新規事業開発を目的に誕生した日本生命グループの新会社Nissay MIRAIQAが共創プログラムをスタート!――共に地域課題解決に挑むパートナーに求めるものとは
2025年11月に誕生したNissay MIRAIQA株式会社(ニッセイミライカ)は、日本生命の社内組織で行っていた新規事業開発を、よりスピーディーかつ機動的に展開するために立ち上げられた新会社だ。「健康寿命の延伸」と「地域課題解決」をテーマに掲げ、保険や金融にとらわれない価値提供を推進している。
同社は自社内で独自に事業開発を行える人材とリソースを有しており、すでに複数のプロダクト・サービスをリリースしている。その一方で、会社立ち上げ当初からオープンイノベーションによる事業開発計画を掲げるなど、スタートアップとの共創にも意欲的だ。
そして今回、同社は、全国のスタートアップから地域課題の解決につながるさまざまな新規事業アイデアを募集し、事業開発に向けて共創を行うプログラム『MIRAIQA Region Canvas』を始動させる。
TOMORUBAではプログラムの開始にあたり、Nissay MIRAIQAのCEOである中氏ほか3名の方々へのインタビューを実施。会社の事業やビジョン、プログラム開催の背景から、スタートアップと共に目指すゴールイメージや提供できるリソース・アセットなどについて、詳しくお聞きした。
「健康寿命の延伸」と「地域課題解決」にフォーカスした新規事業開発を推進
――最初にNissay MIRAIQAの設立背景や事業内容についてお聞かせください。
中氏 : Nissay MIRAIQAは、日本生命の100%出資子会社として2025年11月に誕生した会社です。お客様のニーズが多様化する中、日本生命では従来の生命保険サービスにとらわれない新たな事業を模索していましたが、生命保険会社には法規制による業務範囲やハードルが存在するなど、保険以外の事業の創出や運営が難しい状況にありました。
そのため、日本生命がカバーできていない「お客様の安心な暮らしを多面的にサポートしていく新規事業」を、より機動的に開発することを目指し、Nissay MIRAIQAを立ち上げました。また、Nissay MIRAIQAでは、現時点での事業領域として「健康寿命の延伸」と「地域課題解決」という2つの領域にフォーカスして事業を推進しています。
現在のNissay MIRAIQAは社員数50名弱であり、業務委託のメンバーを含めても100名前後の規模感です。そのため意思決定のスピードは日本生命本体よりも格段に速く、各事業のオーナーに幅広い裁量を与えることもできるなど、新規事業の開発に適した環境が整っています。
▲Nissay MIRAIQA株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 中 元洋 氏
新卒で日本生命へ入社。事務サービスや営業フロントなどの部門を経験。社内起業プロジェクトを機にイノベーション開発室へ異動。Nissay MIRAIQAの立ち上げに参画し、2026年3月より代表取締役社長 兼 CEOを務める。
伊藤氏 : Nissay MIRAIQAの設立当初は日本生命からの出向者が社員の大半を占めていましたが、積極的なプロパー採用を進めてきたこともあり、現状では出向者とプロパー採用者が約半数ずつの割合となっています。特に、医療・ヘルスケア領域のスタートアップで働いていた方々が、当社の事業に興味を持って入ってきてくれるケースが増えています。
医療・ヘルスケアは非常に価値のある事業領域ですが、新しい事業が軌道に乗り、会社として上場するまでには長い期間がかかります。その点、Nissay MIRAIQAは、日本生命からさまざまな面でサポートを受けられるので、当社のような形態がフィットしやすいと考えています。
▲Nissay MIRAIQA株式会社 取締役 COO 伊藤 嘉英 氏
SIerのSEとしてキャリアをスタート。Yahoo! JAPAN、ライフネット生命、カカクコムを経て、2019年よりBCG X(旧:BCG Digital Ventures)にて大企業の新規事業創出をリード。Nissay MIRAIQA設立にともない取締役COOに就任。
――Nissay MIRAIQAというユニークな社名の由来についても教えていただけますか?
