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プラスチックなのに脱炭素。木材由来の新素材「Woodly」の革新性

プラスチックなのに脱炭素。木材由来の新素材「Woodly」の革新性

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年間3億5,000万トン以上も生産されているプラスチック。「脱炭素」「脱プラスチック」が叫ばれているものの、その存在はあまりに身近であり、私たちの日常からは切っても切り離せない。

「それならば、プラスチックをプラスチックのまま、環境にやさしい素材として再設計しよう」

そんな思想のもとに生まれたのが、フィンランドのスタートアップ「Woodly」(ウッドリー)が開発した新素材「Woodly®」だ。主な原料は木材セルロースで、最大の特徴はカーボンニュートラルであること。製造・流通過程で排出される温室効果ガスは、原料に使用する森林に吸収される温室効果ガスの量と同等のため、実質的に排出量がゼロとなるのだ。

世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第三弾では、フィンランドだけでなく、日本でも代理店の株式会社近藤商店を通じて販売されているWoodlyを取材。素材の革新性とビジネス戦略をWoodlyのCEO・Jaakko Kaminen(ヤッコ・カミネン)氏、及び近藤商店でWoodlyの営業を担当する主任・太田義人氏と次長・今田将司氏に聞いた。

脱炭素を達成する革新的なプラスチック「Woodly®」

Woodly®の原料は40〜60%が木から取り出したセルロースであり、植物由来のプラスチックだ。加工過程でセルロースに他の成分を加え、プラスチックの性質を引き出している。このような植物由来のプラスチックは、国内で「バイオマスプラスチック」と呼ばれる。


▲2020年9月に経済産業省が発表した「プラスチックを取り巻く国内外の状況」より

上記図は、植物由来の「バイオマスプラスチック」と微生物などの働きによって最終的に二酸化炭素と水に生分解される「生分解性プラスチック」、そして2つを総称した「バイオプラスチック」の構成が示されている。バイオマスプラスチックは、カーボンニュートラル性があり二酸化炭素の濃度を上昇させない点、生分解性プラスチックは廃棄物の削減等がメリットとしてあげられており、気候変動対策として国内外で注目されている。

近藤商店の太田氏によれば、木材セルロースを原料としたバイオマスプラスチックは世界的にもめずらしいとのこと。Woodly®で使用されている木材セルロースは、適正に管理された森林から産出した木材の証である「FSC認証」を取得したサプライヤーから購入しており、製造・流通過程で排出される温室効果ガスは実質的にゼロになる。これがWoodly®の最大の魅力だ。

従来の化石由来のプラスチック同様、資源ゴミとしてリサイクルも可能で、生分解性はないが環境に配慮されている。機能性もすぐれており、従来のプラスチックの代替えとして使いやすい特徴がある。


▲加工前のWoodly®は、米粒上で透明

「Woodly®は透明度が高く、一定以上の耐熱性、耐衝撃性、耐候性などがあります。従来のプラスチックと同様の加工プロセスで、薄くやわらかいフィルム状から、ボトルや皿など厚くて硬い形状まで幅広く成形できます。EU圏内では食品接触材として規制に準拠しているため、食品包装用のパッケージにも使用されています」(カミネン氏)

こうような汎用性の高さに期待できるものの、いくつかの弱点もある。酸素や二酸化炭素といった気体に対するガスバリア性が不十分であり、包装パッケージに窒素を注入するポテトチップスなどの商品、あるいは真空包装など高いバリア性を必要とする際は成形時にバリア層を追加する必要がある。

従来のプラスチックが130度前後の耐熱性を持つのに対し、Woodly®は最高90度とまだ低い。しかし、素早いサイクルでアップデートされている新素材のため、近い将来改善できる可能性があるとカミネン氏は言う。

「Kグループ」など地元の大手企業に導入


▲Kグループのスーパーマーケットで販売されているWoodlyのパッケージ

2011年に創業したWoodlyは、国内外のプラスチック加工業者、商社などとのパートナー提携を通じて、徐々に販路を拡大。フィンランド国内に複数のクライアントがおり、ヨーロッパを中心に広く流通しているそうだ。

現状は、市場の需要を鑑みて「パッケージ」に焦点を当てている。カミネン氏は、「Woodly®で自動車部品を作りたい」など、パッケージ以外の問い合わせも複数届いていることを明かしつつ、現在はリソースの都合でパッケージに限定していると強調した。

現在のクライアントはすべてフィンランドの企業で、大手小売業者「Kグループ」、プラスチック用品メーカー「Orthex」、精肉・食肉加工品を生産・販売する「HKScan」、衣類等を製造する「Black Moda」、ハーブ等を生産する「Vihreäkeiju」など。


▲衣類等を製造する「Black Moda」でのパッケージ使用例

「私たちのクライアントは世界中でビジネスを展開しており、彼らを通じて世界中でWoodly®のパッケージが流通しています。そのすべてに弊社のロゴを使用した専用マークが付いていて、環境に配慮したプラスチックであることが示されるともに、弊社のPR戦略としても機能しています」(カミネン氏)

Woodly®の価格は、数量、加工方法、製造場所などに大きく左右されるものの、従来のプラスチックの3倍ほどだという。この価格の壁は決して低くはないが、導入した企業の多くはエコロジーなビジネスモデルを全面的にアピールしており、Woodly®の活用を「ブランディングの一環」と捉えているのかもしれない。

