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青森発の共創プログラム『Blue Ocean』2期目が始動――県内ホスト企業3社が「スマート農業」「自然由来の資材開発」「伝統工芸」をテーマに描く共創ビジョン

青森発の共創プログラム『Blue Ocean』2期目が始動――県内ホスト企業3社が「スマート農業」「自然由来の資材開発」「伝統工芸」をテーマに描く共創ビジョン

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青森県は三方を海に囲まれ、豊かな自然と独自の文化が息づいている。この地を舞台に、新たなイノベーションの潮流を創り出す『AOMORI OPEN INNOVATION PROGRAM 2025 「Blue Ocean」』が昨年度に引き続き開催される運びとなった。

同プログラムは、青森県内のホスト企業がテーマを提示し、全国からアイデアや技術を募る。その後、パートナー企業が選出され、共創で新規事業の創出や課題解決を目指していく。プログラム期間中は事業化に向けた伴走支援が実施され、実証実験のサポート費も支給される。さらに、終了後も継続的なバックアップが行われているのが、本プログラムの特徴の一つだ。昨年度は3つの共創プロジェクトが生まれ、現在も事業化に向けて取り組みが進められている。

2025年度のホスト企業に名乗りを上げたのは、スマート農業で未来を切り拓く株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック(JWP)(平川市)、廃棄される自然素材に新たな命を吹き込む十武建設株式会社(十和田市)、伝統工芸の技で「癒やし」の空間を演出するブナコ株式会社(弘前市)の3社だ。3社が掲げる課題は、青森に根差しながらも日本全体に通底するものとなっている。

<ホスト企業3社と募集テーマ>

●株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック

『ニンニク・いちごの栽培を、生産者・消費者・環境に優しい「スマート農業」にアップデート!』

●十武建設株式会社

『未利用の「杉」を活かした自然由来の資材開発で目指す、美しい地域景観の実現。』

●ブナコ株式会社

『天然木ブナのやさしい質感、職人の手仕事により生み出される特徴的な曲線美による「癒し・安らぎ」の創出』

TOMORUBAでは、パートナー企業募集開始に伴い、プログラムを主催する青森県とホスト企業3社へのインタビューを実施した。それぞれの思いとプログラムにかける情熱、未来のパートナーと共に描きたいビジョンを紐解いていく。

【青森県】 各社のチャレンジを、県全体のうねりへ。昨年の成功を糧に、2年目の挑戦

――まず改めて昨年度に本プログラムをスタートさせた背景と、手応えについてお聞かせください。

青森県・鳥山氏 : 青森県は、豊かな自然資源や歴史、伝統工芸をはじめ、リンゴやホタテに代表される農林水産業など、多彩な強みを持っています。一方で、人口減少が進み、県内企業が自社単独でイノベーションを起こすことが難しくなっています。そこで、外部の力と掛け合わせるオープンイノベーションを活用することを目指し、本プログラムをスタートさせました。県内企業が新たな一歩を踏み出すきっかけを作ると共に、モデルケースとなる優良・成功事例を蓄積していきたいと考えています。

▲青森県 経済産業部 産業イノベーション推進課 技術振興グループ 主査 鳥山一成氏

――昨年度はどのような成果を上げられたでしょうか。

青森県・鳥山氏 : 摘果りんごや廃棄されるホタテ貝殻の利活用など、県の課題に直結するテーマが多く、3つのチームが素晴らしい成果を出してくれました(※)。印象的だったのは、パートナー企業さんのアイデアや技術はもちろんのこと、何よりそのスピード感です。ホスト企業を力強く牽引していただき、プログラムの大きな手応えを実感できました。

さらに特筆すべきは、プログラム終了後も3チームが事業化に向けた共創を継続していることです。県としても、活用可能な補助金を案内したり、県内向けの広報をお手伝いしたりと、継続的なサポートを行っています。また、ある企業からは「商品化にあたり科学的なエビデンスが欲しい」という相談を受け、これまで培ってきた産学官金連携のネットワークを活かして、地元の弘前大学の農学生命科学部の教授をおつなぎしました。その結果、共同研究にまで発展したケースもあります。

