量子コンピュータの用途は?「スパコン超え報道」の読み解き方はなど基礎知識を解説
新規事業やオープンイノベーションのプレイヤーやそれらを実践・検討する企業の経営者はTOMORUBAの主な読者層ですが、こうした人々は常に最新トレンドをキャッチしておかなければなりません。そんなビジネスパーソンが知っておきたいトレンドキーワードをサクッと理解できる連載が「5分で知るビジネストレンド」です。キーワードを「雑学」としてではなく、今日から使える「知識」としてお届けしていきます。
今回のテーマは量子コンピュータです。時折、ニュースのトピックスで見かけることはあるものの、具体的になにがどうイノベーティブなのでしょうか。本記事ではできるだけ専門的な言葉は使わず、ビジネスパーソンの基礎教養として知っておきたい量子コンピュータについて解説していきます。
量子コンピュータとスーパーコンピュータの違い
はじめに、量子コンピュータと混同されがちなスーパーコンピュータの違いについて触れておきます。スーパーコンピュータは一般のコンピュータと同様にCPU(中央演算処理装置)とGPU(画像処理半導体)を使って計算を行います。CPUとGPUをたくさんつなげることで処理速度を上げるアプローチです。
対して量子コンピュータはその名の通り量子力学を用いて計算を行います。通常、コンピュータは0と1の組み合わせで計算を行いますが、量子コンピュータは0と1のその中間的な状態を取ったり、0の状態と1の状態を同時に取ることができたりします。要するに処理のアプローチがスパコンと量子コンピュータでは全く異なるのです。
量子コンピュータの市場規模
調査会社のグローバルインフォメーションが発表したレポートによると、世界の量子コンピューティングの市場規模は、2021年は4億7200万米ドル、2026年には17億6500万米ドルの規模に成長すると予測されています。予測期間中30.2%のCAGR(年平均成長率)で推移しており、急速な成長が期待されている分野です。
ちなみに、同調査会社のスーパーコンピュータの市場規模予測は、2021年から2025年の間に125億1000万米ドル成長し、予測期間中は20%のCAGRで成長する見込みとなっています。市場規模はまだまだスパコンの方が桁ひとつ大きいですが、CAGRで見ると量子コンピュータが上回っているのが現状です。
参照ページ:量子コンピューティングの世界市場・COVID-19の影響 (~2026年):提供区分 (システム・サービス)・展開 (オンプレミス・クラウド)・用途・技術・地域別
参照ページ:市場調査レポート: スーパーコンピューターの世界市場:2021年~2025年
量子コンピュータは発展途上で用途は未知数
では、量子コンピュータにはどんな用途があるのでしょうか。結論から言えば、今ははっきりとした用途が確立されているわけではありません。現状では量子コンピュータの応用は情報通信をはじめ、金融、運輸、創薬、化学など幅広い分野で期待されています。
理化学研究所の量子コンピュータ研究センターのセンター長、中村泰信氏は「最終的には量子コンピュータを使って量子の世界の性質をさらに解明していきたいと考えていますが、発展途上の研究領域だけに、まだ可能性が無限にあります。」と話しています。まだまだ歴史の浅い分野なのでどう活用するかは未知数と言えます。
参照ページ:量子コンピュータの実用化加速へ
量子コンピュータとスパコンは得意分野が異なる
発展途上で用途は未知数と述べましたが、2019年の10月にはGoogleが「量子コンピュータを用いて、スパコンで1万年かかる計算を200秒で実行した」というニュースが話題になりました。ヘッドラインだけ見れば量子コンピュータの実力ばスパコンをはるかに凌いだ、とも受け取れますが、一概にそうとは言えないようです。
というのも、この発表は「ランダム量子回路のサンプリング」という特定の計算でした。つまり、どんな計算でも量子コンピュータがスパコンの計算能力を超えるか、と問われれば答えはNOになります。
この発表は、スパコンは苦手だが量子コンピュータは得意な計算だったため、「1万年と200秒」というセンセーショナルな見出しとなりましたが、スパコンも量子コンピュータも得意な計算は異なることを念頭に置いておく必要があります。
参照ページ:Quantum supremacy using a programmable superconducting processor
【編集後記】量子クラウドによって可能性が一気に広まるか
今年の5月に、Googleは量子コンピュータのクラウドを5年以内に提供すると発表しました。AWSやGoogle Cloud Platformのようなクラウドサービスのように、量子コンピュータを多くのプレイヤーが使えるようになるのです。
これにより実用化が一気に進む期待が集まりますが、筆者のようなSF好きはアニメPSYCHO-PASSの「シビュラシステム」やエヴァンゲリオンの「MAGI」のような超高性能AIが人間を支配するのでは…という妄想をしてしまいます。
(TOMORUBA編集部 久野太一)
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