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政府投資60兆円へ──「第7期科学技術・イノベーション基本計画」が示す“国家戦略の転換”とは 【科学技術政策の“守りから攻め”への転換(後編)】

政府投資60兆円へ──「第7期科学技術・イノベーション基本計画」が示す“国家戦略の転換”とは 【科学技術政策の“守りから攻め”への転換(後編)】

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前編で整理したとおり、「第7期科学技術・イノベーション基本計画」(以下、第7期計画)では、以下6つの柱を打ち立てており、科学技術を「国家戦略」として再定義する転換点となった。

① 知の基盤としての「科学の再興」

② 技術領域の戦略的重点化

③ 科学技術と国家安全保障との有機的連携

④ 産学官を結節するイノベーション・エコシステムの高度化

⑤ 戦略的科学技術外交の推進

⑥ 推進体制・ガバナンスの改革

では、6つの柱を推進していくなかで起きる「構造変化」は現場に何をもたらすのか。

本稿では、企業・スタートアップ・大学といったプレイヤーにとって、この計画がどのような意味を持つのかを読み解く。

※出典:第7期科学技術・イノベーション基本計画 - 科学技術政策 - 内閣府

キーワードは、「基礎研究から人材育成、社会実装、産業競争力の強化までを一貫して行うこと」だ。研究、産業、安全保障、外交――これまで分断されていた領域を一本の政策導線で接続しようとするこの構想は、現場の意思決定そのものに影響を与えるだろう。

①科学の再興──基礎研究の立て直しは“制度改革”から始まる

第7期計画が目指しているのは、「研究できる環境」を取り戻すことにある。単なる研究費の増額ではなく、科学の基盤そのものを立て直そうとしている点が重要だ。

具体的には、科研費の拡充や基金化による安定的な資金供給に加え、研究時間の確保、事務負担の軽減、研究支援人材(URA等)の強化などが打ち出されている。これは研究者の「時間」と「集中」を取り戻すための政策である。従来の競争的資金中心の設計から、基盤的経費の確保も含めた構造的見直しへと踏み込んでいる。

さらに、研究基盤のあり方そのものにも大きな転換が示されている。「モノの『所有』から『共有』へ」「産学官が連続的に価値創造できる開かれた研究・実装インフラ」という記述は、研究設備やデータ基盤を“囲い込むもの”から“エコシステム全体で活用するもの”へと再定義するものだ。(*1)

この変化がもたらす現場インパクトは大きい。第一に、研究設備やデータ基盤へのアクセスが特定の大学や大企業に閉じず、スタートアップや企業にも広がることで、R&Dや実証のスピードが加速する。第二に、産学官が連続的に関与できる環境が整うことで、「研究→実装」の断絶が縮まる。

加えて特徴的なのが、「AI for Science」の位置づけである。計画はこれを「先進国としての地位確立」に関わるテーマとして掲げ、AIによる研究効率・生産性の向上と、研究者の創造性最大化の両立を狙う。(*2)

これは単なる効率化にとどまらない。研究開発の方法そのものを変える可能性を持つ。基礎研究のスピードが上がることで、技術シーズ創出のサイクルは短縮され、企業には研究成果を待つだけでなく、研究プロセスに能動的に関わる役割が求められるだろう。

一方で、この「オープン化」には制約もある。計画では、研究データについて「オープン・アンド・クローズ戦略」のもとで管理を進める方針が示されており、機密性や安全性、国益を踏まえた戦略的なデータ管理の重要性が強調されている。(*3)

(*1)5.科学技術・イノベーション推進システムの刷新(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.14)
(*2)4.AI for Science による科学研究の革新(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.25)
(*3)4.AI for Science による科学研究の革新(2) AI駆動型研究を支えるデータの創出・活用基盤の整備(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.27)

②「17分野+国家戦略技術」による選択と集中

もう一つの大きな転換は、「何に投資するか」を明確にした点だ。AI、量子、半導体、バイオ、宇宙、フュージョンエネルギーといった国家戦略技術に加え、GX、モビリティ、先端医療、防災、食・農など17の重点領域が設定された。(*4)

重要なのは、この重点化が単なる研究投資にとどまらず、「産業政策」として設計されている点である。NEDOやJSTによる一気通貫支援、スタートアップ支援、実証フィールド整備を通じて、「研究→事業化→市場化」までを一体で推進する仕組みが組み込まれている。

さらに、研究開発税制に「戦略技術領域型」が新設され、税制・拠点認定・共同研究を組み合わせた“ポートフォリオ設計”が前提となる。大学連携やオープンイノベーションは、もはや推奨事項ではなく、「インセンティブ設計による利益最大化」の中核に位置づけられている。(*5)

