
「統合イノベーション戦略2025」とは?スタートアップ・エコシステム拠点都市から読み解く国家戦略のいま
スタートアップによるイノベーション創出は、地域経済の成長や国際競争力強化の鍵です。内閣府は「統合イノベーション戦略2025」において、イノベーション・エコシステムの形成を重要施策と位置づけ、全国13の「スタートアップ・エコシステム拠点都市」を選定しました。
本記事では、その全体像と各都市の特色を解説し、日本がイノベーションを通じて目指す持続的な成長モデルの姿に迫ります。
統合イノベーション戦略2025とは
「統合イノベーション戦略2025」は、内閣府が策定する第6期「科学技術・イノベーション基本計画」の5年目にあたる年次戦略です。国内外の社会・経済情勢や科学技術をめぐる変化を踏まえ、第6期計画の総仕上げとしての役割を担うとともに、第7期基本計画に向けた議論の成果も反映されています。政策のガバナンス強化という観点も含め、科学技術・イノベーション政策の総合的な推進を目指す戦略です。
この戦略では、日本が国際競争力を維持・向上させるために、科学技術を基軸としたイノベーション創出の加速が不可欠であるという認識のもと、政策横断的なアプローチをとっています。

その重点施策は大きく以下の3つに分かれています。
1.先端科学技術の戦略的な推進:量子技術やAI、バイオなどの分野で世界をリードする技術力を確保する。
2.知の基盤(研究力)と人材育成の強化:大学改革や博士人材の育成、研究費の配分最適化などにより、研究力強化を目指す。
3.イノベーション・エコシステムの形成:スタートアップ創出・支援や産学官連携の強化などにより、好循環型のエコシステム構築を進める。
本記事では3つ目の「イノベーション・エコシステムの形成」に焦点を当て、特にその中核となる施策「スタートアップ・エコシステム拠点都市」について詳しく解説します。
参照ページ:総合科学技術・イノベーション会議(第78回)議事次第
参照ページ:統合イノベーション戦略2025(案)(概要)
イノベーション・エコシステムの形成 ― 3つの柱
「イノベーション・エコシステムの形成」はスタートアップの育成を目的として以下のような施策を計画しています。
• グローバル・スタートアップ・アクセラレーションプログラムの推進
• スタートアップ・エコシステム拠点都市(8拠点)の機能強化
• SBIR制度抜本拡充(2022年度補正予算2,060億円)
• スタートアップの公共調達促進
• グローバル・スタートアップ・キャンパス構想基本⽅針(2024年8⽉策定)
これらを実現するための枠組みとして、以下の3つの柱に基づいて施策が推進されています。
・研究開発型スタートアップ支援
大学や研究機関の成果をスタートアップとして社会実装につなげる取り組みの推進。
・都市・地域・大学等の連携
地域の自治体・産学官金が連携し、地域ぐるみでのイノベーション創出体制を構築。
・人材・技術・資金の好循環促進
挑戦する起業家を支える資金・人材の循環構造をつくり、エコシステムの持続性を担保。
このアプローチを全国規模で展開するために、政府が整備しているのが「スタートアップ・エコシステム拠点都市」の仕組みです。
「スタートアップ・エコシステム拠点都市」とは?
内閣府は2020年に第1期の拠点都市を選定しています。この5年間でスタートアップ創出数増加、⾏政課題解決プロジェクト創出数やビジネスマッチング件数等の共創数増加、各都市エコシステム内の繋がりといった成果が挙げられました。
一方で、グローバルに稼げるスタートアップを⼗分に創出できていない、投資などの⾯で、海外のスタートアップ・エコシステムとの繋がりが⼗分に構築できていないといった課題も見えました。
それを踏まえ、2025年からは第2期として13の拠点都市を選定しました。スタートアップの成⻑を加速させるために、拠点都市を世界トップレベルのスタートアップ・エコシステムへ引き上げることを最重要課題としています。
第1期で拠点都市に選定した8都市(札幌・北海道、東北圏、東京圏、中部圏、関⻄圏、広島、北九州、福岡)を「グローバル都市拠点」として海外エコシステムと連携するための世界的なネットワークを形成する拠点に成長させる計画を打ち立てました。
この8拠点に加えて、地域経済を活性化しながら海外エコシステムにも繋がる拠点都市として新たに北陸(富⼭県、⽯川県、福井県)、⻑野×新潟、瀬⼾内(愛媛県、岡⼭市)、熊本、沖縄の5拠点を「NEXTグローバル拠点都市」として加えています。
第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市に選定された13の拠点とミッション
以下に、第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市に選定された13の拠点とそのミッションを紹介します。
グローバル拠点都市(8拠点)

