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内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回取り上げるのは「グリーンGDP」です。GDPは国内総生産で経済活動状況を示す数値ですが、グリーンGDPとはどのようなものなのでしょうか。今年8月に内閣府がグリーンGDPを公表したことでも話題になっています。グリーンGDPの意味や役割、そして内閣府の狙いを解説していきます。

グリーンGDPはGDPに環境対策を加味した指標

まず、経済の状況について体系的に記録するための国際的な会計基準として「国民経済計算体系」(SNA)があります。そしてGDPはこのSNAによって計測されています。しかし、SNAやGDPには天然資源の消耗や環境劣化といったコストは加味されていません。そこで、GDPに環境対策を加味した指標として「グリーンGDP」が提唱されました。

グリーンGDPの起源は、GDPが環境対策を加味していないことを問題視した国連が1992年に国連環境開発会議(地球サミット)を開催し、持続可能な発展の進捗を客観的に捉える指標として「環境・経済統合勘定体系」(SEEA)を提唱したことにさかのぼります。

このSEEAの取り組みのひとつとして、グリーンGDPが生まれました。国内純生産(NDP)から環境の悪化を貨幣評価した天然資産の減少を差し引いて計算したものを一般的にグリーンGDPと呼ぶようになったのです。

参照ページ:環境・経済統合勘定の試算について

グリーンGDPの利点と懸念点

グリーンGDPを計測することの利点はいくつかありますが、一番の利点は「経済成長のために環境対策を犠牲にしているかどうか」が可視化されることです。

例えばGDPが2%の国があったとして、同国のグリーンGDPが3%だとしたら、同国の大気汚染物質や温室効果ガスの排出量は削減されており、グリーンGDPを押し上げていることになります。逆にグリーンGDPが低くなれば、環境対策を犠牲にして経済成長をしていると判断できるのです。

各国がグリーンGDPを計測することで、経済対策と環境対策を国際的に比較することができます。また、グリーンGDPが低い国に対して説明責任をもたらすこともできます。

一方で、グリーンGDPには懸念点も指摘されています。グリーンGDPを算出するには「環境の悪化を貨幣評価した天然資産の減少を差し引いて計算」する必要があると前述しましたが、そもそも天然資産は貨幣評価することが難しいものです。

内閣府のホームページでも、環境・経済統合勘定(SEEA)の試算の難しさについて以下のように触れられています。

しかし、環境・経済統合勘定の体系自体、理論的成熟化の必要な点が残されており、また、今回の試算でも、多くの基礎データの仮定や論理上の割り切り等を行っている。

したがって、今回の試算値はその推計過程を十分理解した上で取り扱う必要があるとともに、今後とも、環境・経済統合勘定体系の研究を推進していくことが必要である。

引用:環境・経済統合勘定の試算について

グリーンGDPが本質的な指標として機能しているのかについては、議論を深める余地があるのです。

内閣府の公表した国内のグリーンGDPの成長率は1.04%

内閣府は2022年8月、初めてグリーンGDPを公表しました。1995〜2020年の期間で国内のGDP成長率は平均0.57%でしたが、グリーンGDP成長率の平均は1.04%となっており、実際のGDPよりも0.47ポイント押し上げられています。これは国内で排出される大気汚染物質や温室効果ガスが削減され、環境が改善していることを示しています。

ただ、今回の内閣府の発表は「環境要因を考慮した経済統計・指標について」となっていて、グリーンGDPという言葉を使っていません。これは全ての環境要因を網羅的に計測してグリーンGDPに反映させることが実質的に難しいためだと考えられています。

完成されたとは言い難いこの指標をもとにして、どう次へつなげるかがカーボンニュートラル達成のために重要になってくるでしょう。

参照ページ:研究会報告書等 No.87 「環境要因を考慮した経済統計・指標について」

【編集後記】正確なグリーンGDP算出はハードルが高い

グリーンGDPは期待通りに機能すれば既存のGDPに取って代わる主な指標として国際的に健全な競争を促すことができる可能性があります。ただ本文でも触れた通り正確なグリーンGDPの算出には高いハードルがあるのも事実です。内閣府が算出した指標は正確なものとはほど遠いため、メディアなどでも多く取り上げられなかったですが、試算にチャレンジした数少ない先進国として貴重なノウハウを社会に還元できるはずです。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

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