増えています。

『BAK』の活動を続ける中で、多く寄せられるようになったのが「自治体と連携して社会課題解決に取り組みたい」という声です。この声を聞き、大企業との連携支援以外に、自治体と直接、連携できる仕組みも必要だと考えました。

社会課題が複雑・多様化している中、行政単独の力や人員だけでは解決が困難な状況もあります。自治体側にも、民間と連携して課題解決を進めたいというニーズが少なからずあるのではないかと考え、昨年『YAK』を立ち上げることにしました。

また、『BAK』の活動を通して出会いの機会をつくり、伴走支援により具体化して新サービスとして世の中に送り出すという「型」が、ある程度完成していたため、この型を自治体との連携にも応用できるのではないかと考えたのです。

▲神奈川県 産業労働局 産業部 産業振興課 ベンチャー支援グループ グループリーダー 上野哲也氏

――『YAK』が立ち上がる前、「自治体と連携したい」というベンチャーの声に対して、どのように対応されてきたのですか。

上野氏 : 個別に依頼を受けたら、私たち県職員が関係部署や市町村に相談をし、意見交換の場を設けるなどしていました。ただ、仕組み化されていない中では、どうしても「飛び込み営業」のようになります。市町村側から見ると、個別の持ち込み案件に対して「なぜ、その企業とだけ組むのか」を説明するのは極めて困難です。行政には、公平性や機会の平等といった大原則があります。やはり、行政側としても手順を踏める明確なプロセス、つまり「仕組み」があった方が進めやすいのだろうと考えました。

――なるほど。そうして誕生したのが『YAK』ですね。

武山氏 : はい。これまでは、ベンチャー側から「自治体と連携したい」と働きかけ、行政はそれに協力するという姿勢であるケースがほとんどでした。一方、『YAK』ができたことで、行政側から「こうした課題を解決したい」と提案し、それにベンチャーが参画する座組みが生まれました。これにより、行政側にもベンチャーと連携する大義名分ができ、取り組みが前に進みやすくなったのです。

▲神奈川県 産業労働局 産業部 産業振興課 ベンチャー支援グループ 主査 武山周平氏

――自治体とベンチャーが連携し、課題解決に挑むプログラムは、神奈川県では初の試みと伺っています。県や市区町村内では期待の声がある一方で、不安や懸念もあったのではないでしょうか。

上野氏 : 県の産業振興セクションからは、「良い取り組みだね」と前向きに受け止められましたし、県議会からも官民連携を進めるべきだという意見をいただくなど、全体としては好意的な反応が多かったです。

一方で、実際にプログラムに参加する個々の部署からは、「既存の業務とどう両立させるか」といった戸惑いや懸念の声もありました。こうした取り組みが将来的にどうプラスに働くのか、まだ想像しづらい部分もあったため、初年度は特に丁寧な説明を重ねることを意識しましたね。

流木活用のサングラスから地域コミュニティの創出まで――1年目を走り終えて見えた『YAK』の成果

――2025年度にスタートした『YAK』ですが、この1年間でどのような成果が生まれたのでしょうか。具体的なプロジェクトや課題解決事例についてお伺いしたいです。

武山氏 : 神奈川県ではさまざまなプロジェクトが動き出しました。中でも特に印象に残っているのが、オケアノース社と県の資源循環推進課による流木活用のプロジェクトです。これまで海岸やダムなどに流れ着いた流木は焼却処分されることが多く、環境負荷や処理コストが課題となっていました。そこで、流木を活用してサングラスを製造する取り組みが始まりました。

▲「流木」を粉末に加工して混ぜ込んだバイオプラスチック製のサングラス(画像出典:神奈川県HP

プロジェクトを進める中で、「流木が誰のものなのか」という解釈が課題となったのですが、関係者で協議を重ね、法律上の解釈を整理したことで、流木を材料として安定的に供給できる道筋をつくることができました。

実は『YAK』開始当初、最終的に自治体への導入がゴールとなる事例が多くなると想像していました。しかし、このプロジェクトでは、自治体も連携して法律上の解釈を整理することで、新たな仕組みづくりにつなげることができました。こうした成果もあるのだという意味で、強く印象に残っています。