※参考記事:青森県の課題をオープンイノベーションで解決!3か月のインキュベーションを経た3組6社の取り組みの成果はいかに?共創プログラム『Blue Ocean』DEMODAYレポート

――成果発表会が終わっても、県が引き続きサポートをされていらっしゃるのは、非常に素晴らしい事例だと感じました。1年目の成果を踏まえ、2年目のプログラムでアップデートした点はあるでしょうか。

青森県・鳥山氏 : ホスト企業について、昨年度は農林水産業が中心でした。青森県の持ち味を活かす非常に良い選択でしたが、今年度は多様な分野での事業創出を後押しするために、業種の幅を広げています。一つひとつのプロジェクトが青森県の変化の起点となることで、この地だからできるオープンイノベーションの新たなストーリーを紡いでいきたいと思っています。

▲昨年度のDEMODAY(最終成果発表)の様子。オープンイノベーションや新商品・新技術開発に積極的な県内企業、大学、自治体、産業支援機関、金融機関など、多くの方が参加し盛り上がりを見せた。

――今年度のホスト企業3社を選定された背景と、各社への期待をお聞かせください。

青森県・鳥山氏 : 1社ずつ説明させていただきます。まず平川市にあるジョイ・ワールド・パシフィックさんは、カメラのレンズや半導体検査機器など精密機器の製造を生業としており、高い技術力を持っています。2012年からスマート農業分野へ参入し、自社でもニンニクといちごの生産を手がけ、現場のリアルな課題と向き合ってきました。今回はスマート農業の進化を目指しており、課題として病害虫対策や、寒冷地ならではのハウス加温コストなどを挙げています。

これらの課題は、青森県はもちろんのこと、日本の農業全体が抱える共通課題と言えるでしょう。青森県の農地を実証フィールドとし、パートナー企業の知見を掛け合わせることで、全国の農業に関する課題解決に資するプランが生まれることを期待しています。

次に、十和田市にある十武建設さんは、公共工事を主軸とする地域に根差した事業を展開する一方、常に新しい挑戦を模索しています。その中で生まれたのが、これまで産業廃棄物として処分されていた杉の樹皮を活用した舗装材「SUGI ROAD」です。100%自然由来の製品で、最終的には土に還るという特徴を持っています。県内の産業支援機関が実施するアワードの経営革新部門賞を受賞するなど、既に高い評価を得ています。

今回はさらに、未利用資源である「杉ヤニ」の活用という、まだ誰も手を付けていない未開拓の領域にも挑みます。廃棄物処理という地域課題の解決と、新たな高付加価値製品の開発を両立させる、サステナブルな事業です。市場に類例が少ないこの取り組みは、まさに“ブルーオーシャン”を創出する可能性を秘めています。

最後に、弘前市にあるブナコさんは2013年(平成25年)度に県の伝統工芸品に指定された「ブナコ(BUNACO)」を手がける企業です。水分が多く加工が難しいブナ材を、テープ状に加工して巻き上げ、立体の物を形作る独自の製法を有します。独創的な木工品は高く評価されて国際見本市に数年にわたり出展しており、グッドデザイン賞など受賞歴も豊富で、既に多くのファンや販路を獲得しています。近年は伝統的なテーブルウェアのみならず、照明やスピーカーなどインテリア分野にも進出しました。

今回はブナの照明がもたらす「あかりのぬくもり」を、「癒し」や「良質な睡眠」など新たな価値へ繋げるスリープテックやウェルネス領域へのチャレンジを表明しています。伝統工芸の未来を切り拓く共創につながることを期待しています。

3社に共通しているのは、自社の課題が県全体の課題にも通じている点です。ホスト企業の挑戦を支援することが、青森県全体の発展につながると確信しています。

――最後に、全国のパートナー企業へメッセージをお願いします。

青森県・鳥山氏 : 地域課題の解決をビジネスに変える熱意とエネルギーを持った企業からの応募をお待ちしています。昨年度の経験から、ホスト企業が設定したテーマと少しずれた提案であっても、それが課題解決の本質を捉えていれば、素晴らしい共創につながると考えています。

