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ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回はロシアのウクライナ侵攻を受けて、主要各国のカーボンニュートラル達成に向けた動きにどう影響が出ているかをまとめます。脱原発を推進するドイツや、反対に原発を新規建設する方針のフランス、そして日米にはどのような課題が生まれているのでしょうか。

経済制裁の影響でロシア産の天然ガスと石油の輸出状況が不透明に

ロシアはエネルギー生産大国で、世界各国はロシアからエネルギー資源を輸入しています。2020年におけるロシアの世界シェアは原油生産が約12%で世界3位、天然ガス生産が約17%で世界2位であり、米国やサウジアラビアに次ぐエネルギー大国となっています。特に、欧州の天然ガス輸入シェアは40%近くがロシアに依存している状態です。


出典:【エコシル】欧州のロシアに対するエネルギー依存度 | 野村アセットマネジメント

ロシアのウクライナ侵攻を受けて米国と欧州は3月2日、ロシアの一部金融機関をSWIFT(国際銀行間通信協会)から締め出す経済制裁を実施しました。ロシアはSWIFTが利用できなくなることで輸出したエネルギー資源の取引代金を事実上、受け取れなくなります。となるとロシアがエネルギー資源の輸出をストップさせるリスクが高まります。

また、米国のブリンケン国務長官は3月6日、CNNのインタビューで「ロシアからの原油輸入を禁止する可能性について欧州の同盟国・有志国と協調して検討することを協議している」と語り、ロシアへのエネルギー締め付けを強化する意向を示しています。

ロシアにエネルギーを依存している各国はこうしたリスクに対応するために、エネルギー政策における判断を迫られているのが現状です。

参照ページ:【エコシル】欧州のロシアに対するエネルギー依存度 | 野村アセットマネジメント

ドイツを筆頭に、ロシア産エネルギーに大きく依存する脱原発推進国は岐路に

欧州はカーボンニュートラル達成に意欲的な国々が多いですが、方針は「脱原発」のアプローチと「原発政策を維持」するアプローチに分かれます。

ドイツ、スペイン、ベルギーなどは脱原発政策を掲げています。ドイツは2019年時点の電源構成比で原発は11%にとどめていて(日本は22〜24%)、再エネは約40%、天然ガスは約15%なっています。脱原発&再エネを軸にしたカーボンニュートラルのアプローチとしては先進的ですが、天然ガスの6割をロシアからの輸入に依存しているためエネルギーの安全保障が揺らいでいます。


出典:老獪なドイツに学ぶべき日本のエネルギー戦略 前編 | STUDY | 原子力産業新聞

ロイター通信は2月27日、ドイツのショルツ大統領がロシア産ガスへの依存度を引き下げるためにエネルギー政策を大きく転換する方針を示したと伝えています。

参照ページ:ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で | ロイター

参照ページ:老獪なドイツに学ぶべき日本のエネルギー戦略 前編 | STUDY | 原子力産業新聞

原子力の電力構成比7割のフランスはさらに原発の新規建設を推進

脱原発政策のドイツとは対照的に、フランスは世界で最も原子力発電の比率が高い国で、今後もカーボンニュートラル達成の手段として原発の新規建設を計画しています。フランスは現時点で化石燃料の比率が10%を切っており、ロシアなど他国のエネルギーに依存していません。


出典:フランスとスウェーデン:風力発電が原子力発電を追放する | 連載コラム | 自然エネルギー財団

国内では反発も強かった原発増設の推進ですが、独立したエネルギー政策のおかげでロシアをめぐるエネルギー不安の影響を最小限に食い止めているとも受け取れます。

参照ページ:フランスとスウェーデン:風力発電が原子力発電を追放する | 連載コラム | 自然エネルギー財団

日米は天然ガスのロシア依存はないものの、原油価格は不安定

米国は天然ガスの自給率が9割と高く、ロシアからの輸入には頼っていません。一方、日本は国内で利用される天然ガスのほとんどを輸入に頼っていますが、ロシア産は10%未満で大きな影響はなさそうです。

ただ、前述したとおり欧米を中心にしたロシアからの原油輸入を禁止する動きがあるため、原油価格の高騰のあおりは日米ともに受けています。

現時点で日米が直ちにカーボンニュートラル達成に向けた方針を転換する必要はなさそうですが、エネルギー不安が解消する見込みは短期的にはなさそうなので注視が必要です。

参照ページ:第1章 アメリカ合衆国(米国) Ⅰ.エネルギー

日本の原子力メーカーには追い風か

フランスが原発の新規建設を進めると表明したことで、原発プラントの輸出に強い国内の原発メーカーには追い風が吹いています。特に、フランスの原発メーカー、フラマトムと関係を築いている三菱重工業はサプライチェーンの要となっているため、フランスでの新規建設の協働に加わる可能性は多いにあります。

今後、フランス以外の国が原発の新規建設に舵を切る可能性は十分にありえるため、三菱重工だけでなく、日立製作所、東芝などのメーカーにとってもチャンスとなる可能性が出てきます。


【編集後記】有事を経てカーボンニュートラルが加速するか

そもそも、2050年までにカーボンニュートラルを達成するのはハードルの高い目標ですが、ロシアのウクライナ侵攻を経て各国のエネルギー政策が今後どのように変化していくのか注目が集まります。

原発は危険というイメージは根強くありますが、発電量あたりのCO2排出量は火力発電よりも少ないですし、同様に発電量あたりの死者数も少ないというデータもあります。今回のエネルギー不安をきっかけに原発の扱いをどうするか、再考する時期に差し掛かっているのかもしれません。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

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