(*4)第3章 技術領域の戦略的重点化 2.新興・基盤技術領域 (2)対象領域 (「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.37)
(*5)第3章 技術領域の戦略的重点化 3.国家戦略技術領域 (3)支援措置等<大学等の研究拠点との連携強化>(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.42)

③安全保障との接続──“デュアルユース”が前提になる時代

第7期計画では科学技術を安全保障と不可分のものとして位置づけ、「デュアルユース」を前提とした研究開発の推進を明確に打ち出している。ここではデュアルユースを当然の前提として捉えている。

本文では、「民生用の技術と安全保障用の技術の区別は極めて困難」と明記したうえで、デュアルユース技術への投資を産業競争力や長期的成長にも資するものと位置づけ、「産学官が連携して研究開発および社会実装に取り組む」と踏み込んでいる。さらに、「従来の防衛産業だけでなく、より広範な企業やスタートアップ企業の参画を促す」という点も重要だ。(*6)

これは、防衛領域を特定産業の内側に閉じるのではなく、「技術を持つプレイヤー全体」に開放する設計への転換を意味する。加えて注目すべきは、「躊躇なく参画する」という表現である。(*7)

この表現は、防衛分野との関係に対する従来の慎重姿勢からの明確な転換であり、政策としての意思表示といえる。この変化が現場にもたらすインパクトは、機会と負担の両面に及ぶ。

機会の面では、安全保障分野のエコシステム化が進むことで、スタートアップや新規参入企業は、これまで困難であった調達・実証・量産といった需要にアクセスしやすくなる。これにより、技術を起点とした新しい市場機会が創出されるだろう。

一方で、負担の側面も無視できない。第7期計画では、技術流出防止の観点から、研究者や研究機関に対するデュー・ディリジェンスの強化、研究データの機微性に応じたアクセス制御、サイバーセキュリティの高度化などを求めている。特定の研究プログラムにおいては、統一基準に基づく管理や手順書整備の必要性にも言及している。

さらに国際連携においても、「技術流出防止」「知財保護」「投資審査」「輸出管理」といった観点を踏まえ、「責任ある国際連携と適切な管理の両立」が求められる。(*8)

つまり、技術開発はもはや「純粋な研究活動」ではなく、「地政学リスクと隣り合わせの活動」へと変容している。デュアルユースが推進されるほど、企業に求められるのは単なるコンプライアンス対応ではない。研究開発や事業設計の初期段階から、リスクマネジメントと技術管理を組み込むことが前提となる。

(*6)第4章 科学技術と国家安全保障との有機的連携(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.44)
(*7)第4章 科学技術と国家安全保障との有機的連携 1.国家安全保障に資する研究開発の推進 (2)関係府省の連携体制の構築(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.45)
(*8)第4章 科学技術と国家安全保障との有機的連携 2.経済安全保障の観点を重視した技術力の強化 (3)経済安全保障上の重要技術の育成 3.研究セキュリティの強化等(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.48)

④エコシステム──大学・スタートアップ・産業の再設計

第7期計画の中核にあるのは、「イノベーション・エコシステムの高度化」だ。産学官連携、スタートアップ創出、オープンイノベーションといった取り組みを単に推進するだけでなく、これらを基盤とした制度設計に踏み込んでいる。研究開発成果の社会実装を加速し、その過程で生まれる資金・人材・知の流動性を高めることで、再び大学の研究力向上につなげるという“好循環の構造”まで明確に描いている。

一方で、日本の課題も率直に指摘されている。国内企業の研究開発投資、とりわけ大学への拠出は主要国と比べて低水準にとどまっており、大学本部の産学連携機能強化だけではボトルネック解消に至っていないとされる。これを踏まえ、第7期計画は「大学研究費に占める企業資金の割合を増加」させる必要性を明示している。(*9)

ここから読み取れるのは、企業にとって大学との関係性の位置づけが変わるということである。共同研究は、もはや個別プロジェクトではなく、大学の経営基盤や研究力強化と連動する長期的な投資対象として再定義されている。

つまり企業にとっては、単に研究成果を獲得するのではなく、拠点・人材・知財を含めた関係性をどう設計するかが競争力そのものになる。

また、スタートアップに関しても踏み込みが深い。第7期計画は、ディープテック・スタートアップに対し、研究開発から社会実装までの「一気通貫支援」を掲げ、起業家育成、アクセラレーション、海外投資家の参入を促す投資契約実務の整備など、エコシステム全体の高度化に言及している。

さらに、SBIR制度などを通じた研究開発支援に加え、M&Aを含む出口の多様化、自治体を含む公共調達の拡大によって、「スタートアップが大きく成長できる環境」を整備する方針も示されている。これは、研究開発初期から政府調達・民生利用までを一体で支える設計であり、従来の支援とは一線を画す。

