半年で100社とミートアップ。共創を進める過程で見えてきた新たな仲間像とは
マンション、ビル、商業施設、ホテルなどの建物管理サービスを中心に、より豊かな「人・街・暮らし」を支援するサービスを展開してきた大和ライフネクスト株式会社。実際に約36万戸にも及ぶ分譲マンションのほか、約3500棟ものオフィスや店舗を管理する同社は、「LEAD NEXTYLE」をビジョンに掲げ、既存事業のビジネスモデルの刷新や、新規事業創出の取り組みを推進している。
2019年春からは「BEYOND NEXTYLE」と題したオープンイノベーションプロジェクトにも乗り出し、イノベーションに取り組んできた。半年という期間をかけておよそ100社もの企業と出会いながら、共創の可能性を探り、“仲間像”を絞り込んできた。そして今後は、これまで半年に渡ってプロジェクトを運営して得た経験や課題を元に、テーマをブラッシュアップ。より事業部の課題に根差した以下4つのテーマを設定し、募集を行うこととなった。
①様々なコミュニティに特化した住宅・施設の共同開発・展開
②分譲マンション居住者のライフタイムバリューを高める共同商品設計
③新たな技術・テクノロジーを活用した修繕工事のアップデート
④現場管理スタッフの最適な配置や省人化の実現
今回は、本プロジェクトをリードする経営企画室3名にこれまでの振り返りを伺いつつ、4つのテーマの担当者にインタビューを実施。リアルな課題や目指す姿、提供できるリソース、共創したい仲間像などについて詳しく話を聞いた。
半年で100社からの応募――より精度を高めるため、各事業部との連携を強化
まずは、経営企画室の鯨井氏、小泉氏、福田氏に、半年間の振り返りと、今後のビジョンについて話を伺った。
<写真左→右>
経営企画室 マネージャー 鯨井輝一氏
経営企画室 小泉香氏
経営企画室 福田篤氏
――これから各事業部との連携を強化していくとのことですが、まずは2019年春から約6カ月間プロジェクトを実施した実感値と現状の課題について聞かせてください。
鯨井氏:半年間で既に、100社近くからアプローチをいただいております。現在は、各社様との面談を進めており、共創シナジーがありそうな企業様がいらっしゃれば、各事業部に接続しているところです。
最初は幅広く募集を掛けていたことから、本当に多くのご提案をいただきました。その中から、お話が進んでいく企業様の傾向を踏まえると、事業部側が各企業様のお取組みに興味をもっているのが大きいということがわかりました。
私達もプロジェクトメンバーとして、面談や事業部への連携で終わらずに、次の「共創」ステージに行けるような出会いをもっと増やしたいと考えていく中で、会社として重点的に取り組むべきテーマを絞った方が、お会いする企業様とより深いコミュニケーションが取れるのではないかと考えました。
そこで、今一度事業部との連携を強化し、各事業部の課題に合わせたテーマ設定を行うことにしたのです。
――100社くらいの企業から応募があったとのことですが、その中で手応えを感じた領域はありましたか?
小泉氏:今回のテーマ設定にもありますが、コミュニティ型住宅・施設や、省人化など業務改善の領域には、手応えを感じています。また、現在もお話を進めている企業様は、他にはない強みや尖ったコンセプトを持っていらっしゃるだけでなく、弊社の今後のビジョンに共感していただけており、同じ思想を目指して進めていただけるという点でも非常にマッチしています。
――取り組みをスタートして、社内や経営層からの反応はいかがですか?
