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北欧最大級のスタートアップイベント「Slush 2021」が現地開催!ピッチコンテストの行方は(前編)

北欧最大級のスタートアップイベント「Slush 2021」が現地開催!ピッチコンテストの行方は(前編)

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雪がチラつきはじめた冬のフィンランド・ヘルシンキで、北欧最大級のスタートアップイベント「Slush 2021」が現地開催された。感染者増の影響により参加者が限定され、例年のようなお祭り騒ぎにはならなかったようだが、北欧のスタートアップにとっては待ちわびたイベントだったに違いない。

そこで、世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第13弾では「Slush 2021」にフォーカスする。12月1日、2日と開催された同イベントのうち、前編では、ショーケースに出展したいくつかのスタートアップ、100社のスタートアップから優勝者が選ばれる恒例のコンペ「SLUSH 100」の様子に触れたい。

今回、ジャーナリスト枠が限られていた関係で筆者は現地訪問ができなかったが、現地の企業「Enter Espoo」でイノベーション事業を担当する日本人女性、清水眞弓さんに写真やエピソードを提供いただいた。

参加者は激減しつつも、熱気や派手な演出は健在!


▲ミーティングポイントは大きな「SLUSH」の文字が

今や日本でもよく知られるスタートアップイベントとなった「Slush」。その歴史は2008年に始まり、2019年には約25,000人が参加する大規模なものに発展。2020年はパンデミックの影響で開催が見送られたために、2021年は2年ぶりの開催となった。

例年2万人以上が集まっていたが、今年は参加者が約8,000人に限定されたこともあり、チケットは早々にソールドアウト。ジャーナリスト枠も150名に限られてしまい、メディア露出も激減したようだ。一方、会場内は熱気に包まれ、そこかしこでディスカッションが繰り広げられていたとのこと。


▲メインステージは近未来的な雰囲気が漂う

メインステージとなる「FOUNDER STAGE」はレーザーやライトで彩られ、ダンスパーティーでも始まりそうな雰囲気。実際、メインプログラムが終了した後は、このステージがダンスホールに変わり、アフターパーティーが行われたようだ。中には、わざわざドレスアップする参加者もいたとか。このイケイケな感じこそ、Slushらしさなのかもしれない。


▲フィンランド企業「Vetrospace」が提供したサイレントスペース


▲会場で見かけたSlushの現CEO・Miika Huttunen氏を撮影

現地には、Slushの現CEO・Miika Huttunen氏も。彼は、2014年〜2017年までSlushのボランティアとして活動した後、2018年にパートナーシップ部門を担当、2019年には収益とチーム運営の総責任者となるChief Operating Officerを務め、2020年からCEOに就任している。

ショーケースで見つけたユニークなフィンランド企業

今年のSlushは規模が縮小したこともあり、フィンランド国内の企業が目立っていたようだ。現地を訪れた清水さんの視点で、ユニークな企業をいくつか紹介したい。

子ども・教師にSTEAM教育を提供する「Kide Science」


▲「Kide Science」のプレゼンテーションより

ヘルシンキを拠点とする「Kide Science」は、3名の女性起業家によって生まれた教育系スタートアップ。創業者3名はヘルシンキ大学と連携して、1000以上の幼児科学クラブを主催、5年間にわたって研究を続け、独自のSTEAM教育モデルを確立した。

STEAM教育とは、科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語であり、理数教育に創造性教育を加えた教育理念を指す。

同社では、子ども向けのカリキュラムのほか、STEAM教育を提供する教師向けのカリキュラムも提供。利用価格は、BtoBで月額15ユーロ(約2,000円)、BtoCで月額18.6ユーロ(約2,400円)のサブスクリプションモデルで、年間契約での割引も。現在、30地域でサービス提供しており、7万人を超える子どもが受講したという。科学データを基盤にしたサービスということで信頼が厚く、EU内で高く評価されいてるようだ。

宇宙推進システムを開発する「AURORA PROPULSION TECHNOLOGIES」


▲「AURORA PROPULSION TECHNOLOGIES」のHPより

フィンランドで期待される宇宙テック企業「AURORA PROPULSION TECHNOLOGIES」は、2018年に設立され、日本人社員を含む21名の社員が在籍する。

