青森県内企業×全国パートナー企業が共創で新規事業に挑む!――2025年度の共創プログラム『Blue Ocean』から生まれた3つのプロジェクトの成果に迫る
青森県は、オープンイノベーションを活用した事業共創を通じて県内産業の発展を目指すために「AOMORI OPEN INNOVATION PROGRAM 『Blue Ocean』」を実施している。
本プログラムは、課題解決や新事業創出を望む県内企業がホストとなって、共創テーマを設定。全国の企業から共創アイデアを募り、選定されたパートナー企業と共に事業化を目指すというもの。2024年度に第1期の公募が実施され、3社のホスト企業(まごころ農場、あおもり藍産業、山神)が共創で事業づくりに挑んだ(※レポート記事)。
2期目となる2025年度も、3社のホスト企業(ジョイ・ワールド・パシフィック、十武建設、ブナコ)が全国のパートナー企業とマッチングし、共創プロジェクトの練り上げや実証実験などが進められてきた。
その取り組みの成果を発表する「最終成果報告会」が、去る2026年2月25日、新町キューブ グランパレで開催された。当日は県内企業や、商工団体、金融機関など、多くの聴衆が集まり、熱心に発表に耳を傾けていた。――本記事では、2025年度に採択された3プロジェクトの共創事例報告を中心に、当日の様子をレポートしていく。
オープニング――「青森県の産業の未来を共創で切り拓く」
プログラムは、青森県経済産業部産業イノベーション推進課の原純子課長による、開会の挨拶から始まった。原課長は、「青森県の主要産業となっている農林水産分野等において、オープンイノベーションで未来を切り拓いていくために、県としてもできる限りの支援をする」とした上で、本日の成果発表について「互いの強みと個性を持ち寄って目的に進んで行くパートナーとして、今後も事業共創を進めてほしい」と述べた。
昨年度ホスト企業2社(あおもり藍産業・山神)が語る、共創の「現在地」
今期の『Blue Ocean』による成果報告に先立ち、昨年度に共創を推進したホスト企業3社のうちの2社による、現時点での共創プロジェクトの進捗内容が発表された。
●【共創プロジェクト01】 誰もが安心して着られる衣服を目指して
あおもり藍産業株式会社 営業開発部長 高橋晃央氏
かつて青森県内では藍染め産業が盛んだった。近年は衰退していた藍染め産業の復活・発展を目指しているのが、あおもり藍産業だ。藍には、抗菌・抗ウイルス効果があることでも知られる。藍染めといえば藍色が思い浮かぶが、あおもり藍産業では、抗菌成分だけを抽出して染める成分染めの技術も持つ。藍の特性を生かした同社の技術を活用して、自然由来の抗菌・消臭効果を持つ衣服などを開発するのがプロジェクトテーマだ。
パートナー企業であるHONESTIESは、子どもや高齢者、障害のある方など誰もが脱ぎ着しやすい裏表・前後がないユニバーサルデザインのウェアを製造販売している。そのウェアに藍染めや成分染めを施すことで、長時間着用しても匂いや汚れのつきにくい消臭・抗菌効果を持つユニバーサルウェアが提供できる。
すでに、裏表・前後なしの藍染めTシャツが商品化され、発売されている。現在では他社からも共創アイデアが持ち込まれるようになり、藍染めタオルや名刺入れなどの開発企画が進んでいるという。最後に高橋氏は、共創開始後、そうした取り組みに時間を捻出できるよう、通常業務をよりスピーディーに行うようになるなど、組織改革の効果も現れていることにも触れてピッチを締めくくった。
●【共創プロジェクト02】 貝殻廃棄ゼロを目指し「ほたて貝殻パウダー」による新たなソリューションの開発
株式会社山神 商品企画開発課長 相澤理恵氏
山神は、ほたての養殖から加工までを自社で一貫して行う「ほたて企業」だ。同社では、大量に発生する廃棄貝殻の処理が大きな課題だった。そこで、廃棄貝殻を活用する道を見いだすため、昨年度のプログラムでホスト企業に応募した。パートナーとなったのは、大阪でエコプラスチックの素材・製品開発を手がけている甲子化学工業。同社はすでに、ほたて貝殻を用いたプラスチックでのヘルメットなどの開発実績があった。