中氏 : Nissay MIRAIQAには、日本生命社内の新規事業育成プロジェクトである「AXELX(アクセルエックス)」で事業を創出・展開していたメンバーが数多く参画しています。それらの新規事業の一つひとつは、個々人のパーソナルな課題認識をベースにしたものが多いと感じていました。そのような背景もあり、Nissay MIRAIQAの社名には「ひとりを想う問いから、未来をつむぐ」というタグラインをつけています。
その人が抱えている課題やペインを、私たち自身が「問い(Q)」としてとらえ、より多くの課題を抱える人々への「解決策(A)」を、「未来化」して進めていくソリューションとして届けられる会社を目指したいと考え、Nissay MIRAIQAと名付けました。
――現在、Nissay MIRAIQAとして推進している事業、リリースしているサービスについて教えてください。
中氏 : 日本生命のAXELXの第1号案件でもあった一時保育マッチングサービス「ちょこいく」に関するビジネス展開を引き継いでおり、病児保育を中心に、ToBビジネスが軌道に乗り始めているところです。
また、「健康寿命の延伸」に関連するメンタルヘルスの領域では、AIの思考・感情分析によるフィードバックで自己認知力を高めるジャーナリングアプリ「muute(ミュート)」をリリースしており、180万を超えるダウンロード数を記録しています(2026年6月現在)。
一方、今年度リリースした「SeeBo(シーボ)」は、ゲーミフィケーションを活用して人々の行動をより健康的に変えていくことをコンセプトとした特定保健指導サービスです。今年4月より健康保険組合様への提供を開始しています。
そして最後に紹介する「Lylwith(リルウィズ)」は、「健康寿命の延伸」と「地域課題解決」の双方の領域に関わるサービスです。がん罹患者の方々向けに闘病に必要な製品を販売するECサイトであると同時に、がん闘病を経験された方のエピソードを掲載するなど、闘病生活に必要な商品と情報を合わせて提供していくことをコンセプトとしています。
▲「ちょこいく」は、子育てと仕事の両立を支援する2つの主要サービス(一時保育・病児保育マッチングサービス)を提供している。(画像出典:Nissay MIRAIQA HP)
地域課題に関して良質な「問い」を持ったスタートアップと出会いたい
――今回、スタートアップとの共創を目的としたプログラム『MIRAIQA Region Canvas』を実施するに至った背景について教えてください。
中氏 : 当社は、事業領域の一つに「地域課題解決」を掲げています。ただし、地域の課題は多様かつ複雑であり、まだまだ本質的にとらえきれていない課題が数多く存在していると考えています。私たちは、自社内で0→1から事業を開発していくリソースを有してはいるものの、設立当初からスタートアップの方々とのオープンイノベーションによって事業を進めていく方法も検討していました。
しかし、これまでと同じように事業を推進しているだけでは、スタートアップの方々と出会うチャンスが少ないと感じていたことも事実です。そこで今回のようなプログラムを実施して公募の形を取ることで、地域課題解決に対して私たちと同じ志を持つ幅広いスタートアップの皆さんと出会える機会を作りたいと考えました。
――中さんご自身は、日本生命時代にスタートアップとの共創・協業を経験したことはありますか?
中氏 : 日本生命では、事業開発そのものをスタートアップの方々と行う機会はありませんでした。ただ、Nissay MIRAIQAで立ち上げた「SeeBo」の開発については、私たち一社でアイデアや開発をまとめ上げられたわけではなく、いくつかのスタートアップの皆さんに協力いただきながら開発を進めていきました。こちらについては「幅広い出会いの中で生まれた共創」とは言えませんが、スタートアップの方々と協力し合うことの重要性を改めて認識する機会になりました。
――伊藤さん、坂入さん、鄭さんは、オープンイノベーションやスタートアップとの共創に関して、どのような期待感を持たれていますか?