「価格ではなく、価値で勝負する。これが弊社の戦略であり、カーボンニュートラルなプラスチックを正当に評価してくれる適切なクライアントを見つけることが先決です。実際、弊社のクライアントは、Woodly®が持続可能性の目標を達成する助けになることを高く評価しています。ただ、いずれ需要が増えれば生産コストは確実に下がります」(カミネン氏)

日本の代理店に聞く国内展開の戦略

2020年2月、Woodlyは工業用フィルム・工業薬品の販売代理店である近藤商店と日本市場進出における協力体制を構築。日本でも販売を開始した。近藤商店は日本で実施されていた展示会を通じてWoodlyを知り、コンタクトを取ったという。

「フィンランド大使館がブースを出店していて、気候変動対策のソリューションを提供する企業を紹介していました。そのひとつがWoodlyで、希少性のある木材由来のプラスチックに強い興味を抱きました」(今田氏)

同社は、Woodly®の木材セルロースの含有量が40〜60%と多いこと、バイオマスプラスチックでありながら高透明であること、加工のしやすさを利点だと語る。

「バイオマスプラスチックはヨーロッパを中心に使用量が徐々に増えていますが、透明度が低い難点があります。商品のパッケージとして利用する場合、中身がクリアに見えることは重要であり、Woodly®の透明度であれば心配はありません。まだ日本では食品接触材としての証明を取得していませんが、現状準備を進めており、おそらく取得できる見込みです」(太田氏)

耐熱性やガスバリア性の不足といった懸念事項はあるが、今後改善できる見込みもある。Woodly®には大きなビジネスチャンスがあると期待する同社だが、現状は日本のクライアントが見つかっていないそうだ。


▲これまでに完成したWoodly®のプロトタイプ

「現在までに化粧品等の容器に使えるボトルやコンパクト、グラスなど、いくつかのプロトタイプが完成しており、従来のプラスチックと同様のプロセスで問題なく成形できることが確認できました。素材としては良いのですが、一番のネックは価格。日本で販売する場合、フィンランドからの輸入費などが上乗せされ、従来のプラスチックの4〜5倍の価格帯となります」(今田氏)

カーボンニュートラルである付加価値よりも、手頃な価格帯が優先される。それが、現状の日本社会におけるプラスチックの実情なのかもしれない。

「将来的にはフィルム状の包装パッケージや弁当用コンテナなど、需要が高い商品での利用を見込んでいますが、現在は単価の問題で採用までたどりつけていません。まずは、洗って繰り返し使える食器やグラスの原料として、販路を広げていきたいというのが弊社の戦略です」(今田氏)

カミネン氏も日本展開の難しさは承知しているようで、「まずは日本市場の理解を深めたい」と語っている。

「弊社は日本市場に大きな関心を持っており、近藤商店のような地元企業と協力できることを嬉しく思います。一方で、日本でブレイクするためには、まだまだやるべきことがあると認識しています。日本では持続可能性だけでなく、十分な品質も担保する必要があり、その視点はヨーロッパよりも厳しいようです。引き続き、日本市場を学んでいけたらと考えています」(カミネン氏)

資金調達は総額6億円超え。少数精鋭で拡大を目指す


▲WoodlyのCEOであるJaakko Kaminen(ヤッコ・カミネン)氏

Woodlyを創業したのは、フィンランドのビジネスコンサルタント企業・Seediだ。同社はビジネスの一環として、新たに企業を創設し、そこに投資する事業を行っているという。

「木材からプラスチックを作るというアイデアを持っていたのはSeediであり、私は2017年にCEOとして彼らに雇われ、Woodlyの最初のメンバーになりました。つまり、それまでは机上のプロジェクトだったんです。私の入社後、フィンランドの国立技術研究センター(VTT)を通じて科学者などを採用し、新素材のWoodly®が誕生しました」(カミネン氏)

実質、Woodlyは稼働開始からまだ4年ほど。首都ヘルシンキに拠点を構え、メンバーはわずか6人のみだ。

しかしながら、プラスチック加工業者など国内外の大手企業と手を組んで事業をグローバルに拡大しており、これまでの資金調達は500万ユーロ(約6億6,700万円)を超える。森林関連のイノベーション事例に焦点を当てたフィンランドの「ウッドコンペティション」で受賞したり、ドイツのディスカウントスーパー「Lidl」のフィンランド支店で、Woodlyのクライアント企業がプラスチックコンペティションのファイナリストに選出されるなど、社外からの評価も徐々に高まっている。

「まずは、さまざまなパッケージでの利用を皮切りに、もっとも適したターゲット市場を見つけたい」と語るカミネン氏。プラスチック業界の競争はますます熾烈になりそうだが、ヨーロッパで存在感を高めるWoodlyの挑戦に期待したい。

編集後記

記事執筆にあたり、プラスチックにまつわる現状をさまざまリサーチしたところ、その課題があまりに複雑で頭を悩ませた。環境にやさしいといわれるバイオマスプラスチックだが、生分解性がない素材の場合、リサイクルされず環境に残ってしまえば海を汚したり、魚や動物などが食べてしまったり、生態系を崩すことになる。

Woodly®は生態系に配慮された森林が使われているが、その他のバイオマスプラスチックの中には、原料の生産時に多くの温室効果ガスが排出されているものもあるかもしれない。結局は原料生産までさかのぼり、使用されている土地、水の量、栽培方法などくわしく見なければ、本当に環境に良いとは言えないだろう。

一消費者としては、責任を持ってプラスチックを扱い、自然環境に残さない努力が求められると感じた。同時に、Woodly®のような環境への影響が少ない素材が浸透することを願いたい。

(取材・文:小林香織

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