相澤氏は新製品を開発するにあたって、地元青森に役立つプロダクトにしたいという思いがあった。そこで考案したのが豪雪地の青森に欠かせない雪かき用スコップ「ホタスコップ」。ほたて貝殻の構造に着目し、貝殻利用プラスチックながら固く壊れにくいスコップの開発に成功し、プロトタイプが完成している。
さらに現在は、廃棄貝殻の成分を用いたナチュラル洗剤も製品開発した。同製品はフランスのオーガニック展示会に出展され、オーガニック認証も取得。現在はフランス輸出の準備を進めている。相澤氏は「プログラムに参加した最初は不安も大きかったが、今では複数の新規事業が立ち上がり、わくわくする毎日です」と現在の心境をまとめた。
2025年度『Blue Ocean』のホスト企業・パートナー企業による事業共創ピッチ
続いて、プログラムは2025年度の県内ホスト企業とパートナー企業による成果報告会に移った。3プロジェクトの共創の成果とは?――発表内容を登壇順に紹介する。
●「和紙技術を活かす、農業用マルチシートの新スキーム開発」
株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック(ホスト企業) × 日本製紙パピリア株式会社(パートナー企業)
・農業を取り巻く3つの課題
ジョイ・ワールド・パシフィックは、青森県平川市で農業向けICT/IoT製品・サービス開発や、農業など様々な事業を展開している企業だ。今回は、「人にも環境にも優しい農業で地域社会に貢献」を掲げ、現代の農業が抱える「異常気象による高温対策」「環境に配慮した持続可能性の追求」「農業人口減少を補うための作業負担の軽減」の3つの課題解決を検討していた。
特に、病害虫が増える夏場は作業者負担が大きく、薬剤の使用量も増えコストがかさみ、収穫量や品質も低下しがちだ。そこで、環境に優しく高温対策や病害虫対策となる方法を目指して、ホスト企業に名乗りを上げた。
他方、パートナーとなった日本製紙パピリアは、日本製紙グループの特殊機能紙専門企業で、特に和紙に強みを持つ。製紙業は木と水によって成り立つことから、環境保全には意識的で、和紙を用いた農業用マルチシートを開発した。その実証実験を重ねて事業化を進めるために今回のプログラムに応募した。
・和紙の効果で課題を解決
農業には、畝を覆い雑草を防いだり土壌を調整したりするマルチシートが欠かせない。これらは一般的にポリエチレン製だが、片付けが重労働であり、産業廃棄物となるので処理費用や環境面でも負荷が大きい。
そこで、日本製紙パピリアでは、和紙を用いた「和紙マルチ」(下画像)を開発した。生分解性繊維でできているため、利用後はそのまま土にすき込むことで分解され回収や廃棄が不要となる。もちろん環境にも優しい。さらには、和紙ならではの地温上昇抑制、調湿機能、病害虫忌避効果、肥料減少効果などが想定されているという。
両社はジョイ・ワールド・パシフィックのいちご栽培ハウスで、2025年12月から実証実験を開始した。その結果、①地温抑制効果、②GX対応(生分解により回収・廃棄コストがゼロ)、③害虫忌避の可能性、などの効果が見られることがわかったという。可販果収量の比較においても、和紙マルチ使用のほうが53%多かったというデータが得られている。反面、導入コストや様々な畝幅への規格対応などの課題も見つかっている。
現在、実証が行われているのが冬いちごのみ。今後は夏いちごやにんにくでの実証実験も重ねていく。また、病害虫忌避の学術的エビデンスを獲得することや、生分解速度のバリエーション、露地対応などの展開も模索していくという。「今回の共創を、青森から広がる持続可能な農業につなげたい」としてピッチが締めくくられた。
●「杉由来の次世代資材を開発、循環型社会をつくる『SUGI ROAD』」
十武建設株式会社(ホスト企業) × 株式会社エヌ・シー・コーポレーション(パートナー企業)
