1. Tomorubaトップ
  2. ニュース
  3. 日本のエコシステムはいかに進化できるか?――科学技術イノベーションの最前線から語る「エコシステム構築のポイント」
日本のエコシステムはいかに進化できるか?――科学技術イノベーションの最前線から語る「エコシステム構築のポイント」

日本のエコシステムはいかに進化できるか?――科学技術イノベーションの最前線から語る「エコシステム構築のポイント」

  • 8092
  • 8088
  • 8080
15人がチェック!

9月27日、オープンイノベーションの祭典「Japan Open Innovation Fes 2022」(JOIF2022)が開催された。メタバースカンファレンス形式の会場には、スタートアップや中小企業、大企業、それらの支援者など、イノベーションを志すプレイヤーが集結し、様々なピッチやセッションが行われた。

本記事では、盛況のうちに幕を閉じたJOIF2022のプログラムの中から、スペシャルセッション「VUCA時代を生き抜くための科学技術イノベーション~最前線のプレイヤーが語るエコシステムの進化~」の様子をレポートする。

セッションに登壇したのは、PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 鐘ヶ江 靖史氏、株式会社ユーグレナ 取締役代表執行役員CEO リアルテックファンド 代表の永田 暁彦氏、経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室の馬場 大輔氏だ。モデレーターはeiicon companyの香川 脩が務めた。

鐘ヶ江氏は、官公庁のイノベーション創出事業や、研究者の伴走支援を中心に行っている。コンサルティングの立場から、イノベーション創出を推進する存在だ。永田氏は、東大発ベンチャーのユーグレナのCEOとして、その成長を牽引している。そしてユーグレナでの経験をもとに立ち上げたリアルテックファンドを運営。イノベーション創出の当事者である。

そして馬場氏は、大学の研究者を辞め大学で産学連携を支援する立場を経て、現在は経産省に籍を置き産学官の連携に携わっている。研究者の視点、さらに政府の視点を併せ持ち、技術を世の中につなぐ強い想いを持っている。

それぞれ立場は異なるが、共に科学技術イノベーションの最前線を走る存在として、科学技術イノベーションの現在地について、そしてエコシステムの進化について語った。

<登壇者>


▼写真左から

・株式会社ユーグレナ 取締役代表執行役員CEO/リアルテックファンド 代表 永田 暁彦氏

・経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室 馬場 大輔氏

・PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 鐘ヶ江 靖史氏

・モデレーター:eiicon company 香川 脩

イノベーション創出に必要な5つの視点と、それを阻む5つの壁

冒頭、モデレーターの香川が、世界各地域の科学技術イノベーションの特徴について説明した。米国は、IT分野であればシリコンバレーというように、分野と都市が深く結びついている。特徴的なのが、社会的ニーズの高い研究開発への投資により、政府が市場創出まで支援しているということだ。

欧州に関しては、地理的特性から国家を越えて多様な関係者が参画してイノベーションを創出する動きが根付いている。優先課題分野にリソースを集中投入しているといわれ、地域間の連携など10年程前から政府主導で進めている。そして日本は、大企業や主要大学が主導する国家プロジェクトが多く走っており、特定研究課題×トップダウン×大規模なR&D体制が特徴だ。イノベーション人材の育成にも力を入れている。

香川は「その国や地域の状況や特性に適したイノベーション創出の方法論がある。今回はまさに日本において、どのように科学技術イノベーションを生んでいくのか、登壇者の皆さんに聞きたい」と語った。

続いてPwCコンサルティングの鐘ヶ江氏が登壇。鐘ヶ江氏は「社会活動を実施したことによって経済的にインパクトを与えるような取り組み」を本セッションにおけるイノベーション創出の定義とし、そのために必要な5つの視点「知識・人材」「資金」「ルール・規制」「インフラ」「場・機会」について紹介した。


一方でイノベーション創出の前に立ちはだかる壁もある。鐘ヶ江氏は、「技術の壁」「組織/業界の壁」「市場・顧客の壁」「制度・規制の壁」と、それら4つに影響を与える「認識の壁」、合計5つの壁について解説し、「それぞれの立場から、何がイノベーションの妨げになっているのかもご意見をいただきたい」と話した。


その中でも特に重要な視点について香川が尋ねると、鐘ヶ江氏は「知識・人材」の視点だと回答。「資金やインフラをうまく使いこなすのももちろんだが、それを事業につなげていくには、人材の力が不可欠。そこでぶつかりがちなのが、「市場・顧客の壁」「認識の壁」だという。そして、その壁を壊すには一人・1社だけではなく複数のプレイヤーが連携する必要があると強調した。


PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 シニアマネージャー 鐘ヶ江 靖史氏

イノベーションを創出する当事者にスポットライトを当てる

続いて、「各プレイヤーの取り組みについて」という設問のもと、 経産省・馬場氏とユーグレナ/リアルテックファンド・永田氏が、それぞれの活動について説明した。

馬場氏は、「想いを込めて取り組んでいる事業」を3つ紹介した。1つ目は「J-NEXUS 産学融合先導モデル拠点創出プログラム」だ。これは、産学融合拠点の創出を目的(ビジョン)として、大学起点のオープンイノベーションの進化と拡大を目指すものだ。

2つ目は、「官民による若手研究者発掘支援事業」だ。若手研究者には、なかなかスポットライトが当たりにくいという現状がある。そして民間企業も新しいアイデアが欲しいが、なかなか若手研究者とはつながることができないという課題がある。その両者のニーズをつなぐ事業として政府としても支援をしている。

そして3つ目が、「クロスアポイントメント制度」だ。これは研究者が大学、公的研究機関、企業のなかで2つ以上の機関に雇用され、それぞれの機関での役割に応じて研究・開発に従事することができる制度だ。馬場氏自身も、大学の研究者時代にクロスアポイントメント制度を利用し、中央省庁の業務を経験したことをきっかけに、経済産業省への転職を決めたのだという。「こうした制度を組み合わせていくことで、イノベーション創出に寄与できるかもしれない」と、馬場氏は語った。


経済産業省 産業技術環境局 大学連携推進室 馬場 大輔氏

「イノベーションを起こす主体は誰だろうか」と、問いかけたのは永田氏だ。「大谷翔平氏のメジャーリーグでの活躍が“イノベーション創出”だとすると、本当に必要なのは新しい野球場を建設したりFA制度を作ったりすることではなく、『メジャーにいって野球をやりたい』という人を創り出すことだ」と示唆した。どれだけ仕組みを整えても、エンジンを積んだ人がいなければ前には進まない。研究開発型ベンチャーのシーズ作りに取り組むことは、ファンド業務としては投資効率性が低いと言われている。

しかし、まずはそこに取り組みたいという人が生まれなければ何も始まらない。だからこそ、その種を創ることにフォーカスしているという。「馬場さんの活動とアプローチは違うが、目指しているところは同じ」だと永田氏は話した。

リアルテックファンドとしての具体的な支援内容を香川が問うと、永田氏は「リアルテックをともに運用するリバネス社とともに、各地域で大学、自治体、地元の地銀、地元の主要企業と連携し、研究者やアントレプレナー発掘プロジェクトをこれまで1000件以上行っている。打率は低くとも、科学技術発のベンチャーを可能な限り数多く生み出すために、機会提供をし続けていく」と語った。


株式会社ユーグレナ 取締役代表執行役員CEO/リアルテックファンド 代表 永田 暁彦氏

成功事例の分析により、得られた知見を横展開する

2つ目の設問は「エコシステム構築を今まで以上に加速するには?」。香川は科学技術イノベーションを起こす上での課題とは何か、問いかけた。

永田氏は「ホンダも日本電産も、テックベンチャーからスタートしているため、事例は日本国内にもたくさんある。ただ、この30年間を振り返ると明らかに成功事例が少ないことが大きな課題。どうすれば成功事例が出てくるのか、徹底して取り組むことが重要。」と回答。

さらに、「1つ成功モデルができると、追随しやすい状態になるはず。一番よくできているのは東大。仕組みを作るというよりは、動力源をどう作ってフローをどう流していくかを意識して活動している」と話した。

「何をもって『成功』とするのか、まずは定義せねばならない」というのは、鐘ヶ江氏。その上で、「なぜ成功したのか、具体的な事例をコンサルティング会社やシンクタンクが分析し、そこで得られたことを抽象化して、知見として蓄積していくことが必要だ。その知見を合わせて、経産省などと一緒に補助金や事業を創ることができると、成功事例の横展開ができるのではないか」と提案した。

馬場氏は「政府はグッドプラクティスが好きだが、成功に対する答えは1つではない。それぞれ異なっていいはずなのに、『東大のスタートアップは成功しているけど、うちはそうなれないから諦めよう』となってしまうことが日本では多いと思う」と、課題を指摘した。そして、「スポットライトを当てれば輝く人はたくさんいるはずなので、そういう人に機会を提供するには、政府としてはグッドプラクティスだけではなく、成功事例はバラエティに富んでいるという事実を出すべきだと考えている」と述べた。

