
青森県の課題をオープンイノベーションで解決!3か月のインキュベーションを経た3組6社の取り組みの成果はいかに?共創プログラム『Blue Ocean』DEMODAYレポート
去る2月21日、青森県青森市の新町キューブグランパレにおいて、青森県が主催するオープンイノベーションプログラム「AOMORI OPEN INNOVATION PROGRAM2024『Blue Ocean』」のDEMODAY(最終成果発表)が、開催された。
同プログラムは、青森県内企業の事業テーマに対して、連携して取り組むパートナー企業を全国から募集。マッチング、インキュベーションを経て、オープンイノベーションによる事業化の実現を目指すものだ。
これまでの流れを簡単に確認しておくと、2024年9月に、3社の県内企業がホスト企業としてテーマを発表し、パートナー企業の募集を開始。全国から数多くの応募があり書類選考と面談を経て、最終的に3社のパートナー企業が決定された。その後、11月下旬から2月にかけて、プログラム事務局や専門家を交えたインキュベーションが実施され、事業化に向けて取り組んできた。その途中、2024年12月には中間報告会も開催されている(※)。
そしていよいよ、本プログラムで出会った3組のホスト企業とパートナー企業が、これまでにどんな取り組みを進め、何を実現し、今後どこを目指していくのかについての、最終的な成果を発表する場が設けられた。本記事では、3組のプレゼンテーションを中心に、当日の模様を紹介していく。
なお、本最終成果発表会は、「Design×Open Innovation成果発表会」として、特許庁と県が推進する、デザイン等の知財を活用した地域の競争力強化を目指す「知財経営モデル地域創出事業」の成果発表会と合同で開催された。この発表会には、オープンイノベーションや新商品・新技術開発に積極的な県内企業、大学、自治体、産業支援機関、金融機関など、多くの方が参加し盛り上がりを見せていた。

ホスト企業とパートナー企業が共に壇上にのぼり、共創成果を報告
今回の成果発表会で共創事業のプレゼンテーションを実施したのは、以下の3組6社だ。
●[青森県]あおもり藍産業×[大阪府]HONESTIES
●[青森県]まごころ農場×[東京都]インフィニートインターナショナル
●[青森県]山神×[大阪府]甲子化学工業
パートナーを募集した青森県内のホスト企業と、求められた課題に対する取り組みを提案したパートナー企業が共に壇上に立ち、それぞれの思いや取り組みの過程、そして現段階での成果について報告をした。以下、プレゼンテーション順にその内容を紹介していく。
【あおもり藍産業×HONESTIES】 誰もが安心して着られる衣服を目指して

・ホスト企業:あおもり藍産業株式会社(代表取締役 杉山大幹 氏=写真左=)
・パートナー企業:HONESTIES株式会社(CFO/CRO 濱野逸人 氏=写真右=)
●スペースシャトル船内着にも採用された藍染め衣服
あおもり藍産業株式会社は、青森市近郊で農薬不使用で栽培したあおもり藍を用いて、藍染め製品の加工・販売、藍エキスの商品の製造販売などをおこなう企業だ。2006年に、県内の耕作放棄地で藍を栽培する取り組みのために発足した協同組合を前身とし、藍を青森の特産品に育てることによって、青森を元気にすることを目指している。
藍染め繊維製品には天然の消臭抗菌作用があり、2010年にはその点に着目したJAXAより、同社の藍染めシャツがスペースシャトルの船内着として採用された実績も持つ。同社代表の杉山氏によると、あおもり藍から抽出したエキスの添加により、O157菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌、A型インフルエンザウイルスなど増殖を抑制するという研究データが得られている。また、アンモニア臭や足蒸れ臭などに対する防臭・消臭効果もある。
同社では、天然の抗菌・消臭作用を持つ藍染め、藍エキスを用いた広い領域での事業展開を目指してパートナー企業を募集した。
●ユニバーサルデザインの衣服に天然成分による消臭効果を付加
この募集に手を挙げたのが、HONESTIESの濱野氏だ。同社は大阪の企業だが、濱野氏はかつて弘前大学に通い、17年間青森県で暮らしたという。その縁から、「ぜひ青森に恩返ししたいという気持ち」で、同社の呼びかけに応えた。
HONESTIESは、主に医療・介護領域などで用いられる、裏表や前後のないユニバーサルデザインの肌着やTシャツなどの衣類を製造販売している。裏表や前後がないことで、誰もが簡単に脱ぎ着でき洗濯などの際にも手間が省ける。
同社が抱えていた課題の1つに、医療・介護領域ならではの衣類の臭いの問題があった。繊維にケミカルな加工を施すことで抗菌・防臭効果を得ることはできるが、すべての人に優しい衣服を提案する同社のイメージにそぐわない。そこで、肌にも優しい天然素材でありながら、抗菌・消臭作用を持つ藍に着目し、共創に取り組むこととした。
●6日間はき続けても無臭の藍エキス染めソックス
約3か月のインキュベーション期間を経て、今回のプレゼンテーションでは、藍染めの裏表も前後もない4面Tシャツや、透明な藍エキス成分で染めた裏表のない肌着や靴下などの試作品が紹介された。