・特許取得のSUGI ROAD
ホスト企業の十武建設は創業70年、公共事業を中心とした土木工事企業だ。同社では、独自に開発し特許取得済みのソフト舗装「SUGI ROAD」事業を展開している。SUGI ROADは、杉を製材・加工するときに排出される杉の樹皮(バーグ)に酸化マグネシウムを加えて加工した舗装材だ。すでに青森県内外の公園や遊歩道などで多くの施工実績がある。
SUGI ROADは、次のような様々な特徴がある。①現在ほとんどが廃棄されているという杉の樹皮を有効活用できること、②施工が簡単で、施工期間・養生期間が短いこと、③補修や再利用が可能なこと、④腐蝕しにくく、剥がれにくいこと、⑤周囲の自然と調和しやすい景観を提供できること、⑥不要時にはそのまま分解される環境循環型素材であること、⑦SUGI ROADを敷いた地面での雑草発生抑制効果があること、などだ。
それらの中でも、①新しい景観の提供、②未利用資源の有効活用、③SUGI ROADを舗装した地面の防草効果による除草労働の軽減、の3点を十武建設ではSUGI ROADで実現するべきミッションとして挙げている。
・2社の技術を掛け合わせて製品価値をさらに高める
上記ミッション中でも特に防草効果による除草労働の軽減に着目したのが、パートナー企業となったエヌ・シー・コーポレーションだ。同社は徳島県で天然カルシウムを製造するメーカーだが、実は青森県平内町にも拠点を持ち、天然カルシウムを製造している。商品ラインナップの1つに、ホタテ貝殻も配合した防草砂「ウィードバリア」があったため、SUGI ROADとのオープンイノベーションの可能性を感じてパートナーに応募した。
SUGI ROADは、通常のアスファルト舗装とは異なり、自然素材による優しい景観を提供できることに大きな価値がある。もともとSUGI ROADも防草効果を持つが、そこに「ウィードバリア」の技術を掛け合わせることで、さらに効果を高めることが期待できる。現在は冬期であるため、雑草が繁茂する春から夏に向けて、新しい「改良型SUGI ROAD」による雑草抑制効果を実証していく。
そして、短期的には改良型SUGI ROADの事業化を進めるとともに、青森県外施工を想定した素材調達や物流体系を構築し、中期的には拠点の全国展開を目指すという。さらに、長期目標として原料現地調達によるライセンスビジネス構想のビジョンが語られ、ピッチが締めくくられた。
●「天然木ブナの灯りがもたらす、眠りと癒し効果の実証」
ブナコ株式会社(ホスト企業) × PGV株式会社(パートナー企業)
・睡眠不足大国「日本」
日本は「世界一眠らない国」といわれ、睡眠不足による生産性低下の経済損失は約20兆円に上るという。しかし、睡眠改善の必要を感じていても、どうすればいいかわからないという人も多いだろう。ブナコは、ブナの木を独自技術で加工した木工品「BUNACO」を製造販売している。製品ラインナップの1つに、「BUNACOランプ」がある。これは、光を透過するとほんのり赤く光るブナの特性を生かし、夕焼けや焚き火のような温かみのある癒しの灯りを点すという特徴を持つランプだ。
人間の行動と光環境は密接な関係があり、青く白い光の中では活動的になり、夕陽のような赤い光の中ではリラックスして休息モードになっていくという。実際、BUNACOランプユーザーへのアンケート調査によると、BUNACOランプ利用によって睡眠の質が改善し日中の眠気も減ったという調査結果が出ている。そこで、今回の共創プロジェクトでBUNACOランプの光によるリラックス効果を可視化して睡眠改善効果を実証していくとともに、さらに新規事業開発を目指す。
▲会場内の展示ブースでもBUNACOランプの光は注目を集めた。
・ウェアラブル脳波計で睡眠を可視化
睡眠改善効果実証のために用いられたのが、パートナー企業であるPGVのパッチ式脳波計とAI技術。PGVは、大阪大学産業科学研究所で開発されたウェアラブル脳波計測技術を、おでこに貼り付ける「パッチ式脳波計」として実用化している。だれでも簡単に扱える小型軽量の脳波計でありながら、クラウドを通じたAI解析により高精度な脳波分析が可能で、認知症予防などに大きな効果が期待されている。
