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政府投資60兆円へ──「第7期科学技術・イノベーション基本計画」が示す“国家戦略の転換”とは 【日本は再び「技術立国」になれるか(前編)】

政府投資60兆円へ──「第7期科学技術・イノベーション基本計画」が示す“国家戦略の転換”とは 【日本は再び「技術立国」になれるか(前編)】

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2026年3月に閣議決定された「第7期科学技術・イノベーション基本計画」(以下、第7期計画)は、従来の研究振興の枠を超え、国家戦略としての位置づけを明確にした。本計画は2026年度から2030年度までの5カ年を対象とするものであり、「科学技術・イノベーション基本法」に基づき、5年ごとに策定されている。

▲(参考)科学技術・イノベ-ション基本計画について (【参考資料1】第7期科学技術・イノベーション基本計画の検討状況について(令和7年11月28日総合科学技術・イノベーション会議(第80回))_情報委員会(第45回)p.5)

※出典:【参考資料1】第7期科学技術・イノベーション基本計画の検討状況について(令和7年11月28日総合科学技術・イノベーション会議(第80回))_情報委員会(第45回)

今回の第7期計画では研究開発投資の大幅な拡充や安全保障との連携が図られるなど、日本の科学技術政策は大きな構造変化を迎えている。特に、大学改革や都市認定の文脈で「オープンイノベーション」に言及されている点も特徴的だ。

本稿では、内閣府が公開した計画概要および本文に基づき、この第7期計画の背景、構造、そして転換点を整理し、日本の科学技術政策が目指す方向性を読み解いていく。さらに、後日公開する後編ではその構造変化を踏まえ、企業やスタートアップにとって具体的にどのようなインパクトがあるのかについても考察していく。

※出典:第7期科学技術・イノベーション基本計画 - 科学技術政策 - 内閣府

科学技術は「国家の中核」へ──強い危機認識の提示

第7期計画の最大の特徴は、科学技術を単なる成長政策の一領域ではなく、「国家の中核」として再定義した点にある。

▲第7期「科学技術・イノベーション基本計画」のポイント(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 概要」p.1)

計画の現状認識では、科学技術・イノベーションを巡る環境として、基礎研究から社会実装までの加速度的な短縮による「科学とビジネスの近接化」、破壊的技術を巡る実装競争の激化、科学技術政策の「安全保障化」と戦略技術の囲い込み、さらにAIと科学の融合による研究開発パラダイムの転換、国際的な科学技術人材の獲得競争の激化が挙げられている。つまり第7期計画は、科学技術を取り巻く競争環境が、かつてないほど厳しく、かつ国家戦略と不可分になったという前提から出発している。

そのうえで、日本の研究力低下に対して極めて強い危機認識を示す。日本の課題として、トップレベル論文数指標の国別ランキングは2000年初頭の4位から2021〜2023年には13位へと低下。博士号取得者数も約1.5万人で横ばい、官民研究開発投資額は20.4兆円にとどまり、米国・中国の4分の1以下の水準にある。論文数や被引用数の順位低下、研究人材の伸び悩み、大学の競争力低下は、アカデミア内部の問題にとどまらない。第7期計画はこれを、経済成長の停滞や産業競争力の後退、さらには安全保障上の脆弱性にもつながりうる「国力の低下」に直結する構造的課題として捉えている。

実際、第7期計画では、科学技術・イノベーション政策そのものの転換が掲げられており、科学研究と社会実装の一体的推進、国家安全保障との有機的連携の強化、さらには科学技術外交の国家戦略化が明確に位置づけられている。

さらに、こうした投資を循環させる仕組みとして機能させるため、推進システムそのものの刷新にも踏み込んでいる点が特徴的だ。具体的には、「ヒト(人材)」「カネ(資金)」「モノと情報(研究基盤)」の改革を掲げ、世界水準の人材システムの構築、挑戦とイノベーションを支える投資の好循環、そしてデータや研究設備を共有する共用基盤の高度化が打ち出されている。

これは従来のような個別施策の積み上げではなく、「投資→研究→実装→再投資」という循環そのものを設計し直すアプローチといえる。

政府投資60兆円へ倍増──過去最大規模のインパクト

今回の計画で最もインパクトが大きいのが、研究開発投資の規模だ。政府研究開発投資を5年間で60兆円、官民合わせて180兆円へ拡充し、トップレベル論文数指標で世界第3位を目指すという目標設定からも、その本気度は明らかだ。

第6期計画では「政府研究開発投資30兆円・官民合わせて120兆円」が目標だったことを踏まえると、単純な増額ではなく、国家としての投資スタンスそのものが変化していることがわかる。科学技術をコストではなく、国力の源泉として捉え直した結果が、この規模感に表れている。

