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“120日間の海中生活”でギネス世界記録を達成。「海中・水上移住」に挑む海外スタートアップの野望

“120日間の海中生活”でギネス世界記録を達成。「海中・水上移住」に挑む海外スタートアップの野望

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2025年1月、パナマ共和国に拠点を置く「Ocean Builders」(オーシャンビルダーズ)の共同創業者・Rudiger Koch氏が、減圧なしの水中における最長滞在記録として、ギネス世界記録に認定された。Koch氏は、Ocean Buildersが開発した水中構造モジュール内で120日間を過ごしたという。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第63弾は、人類の「海中・水上移住」に挑むスタートアップ2社に着目。モジュール式の水中居住施設を開発するイギリスの「DEEP」、そして、革新的な水上住宅を開発する過程で水中でのギネス世界記録を達成したパナマの「Ocean Builders」を紹介する。

サムネイル写真提供:Ocean Builders

【イギリス・DEEP】 近未来的な水中居住・研究施設

イギリスで創業したDEEPは、海中での長期間滞在や研究を目的としたモジュール式の水中移住施設を開発している。

海中での研究を加速させる、快適な職場・住まい環境を提供

▲イギリスのDEEPが開発する水中移住施設「The Sentinel System」(DEEP提供)

同社の製品は「The Sentinel System(以下、Sentinel)」「Vanguard」「FLIP」の3種類で、その外観は近未来を思わせる。「Sentinel」は最大6人の乗員を収容し、水深最大200メートルで最長28日間の滞在をミッションとしている。

▲「Sentinel」の内部(DEEPの公式ホームページより)

▲「Sentinel」の内部(DEEPの公式ホームページより)

施設の内部は、人々が最高のパフォーマンスを発揮できる職場環境を目指して設計されている。研究に没頭できるエリアやリビングのような空間に、海中を眺めながら就寝できるベッドルームも完備する。

施設の設計には、製品やシステムを独立した機能単位(モジュール)に分割し、それらを組み合わせて設計するモジュール設計を採用。部品は3D製造技術を用いて製造され、多様な構成で組み合わせることができる。モジュール構造により、特注の居住施設に比べて製造、構築、保守の効率が大幅に向上し、材料のムダも省けるという。

▲短期任務向けに設計された輸送可能な小型居住施設「Vanguard」

「Vanguard」は、主に訓練、偵察、回収などの短期任務向けに設計された輸送可能な小型居住施設だ。これによりダイバーは長時間水中で作業することができ、水中考古学の発展を加速させることが期待されている。

▲水平位置から垂直位置に反転して運行する海洋調査船「FLIP」

「FLIP」は、1960年代から存在する海洋調査船をリニューアルした製品で、水平位置から垂直位置に反転して水中での安定性を高められる特性がある。目的の場所までは水平姿勢で進み、到着後はバラストタンクに水が満たされ、約20分で水平から垂直状態へと反転する。垂直状態では水面下90メートルに沈み、安定した運行がかなうという。

2025年末までに最初のプロジェクトを開始予定

DEEPの収益モデルは、製品の販売やリース、運用サポートサービス、そして関連するトレーニングやメンテナンスサービスから成る。さらに、イギリス南西部のブリストル近郊にある自社の「DEEP Campus」を活用し、海洋研究者や技術者を対象としたトレーニングプログラムも提供する。

▲「DEEP Campus」での作業の様子(DEEP提供)

同社では、2025年末までに最初の居住施設として「Vanguard」のプロジェクトを開始予定だ。長さ12メートル、幅7.5メートルの同施設は、水深100メートルで最大3人を収容できる。同プロジェクトは、より大規模で高度な居住施設である「Sentinel」のテストベッドとして設計されている。「Sentinel」は2027年末までに水中に投入される予定だ。

【パナマ・Ocean Builders】革新的な水上住宅を開発

パナマに拠点を置くOcean Buildersは、海から始まる持続可能で革新的な暮らしの創造をリードすることをミッションにしている。同社へのインタビューを通じて得られた回答をもとに、製品の強みやプロジェクトの状況を紹介したい。