――県だからこそ果たせる役割があったということですね。神奈川県との連携に加え、県内の市町村との連携事例も数多く生まれていると伺っています。

武山氏 : はい。ありがたいことに、初年度から多くの市町村の皆さんにご参加いただきました。例えば、横須賀市では介護施設と連携し、介護人材の離職防止を目的とした職場サーベイを実施しました。横浜市では離婚後の親子交流を広げていくための仕組みづくりを進めていますし、茅ヶ崎市では公民館を活かした子どもの居場所づくりに取り組んでいます。

また、前述した法令解釈の取組や自治体によるサービスの導入、年度を跨いだ共創プロジェクトの継続など、自治体とベンチャーが連携して様々な成果を残されています。

市町村は県よりも住民に近い立場にあり、離婚後の親子交流や地域コミュニティの活性化など、日常生活に密着した課題と日々向き合っています。こうしたテーマに関心を持つベンチャーも多いため、初年度から県庁の各部署にとどまらず、市町村の皆さんにも参画いただける座組みをつくることができたことは、非常に良かったと感じています。

――実際、参加した自治体担当者の皆さんからは、どのような声が上がっていますか。

武山氏 : 自治体側の参加者の皆さんからは、実証に活用できる支援金があることを評価いただく声が多く出ています。本来であれば、新たな取り組みを進める際には、予算を確保する必要がありますが、それほど容易ではありません。一方、『YAK』では支援金を用意しているので、それを活用しながら実証に取り組むことができます。そのため、「まずは試してみたい」という段階でも参加しやすいという声をいただいていますね。

――自治体側にとっても、新しいチャレンジに踏み出しやすくする仕組みになっているのですね。ベンチャーからは、どのような反響やフィードバックが寄せられましたか。

武山氏 : 自治体には、行政特有の意思決定プロセスや組織、法令・条例による制約があります。ただ、『YAK』では自治体側から「ここまでならできる」という自由裁量の範囲を示してもらえることが多く、ベンチャーも動きやすいようです。その結果、「自治体との連携が想像していたよりも早く進んだ」といった声を多く聞きました。

自治体での予算化だけがゴールではない――民間市場での事業拡大も見据えた「出口」の設計

――昨年度の『YAK』全体を振り返ってみて、どのような手応えをお感じですか。

上野氏 : 採択されたプロジェクトについては、自治体側の熱量が非常に高く、ベンチャーのスピード感に引けを取らない活動量で取り組まれていたことが印象に残っています。また、『YAK』での実証で終わるのではなく、今年度も連携した取り組みが続いているプロジェクトが多くあります。

中には、製品やサービスのローンチに向けて進んでいるものや、成果が認められたことで予算化されて継続している例もあり、初年度としては非常に大きな成果を残せたのではないかと思います。

――自治体連携ならではの難しさや、今後の課題についてはどのようにお考えですか。

上野氏 : 大企業と連携する『BAK』と異なり、自治体と連携する『YAK』の難しさは、実証後の出口をどう設計するかです。自治体は民間企業ではないため、「ビジネスを一緒にやっていきましょう」という形にはなりにくいと思います。

では、どのような出口が考えられるのか。一つは、自治体が解決すべき課題として予算化し、ベンチャーに発注することで取り組みを継続していく形です。ただ、これだけがゴールだとは考えていません。

もう一つの出口として、自治体との連携・実証をきっかけに、他の民間企業との共創につながったり、資金提供を受けて事業化が進んだりするケースもあると思います。そうした形でビジネスとして自走していくモデルも、今後の『YAK』では増やしていきたいと考えています。

――出口の設計が一つの鍵になるということですね。

上野氏 : はい。今後は『YAK』の出口のパターンを整理しながら、「このプロジェクトにはどのような出口が考えられるのか」を早い段階で示していきたいです。そうすることで、自治体側もベンチャー側もゴールをイメージしやすくなり、より取り組みを進めやすくなるのではないかと期待しています。

――今後、『YAK』をどのように発展させていきたいとお考えですか。

上野氏 : 今後は、事例を積み重ねていきながら、県や市町村の多くの部署が、「自分たちも参加したい」と思えるような取り組みにしていきたいです。事例の横展開も重要だと考えています。例えば、小田原市で取り組んだ地域コミュニティの活性化は、多くの自治体に共通するテーマです。こうした先行事例を積極的に発信することで、一つの自治体で生まれたモデルケースが、県内外の自治体へ広がっていくよう後押ししていきたいと思います。