また、計画の中核には「6つの柱」が据えられている。すなわち、①科学の再興、②戦略的重点化、③安全保障との連携、④イノベーション・エコシステムの高度化、⑤科学技術外交、⑥ガバナンス改革である。これらは個別に進められるのではなく、相互に連動しながら、日本全体の社会システムを再構築するための設計図として位置づけられている。

「Society5.0」から「競争力強化」へ──政策の変化

こうした施策から読み取れるのは、「研究力低下」という現象の裏にある構造問題──資金の不安定さ、人材の流動性不足、研究時間の不足、評価制度の歪み──に対して、包括的に手を打とうとしている点である。そしてその根底には、日本の科学技術政策が抱えてきた構造的課題──縦割り行政、自前主義、デジタル基盤の遅れ──への反省がある。第7期計画ではこれらを乗り越えるため、単なる投資拡大ではなく、“実行できる体制”への転換が意図されている。

第4〜6期の基本計画を改めて振り返ると、「Society5.0」というビジョンを軸に据えており、テクノロジーによる社会課題解決という“理想像”が中心にあった。

しかし第7期では、このトーンが大きく変わり、より現実的かつ戦略的な政策へとシフトしている。これは「理想論から現実の競争力強化」の転換といえるだろう。

6つの柱で読み解く新戦略──科学・安全保障・外交の一体化

第7期科学技術・イノベーション基本計画は、大きく6つの柱で構成されている。

① 研究力の強化──「知の基盤」の再構築

まず中核に据えられているのが、「科学の再興」である。

科研費の大幅拡充や基金化による研究の安定化、研究者の事務負担軽減、創発的研究支援の強化などにより、研究環境そのものの構造改革が進められる。また、挑戦的・融合領域への投資拡大により、新たな研究領域の創出を狙う。

加えて、研究設備の共用化やオープンアクセスの推進、研究評価の見直しなど、制度面からの改革も同時に進める。

▲第7期基本計画の具体施策(1)(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 概要」p.2)

② 人材育成・確保──科学技術人材の“量と質”の転換

人材面では、博士人材の拡充(2030年度:2万人目標)や、若手研究者の海外派遣拡大(累計3万人規模)など、量的拡大と国際循環の強化が打ち出されている。

同時に、URA(University Research Administrator)など研究マネジメント人材の高度化や、理数系教育の質的転換、分野横断型人材の育成も重視される。

③ 重点分野の推進──戦略技術の選択と集中

政策資源を集中投下する重点領域が明確に示された。

AI・量子・半導体・バイオ・フュージョンエネルギー・宇宙などの「国家戦略技術」に加え、モビリティ、GX、先端医療、防災、食・農などの「新興・基盤技術領域」も対象となる。

さらに、NEDOやJSTなどを通じた一気通貫支援、スタートアップ支援、研究開発投資インセンティブなどを組み合わせ、「研究から社会実装まで」をつなぐ仕組みが設計されている。

▲第7期基本計画の具体施策(2)(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 概要」p.3)

④ イノベーション創出──産学官連携とスタートアップの強化

研究成果の社会実装に向けては、産学官連携の強化とスタートアップ支援が軸となる。

大学における世界トップレベルの研究拠点形成や、共創拠点の整備、ディープテック・スタートアップへの一気通貫支援などにより、「研究→事業化」の距離を縮める。

さらに、地域資源を活かした地域イノベーションや、知財・標準化戦略の一体的推進も盛り込まれており、単なる技術開発ではなく“産業化”まで見据えた設計となっている。

⑤ エコシステムの高度化──国際連携と科学技術外交

「科学技術外交」の明確な位置づけとして、重要技術分野における同盟国との連携強化、国際共同研究の推進、国際ルール形成への主体的関与など、「Science for Diplomacy/Diplomacy for Science」の両軸で戦略的に展開する。

また、ODAや国際協力を通じた社会課題解決や、国際頭脳循環の促進など、科学技術を外交資源として活用する視点が強化されている。

⑥ ガバナンス強化──国家としての実行力を高める

政府研究開発投資は5年間で60兆円、官民合わせて180兆円へと拡大。さらに、大学改革や基盤的経費の確保、国立研究開発法人の機能強化などにより、持続的な研究基盤を整備する。

加えて、CSTI(総合科学技術・イノベーション会議)の司令塔機能強化や関係省庁の連携強化により、政策の実行力そのものを高める設計となっている。

▲第7期基本計画の具体施策(3)(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 概要」p.4)

編集後記

今回の第7期科学技術・イノベーション基本計画を一言で表すなら、「国家戦略化」である。科学技術はもはや、研究者や大学の中だけの話ではない。産業、外交、安全保障、すべてを横断する国家の基盤として再定義された。本当に問われるのは、この戦略が現場にどこまで実装されるかだ。

後編では、基礎研究・重点技術・スタートアップ・オープンイノベーションといった観点から、想定される企業・現場へのインパクトを具体的に読み解いていく。

(構成・取材・文:入福愛子)

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