加えて、スタートアップ・エコシステム拠点都市においては、「オープンイノベーションや公共調達の促進」を通じて持続的なエコシステムへと進化させる方針が示されている。拠点都市、大学、関係府省が連動することで、“スタートアップ・フレンドリー”な都市形成が進められる。(*10)

(*9)第5章 産学官を結節するイノベーション・エコシステムの高度化 1.産学連携の推進・世界で競い成長する大学の実現(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.50)
(*10)第5章 産学官を結節するイノベーション・エコシステムの高度化 2.スタートアップ・エコシステムの形成 (1)ボーン・グローバル・スタートアップ創出力の強化(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.54-55)

⑤外交とルール形成──科学技術は“交渉力”になる

ここで重要なのは、日本が「技術を使う側」から「ルールを決める側」に回れるかどうかである。第7期計画では、「科学技術外交」が国家戦略として明確に位置づけられ、その射程は従来の国際協力にとどまらず、「ルール形成」への関与にまで踏み込んでいる。

具体的には、AIやデータに関する国際ルール、標準化戦略、技術覇権を巡る競争といった領域において、日本がどの立場を取るのかが問われている。(*11) これは、科学技術が単なる競争力の源泉ではなく、国家の交渉力そのものとして機能するフェーズに入ったことを意味する。

さらに計画では、グローバルサウスとの連携強化も打ち出されている。(*12)

これは単なる市場開拓ではなく、日本の技術やルールの影響圏を拡張する戦略的な意味合いを持つ。

こうした変化は企業の海外戦略にも直接影響する。これまでの「海外展開=製品・サービスの販売」という考え方から、「標準化や制度設計の段階から関与し、ルールを策定する活動」へと、その意味合いは変化していく。

(*11)第6章 戦略的科学技術外交の推進(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.60-64)
(*12)第6章 戦略的科学技術外交の推進 <科学技術外交の戦略的な実施体制の構築> 3.国際頭脳循環の推進(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.63)

⑥ガバナンス改革──“実行できる国家”へ

これまでの科学技術政策の最大の課題は、「計画はあっても実行されない」ことにあった。第7期計画は、この問題に正面から踏み込んでいる。

実際、第6期計画では政府投資は目標30兆円に対し約43.6兆円と上振れした一方、官民合わせた投資は目標120兆円に対して約86.3兆円にとどまった。第7期計画の本文でも同様の数値が示され、民間投資の呼び込みが不十分であった点が課題として明記されている。(*13)

ここから見えてくるのは、「政府が積む」だけでは不十分であり、「民間投資をいかに呼び込むか」を制度として設計し切れるかが問われているという点だ。

この課題に対し、第7期計画は実行体制そのものの強化に踏み込んでいる。中核となるのが、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の司令塔機能の強化である。

ただし、その中身は単なる会議体の強化ではない。エビデンスに基づく政策立案(EBPM)の徹底や、内閣府エビデンスシステム(e-CSTI)の活用・機能拡張、さらには「ストラテジック・インテリジェンス」機能の強化など、政策判断そのものの精度と速度を引き上げる設計が盛り込まれている。

加えて、在外公館や国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)、NEDO、JSTといった関係機関との連携強化を通じて、情報収集・分析能力を高める方針も示されている。(*14)

これは、政策実行を単なる国内調整ではなく、「国際情勢を織り込んだ運用」へと引き上げる試みでもある。この変化は、企業やスタートアップにとっても無関係ではない。重点領域においては、採択、税制、標準化、調達、国際連携といった政策ツールが束ねられ、より一体的に機能する可能性が高まる。一方で、研究セキュリティや輸出管理といった“守りの要件”も同時に強化される。

(*13)第1章 基本的考え方 2.基本計画 30 年間の実績と課題 (2)課題 <第6期基本計画の課題>(「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.8-9)
(*14)第7章 推進体制・ガバナンスの改革 3.CSTIの司令塔機能の強化 (「第7期科学技術・イノベーション基本計画 本文」p.68)

編集後記

第7期科学技術・イノベーション基本計画は、これまでの延長線上にはない。科学技術の国家戦略化、投資規模の拡大、安全保障との接続、そしてオープンイノベーションの前提化──いずれも「構造そのもの」を変えにいく政策である。

ただし、本当の論点はここから先にある。この構造が、現場で実際に機能するのかどうかだ。日本は再び「技術立国」になれるのか。その答えは政策文書の中にはない。企業、大学、スタートアップ――。それぞれの現場で、この計画をどう使い、どう動くかにかかっている。

(構成・取材・文:入福愛子)

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