最新テクノロジーを搭載した「自給自足」がかなう水上住宅

▲Ocean Buildersが開発中の水上住宅「SeaPod」(Ocean Builders提供)

開発中の同社製品は、主に、水上住宅の「SeaPod」と森林などの陸上に建設できる「GreenPod」の2種類となる。現在は、フェーズ1と位置づけた「水上住宅」に全力を注いでいる。同社いわく、SeaPodは単なる水上住宅ではなく、最先端のテクノロジーと環境との調和を目指して設計された、まったく新しいカテゴリーの居住空間だという。

▲単に暮らせる家ではなく、自給自足もかなえるという(Ocean Builders提供)

「最も革新的な特徴の1つは、高度な浮力システムです。 各ユニットは水面から約3メートル上に浮かび、調整可能なバラストタンクを備えたスパー式支持構造物によって安定化されています。この独自設計は波の影響を最小限に抑え、外洋においても安定した居住空間を実現します。

さらに、電力供給に頼らず、自給自足で電力をまかなう『オフグリッド生活』も可能な設計です。太陽光発電、雨水利用、持続可能な廃棄物管理システムにより、自立して稼働します。個人の自由を高めながら環境フットプリントを削減します」(Ocean Builders 広報担当者)

▲SeaPodは、リビングルームやベッドルーム、キッチンなどを備える(Ocean Buildersの公式ホームページより)

「施設の内部は、スマート・テクノロジーの統合により、革新性と快適性を兼ね備えています。居住者は、指紋認証アクセス、NFC対応エントリー、遠隔環境制御、好みに反応するエネルギー効率に優れたシステムなどを利用できます。単なる家ではなく、あなたを中心に構築された生活システムです」(Ocean Builders 広報担当者)

同社では、「住まいはライフスタイルを反映するべきだ」という信念のもと、「カスタマイズ性」 にも注力する。購入者は、インテリアやユニークなレイアウトなど自分のビジョンに合った設計やテクノロジーを組み込めるという。

持続可能性を一歩進化、構造物が「生きたサンゴ礁」に変わる

海洋生活の可能性を最大限に引き出すことに焦点を当てている同社では、より持続可能なモデルとして「SeaPod Eco」の開発にも取り組む。サンゴや海洋生物の成長を刺激する低電圧の電気システムを構造物に備えることで、時間の経過とともに豊かな水中生態系ができあがるという。「構造物がだんだんと『生きたサンゴ礁』に変わる。住みながら環境に還元できる唯一の住宅だ」と広報担当者は説明した。

▲低電圧の電気システムを備えるSeaPod Ecoは、時間の経過とともに豊かな水中生態系を育む(Photo by : Unsplash  Francesco Ungaro

「私たちは、この持続可能なライフスタイルによって、よりスマートで、よりクリーンで、よりつながりのある未来を築くことを海から始めたいと考えています。将来的には、陸上で拡張するGreenPodの開発にも期待を寄せています」(Ocean Builders 広報担当者)

現在、同社ではパナマのリントン・ベイ・マリーナを拠点に、「Smart Living on Water」と題して、水上住宅の開発プロジェクトに取り組んでいる。パナマ政府とも良好な関係を築いており、政府に承認された他の船舶や海洋ベースのプロジェクトと同様に活動しているという。

「当社が研究開発と初期展開のフェーズでパナマを拠点に置いたのは、リントン・ベイ・マリーナに独自の利点があるためです。その穏やかな海域、アクセスの良さ、そして良好な海洋環境は、 未来の海洋生活に向けた私たちのビジョンをテスト・改良し、実現するのに理想的な場所でした。私たちは、この地で1ポッドずつ未来を築いていることを誇りに思っています」(Ocean Builders 広報担当者)

