
「空飛ぶタクシー」2026年ドバイで商用化へ 世界の先進企業が描く未来
「空飛ぶタクシー」の商用運航が、まもなく本格化するかもしれない。2025年6月、米・カリフォルニアのスタートアップ・Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)は、「2026年にドバイでの商用運航開始を目標にしている」と公式発表した。すでに複数回のテスト飛行が成功しており、ヘリポートも建設中だ。
世界のスタートアップが取り組むイノベーションの"タネ"を紹介する連載企画【Global Innovation Seeds】第66弾は、「空飛ぶタクシー」の商用化に挑む世界のスタートアップに注目。先進的な4社の戦略と最新の取り組みを紹介する。
サムネイル写真提供:アーチャー・アビエーション
ボーイングの子会社・米「Wisk」は、“自律飛行”を優先
2019年創業ながら、2010年から電動垂直離着陸機(eVTOL)の研究に着手した米・カリフォルニア州発の Wisk Aero(ウィスク・エアロ)。2023年には、ボーイング社の完全子会社となった。

▲ウィスク・エアロが開発する、自律走行可能な航空機(ウィスク・エアロ提供)
機体は黄色いボディが特徴で、2025年7月時点で第1〜第6世代までを発表している。第6世代は4人まで乗車可能で、機内持ち込み手荷物も一緒に積むことができる。速度は110~120ノット(時速約200〜220km)。安全性を高める目的で設計は簡素化されており、人間の遠隔監視による自律走行を可能とする。

▲第6世代の機内。荷物も十分に持ち込める広さだという(ウィスク・エアロ提供)
競合と差別化したアプローチとして、同社では、有人飛行ではなく無人の「自律走行」を優先。自律走行には、安全性の向上、規模の拡大、経済性の確保など多くのメリットがあるためだ。同社では、「一般航空事故の80%はヒューマンエラーが原因である」というデータを引用し、安全性の向上に自律走行は不可欠であると考えている。
2025年6月には、マイアミ・デイド郡航空局(MDAD)とマイアミ大学工学部内のエアタクシーの開発に取り組むコンソーシアム(MEAMI)と、それぞれ覚書を締結。MDADとは関連空港におけるエアタクシーの導入促進、MEAMIとは自律走行技術の発展に向けた共同研究開発に取り組む。2020年以来、NASAとも協業関係にあり、NASAにおける自律型航空機の導入に向けて、業界標準の策定に取り組んでいる。

▲石川県加賀市、およびJALエンジニアリングと三者間覚書も締結した
また、2025年6月に石川県加賀市および日本航空の子会社・JALエンジニアリングと三者間覚書を締結。国家戦略特区に指定されている加賀市で、エアタクシーの実証を通じて、先進航空モビリティのオペレーションモデルの構築を進める方針だ。
NYをはじめ各国での導入を目指す 米「Archer Aviation」
2018年に創業し、米・カリフォルニア州を拠点とするArcher Aviation(アーチャー・アビエーション、以下:アーチャー)は、独自の航空機「Midnight(ミッドナイト)」を開発する。乗客は最大4名まで、機内持ち込み手荷物の搭載が可能で、最高時速は150マイル(約130ノット)となる。

▲アーチャーが開発する「ミッドナイト」(アーチャー・アビエーション提供)

▲機首に装備された縦型ライトで識別しやすくした(アーチャー・アビエーション提供)
安全性や静粛性など技術的な性能は重要としつつも、感情的に魅力的で認識しやすい外観にも注力する。機首に大胆な垂直ライトが装備されており、航空機をすぐに識別できるとする。「自信を漂わせるデザイン」を目指したという。2024年までに400回の自律飛行テストを実施しているが、現時点ではパイロットの操作による有人飛行で市場投入を進めている。
同社の主要顧客であり、戦略的パートナーはユナイテッド航空だ。ユナイテッド航空は、最大200機(最大15億ドル)の機体(ミッドナイト型予定)の発注契約を2021年に発表し、同社の主要顧客となった。