鯨井氏:こうした共創の取り組みは、すぐに成果が表れるものではないということは、しっかりと理解をしてもらっています。今回、修繕工事をテーマの1つに設定しておりますが、これは工事部門が経営層に課題を相談した際、経営層から経営企画室に声が掛かり、連携が実現したものです。
――今回4つのテーマを設置した背景を聞かせてください。
福田氏:まず、「様々なコミュニティに特化した住宅・施設の共同開発・展開」は、鯨井が申し上げたように、この半年で手応えを感じた領域です。当社の中期経営計画でも、特徴的な施設のブランドを伸ばしていこうという方向性が示されています。その流れの中で、尖ったコンセプトを持つベンチャー企業とのマッチングを図りたいと考えています。
次に、「分譲マンション居住者のライフタイムバリューを高める共同商品設計」については、これまでターゲットがぼんやりとしていました。それをもっと掘り下げて“管理会社ならでは”のサービスを企画していきたいと思い、設定しました。
3つ目は、「新たな技術・テクノロジーを活用した修繕工事のアップデート」。こちらは、先ほど鯨井が申し上げたように、工事部門からの要請によるものです。
最後に「現場管理スタッフの最適な配置や省人化の実現」です。当社はマンション管理を手がける会社ですが、従来のビジネスモデルでは成長が難しくなっています。そこで既存プロセスの効率化を行い、人的リソースなどを新たな領域に投じることで、ビジネスモデルを再構築していく必要があります。そこでいい技術があればぜひ共創したいと考えています。
――これからまた共創プロジェクトを進めていく中で、改めて目指していく姿やビジョンを聞かせてください。
鯨井氏:まず、今年度中にはPoCに取りかかり、何かしらの結果を得たいと考えております。また、共創相手としてはサービスやプロダクトを持つスタートアップやベンチャーはもちろん、中小企業や大企業も視野に入れております。ぜひご応募をお待ちしております。
テーマ① 様々なコミュニティに特化した住宅・施設の共同開発・展開
最初にお話を伺ったのは、ファシリティコンサルティング事業部事業開発部の安倍氏。同部門は、分譲マンション以外の建物を対象に、サブリース、売買、企画運営を行う。法人向け社員寮の「エルプレイス」シリーズや、コミュニティ型賃貸住宅「L-commu+PLUS(エルコミュプラス)」を展開。そして2019年6月には大型ホステル「THE STAY OSAKA心斎橋」を開業した。
同部門が取り組むテーマは、【様々なコミュニティに特化した住宅・施設の共同開発・展開】だ。具体的には、単身者・共働き世帯向け・職種別・地方向けなど、特定の領域に特化したコミュニティに向けた施設展開や、現在展開する住宅・施設へのコンテンツの充実を目指すという。
▲ファシリティコンサルティング事業部 事業開発部 事業開発二課 課長 安倍達也氏
――今回設定したテーマの背景にある課題について教えてください。
安倍氏:主力商品である社員寮「エルプレイス」は首都圏中心に56棟、4500室を運営し、業界2位というポジションを築いています。社員寮を自社で保有する企業が少なくなる中で、成長している事業です。そして最近では「L-commu+PLUS(エルコミュプラス)」といったキッズスペースやカフェのような入居者間のコミュニュケーションを図ることができるコモンスペースを設けたファミリー向け賃貸マンションの開発も進めております。
このように、時代のニーズに合わせた事業展開をしているのですが、当社はマンション管理会社というイメージが強く、こうした事業の認知はまだ進んでおりません。そこで、既存施設のコンテンツ充実化によるブランド力向上や、魅力的なコミュニティ型住宅・施設の企画運営を推進したいと考えています。
――共創相手として、どのような企業をイメージしていらっしゃいますか?
安倍氏:当社の商品を広げられるような相手と組んでいきたいです。たとえば既存施設であれば、建物全体の価値を上げられるような店舗だったり、イベントスペースの企画をしたり、様々なアイデアを頂けるような企業であればありがたいですね。また、物件情報が多く入るような仕組みを作ることができる企業と組むことができたら、と考えています。
――今回の取り組みによって、共創相手にはどのようなリソースを提供できるでしょうか。
安倍氏:施設のデザイン・設計・施工・管理・運営フェーズには実績とノウハウは強みです。また、当社は管理人を自社で雇用しているため、人に対する強みもあります。また、社員研修施設や「THE STAY OSAKA心斎橋」など、他社との共創で生まれた事例が多数。外部からの提案を受け入れ、新たなサービスを生み出す“共創気質”が強い会社だと思います。ぜひ声を掛けてください。