120日間の海中生活でギネス世界記録を達成

2025年1月には、Ocean Buildersの共同創業者であるRudiger Koch氏が、Ocean Buildersが開発した水中構造モジュール内で120日間を過ごし、世界ギネス記録を達成したとして話題を呼んだ。減圧なしの水中における最長滞在記録だという。

▲Ocean Buildersの共同創業者であり、航空宇宙エンジニアでもあるRudiger Koch氏(Ocean Builders提供)

「実は、この記録は偶然から始まりました。ノベーションは必ずしも役員室から生まれるわけではありません。多くの場合、イノベーションは実生活から生まれます」(Ocean Builders 広報担当者)

Koch氏が120日間を過ごした水中室は、もともと浮遊している上部を支えるためだけに設計されていた。その現場に彼の娘が頻繁に遊びに来ていて、快適な宿泊場所が必要になり、水中室内にベッドを追加した。そして、Koch氏が娘と話すなかで、「このスペースを住みやすい環境にして、その過程で世界記録を更新できたら?」というアイディアが浮かんだという。

▲Koch氏が120日間を過ごした水中室(写真中央部、Ocean Builders提供)

「最終的に減圧なしで120日間水中に留まるギネス世界記録を達成しましたが、真の目標は挑戦が始まってから明らかになりました。彼自身は、『これは単に記録を破ることではなく、海中で生きるために真に何が必要かを学ぶことだった』とインタビューで語っています。

そして、この挑戦は私たちにも教訓をもたらしました。当初はSeaPodを安定させるための技術的な必需品だった水中室が、長期的な水中生活のテストベッド(実験場)となったのです。彼の経験は、湿度管理や酸素の流れ、隔離された環境での心理的な健康状態など、あらゆることに貴重な洞察を与えてくれました」(Ocean Builders 広報担当者)

日本市場でのコラボレーションにも強い期待感

最後に、日本市場進出についての可能性を聞くと、「強い関心を持っている」と前向きなコメントを寄せた。

「日本は、イノベーションと持続可能性におけるリーダーシップで知られる国です。 これらはOcean Buildersの使命と完全に一致する価値観です。

私たちは、日本市場におけるビジネスチャンスの開拓に強い関心があり、日本企業や自治体とのコラボレーションに大きな可能性を感じています。災害に強い住宅から先進的なオフグリッド・スマートハウスまで、SeaPodは自然との調和と最先端のデザインを重視する未来志向の社会のニーズに応えるように設計されています。

沿岸のイノベーション、持続可能な観光、海洋技術への貢献など、よりスマートでクリーンな未来へのビジョンを共有する日本のパートナーと協業できるとしたら、とても光栄です。私たちは住宅を建設するだけでなく、新たなライフスタイルを構築しています。そして、そのビジョンを日本にもたらすことは、私たちの誇りです」(Ocean Builders 広報担当者)

▲Ocean Buildersは日本進出にも意欲的な姿勢を見せた(Ocean Builders提供)

現在、Ocean Buildersはリントン・ベイ・マリーナでSeaPod Ecoを生産中で、公式ホームページでは見積もり依頼を受け付けている。2025年の具体的な優先事項は、「SeaPodにおける電磁波の影響をより低減すること」と「水上住宅向けの高度な水処理ソリューションの開発に取り組むこと」としている。

人類は海中や水上に移住できるのか。大胆で忍耐強い企業の挑戦により、すぐそこまで実現が迫っている。

編集後記

住宅におけるイノベーションは、効率的で低コストの「3Dプリント住宅」や「コンテナハウス」、利便性が高く環境負荷を抑えた「スマートハウス」などの進化・導入が進んでいるが、海中・水上住宅の開発もここまで進んでいることに驚かされた。未だ人類が到達していない未知の領域であり、技術的な課題が山積みであることが予想されるが、引き続き2社からの朗報を待ちたい。

(取材・文:小林香織

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  • 小岩井悠太

    小岩井悠太

    • 不動産投資会社
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  • 眞田幸剛

    眞田幸剛

    • eiicon company
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Global Innovation Seeds

世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。