同社では、小型衛星に欠かせない軽量でエネルギー効率にすぐれた精密な宇宙推進システムを提供しているという。現在扱うのは、軌道を制御する最大200kgの「ARM」と軌道離脱のための最大1000kgの「APB」の2製品。さらに、宇宙ミッションに関わるコンサルティングと精密部品の製造も請け負う。

同社のコア技術は、宇宙推進システムの最小化、簡素化、エネルギーの効率化で、これらは宇宙関連のミッションを達成するうえで重要な指標になるようだ。

藻類から持続可能な化合物を精製「Origin by Ocean」


▲「Origin by Ocean」のHPより

藻類から抽出したバイオマスを精製し、食品、医薬品、化粧品、肥料など、さまざまな製品に利用できる化合物をつくり出す「Origin by Ocean」。天然のアオコ、あるいは養殖したブラダーラックを収穫し、精製工場で糖類、乳化剤、顔料、酸化防止剤といった化合物を精製している。これらをメーカーなどに販売するBtoBのビジネスモデルで、フィンランド大手の乳製品メーカー「Valio」も取引先のひとつ。

同社のHPでは、「藻類は自然界の真の驚異」と書かれており、健康的な材料、かつ無限に供給可能な藻類をうまく活用することから、環境問題を解決するソリューションとなりえるという。

同社では初期段階の施設で、年間80,000トンのバイオマスを10,000トンの製品に変換できるとのこと。さらに今後、6つの施設を建設する予定だ。動物由来ではない、植物由来の化合物の需要は大きく、2035年には約130万トンが必要になるそうだ。

恒例のピッチコンテスト「SLUSH 100」優勝者は?

続いて、恒例のスタートアップによるピッチコンテスト「SLUSH 100」のファイナルピッチの様子をお伝えしたい。淡々としたピッチではあったが、各登壇者の情熱も垣間見えた。

生物学的実験なしで創薬ターゲットを発見する「Vitroscope 」


▲「Vitroscope 」のプレゼンテーションより

最初に登場したのは、革新的なテクノロジーで創薬開発のプロセスをサポートするフィンランドのスタートアップ「Vitroscope」。同社は特許出願中の独自テクノロジーを用いることにより、生物学的実験をせずに新規創薬ターゲットを見つけることを目指している。

そもそも創薬開発のプロセスは途方もなく長く、しかも失敗の確率が96%。これには莫大なコストがかかっているという。健康的な被害も大きく、希少な疾患を持った人たちが新薬の開発を待ち望んでも、治療を受けられる可能性は限りなく低い。


▲「Vitroscope 」のプレゼンテーションスライドより

そんな課題を解決に導くために同社が開発したのが、創薬開発時に必要とされる生物学実験を行わずに、創薬開発を目指すソリューション「vitro.one」だ。標準の倒立顕微鏡にこの装置を取り付けると、細胞の変化をオンライン上で観察できるという。生物学実験と異なり、データ上で素早く無限のパターンを試すことができるのだ。

同社を創業したのは、メディカルエンジニアとloT&ソフトウェアエンジニアのバックグラウンドを持つ2人。製薬会社は保守的な性質があることから、まずはポスドクを顧客ターゲットとしているようだ。ただ、トップレベルの製薬会社20社とも戦略的な議論や分析を行っているとのこと。

女性向けホルモン追跡アプリを開発する「hormona」


▲「horomona」のプレゼンテーションより

2名の女性起業家によって誕生したロンドン発スタートアップ「horomona」は、AIと自宅でできる検査を通じて、ホルモンの変化を追跡するアプリを開発中だ。ピッチに登場した共同創業者のJasmine氏は、「全女性の80%がホルモンバランスの乱れに悩まされており、それが生理周期や生殖能力、健康状態に影響を及ぼしている」と指摘。さらに、「私たちのホルモンは常に変化していて、変化の度合いも大きい。しかし、その変化が正常なのか、異常なのかを誰も教えてくれない」と言及した。

