地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識
2021年の夏は猛暑と異常気象が交互に訪れる厳しい季節となりました。子供の頃は30度を超える日があれば「夏本番」という気がしていましたが、今では35度を超える日は珍しくなくなっています。
温暖化の影響を身近なものに感じるようになってきた今、活発になってきているのがカーボンニュートラル(脱炭素)をめぐる動きです。TOMORUBAではビジネスの観点からカーボンニュートラルを追いかける新連載「カーボンニュートラル達成への道」を始動します。
連載の第1回は、カーボンニュートラルの全体像を捉えながら、達成に向けてどのようなビジネスプレイヤーが存在しているのかを明らかにしていきます。
先進国で「2050年CO2排出量ゼロ」を目指す動き
パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがカーボンニュートラルの発祥と言えます。
先進国はそれぞれ2050年にCO2ゼロを目指すわけですが、多くの参加国が中間的な目標を掲げています。
●アメリカ:2030年までに2005年比で50~52%削減
●カナダ:2030年までに2005年比で40~45%の削減
●EU:1990年比で55%削減
●イギリス:2035年までに1990年比で78%削減
●日本:2035年までに2013年度比で46%削減
日本は2021年4月開催の気候変動サミットで、この中間目標をこれまでの26%から46%に大幅な修正をしたことで話題となりました。各国が概ね「2030〜2035年までに50%」の中間目標を掲げているため、足並みをそろえた形となっています。
カーボンニュートラル達成には「非電力」「電力」「炭素除去」のプレイヤーが関与
次に国内の状況に目を向けてみます。経済産業省の資源エネルギー庁が2021年2月に公開した資料「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた需要側の取組」には、カーボンニュートラルを実現するためには「非電力」「電力」「炭素除去」の領域が足並みを揃えて脱炭素を促進しなければならないとしています。
参照:2050年カーボンニュートラルの実現 に向けた需要側の取組
要するに、さまざまな領域でイノベーションを起こし、社会実装を強力に推進していかないとカーボンニュートラルは達成できないということです。
【非電力】電力以外の全ての領域でグリーン化が求められる
カーボンニュートラルにおいて「非電力」とはなんなのでしょうか。それはまさに、「電力以外の全ての領域」と言えます。例えば、米Apple社では80%の電力を自社で手がけた太陽光発電で調達するなどして、2030年までに75%減(2020年比)し、残りの25%は炭素除去のソリューション開発にあてるとしています。20年前倒してカーボンニュートラルを実現する計画です。
このような、いわゆる「グリーン化」を国内でも多くの企業が実践することではじめて非電力領域のカーボンニュートラルが達成できることになります。
参照ページ:Apple、2030年までにサプライチェーンの 100%カーボンニュートラル達成を約束
【電力】国内の電源構成案は再エネ比率が大幅に上昇
次に電力領域について見ていきます。冒頭にも述べたように、CO2の削減目標を26%削減から46%削減に変更したことで、電源構成案も下図の通り刷新されました。
特筆すべきは再生エネルギーの割合がこれまでの20~22%から36~38%と、大幅に修正されている点です。また、現在の多くを占めている火力の構成比率を大幅に減らせるのか、稼働の賛否が分かれている原子力をどうするのか、焦点はたくさんある領域です。
【炭素除去】炭素をマイナスにするための技術が待望される
炭素除去は言葉の通り、CO2を除去する動きです。アプローチは大きくふたつあり、ひとつは植林など、自然の力を利用してCO2を除去する方法があります。もうひとつは技術的なアプローチでCO2を除去する方法です。「ネガティブエミッション技術」とも呼ばれます。後者のアプローチはイノベーションの余地がある分野で、様々な研究開発が進んでいます。
電力と非電力分野がどれだけCO2排出を軽減したとしても、CO2排出量がゼロになるわけではないので、カーボンニュートラルを目指す上では炭素除去のテクノロジーが必須となります。
【編集後記】人類が直面する大きな課題こそイノベーションの種
カーボンニュートラルについて、基本的な情報を解説してきました。地球を持続可能な星として存続させ、次の世代の負担を少なくするためにも、人々が知恵を絞ってイノベーションを起こさねばなりません。
今後この連載では、各業界がどのようなカーボンニュートラルに向けてどんな取り組みをしているのか、より深堀りしてお伝えしていきます。
(TOMORUBA編集部 久野太一)