伊藤氏 : 領域・課題によっては私たち一社で事業を進めていく選択肢もありますが、「地域課題解決」に関しては、資本力や技術力だけでなく、強い思いを持って取り組むべき領域であると考えています。すでに地域課題を解決しようとスタートアップを起業し、事業を回し始めている方々は、当然ながら強い思いをお持ちのはずですし、そのような方々と一緒に事業を創っていくこと自体に大きな価値があると考えています。
坂入氏 : 地域の課題については、多様化・複雑化が進んでいると感じています。Nissay MIRAIQA独自のリソースやアイデアだけでは不十分な面も多々あると考えているので、斬新なアイデアや独自の技術力を持ったスタートアップの皆さんと共創する意義は、非常に大きいと考えています。
▲Nissay MIRAIQA株式会社 事業開発部 シニアスペシャリスト坂入 優治 氏
新卒で日本生命へ入社。国内保険事業を経て、アジアの保険市場開拓のため3カ国に駐在しグローバルなビジネス経験を積む。 2025年より同社のイノベーション開発室へ異動し、Nissay MIRAIQAの立ち上げに参画。
鄭氏 : 当社自身も日本生命の子会社としてスピーディーに事業を推進していますが、スタートアップの方々のスピード感やKPIへのコミットメント力は、さらに一段上のレベルにあると考えています。私たちとしては、そのようなスタートアップの皆さんと共創することで学ばせていただけることも多いと考えていますし、お互いに成長していけるような関係性を築いていきたいと期待しています。
▲Nissay MIRAIQA株式会社 事業開発部 兼 経営企画部 マネージャー 鄭 はるな 氏
新卒で入社した三菱UFJ銀行にてスタートアップとの新規事業共創を経験。その後、Accentureにて金融機関向けのコンサルティング業務を経て日本生命に2024年に入社。現在はNissay MIRAIQAに出向し、スタートアップとの共創プロジェクト推進などを担当。
――続きまして、今回のプログラムを通じて実現したいゴールのイメージをお聞かせください。
中氏 : タイムスケジュール的には、事業アイデアの採択・共創開始(2026年9月頃)から1年後にはサービスをリリースしたいと考えています。現在、日本生命グループでは地域課題の解決に向け、全国の支社がそれぞれの地域で自治体様・地銀様・地域住民の方々などと接点を持ち、さまざまな活動を推進しています。しかし、まだまだ自治体様や地域住民の方々に直接届けられるサービスには、さらなる拡充の余地があるというのが現状です。
そのため1年後には、今回のプログラムを通じて私たちとスタートアップの皆さんで創出したサービスが、日本生命を経由して、いくつかの自治体や地域に届いている状況を目指したいと考えています。
――今回のプログラムでは、大きなテーマとして「地域課題解決」を掲げられていますが、どのようなスタートアップと、どのような課題を解決していきたいと考えていますか?
中氏 : 今回のプログラムでは「あなたが向き合っている地域の課題、私たちにも教えてくれませんか?」というコンセプトを掲げています。これまでにも多くのスタートアップの動向や取り組みを拝見してきましたが、私たちの視点では気づけないレベルで地域に根ざした課題に取り組まれていると感じています。
私たちが求めているのは、まさにそのような「問い」と「思い」であり、まずは良質な「問い」を持ったスタートアップの方々と出会うことが重要だと考えています。そして、私たちが共感できる「問い」に対して、一緒になってサービスを創っていきたいと考えています。
また、具体的な課題の分野・領域については、そこまで明確に定めていません。私たちは日本生命のグループ会社として、一定以上の資本力と開発力を有しているため、私たちが現状で見えている課題であれば、ある程度は自分たちでトライすることができます。だからこそ今回のプログラムでは、今までの私たちの視点では気づけなかった課題と出会ってみたいです。
坂入氏 : 私個人としては、人口減少や高齢化、それらに起因する人手不足などの地域課題に注目しています。また、地域に関わらず、「孤独な育児」を強いられている方々も多いなど、子育ての問題もまだまだ解決されていないので、それらの領域に関するソリューションを手がけていきたいと考えています。
スタートアップ的な機動力+日本生命の豊富なリソースを活用できる強み
――『MIRAIQA Region Canvas』というプログラム名をつけられていますが、どのような思いを込めているのでしょうか?