・東京圏(スタートアップ・エコシステム東京コンソーシアム)
世界・全国のエコシステムとの広域連携の推進
・中部圏(Central Japan Startup Ecosystem Consortium)
ものづくり産業の世界的な集積と競争力により世界への道を拓く
・関西圏(大阪・京都・ひょうご神戸コンソーシアム)
ライフサイエンス、グリーン、デジタルを中心としたグローバル化
・東北圏(仙台・東北スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム)
課題解決先進地域の実現に向けた大学発スタートアップ創出
・札幌・北海道(札幌・北海道スタートアップ・エコシステム推進協議会)
宇宙・食・再エネ等を軸に、GX・AIで世界から人材・投資を誘引
・広島(広島地域イノベーション戦略推進会議)
産学金官言連携によりイノベーションへの挑戦をサポートする土壌
・北九州(北九州市スタートアップエコシステムコンソーシアム)
ものづくり・グリーン等の世界的サステナブルシティ
・福岡(福岡 RAMEN TECH コンソーシアム)
アジアNo.1のスタートアップ・フレンドリーシティ
NEXTグローバル拠点都市(5拠点)

・長野×新潟(REGIONAL NEXUS HUB ~NAGANO・NIIGATA~)
「ものづくり・食などの地域資源を活かしたスタートアップの創出と集積
・北陸(北陸スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム)
多様な製造業の集積を核に、世界へ飛躍するスタートアップを輩出
・熊本(くまもと版スタートアップ・エコシステムコンソーシアム)
「半導体・デジタル分野等でのグローバル・スタートアップを創出」
・沖縄(おきなわスタートアップ・エコシステム・コンソーシアム)
未来型ブルーエコノミー拠点
・瀬戸内(瀬戸内スタートアップコンソーシアム)
実証フィールド『SETOUCHI』を活用した産業集積
今後の展望と課題
「スタートアップ・エコシステム拠点都市」は、地域に根ざしながらも、世界とつながる仕組みづくりを目指しています。しかしながら、持続的な成長には以下のような課題も残ります。
・中長期視点での自治体の支援継続
・民間資金や起業家の呼び込み
・地域間の連携や情報共有
そのため、今後は拠点都市間の横連携や、企業・投資家とのエンゲージメント強化もカギを握ります。
編集後記
スタートアップ支援をめぐる政策は日々進化していますが、その中心にあるのが「イノベーション・エコシステムの形成」という視点です。今回の記事では、「統合イノベーション戦略2025」に基づく国の取り組みを起点に、全国13のスタートアップ・エコシステム拠点都市の特徴や目標をまとめました。
特に印象的だったのは、拠点都市ごとに個性が際立っている点です。AIや半導体、グリーンテック、観光といったテーマが地域ごとの産業や大学の強みと密接に結びついており、国家戦略が単なる掛け声で終わらないよう、各地域が主体的に工夫と挑戦を重ねている姿が見えてきました。
一方で、グローバル連携や民間資金の呼び込みといった課題も残されています。今後の日本のイノベーション戦略が、地域と国が連携するかたちでどう深化していくのか、引き続き注視していきたいと思います。
(TOMORUBA編集部)