ぜひ、固定観念にとらわれない自由な発想でご提案いただければと思います。実証実験の費用サポートはもちろん、専門家のコンサルティングなど、県としても全力で伴走支援します。この青森の地で、未来を切り拓くイノベーションを共に生み出していきましょう。

【ジョイ・ワールド・パシフィック(JWP)(平川市)】 持続可能な農業の未来を共創し、課題解決のモデルケースに

――御社の事業概要とこれまでの歩みについてお聞かせください。

JWP・佐藤氏 : 当社は1981年にカメラレンズなどを製造する企業としてスタートしました。時代の変化と共に自社製品の開発に取り組み、システム開発の技術も磨いてきました。

2012年には農業分野へ進出しています。きっかけは地域のリンゴ農家からの相談でした。距離の離れたリンゴ園の気象条件が把握できず、現地に行くまで作業判断ができないという問題に対し、リアルタイムに降雨量や土壌水分量を計測・確認できるシステムを開発したのです。さらに、近年は自社で農業も手がけるようになっています。

具体的には、遊休農地を借り受け、2022年からニンニクといちごの生産を開始しました。ニンニクは「青森県産」のブランド力がありますし、いちごは専門的な指導を受けられる環境があったことや、年間を通して単価が安定しています。スマート農業との親和性が高く、現場のリアルな課題をより肌で感じることも多々あります。

▲【写真左】株式会社ジョイ・ワールド・パシフィック 農業生産6次化事業 係長 佐藤雄太氏

――今回、御社はプログラムに参画し、募集テーマを「ニンニク・いちごの栽培を、生産者・消費者・環境に優しい『スマート農業』にアップデート!」としました。参画の背景と課題感をご紹介ください。

JWP・佐藤氏 : 自社のスマート農業のソリューションを磨き上げたいと考えています。農業栽培技術、IoT、メカトロなどに関する技術は自社で保有していますが、農業の専門的な知見に基づく防菌・防除や、高度な栽培環境制御技術、生産効率化技術などが十分ではありません。中でも、「病害虫」と「冬場の加温コスト」は専門外で、大きな壁に直面しています。

――パートナーとは、具体的にどのような事業に取り組みたいとお考えでしょうか。

JWP・佐藤氏 : 一つは「安全かつ効果的な病害虫の防除・駆除・忌避技術の実装」です。病害虫は、年によって発生する種類が違い、温暖化の影響で被害を受ける期間も長くなっています。農薬に頼るにも使用回数に制限があったり、耐性がついて効かなくなったりと、いたちごっこの状況です。害虫を寄せ付けない忌避技術や、天敵などを活用した生態制御、カメラやAIを用いたモニタリングによる早期検知・発生予測などのソリューションを共に開発・実証したいです 。

もう一つが「ハウス栽培の最適化による質・量の向上と重油・灯油使用量の削減」です。寒冷地で冬に農業を行うには、ハウスの加温が不可欠です。しかし、重油や灯油のコストは経営を大きく圧迫しています。単に暖房の効率を上げるだけでは、抜本的な解決にはならないでしょう。より複合的なアプローチを考えています。さらにコストと環境負荷を減らしながらも、排出されるCO2を作物の生育を促進するために再利用する資源循環型の仕組みを構築したいと思います。

こうした課題は、当社だけのものではありません。解決策を探るために、例えば、ドローンを活用した画像解析技術をお持ちの企業の方や、特定の波長光による害虫忌避技術を研究されている企業の方、地熱やバイオマスなど、化石燃料に代わる新たな熱源ソリューションをお持ちの企業の方と、ディスカッションしてみたいです。その上で、プログラムを通じて開発したソリューションを同じ悩みを持つ農業者の方へ横展開し、最終的には農業全体の持続可能性に貢献したいと考えています。

▲JWPは、自社のスマート農業技術を活用したハウス環境で、換気、水やり、肥料やりなど、様々なセンサーでいちごの生育状況を観察し、コントロールすることで通年栽培を実現している。

