圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。
連載の第一回では、そもそもカーボンニュートラルとは何か?を解説し、カテゴリとして電力・非電力・炭素除去の3つの分野があると説明しました。第二回〜第三回〜第四回では非電力分野がどのようにカーボンニュートラルを実現しようとしているかを解説しました。
今回の第五回からは電力分野についてフォーカスします。現在の電力を構成しているのは大まかにわけて、火力、原子力、再生可能エネルギーです。今回はこの中でも比率の最も高い火力発電のカーボンニュートラルに向けた課題や計画を深堀りしていきます。
2035年までに46%削減するための電力構成比とは
カーボンニュートラルのゴールは2050年までにCO2を実質ゼロにすることですが、国内における大きなマイルストーンは2035年までにCO2を46%削減(2013年度比)することです。
日本は2021年4月開催の気候変動サミットで、この中間目標をこれまでの26%削減から46%削減に大幅な修正をしたことで話題となりました。各国が概ね「2030〜2035年までに50%」の中間目標を掲げているため、足並みをそろえた形となっています。
46%削減を実現するための電力構成比は下図のようになっています。
図を見てわかるように、火力の構成比を減らし再エネを増やす傾向が強まっています。カーボンニュートラル実現のためには火力依存を打開しなければいけません。
火力発電のCO2排出量は減少傾向だが…
近年の電力分野のCO2排出量の変遷を見てみましょう。下図は東日本大震災が発生する2011年前後の国内発電電力量とCO2の推移です。
出典:<東日本大震災9年>原発なしでもCO2減 火力で増加の懸念覆す:東京新聞 TOKYO Web
震災が発生する前の2010年と比較して、震災発生後は原子力の発電比率が減り、火力の比率が高まっていることがわかります。直感的には、火力発電が増えればCO2排出量も増えてしまいそうですが、CO2排出量は右肩下がりになってます。
震災後にCO2排出量が下がった要因は3つあります。1つはそもそも全体の発電量が減ったことです。2つ目は再エネ比率が増えたこと。
そして3つ目は化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の構成比が変わったことです。CO2排出量の多い石炭、石油が減少傾向で、CO2排出量の比較的少ない天然ガスが微増傾向にあるため、原子力の稼働が少なくてもCO2排出量は減らすことができました。
ただし、2035年にはCO2を46%削減(2013年度比)にして、さらに電力構成比を火力41%、原子力22~24%、再エネ36~38%にしなくてはならないことを考えると、目標達成に対してペースを上げる必要があります。
基本戦略は省エネと非化石エネルギーへの移行
前述したように、国内の電力は火力に大きく依存しています。火力発電では化石燃料を燃やして発電するため、当然ですがCO2が排出されます。
引用:発電と二酸化炭素
燃料によってCO2排出量は異なりますが、再エネ発電や原子力発電と比べると圧倒的なCO2排出量であることがわかります。
経産省の資料によると、火力依存を減らす戦略は「化石エネルギーの省エネ化」と「非化石エネルギーへの転換」が基本戦略となっています。
出典:2050年カーボンニュートラルの実現 に向けた需要側の取組
化石エネルギーの省エネ化については選択肢は多くありません。石炭や石油といったCO2排出が多い燃料の利用を減らし、比較的CO2排出の少ない天然ガス(LNG)の利用を増やす方法がメインとなるでしょう。
非化石エネルギーへの転換は簡単ではありません。2035年時点の電力構成比案にも記されているように、原子力の比率は変えないので、火力発電を減らしたぶんは再生可能エネルギーで補うことになります。
再エネはまだ火力ほど安価に安定した発電ができないため、イノベーションが待たれます。つまり、火力発電から完全に脱却するにはイノベーションが必要なのが現状です。
【編集後記】再エネには“環境に配慮する”コストが乗っている
一般的には火力発電は安く、再エネは割高になっています。しかし、再エネには環境に配慮することで発生するコストが乗っていますが、火力発電には環境問題に関するコストは考慮されていません。そのため、再エネに割高感が出てしまうという問題があります。
こうした、再エネなどの環境へ配慮するコストを「グリーンプレミアム」と呼びます。グリーンプレミアムはビル・ゲイツ氏が提唱する概念ですが、カーボンニュートラルを目指す各国はグリーンプレミアムを指標にしてもいいのではないでしょうか。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識
第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種