テーマ② 分譲マンション居住者のライフタイムバリューを高める共同商品設計
続いてお話を伺うのは、ライフソリューション事業部の山田氏だ。マンションの居住者が暮らすスペース(専有部分)向けサービスの企画・開発・運用を行う同部門。リフォーム、ハウスクリーニング、宅配クリーニング、防災、ホームセキュリティなど、幅広い商品を展開している。
今回掲げるテーマは、【分譲マンション居住者のライフタイムバリューを高める共同商品設計】。「食育・教育」など子育て家族の暮らしを支えるサービスや、「介護・医療・終活」などシニア世代に向けた支援サービスなどの開発に取り組もうとしている。
▲ライフソリューション事業部 ライフソリューション部 ライフサポート課 山田絢子氏
――ライフソリューション事業部では、今回の共創でどのような課題の解決に取り組んでいくのでしょうか。
山田氏:大きく2つの課題に取り組んでいきます。1つは、マンションに入居者様の生活を向上させる商品やサービスの発掘です。世の中には、便利なのに埋もれてしまっている商品・サービスがたくさんあります。それを掘り起こして、入居者様に紹介していきたいと考えています。
もう1つは、新たなサービスの企画・開発です。生活していく上でのお困りごとに対する解決策を新たに考えていきたいと思っています。また、当社が管理する約6000棟のマンションには、36万世帯がお住まいです。そこからニーズを吸い上げて、企業に提供することも検討しています。
――新たなサービスの利用促進は、どのような手法で行っているのでしょうか。
山田氏:「ライフネクストinfo」という生活情報誌を制作し、3カ月に1回全国27万世帯に配布しています。これは日々の暮らしや家事などの情報はもちろん、当社の商品・サービスについての情報も掲載したり、チラシを折り込んだりしています。
たとえば、私は宅配クリーニングを担当しているのですが、数年前は利用数が単月で30件ほどでした。そこで、利用プロセスを可視化した特集を組んだところ、認知が進み、現在では単月で1000件ほどのご利用を頂くまでになりました。
――27万世帯ものユーザーにリーチできるというのは、大きな強みですね。
山田氏:管理会社からのお知らせとして、直接ポストに投函するため、普通のチラシより遥かに開封率が高いです。また、地域に合わせたサービスの場合は、配布地域を絞ることも可能です。さらに、情報誌だけではなく、「ライフネクストアプリ」と言う入居者向けの生活情報配信アプリを活用することもできるので、多様な情報発信ができます。
今回、「食育・教育」や「介護・医療・終活」などを挙げていますが、私たちの部署では、タブーを設けず何でも取り扱えます。そのため、細かなことでも突拍子のないことでも、まずは聞かせていただきたいですね。
テーマ③ 新たな技術・テクノロジーを活用した修繕工事のアップデート
大和ライフネクストが管理するマンションの修繕全般を手掛ける工事部。マンションの長期修繕計画の策定、建物の診断、そして工事のコンサルティングといった領域を担当している。同部門が設定するテーマは、【新たな技術・テクノロジーを活用した修繕工事のアップデート】だ。具体的には、下記3点を目指す。
●ロボット・ドローン等の活用による、修繕作業や建物調査の自動化
●塗装・防水などの長期保障できる材料や、環境配慮型の新たな材料の共同開発
●アスベスト含有状態の把握、超音波等で外壁タイルの浮き状況を把握など、新技術による建物診断の効率化
現状の課題や提供できるアセットについて、東日本技術サービス工事部 部長の中町氏に聞いた。
▲東日本マンション事業部 東日本技術サービス工事部 部長 兼 東日本技術サービス管理部 ゼネラルマネージャー 中町弘光氏
――工事部として抱えている課題について聞かせてください。
中町氏:これからの日本は、高経年マンションが増えていきます。それに加えて、修繕積立金もどんどん足りなくなる管理組合が増えてきます。そこを解決するための検討を私たちは進めています。
1つの手段としては、修繕期間を延ばすことです。5年や10年といった決められた期間に従って修繕を行うというよりは、建物の状態を把握して修繕の必要性をジャッジした上で、お客様の負担を軽減する取り組みを進めています。
また、長期保障ができる材料の開発もメーカーと協議をしながら進めています。これは業界の慣習を覆す取り組みですから、容易なことではありません。しかし、課題が顕在化している今、誰かが変えていく必要があります。私たちは顧客志向で、業界を変えていきたいと考えています。そこに一緒に取り組んでいただける共創相手を求めています。
――業界の当たり前を変えていく中で、求める技術やアイデアとは?