――武山さんはいかがですか。

武山氏 : こうした取り組みそのものを、より多くの自治体に知ってもらいたいと考えています。私自身、この部署(産業振興課)に来るまでは、オープンイノベーションやベンチャーとの連携についてほとんど知りませんでした。おそらく、同じような自治体職員の方も少なくないと思います。『YAK』は、自治体の課題解決に向けて大きな可能性を持つ取り組みです。だからこそ、この活動を継続しながら、その価値を少しずつ広げていきたいですね。

大切なのは相互理解とリスペクト――官民オープンイノベーションを結実させるためのヒント

――ここまでさまざまな事例を伺ってきましたが、官民連携に取り組むうえで大切なことは何だとお考えですか。

上野氏 : まだ「こうすれば必ずうまくいく」という答えを示せる段階ではありませんが、まず大切なのは、官民それぞれの立場や考え方の違いを理解することだと思います。行政には公平性や機会均等といった原則があり、どれだけ素晴らしい取り組みであっても、それだけですぐに連携できるわけではありません。

そのため、ベンチャー側に対しては、自社のサービスありきで考えるのではなく、自治体がどのような課題を抱え、何を優先しているのかを理解することが重要だと思います。そのうえで、課題解決に向けて自社のサービスをどう活かせるのか、あるいはどう変えていけるのかを考えることが大切です。そうした柔軟な姿勢が、官民連携を進めるうえで欠かせないのではないかと思います。

――自治体側に対してはいかがですか。

上野氏 : 自治体にはさまざまな役割があると思っています。公平性を担保しながらも、広報・プロモーションを一緒に進めたり、基盤づくりをしたり、自治体ならではのネットワークや信頼性を活かして民間同士をつなぐ旗振り役になったりすることもできます。

また、法令や条例を読み解いたり、「ここまではできる」というラインを一緒に考えたりすることも、自治体だからこそ発揮できる価値だと思います。そうした支援は、ベンチャーにとって大きな力になるのではないでしょうか。

武山氏 : 私からは別の視点でお話しすると、ベンチャー連携は通常の官民連携とは少し性質が異なると思います。今までの官民連携では大企業の既存プロダクトを自治体が導入して運用するということが多かったと思いますが、それとは違い、『YAK』は自治体とベンチャーが一緒にプロダクトを生み、育てていく関係性になるため、自治体側には懐の広さや柔軟な姿勢が求められると思います。

また、ベンチャーが並々ならぬ覚悟で事業に取り組んでいる存在であることへのリスペクトを持つことも、こうした連携を進めるうえで欠かせない視点です。そうした姿勢で臨むことで、これまで解決が困難だった痒いところに手が届くような課題解決につながる可能性も大いにあると感じています。

――最後に『YAK』への参画を検討するベンチャーや自治体に向けて、一言メッセージをお願いします。

上野氏 : 神奈川県は人口が多く、観光、ヘルスケア、防災、農林水産業など、多様な分野の課題があります。自治体と一緒に課題解決へ挑戦できる魅力的なフィールドだと思いますので、ベンチャーの皆さまにはぜひ技術やアイデアを提案いただきたいです。また、自治体の皆さまにとっても、この制度が新たな挑戦の機会になると思います。私たちも精一杯サポートしますので、ぜひ思い切って参加していただきたいです。

武山氏 : オープンイノベーションに馴染みのない自治体も多いと思いますが、『YAK』ではベンチャーの皆さんと出会い、連携しながら、2者だけのやり取りではなく、私たちも伴走して進めていきます。これまで動きづらかったことに挑戦するきっかけにもなると思いますので、ぜひ『YAK』を事業や政策を変える一歩として活用していただければと思います。

取材後記

『BAK』で培われたノウハウ・知見をもとに、「どうすれば自治体が動きやすいか」「どうすればベンチャーの事業成長につながるか」が丁寧に設計された『YAK』。初年度から多くの連携プロジェクトが動き出し、それぞれの形で出口を描き始めている。このリアルな実践知は、次に取り組む挑戦者たちの頼もしい道標にもなるだろう。2026年度の『YAK』も走り出している。先駆者たちが灯した火を継ぎ、新たな可能性へチャレンジしてみてはどうか。

(編集:眞田幸剛、文:林和歌子、撮影:齊木恵太)

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