イノベーションの最前線で、どのような連携の形をとっていくか

3つ目の設問として提示されたのは、「これからのステークホルダーの役割や連携は?」だ。


まず鐘ヶ江氏は、馬場氏に対して「経産省と連携をするとなると、成功事例だけではなく失敗の分析や知見の蓄積も行う必要があると思う。そして国として事業を広げるために、1つの企業や大学に限らず、複数の大学や企業が接点を持つ状態を作りたい。そのような取り組みを一緒にできないか」と、問いかけた。

馬場氏は「政府はコンサルティング会社やシンクタンクに頼りすぎているところもある。政府の人間も、VCも、コンサルも、みんな想いを持っていなければいけない。個々の想いがぶつかり合った時に、初めて新しいアイデアが出てくるはず。だからこそ、連携をするには、自分の意見を言うことが必要。しかし、政府の人間には自分の意見を表に出すのが苦手な人が多い印象がある。そこはコンサル側も遠慮せず、意見をぶつけて引き出してほしい」と主張した。

続いて鐘ヶ江氏から永田氏に「様々な知見をお持ちだと思うが、それらを横展開していく時に、PwCのようなコンサルティング機能を持つ会社と共創する余地はあるか」と聞くと、永田氏は「僕たちは文字通り、人生を懸けて取り組んでいるし、VCは失敗すると二度とファンドを組成できないほどのリスクを負っている。結果に対して一緒にコミットして、責任が取れるからこそ、仕事の成功率が高いと思う。コミットメントできるイメージができれば、ぜひご一緒したい」と述べた。

永田氏の発言を受けて鐘ヶ江氏は、「コンサルティングの立場ではなかなか見えにくいことがあると思う。『我々が人生を懸けてやっていくところは一体どこで、どう責任を取り、最後までやっていくのか』を改めて掘り下げていきたい」と話した。

当事者意識を持ち、エコシステムの進化に本気で取り組む

最後の設問として提示されたのは「連携によって期待するエコシステムの進化とは?」だ。

鐘ヶ江氏は「エコシステム自体が1つの形に決まることはないと思う。エコシステムに登場してくるプレイヤーの立場や社会環境・状況も変わり得るため、その時その時で何をすべきかを考えながら、知見を蓄積していくことが進化につながるのではないか」と論じた。

馬場氏は、「エコシステムの進化とは、元をたどると個人の意識の進化」だと明言した。一人ひとりが、何かを変えよう、貢献しようと考え、自らアクションをすることで、大きな歯車が動き出す。その先がエコシステムだというのだ。「自分ごとだと捉えることこそが進化の一歩であり、そのきっかけを政府が与えられるといいと思うので、これからも活動を続けたい」と決意を述べた。

永田氏は、「エコシステムへの参加者全員が、本気で歯車を回すことが重要。先ほど大谷選手の例を出したが、『彼みたいな人が日本人からもっと生まれてほしいね』と言っているだけの人も、エコシステムの参加者としてカウントされてしまっている気がする。そうではなく、本気で回そうとしている人の数を増やすこと、そして回り始めた時にフリーライダーにならないことが、非常に大切だと思う」と語った。

さらに永田氏は「VUCAの時代がタイトルにある以上、変わり続けていくしかない。しかし、自分たちの立ち位置を変えないのに、『歯車が回ってほしいね』と言っている人がいるような気がしている。歯車を回すために、自分たちはどう変化するのか、各プレイヤーやファンクションが意識し続けることが重要」と結論付けた。


取材後記

科学技術イノベーション推進活動が広がりを見せ、そこに関わるプレイヤーが増えている。鐘ヶ江氏が説明したように、イノベーション創出の過程で様々な壁にぶつかるからこそ、それぞれのプレイヤーが連携する意識を強く持つことが必要なのだろう。そのためには、エコシステムに参加する個々人が自分ごとだと捉え、その中で自身がどのような機能を果たすのか改めて問い直し、リスクを適切に背負ったうえでコミットすることが大切だ。当事者意識を持ち、本気度の高いプレイヤーが日本中にあふれるようになれば、エコシステムの進化は加速するに違いない。そんな可能性を感じられるセッションだった。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:加藤武俊)

新規事業創出・オープンイノベーションを実践するならAUBA(アウバ)

AUBA

eiicon companyの保有する日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA(アウバ)」では、オープンイノベーション支援のプロフェッショナルが最適なプランをご提案します。

チェックする場合はログインしてください

コメント15件