内閣府が公表した「統合イノベーション戦略2023」を解説。イノベーションを生み出すための”3つの基軸”とは?
内閣府は、2023年6月9日に閣議決定された「統合イノベーション戦略2023」を公表した。これは、第6期科学技術・イノベーション基本計画の実行計画として位置付けられる3年目の年次戦略となる。
高度な生成AI、量子、フュージョンエネルギーをはじめする先端技術の急進展や、ウクライナ情勢の長期化によるサプライチェーンの重要性拡大などを背景とした科学技術・イノベーションへの期待の高まりを踏まえ、今後一年間に特に早急に講ずべき科学技術・イノベーション政策について、情勢変化に機動的に対応しうる新たな連携を図りつつ、下記の3つの基軸に沿って推進することとしている。
1.先端科学技術の戦略的な推進
2.知の基盤と人材育成の強化
3.イノベーション・エコシステムの形成
――この3つの基軸は具体的にどういったものなのか。「統合イノベーション戦略2023」を紐解きながら、以下に紹介していく。
▲6月8日、岸田総理は、総理大臣官邸で第69回総合科学技術・イノベーション会議を開催。「統合イノベーション戦略2023」の策定等について議論が行われたほか、岸田総理はフュージョンエネルギーのデモに耳を傾けた。(画像出典:首相官邸:総理の一日「総合科学技術・イノベーション会議」)
「統合イノベーション戦略2023」における、科学技術・イノベーション政策の3つの基軸とは?
大学改革が築く知の基盤や、イノベーションの担い手であるスタートアップ、価値創造の原動力となる人材を強化、英知を結集し、先端科学技術を要に国際社会での存在感と貢献の拡大を目的として、3つの基軸が策定されている。それぞれの具体的な内容について見ていきたい。
1.先端科学技術の戦略的な推進
一つ目の「先端科学技術の戦略的な推進」では、生成AIを契機とした対応強化、量子、フュージョンエネルギーの戦略強化やシンクタンクの起動により戦略的な実現プロセスを描き、経済安全保障重要技術育成プログラムやSIP、ムーンショット型研究開発制度等を通じ、日本の未来を支える技術を育て社会実装につながる取組を加速させるという。
具体的内容は、以下の3つだ。
①重要技術の国家戦略の推進と国家的重要課題への対応
・AIのリスクへの対応と最適利用の促進・開発力強化、量子、フュージョンエネルギー新戦略に基づく戦略的な研究開発や社会実装の推進、農業・食料イノベーションの強化、e-CSTIの分析機能の強化
・社会のデジタル化、グリーン、半導体、バイオ、マテリアル、健康・医療、宇宙、海洋、Beyond5Gなどの国家的重要課題に官民が力を合わせて対応
②安全・安心の確保に向けた先端科学技術の貢献拡大
・Kプログラムによる強力な支援、シンクタンク設立準備の本格化
・先端技術の研究開発成果の安全保障分野での活用強化
・適切な技術流出対策の推進
③社会課題解決を加速する研究開発・社会実装の強化
・SIP第3期の始動とBRIDGEの一体的運用(Society5.0への橋渡し)、ムーンショットの充実、国際標準化戦略の強化、総合知活用
2.知の基盤と人材育成の強化
二つ目の「知の基盤と人材育成の強化」では、大学ファンドと地域中核・特色ある研究大学の振興の両輪による研究力強化や、創造的な研究をリードする多様な人材の育成強化と活躍のキャリアパスの拡大に取り組むとしている。さらにG7を契機としたパートナー国との連携強化や、国際頭脳循環形成、学術ジャーナルを巡る対応強化を通じ、イノベーションと価値創造の源泉となる知を持続的に創出するという。
具体的内容は、以下の3つだ。
①大学ファンド/地域中核大学等の振興による研究基盤の強化と大学改革
・大学ファンドの助成開始に向けた国際卓越研究大学の認定実施
・地域中核大学等の総合振興パッケージの改定を踏まえ拡充した事業の開始
・グローバル・スタートアップ・キャンパス構想の実現
②創造的で多様な人材の育成/教育の充実と活躍促進
・博士課程学生を含む若手支援と活躍のキャリアパス拡大
・研究時間確保など研究環境改善の取組促進
・探究・STEAM教育の強化、理数系ジェンダーギャップ解消、リカレント教育の充実、成長分野への大学・高専の学部再編等の支援
③価値観を共有する同志国やパートナー国との連携
・G7会合を契機とした戦略的な科学技術外交の推進
・学術ジャーナル問題への対応強化などオープンサイエンスの推進、研究DXプラットフォームの構築、研究セキュリティ・インテグリティ確保の協力、広島AIプロセスへの貢献
・国際頭脳循環の加速、戦略的な国際共同研究の強化、ASEAN連携
3.イノベーション・エコシステムの形成
三つ目の「イノベーション・エコシステムの形成」では、イノベーションの担い手として日本が強みを持つディープテックをはじめとするスタートアップの徹底的な支援を掲げている。さらに、グローバル・スタートアップ・キャンパス構想実現に向けた本格始動や拠点都市の推進などによるエコシステム形成強化を通じ、科学技術・イノベーションの恩恵を国民や社会、地域に還元するという。
具体的内容は、以下の4つだ。
①スタートアップの徹底支援(スタートアップ育成5か年計画の推進)
・先端技術分野の実証支援をはじめSBIR制度による強力な支援
・スタートアップ育成のための政府調達の活用
・アントレプレナーシップ教育など起業家育成
②都市や地方,大学,スタートアップの連携強化
・グローバル・スタートアップ・キャンパス構想実現に向けた本格始動、
拠点都市を中心としたグローバル展開の加速
③成長志向の資金循環形成と研究開発投資の拡大
④デジタル田園都市国家構想の加速
・スマートシティサービスの幅広い活用促進、ロードマップ策定
・大学を核とした産学官連携やオープンイノベーションの促進
編集後記
「統合イノベーション戦略2023」では冒頭に次のような一文が掲げられている。「我が国を取り巻く国際環境が厳しさを増す中、科学技術・イノベーションを要として、官民が連携・協力した国家的重要課題への戦略的な対応が一層重要」。
政府が「スタートアップ育成5か年計画」を打ち出し、5年で10兆円規模のスタートアップ投資を行うと発表しているように、まさに官民が連携を取りながらイノベーションを生み出していくことが重要となるだろう。「統合イノベーション戦略2023」で言及されている施策がどのように実現していくのか、引き続き注目していきたい。
※参考ページ:内閣府ホームページ「統合イノベーション戦略2023」
(TOMORUBA編集部)