BUNACOランプユーザーの協力を得て、同社の脳波計で測定したところ、ランプ利用により睡眠の質が改善していることが脳波の動きからも見て取れたという。また総合的な利用経験としても、ほとんどの人が「寝つきが良くなった」と回答している。
今後は実証実験を重ねて効果を確認しながら、中期的には世界的に市場規模が拡大しているスリープツーリズムへの応用を考えている。長期的には、介護領域やフェムテック領域との連携、脳波と連動した調光機能を持つランプなど、新プロダクトの開発なども視野に入れられている。最後に、宿泊・ツーリズム関連や介護・福祉関連、産後ケア施設などの企業と連携を模索しているので一緒にやっていきませんかと、会場参加者へ共創を呼びかけた。
トークセッション――「青森から、オープンイノベーションで切り拓く未来」
成果報告ピッチの後、2024年度・2025年度の県内ホスト企業5社の代表による「青森から、オープンイノベーションで切り拓く未来」と題したトークセッションが行われた。登壇者は下記の5名だ。
<登壇者>
・あおもり藍産業株式会社 代表取締役 杉山大幹氏
・株式会社山神 専務取締役本部長 穐元美幸氏
・株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック 代表取締役 木村祝幸氏
・十武建設株式会社 代表取締役 赤坂憲孝氏
・ブナコ株式会社 里見杉子氏
ブナコの里見氏は、本プログラムを通じた共創のメリットとして「パートナー候補の企業様と話す中で、私も気づいていなかった自社製品の強みや可能性をいくつも気づかせてもらったことは最大のメリットでした」と振り返った。
あおもり藍産業の杉山氏は、「パートナー企業との共創はもちろんですが、マッチングに至らなかった企業ともその後の関係が続き、製品企画が生まれています。また、他の県内ホスト企業との関係も築くことができた。非常にネットワークが広がったことを有り難く感じています」と述べた。
十武建設株式会社の赤坂氏は、「未利用資材に付加価値をつけて販売していくことを夢としてずっと持っている。同じ意識を持ったパートナー企業と出会えたことは、プログラムのおかげだ」と思いを伝えた。
ジョイ・ワールド・パシフィックの木村氏は、「世の中の変化のスピードが速くなっている中で現状維持では置いていかれる。社員が安心して働けるためにも、常に新しい取り組みをしていく必要があり、その点で意義が高いプログラムだと思う」とまとめた。
山神の穐元氏は、「共創は、会社の外に働きかけるだけじゃなくて、社内も変える。特に、社員が自分の仕事にわくわくして未来を感じながら働くようになったことはとても大きな変化だった」と話した。
トークセッション終了後は、同会場で『あおもりアグリ・イノベーションプロジェクト』の中間報告会が開催された。さらに、会場参加者を交えたネットワーキングが行われ、熱い事業談義に花が咲いた。
取材後記
2024年度の第1期『Blue Ocean』の成果報告会に続き、今回も現地取材に入った。昨年採択された2社は、想定以上のビジネス展開を見せており、共創による事業創出が着実に前進していることを実感した。
また、今期採択されたホスト企業3社から強く伝わってきたのは、それぞれが抱く「青森県を盛り上げたい」という強い思いだ。地域に根差した企業が主体となり、全国のパートナー企業とともに新たな事業づくりに挑戦する姿勢は、まさにオープンイノベーションの醍醐味と言えるだろう。『Blue Ocean』をきっかけに生まれた共創が、今後どのようなかたちで地域産業へと広がっていくのか。青森発の新たな取り組みに引き続き注目していきたい。
(編集:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)