実は、もう1名の共同創業者であるKarolina氏には、ホルモンバランスの乱れにより苦しんだ経験があった。病院を転々としても原因がわからず、「甲状腺機能低下とホルモンバランスの乱れ」と診断されるまでに、数年の月日を費やしたという。このような女性の痛みやコストを削減することが同社の目的だ。


▲「horomona」のプレゼンテーションスライドより

同社のソリューションは、自身のホルモン周期を知り、改善の提案を受け取ることができるアプリ、そして自宅でできるバイオマーカーテストだ。このテストは、週に1度、尿検査と共に自身のホルモンデータをカメラで撮影するというもの。定期的な検査により、更年期障害や妊娠障害の有無を確認したり、生活に影響を与えるかもしれないホルモンの変化を知ることができる。メンバーには婦人科医や内分泌学者もおり、このテストは特許出願中とのこと。

ビジネスモデルはBtoCだが、迅速に多くの女性に届けるために保険会社や遠隔医療の企業と交渉しているそうだ。Jasmine氏は「まだ手つかずの業界で先陣を切ることができれば、多くの市場シェアを獲得できる」と強調した。

高齢者ケアシステムを提供する「Helppy」


▲「Helppy」のプレゼンテーションより

フィンランドを拠点する「Helppy」は、高齢者向けの自宅ケアサービスを提供している。ヨーロッパでは高齢者ケアが大きな課題となっており、700万人の看護師が不足。人々は家族の世話に年間330億時間を費やしているという。

さらに、登壇したCEOのRichard Nordström氏は、高齢者ケア業界のイノベーションの遅れやビジネスモデルがスケールしづらい点を指摘。ユーザー視点で見ると、「毎回異なるスタッフが訪問するため、家族が介護状況を把握できない」、「小規模のプロバイダーが多数存在し、それぞれに窓口が異なる」の2点が課題だったそうだ。

そこで、すべてのサービスの窓口を統合するプラットフォームを構築し、常に同じスタッフが訪問する体制を整えた。また、テクノロジーを活用することで交通費やコーディネーション費といった余計な経費が出ないようにして、使用料金を下げている。ケアの内容も多岐にわたり、介護、家事、買い物、技術指導、理学療法など。フードデリバリーの注文方法を教えるなど、家族のように寄り添い支援することを目指す。


▲「Helppy」のHPより

彼らは、看護師、理学療法士、医師、清掃会社などとパートナーシップを組み、サービスを展開。サービスの質が一律になるよう、管理しているという。家族の介護に関するデータをためることで、ファミリーポータルのような役割を担うことも考えているようだ。個人ユーザー向けのBtoCモデル、自治体などへのBtoBモデルがあるが、個人の支払いは補助金などを差し引き、1時間あたり10〜20ユーロ(約1,300〜2,500円)の使用料金になるそう。

優勝したのは、ホルモン追跡アプリの「hormona」


▲優勝した「horomona」の代表、Jasmine氏を囲んで記念撮影

優勝は、2番手でピッチした「horomona」だった。審査員は「これまでの審査のなかで、もっとも難しい決断だった。どの企業もすばらしかったが、horomonaは際立っていた。明らかに持続可能なビジネスモデルであり、生涯にわたって持ち続けることができる。また、新たな技術に基づいたサービスで、大規模な現象に発展する予感があった」とコメントした。

Slush 2021後編では、Meta(元Facebook)の新規プロダクト実験責任者や、3人の元SlushCEOが登場した注目のセッションの内容を届けたい。

取材協力:Enter Espoo

編集後記

ヘルシンキに滞在していながら、Slushの会場を訪れることができなかったのは残念だったが、写真とオンライン視聴でも現場の雰囲気は味わうことができた。最後に残った3社をはじめ、多彩な領域のスタートアップが集まっており、Slushへの期待感がうかがえた。優勝した「horomona」のサービスは個人的にも惹かれるものがあり、一般ユーザーへの提供が開始されたら、ぜひ使ってみたい。

(取材・文:小林香織) 

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  • 富田 直

    富田 直

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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。