――パートナー企業に提供できるリソースやアセットについて教えてください。

JWP・佐藤氏 : まず実証の「場」が挙げられます。ニンニク1.5ha、いちご10aの圃場があり、生産設備も使用可能です。いちごについては、年間約2.5トンを生産しており、ハウスを3棟備えています。

当社が自社開発した、土壌水分や日射量に応じて水と肥料のやり方を最適化・自動化する「あぐりウォーター」も稼働していますので 、記録データも活用いただけます。さらに当社には製作・加工の技術もありますので、アイデアを具体的な形にして、製品化することも可能です。

このほか、近隣の大学や県の産業技術センターなど研究機関との連携も進めてきました。必要に応じて産学官のさまざまなスキームを組みながら、事業を多角的に進めていける体制も提供できます。

▲JWPが保有している圃場(ニンニク1.5ha、いちご10a)を活用した実証実験が可能だ。

――最後に、応募を検討している企業へメッセージをお願いします。

JWP・佐藤氏 : 「地域社会とともに成長する企業」が、当社の経営理念です。農業は高齢化や人手不足、異常気象など、多くの課題に直面しています。そうした課題はITをはじめとする先端技術をうまく活用することで乗り越えられると信じています。

今回の取り組みを通じて、持続可能な農業のモデルケースを創り出し、国内の農業全体へと広げていければ嬉しく思います。当社の思いに共感し、未来の農業を共に目指してくださるパートナー企業の方、ぜひ力を合わせましょう。

【十武建設(十和田市)】 廃棄物から価値を創造する――「自然と共生する建設業」への挑戦

――御社の事業概要とこれまでの歩みについてお聞かせください。

十武建設・赤坂氏 : 当社は創業から77年にわたり、地域の公共工事を中心に事業を行ってきました。近年は民間工事にも力を入れるなど、事業の多角化を進めています。特に注力しているのが、杉の皮を活用した舗装材「SUGI ROAD」です。

▲十武建設株式会社 代表取締役 赤坂憲孝氏

――SUGI ROADについて詳しく教えていただければと思います。

十武建設・赤坂氏 : 製材の過程で出る杉の皮は、費用をかけて処分される産業廃棄物でした。これを当社では、独自の加工をすることで新たな価値を持つ舗装材として再生しました。化学樹脂系の接着剤を使わない100%自然由来の製品で、いずれは土に還るのが大きな特徴です。

自然の景観に馴染む美しい見た目と、雑草の発生を抑制する効果から、地元の市役所が管轄する防風林内の遊歩道をはじめ、民間の庭などでも採用が少しずつ伸びています。価格面では防草シートなどが優位と言えますが、「自然由来であること」「風で剥がれたり、雪でピンが抜けたりしにくい固定性」「景観性」などの点で差別化が図れています。

▲SUGI ROADのメイン素材は、杉の木を製材・加工する時にでる樹皮と酸化マグネシウム。環境にダメージを与える人工的な添加物は一切加えられていない。

――今回、御社はプログラムに参画し、募集テーマを「未利用の『杉』を活かした自然由来の資材開発で目指す、美しい地域景観の実現」としました。参画の背景と課題感をご紹介ください。

十武建設・赤坂氏 : SUGI ROADは自然由来がゆえの課題があります。具体的には、豪雨の際に表面の繊維が剥がれたり、流されたりしてしまう点です。これを解決したいと、研究を続けてきましたが、限界を感じています。解決策の一つとして、「杉ヤニ」の活用も考えていますが、うまくいっているとは言えません。杉ヤニは一部精油としての活用事例がありますが、廃棄されることがほとんどです。杉ヤニを活用した新たな商品開発にも挑戦できればと考え、プログラムに参画しました。

――パートナー企業とは、具体的にどのような事業に取り組みたいとお考えですか。

十武建設・赤坂氏 : まずは「SUGI ROADの品質向上」に取り組みたいと考えています。喫緊の課題としては先ほどお話ししたような耐久性です。この課題を解決するため、SUGI ROADの表面を保護する自然由来のコーティング技術を共同で開発したいと考えています。化学系の樹脂を使えば簡単なのかもしれませんが、それではSUGI ROADの「100%自然由来」という最大の価値が失われてしまいます。あくまで自然のもので、この課題を解決したいのです。