効果を示す一例として、濱野氏が藍エキス染めの靴下を6日間はき続けたところ、まったくの無臭であり、そればかりか靴の臭いも減ったと話す。現在は、藍染めTシャツの大手百貨店への販売交渉を進める一方、より安全でより効果の高い成分濃度や染色方法を模索している段階だという。
市場規模は、消臭抗菌のインナーに限ると250億円程度だが、機能性インナーまで広げれば1,000億円、さらに一般のインナー市場になると5,000億円の規模が見込まれ、将来的にはこの市場までターゲットを拡大することを目論んでいる。最後に濱野氏は、「誰もが安心して着られる衣服で、健康で豊かな生活を送れる社会を目指します」と結んだ。
【まごころ農場×インフィニートインターナショナル】 摘果りんご由来の「美容成分」で新たな価値創造!

・ホスト企業:有限会社まごころ農場(常務取締役 斎藤早希子氏=写真左=)
・パートナー企業:株式会社インフィニートインターナショナル(代表取締役 安納弥生氏=写真右=)
●りんご産業の付加価値を高めるため、摘果りんごに着目
まごころ農場は、加工用りんごやミニトマトの生産、自社工場での加工、さらには加工品の全国・海外での販売までおこなう6次産業企業だ。同社の斎藤氏からは、まず、青森県のりんご産業の現状についての説明がなされた。りんごは誰もが知る青森県の特産品であり、青森の基幹産業だが、近年は、生産コストの上昇などから採算が見合わなくなり、りんご生産から撤退する農家が増えているという。
その状況に対して危機感を覚えた斎藤氏は、りんご産業の付加価値を高め、持続的な発展を目指して、未使用資源である摘果りんごの活用に着目した。さらに、その活用法として、単価と付加価値率が高いと想定される美容や健康領域にフォーカス。今回、その領域での新事業開発の課題を実現するパートナーを募集した。
●ナチュラルスキンケアの成分開発に強みを持つインフィニートインターナショナル
パートナーとなったインフィニートインターナショナルは、もともと植物成分を積極的に採用するなど、ナチュラル成分のスキンケア商品を強みとする基礎化粧品の開発・製造企業で、斎藤氏が求める領域のど真ん中に位置している。
共創プロジェクトの構想を固める当初は、国内市場向けに、通信販売などで提供するプロダクトの開発を想定していた。しかし、インフィニートインターナショナルの安納氏は、斎藤氏とディスカッションを重ねる中で、「斎藤さんの熱い思いを実現するには、流行に左右される面が大きく、一過性が高い最終製品ではなく、もっと大きなプロジェクトを目指すべきだ」と感じ、原料成分を開発して企業に販売する方向にピボットした。
さらに、同社がグローバル視点でのものづくりを手がけてきた経験から、日本国内ではアップサイクルのようなエシカル消費を選択する意識がまだ消費者に浸透していないと判断。また、化粧品の国内ブランドそのものが縮小傾向にもあるため、むしろ欧米市場を狙ったほうがいいと提案し、最初からグローバル市場をターゲットとする戦略を採ることとした。現在はその戦略を策定しており、プロジェクト全体としては「フェイズ0」の段階にあるという。

●青森の摘果りんごで世界に出て、外貨を獲得する
5~7月には摘果りんごが産出されるため、その時期から抽出成分の検証や試作品開発へと進む。これがフェイズ1で、2025年中に実現予定だ。
その後は、研究機関を交えた実証実験(フェイズ2)、フランスやイタリアでの化粧品成分展示会への出展など海外ブランドとの接点形成(フェイズ3)、テスト製造(フェイズ4)を経て、2029年にはグローバルでの営業・販売を目指すこととしている。安納氏は、「摘果りんごで青森県から外貨を稼ぎ、日本を潤していきたい」と、壮大なビジョンを描いた。
【山神×甲子化学工業】 貝殻廃棄ゼロを目指し「ほたて貝殻パウダー」による新たなソリューションの開発」