中氏 : 今回のプログラムの大テーマは「地域課題解決」ですので、地域を「白いキャンバス」ととらえ、自治体様やスタートアップの皆さんと共に「それぞれの地域の未来を描いていく」という思いを込めて命名しました。
まずは全社員にプログラムのネーミング案を提案してもらい、複数の案の中から「共創」の温度感がもっとも柔らかく伝わりやすい『MIRAIQA Region Canvas』を選びました。また、このようなネーミング案の募集を通じて、社内全体にプログラムの意図や取り組み内容を周知することもできました。
――テーマの実現に向けて、スタートアップが活用できる御社の強みやリソースなどについて教えてください。
中氏 : 冒頭でお話しした通り、当社にはさまざまな分野で活躍していた企画力・開発力の高いメンバーが在籍しています。共創の際には、そのようなメンバーと共に機動的かつクイックに開発を進めていただけるほか、ユーザーインタビューに基づくUI設計やデザインにもこだわっており、質の高いプロダクト開発を支援できると考えています。
また、Nissay MIRAIQAは日本生命からの出資を受けていますが、そのような資本をもとに、Nissay MIRAIQA自身がスタートアップに出資することも可能です。さらに拡大期においては、全国に支社や営業所を有する日本生命グループのネットワークを活用いただけることも、私たちと共創いただく際の大きなメリットになると考えています。
伊藤氏 : 一般的な大企業とNissay MIRAIQAのオープンイノベーションの違いは、私たち自身も一歩踏み込んで「スタートアップの皆さんと一緒に考えられること」にあると考えています。大企業のオープンイノベーションでもアセットやリソースの提供を受けられますが、一緒にアイデアをブラッシュアップしたり、プロダクトのデザイン性を高めたりといったプロセスには絡んでこないケースもあると思います。
一方、中が話したように、当社内にはデジタルプロダクトやサービスを作ってきた経験豊富なメンバーがそろっているので、プロダクトやサービスの内容をより良いものに仕上げていく過程で、トータルな支援を行うことができます。
さらに言えば、当社は「AIネイティブの会社を目指す」という目標のもと、全力でAI投資を行っているため、AIを活用したプロダクト開発についても共同で進めることができると考えています。
▲Nissay MIRAIQAが開発・運営するジャーナリングアプリ「muute」は、AIを活用したプロダクトだ。(画像出典:muute HP)
――最後に、『MIRAIQA Region Canvas』へのエントリーを検討しているスタートアップの方々に向けてのメッセージをお願いします。
中氏 : 単純に「私たちが支援します」という関係性ではなく、共創パートナーとして共に事業を創っていきたいと考えています。お互いが共感できる「問い」に対し、共に汗を流すことで、課題解決に向けての達成感を分かち合えるような共創にチャレンジしていきましょう。
伊藤氏 : 私自身、今は東京に住んでいますが、もともと地方の出身です。また、妻の実家の長野に行く機会が多いこともあり、地方の活力ある側面と、解決すべき課題の双方を実感している立場でもあります。地方の元気な部分をさらに活性化し、地方が抱える課題を解決することで、私たちと一緒により良い未来を創っていけるパートナーの皆さんに出会えることを願っています。
坂入氏 : 地域の課題を本気で解決し、「人々の生活を豊かにすることで、より良い未来を創りたい」という強いビジョンを共有できるパートナーの皆さんとご一緒したいと考えています。互いの強みを最大限に生かしながら、長期的に歩んでいけるような関係性を構築していきましょう。
鄭氏 : 地域の課題解決に対して強い思いを持っている方や、事業をスピーディーに成長させていきたい方に集まっていただけると、私たちとの間で素晴らしい化学反応が起きるのではないかと期待しています。企業同士のカルチャーの違いなどもあるとは思いますが、まずはじっくりと膝を突き合わせて話をし、互いを理解し合いながら共創を進めていきたいですね。
取材後記
インタビューに際して中氏が語っていたように、Nissay MIRAIQAは新規事業開発を目的に設立された会社である。そのためNissay MIRAIQA自身がスタートアップらしい規模感とカルチャーで運営されており、意思決定のスピード感やプロダクト開発の進め方に関しても、スタートアップとの親和性が高いことに疑いの余地はない。その一方、資金力やネットワークについては、日本生命グループとしての強みを存分に活かせるリソースを有しているなど、共創パートナーとなるスタートアップにとっては魅力的な環境が整っている。
今回のプログラムに関しては、「地域課題解決」という大テーマはあるものの、特定の課題・領域・技術に特化した募集テーマは設定されていないため、多くのスタートアップにチャンスがありそうだ。Nissay MIRAIQAと共に地域の課題解決に本気でチャレンジしたい方は、ぜひ積極的に応募を検討してほしい。
※『MIRAIQA Region Canvas』の詳細についてはこちらをご覧ください。なお、応募締め切りは、2026年8月31日までとなります。
(編集:眞田幸剛、文:佐藤直己、撮影:齊木恵太)