あわせて、杉ヤニの商品開発です。近隣の会社では、杉ヤニの処分にコストがかかっています。この杉ヤニの一つの使い方として模索しているのが、SUGI ROADの接着剤やコーティング剤です。これが実現できれば、SUGI ROADの耐久性を向上させると同時に、地域の未利用資源に新たな価値を与えることができます。

▲SUGI ROADは、遊歩道や公園など多彩な場所での施工実績を積み重ねている。

――パートナー企業に提供できるリソースやアセットについて教えてください。

十武建設・赤坂氏 : SUGI ROADに関するノウハウが提供可能です。原材料である杉皮や杉ヤニも安定的に供給できます。SUGI ROADを製造するための専用工場を建て、袋詰めの機械も導入しているため、少量での試作品づくりにも対応します。また、当社の敷地内に試験施工できる場所もありますので、開発と検証のサイクルをスピーディーに回せる環境です。

さらに、この事業は代表である私が直接担当しますので、意思決定は非常に早いです。良いアイデアは積極的に採用し、絶えず前進していきたいと意気込んでいます。

▲杉の樹皮を細かく粉砕した材料と自然素材の接着剤を水と共に撹拌する装置を自社開発。独自のノウハウ・知見を蓄積している。

――最後に、応募を検討している企業へメッセージをお願いします。

十武建設・赤坂氏 : 私はかつて、「建設業は山を削り、川を埋める自然破壊の仕事だ」と言われたことがあります。その言葉がずっと心にあり、これからの建設事業は「自然と共生」するものでなければならないと強く思うようになりました。SUGI ROADも、そうした思いから生まれた製品の一つです。

当社は、自然にやさしい素材や工法で、持続可能な社会基盤を築いていく考えです。このビジョンに共感し、共に新しい価値を創造してくださるパートナーとの出会いを楽しみにしています。

【ブナコ(弘前市)】 伝統工芸×先端技術で、「心地よい眠り」という新たな価値を創出する

――御社の事業概要とこれまでの歩みについてお聞かせください。

ブナコ・里見氏 : 当社は1963年に設立し、ブナ天然木から「Made in Aomori」のサステナブルな製品をハンドメイドで作り上げています。青森県には、世界自然遺産・白神山地があり、世界最大級のブナ天然林が広がっています。

一方、ブナは「森の天然ダム」と呼ばれるほど水分量が多く、乾燥させても反ったりしやすいため、かつては建材や家具への利用が難しい木材でした。そのブナをなんとか有効活用しようと、先人たちが知恵を絞って生み出したのが、当社の独自製法です。

▲ブナコ株式会社 商品企画・営業開発 里見杉子氏

――製法や製品について具体的にご紹介ください。

ブナコ・里見氏 : ブナの木をわずか1mmの厚さのテープ状に加工し、バームクーヘンのようにぐるぐるとコイル状に巻いていきます。その巻いたものを少しずつずらしながら立体的な形を作り上げます。この製法のメリットは、水分が多いブナの弱点を克服できるだけにとどまりません。ろくろ引きなどの技法に比べて、材料の使用量を約10分の1に抑えることができるのです。当社は非常にエコな製法で、60年以上ものづくりを続けてきました。

創業当時はお椀やお盆などテーブルウェアが中心でしたが、10年ほど前からはティッシュボックスやダストボックスをはじめ、ランプやスピーカーなどインテリア製品へと展開しています。

▲テープ状にしたブナ材をコイルのように巻き、押し出して成型するという独自の製法。テープの巻き方やずらし方を変えることによって、様々なフォルムを生み出すことができる。

――今回、御社はプログラムに参画し、募集テーマを「天然木ブナのやさしい質感、職人の手仕事により生み出される特徴的な曲線美による「癒し・安らぎ」の創出」としました。参画の背景と課題感をご紹介ください。