中町氏:例えば、ドローンによる診断や、外壁の修繕ロボットです。建物の診断や修繕の時に足場を組みますが、そこには大規模修繕工事費全体の2割ほどの費用が掛かります。そこをテクノロジーの力で変えていくことができれば、費用を抑えることができます。また、労働力の減少といった課題の解決にもつながります。防水などで長期保証ができる材料の開発も進めていきたいです。
一方で、アスベスト含有状態の数値計測機器や、外壁タイルの状況を把握する機械も、現状のものはあまり精度が高くありません。新たな技術によってそれをより精緻に把握できれば、さらに建物診断が効率化できると考えています。
――外部パートナー企業に対して提供できるアセットについて聞かせてください。
中町氏:一言でまとめると、「数」が大きな強みです。私が担当する東日本エリアだけでも、大規模修繕工事が年間120~150件ほど。しかも、立地、環境、形状など様々なマンションがあります。これらがすべて実証実験の場の対象になり得るのです。
また、データも蓄積しています。たとえば、どの立地のどんなマンションが、何年周期で修繕工事をしているのか、そうしたデータを取っている企業はそれほど多くないため、色々な取り組み方ができるはずです。業界全体の課題に対して、一緒に取り組んでいただける企業を歓迎します。
テーマ④ 現場管理スタッフの最適な配置や省人化の実現
最後にお話を伺うのは、マンション事業本部 事業部推進部 部長の鈴木氏だ。マンション管理を担う同部門のテーマは、【現場管理スタッフの最適な配置や省人化の実現】。具体的には、最適配置を行う新たなマッチング・シフト管理の仕組みや、テクノロジー活用による業務の自動化の実現を目指す。
▲マンション事業本部 事業推進部 部長 兼 デジタルアセットマネジメント推進室 室長 鈴木理文氏
――今回取り組んでいる課題について聞かせてください。
鈴木氏:私が担当しているのは、マンション管理の未来を考えていく“攻め”の領域です。現状、当社は4つの大きな「老い」に向き合っていると私は考えています。
建物そのものの老朽化、居住者の方々の高齢化、マンション管理人として働く人の高齢化、そしてマンション管理のビジネスモデルが古くなることです。私たちが取り組むのは、管理人やビジネスモデルの「老い」の部分です。そうした課題を抱える中で、省人化、省力化、システム化に取り組む必要があります。
――管理人の方々の平均年齢はいくつぐらいなのでしょうか。
鈴木氏:だいたい60歳~70歳がボリュームゾーンです。そのため、システム化といっても、スマートフォンを使いこなせない高齢者でも簡単に対応できる方法を考えていく必要があります。
これは居住者の方々に対しても同じです。マンション管理業として提供するサービスは、居住者様全員が使えるものでなければ意味がありません。そうした問題に共に取り組んでいただける相手を切望しています。
――既に実施している取り組みもあるのでしょうか。
鈴木氏:セキュリティ領域で、巡回管理を画像認識で行っています。省人化の領域では、AIやチャットボットを活用した「無人管理」に取り組もうとしています。
――共創パートナーに、どのようなアセットやリソースを提供できるのでしょうか。
鈴木氏:「人」が最も大きなリソースです。自社で雇用する管理人が現場にいるというのは、大きな強みになるのではないかと考えています。現地に人がいれば、実証実験もやりやすいでしょう。
また、マンション管理業務というものは、様々な細かな業務の集合体です。そのため、業務を分解して、一部を自動化するといったこともできます。お客様とのタッチポイントに関しては、自動化やシステム化は難しい面があると思いますが、そうではない領域はテクノロジーが入る余地があると考えています。
このように現行のビジネスモデルの中で業務を細分化し、省力化・自動化を進めることはもちろんですが、マンション管理のビジネスモデル自体を変革していくアイデアも歓迎します。
取材後記
それぞれの事業部で、具体的な課題感に根差した想いを伺うことができた。また、安倍氏からは「“共創気質”が高い」、山田氏からは「タブーはない」、中町氏からは「業界の慣習を覆す」、鈴木氏からは「ビジネスモデルを変革する」といった、各テーマ担当からイノベーティブな言葉が飛び出してきた。こうしたことからも、同社が課題意識を明確に持ち、外部共創の中で新たなものを生み出そうとしている姿勢が見て取れる。
募集企業の規模は問わず、大企業や中堅企業も共創ターゲットに入っているため、テーマに合致したサービスや商品、アイデアを持つ企業は、ぜひコンタクトを取ることをお勧めしたい。
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(編集:眞田 幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)