カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。
連載の第一回では、そもそもカーボンニュートラルとは何か?を解説し、カテゴリとして電力・非電力・炭素除去の3つの分野があると説明しました。そのうち、非電力分野に関わる業界は民生・産業・運輸の3つに分類されます。
そして第二回では自動車業界(運輸部門の大部分)、第三回では産業部門についての解説をそれぞれしてきました。今回は非電力分野では最後となる民生部門について深堀していきます。
民生部門の課題は省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会対応
カーボンニュートラルにおける民生部門とは、家庭部門や業務部門を指します。大きな課題の軸は【省エネ】【エネルギー転換】【データ駆動型社会への対応】の三つです。ひとつずつ解説していきます。
・住宅・建築物の省エネ化
家庭や業務において二酸化炭素を多く排出原因は何か?と考えると、真っ先に想起するのはガスや電気の利用ではないでしょうか。住宅や建築物の省エネ化の指標のひとつとなっているのがZEH(ゼッチ)・ZEB(ゼブ)の普及です。それぞれネット・ゼロ・ハウスとネット・ゼロ・ビルディングの略で、エネルギーの消費量がネットでゼロもしくはゼロに限りなく近い住宅・建築物のことです。
出典:ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)に関する情報公開について - 省エネ住宅 | 家庭向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト
イメージのように冬は暖かく夏は涼しい建材の活用、太陽光発電、蓄電システムなど、複合的に省エネ・再エネを取り入れることを目指しています。
また、民生部門のエネルギー消費と密接に関わるのはエアコンや給湯器といった機器です。これらは日本の技術は世界的にも高水準を保っているものの、改善率が低下しているのが現状です。更なるコスト低減を目指すにはイノベーションが必須となっています。
・電化・水素化などのエネルギー転換
民生部門におけるエネルギー転換とは、家庭や業務で使うエネルギーを電気や水素をはじめとするクリーンな燃料に転換させていくことです。
イメージしやすい例を出すと、ガス給湯器をエコキュートに転換したり、石油ストーブを高効率のエアコンに転換したり、といった施策です。これらが普及するにはいくつか条件があります。当然、経済的な優位性がなければ消費者から選ばれませんし、機器のサイズが大きいものは物理的な制約で設置できない、といった課題があります。
また、極端に電化が進んだ場合、単一のエネルギーに依存することで災害時などの電力レジリエンス(しなやかさ・回復性)が確保できるかという問題も発生します。
・デジタル化に対応した効率的なエネルギー利用
デジタル庁の新設など、政府はDXに注力していますが、デジタル化が急激に進むことが環境にも好影響を与えます。とある企業の事例では、自社サーバーで運用していた情報システムをエネルギー効率の良いデータセンターへ移行することで7割を超えるエネルギー効率を実現した例があります。
また、企業が再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を導入し、発電したエネルギーを国に買い取ってもらうことが可能です。AIがエネルギーのマネジメントをして効率よく発電、売電することで環境に優しいエネルギーを経済優位性を保ちながら利用する動きも増えています。
一方、デジタル化が急激に進めばデータセンターやルータの利用が増えていきます。この電力は2017年時点で日本の電力の4%を占めており、2030年にはさらに電力消費が倍になる試算です。仮にデータセンターの省エネが進まない場合は将来的に、データセンターが日本全国の10%以上の電力を消費することになる可能性もあります。
【編集後記】便利な石油ストーブを上回る暖房機器は現れるか
筆者は古くて文化的なアパートに住んでいますが、冬場は部屋がかなり冷えるので石油ストーブを使っています。ストーブそのものも安いですし、石油も安い。さらに電気の暖房機器よりも断然、部屋が温まるのが早いです。
環境のためにはクリーンな燃料を使った暖房機器に買い替えたほうがいいのでしょうが、性能や価格を考えるとなかなか買い換えるという選択肢に辿り着きません。あらゆる面で石油ストーブを上回る暖房機器が誕生するにはかなりのイノベーションが必要であることを身を持って感じます。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
■連載一覧
第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識