ブナコ・里見氏 : 当社の事業は、百貨店やインテリアショップなどtoCの市場が中心でしたが、コロナ禍を機に市場が縮小していることを肌で感じ、強い危機感を覚えました。もちろん手をこまねいていたわけではなく、クラウドファンディングに挑戦したり、大手アパレルメーカーと共同で商品開発を行ったりしました。また、ホテルや飲食店などを対象としたtoB市場への参入も始めましたが、さらなる一手を考えなければならないと思っていた時に、このプログラムの話があったのです。オープンイノベーションを用いることで、これまでにない価値を創出できればと思っています。

――パートナー企業とは、具体的にどのような事業に取り組みたいとお考えですか。

ブナコ・里見氏 : 大きく3つあります。1つめは「照明による睡眠・癒し効果の検証と共同でのソリューション開発」です。当社のランプシェードは、光を灯すとブナの木を透過して非常に温かみのある、美しい赤い光を放ちます。この光が自然な眠りを促す「入眠効果のある色温度」に近いのではないか、という仮説を持っています。これをスリープテックや生理計測の知見を持つパートナー企業と共に検証し、新たな価値を創造したいと思っています。

2つ目が「照明と調和した睡眠・癒しの空間づくり」です。「心地よい眠りを提供する照明」の価値を最大限に活かし、ホテルや旅館をはじめ、医療・福祉施設など、特に心身の安らぎが求められる空間に対して、空間全体のデザインを提案することを思案しています。

3つ目が、「心地よい眠りや癒しの体験価値を訴求する企画の実現」です。例えば「最高の睡眠」をテーマにした宿泊プランを企画したり、工場見学やものづくり体験ワークショップと組み合わせたりすることで、青森県に新たな人の流れを生み出す観光コンテンツを開発することを目指します。

▲温かみのある光を放つ、ブナコのランプ。

――パートナー企業に提供できるリソースやアセットについて教えてください。

ブナコ・里見氏 : まずは青森県の伝統工芸の当社の技術をお使いいただけます。一つひとつを職人の手仕事で作り上げていますので、試作品を1個から作ったり、小ロットで生産したりすることが可能です。アイデアをすぐに形にし、スピーディーに検証と改善を繰り返せます。

職人は30〜40代が中心で、外部の方と協業することに非常に前向きです。実際、当社は大手アパレルメーカーや百貨店とコラボレーションをした経験がありますので、円滑にプロジェクトが進行できると考えられます。

実証実験の場としては、青森県西目屋村にある当社の工場をご活用いただけます。廃校をリノベーションしたユニークな場所で、工場見学はもちろん、お客様がものづくりを体験できるワークショップや、カフェなども併設しています。

▲元小学校の廃校舎をリノベーションして活用している西目屋工場。工場見学や製作体験を実施している。

――最後に、応募を検討している企業へメッセージをお願いします。

ブナコ・里見氏 : 私たちは創業から約60年間、「心地よい空間とは何か、心地よい時間とは何か」を考え、アナログな手仕事でものづくりを続けてきました。その伝統的な技術と、パートナー企業の方が持つ最先端の知見や技術を掛け合わせることで、新しい価値を創造したいと思います。ご応募を、心からお待ちしています。

取材後記

今回、青森県とホスト企業3社にお話を伺い、共通して感じたのは、自らの事業を通じて地域をより良くしたいという強い意志と、未来へのポジティブなエネルギーだった。スマート農業、未利用資源の活用、伝統工芸の新たな価値創造。テーマは異なるが、その根底には「青森県だからこそ挑戦する価値がある」という確信が流れているように感じられた。昨年度の成功を糧に、さらに力強く動き出した2年目の『Blue Ocean』。このプログラムから生まれるイノベーションの波は、青森という地域を超え、日本全体が抱える課題解決へ一石を投じる可能性を秘めている。

※『AOMORI OPEN INNOVATION PROGRAM 2025 「Blue Ocean」』の詳細はこちらをご覧ください。

(編集:眞田幸剛、文:中谷藤士)

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