・ホスト企業:株式会社山神(専務取締役本部長 穐元美幸氏=写真左=)
・パートナー企業:甲子化学工業株式会社(企画開発部部長 南原徹也氏=写真右=)
●ほたて養殖から、ほたて貝殻の活用へ
青森県は、北海道と並んでほたての産地としても名高い。その青森の陸奥湾で、ほたての養殖から加工販売にまで取り組んでいるのが山神(やまじん)だ。ほたて産業では、かねてより廃貝殻の処理が課題となっている。青森県全体で毎年5万トン、山神1社でも毎年6,000トンもの貝殻が排出され、一部はチョークなどに利用されていたものの、ほとんどは産業廃棄物として処理されてきた。
それに対して山神では、貝殻も大切な資源だと捉えてその利用を進める「シェルサイクルプロジェクト」を実施。貝殻を用いた水性ネイル、洗剤などの開発を進めてきた。今回のプロジェクトでは、利用の幅をより広げるために、技術とアイデアを持つ企業を募集。パートナーとして白羽の矢が立ったのが、甲子化学工業だ。
●青森県民なら誰もが必要とするスコップを開発
プラスチック素材製品の開発・加工を中心事業とする甲子化学工業は、今回のプロジェクトに参画する以前から、ほたて貝殻の利用に取り組んでいた。プラスチックと貝殻を組み合わせた新素材「SHELLTEC(シェルテック)」を開発し、ヘルメットや留め具、ガスキャップ、テトラポットなどの製品を製造している。
山神の廃貝殻と、甲子化学工業の技術力を組み合わせ、どのような分野、製品で共創していくか、多くのアイデアが出されたという。そして最終的に「青森のためになる事業をやりたい」(穐元氏)ということで採用されたプロジェクトの1つ目が、雪かきに使うスコップやダンプだ。
青森は世界一の降雪量で、近年、降雪量が増加している。冬期の市民生活には日々の雪かきが欠かせず、そのためのスコップ等も不可欠だ。ところが、従来のプラスチック製スコップは、1シーズンで壊れてしまうことも多く、家計の負担にもなっていた。
そこで、県内で廃棄されるプラスチックスコップと貝殻から、通常のプラスチックよりも強度が高い「HOTASCOOP(ホタスコップ)」の開発を目指している。現在は試作段階だが、素材だけでなくほたて貝を模した意匠を採り入れることも検討している。

●ほたてベンチは大阪万博でも設置される予定
スコップ以外に「HOTAPARK(ホタパーク)」と名付けたスポットの開発も目指している。これは簡単にいえば、ほたて貝殻素材が用いられ、貝をモチーフにした意匠のベンチや遊具などが設置された公園だ。
「遊具で遊べるだけではなく、市民や子どもが自然に廃棄物問題に触れられ、漁師は自分たちの養殖したほたて貝殻が利用されていることに誇りに感じられる、そんなWin-Winの関係を作りたい」と南原氏はいう。3Dプリンタで成形できるほたて貝殻素材のベンチは、大阪万博の「フューチャーライフエクスペリエンス」というパビリオンの前でも設置される予定になっている。
主催者による総括――次年度以降もオープンイノベーション事業を加速させていく
3組の発表を受けて、プログラムの運営を担うeiiconからインキュベーションクオリティ室の下薗氏、および主催者である青森県 経済産業部 産業イノベーション推進課長の栗島氏より、それぞれ総括のコメントがあった。
下薗氏は、インキュベーションが始まってから3か月でここまで高いレベルの取り組みが実施できるのは、自分の経験上においても珍しいことだと述べた。その上で、それが実現できたのは、事務局にも、ホスト企業にも、青森県をなんとかしたいという強い思いがあり、また、「よそ者」でも受け入れて外部の人と一緒に新しいことをやっていきたいというマインドが、他の地域に比べても圧倒的に高いことがポイントだと指摘。「このような素晴らしいプロジェクトの初年度に関わらせていただいたことを誇りに思う」とした。

▲株式会社eiicon インキュベーションクオリティ室 下薗氏
栗島氏は、ホスト企業、パートナー企業、プログラム関係者への謝意を示すと共に、今回のプログラムが成功裡に進んだため、来年度も継続する予定である旨を報告。そして、県内には人口減少などの様々な課題が山積である一方で、「新しいことに取り組む人を応援する県庁でありたい」として、イノベーションを推進する事業をさらに加速させていくことへの意気込みが示され、まとめとされた。

▲青森県 経済産業部 産業イノベーション推進課長 栗島氏
取材後記
3組がテーマの軸にしていた「藍」「摘果りんご」「廃貝殻」は、以前であれば、イノベーションに資する素材として扱われることは難しかったであろう。そういったテーマでも、今回、新たな事業となる可能性が切り開かれたのは、広く知見や技術を募集するオープンイノベーションの取り組みなればこそだろう。
青森県と同じように、日本各地にはイノベーションの契機となるような地域資源が埋もれている地域が数多くあるはずだ。今回の3組の取り組みは、他地域の企業や自治体の取り組みにも、大いに影響を与える先行事例になりうると感じられた。
(編集:眞田幸剛、文:椎原よしき、撮影:齊木恵太)