▲アーチャーが2025年4月に発表した、ニューヨーク市内のエアタクシー飛行ルート計画(アーチャー・アビエーション提供)
その後は、両社が協業して米国内でのエアタクシー運行計画を進めている。2023年には、シカゴでエアタクシーサービスを開始する計画を発表。そして、2025年4月には、ニューヨーク市内のエアタクシー飛行ルート計画を発表した。マンハッタンにヘリポートを設け、そこから近隣の複数空港に飛ぶルートで、車の移動で1~2時間かかる距離を5~15分のフライトに置き換えられるとしている。

▲機内デザインも洗練された雰囲気だ(アーチャー・アビエーション提供)
同社では、初期導入をサポートする「ローンチエディション」プログラムを提供している。2025年2月には、最初の顧客としてアブダビ航空との提携を発表。さらに、3月にはアフリカ・エチオピア航空と、6月にはインドネシア民間航空総局との提携を次々と発表した。各国での商用化開始時期は不透明だが、以前に「早ければ2026年までにロサンゼルスネットワークの運用を開始する」との目標を発表している。
2026年にドバイで商用運航を目指す 米「Joby Aviation」
2009年に創業した、米・カリフォルニア州を拠点とするJoby Aviation(ジョビー・アビエーション、以下:ジョビー)も、eVTOLの先進企業として知られている1社だ。乗客は4名、最高時速は200マイル(約170ノット)で、パイロットの操作による有人飛行で市場投入を進めている。

▲ジョビー・アビエーションはトヨタとも提携。写真は静岡での飛行の様子(ジョビー・アビエーション提供)
同社は、日本企業との提携も進める。2019年には、トヨタがジョビーに戦略的投資を実施。数十名のトヨタのエンジニアをジョビーに派遣し、両社で緊密に連携し、認証取得や量産化を進めている。2024年11月には、静岡県裾野市で日本初の国際展示飛行が成功したと発表した。2022年2月には、ANAおよびトヨタと覚書を締結。開催中の大阪・関西万博では、ANAとの協業で9月下旬~閉幕まで飛行を予定している。

▲ニューヨークを飛行する同社の航空機(ジョビー・アビエーション提供)
2022年10月には、デルタ航空がジョビーに6,000万ドルを出資。ニューヨークとロサンゼルスを中心に都市中心部から空港をつなぐエアタクシーの共同開発を進めている。2025年3月には、英国・ヴァージン アトランティック航空との提携を発表。英国全土での短距離移動サービス提供を目標としており、ハブ空港であるヒースロー空港とマンチェスター空港から地域間および都市間の接続を開始する計画だ。

▲2026年にドバイで商用サービスを開始予定だ(ジョビー・アビエーション提供)

▲ドバイ国際空港を含む4ヵ所へのサービス導入を計画(ジョビー・アビエーション提供)
2024年2月には、ドバイ道路交通局と正式契約を締結。2025年6月には、ドバイに最初の航空機を納入し、有人垂直離着陸飛行を成功させたと発表した。ドバイ国際空港やダウンタウン・ドバイ、同国の観光スポット・パーム・ジュメイラ、ドバイマリーナへの商業サービス導入を目指しており、2026年第1四半期には、ドバイ国際空港のヘリポートが完成予定だ。2026年に商用運航開始を目標にしている。実現すれば、車で45分の移動時間が約12分に短縮するという。
近々、本格的な商用運航が始まるか 中国「EHang」
2014年に創業し、中国・広東省に拠点を構えるEHang(イーハン)は、ウィスク・エアロ同様に完全自律飛行のアプローチを取っている。同社は、「世界に先駆けて2025年内に中国でeVTOLの商用運航を開始する」として注目されている企業だ。

▲世界で初めて商用運航における型式証明を取得した「EH216-S」(イーハン提供)
同社の航空機「EH216-S」は、2023年10月に中国民用航空局(CAAC)が発行する旅客輸送の商用運航における型式証明を取得した。その後、生産証明、標準適航証明、 運航者証明も取得し、2025年3月に、世界で初めて商用旅客運航が可能となった。EH216-Sは、前述した競合の航空機よりも小型で軽量だ。乗客は2名で運転席はない。
2025年7月時点で、商用旅客運航に必要な全ての証明を取得したeVTOLは他になく、アーチャーやジョビーはプロセスの最終段階の手前付近まで到達しているが、完全取得を目指している状況だ。

▲中国での商用利用の本格化を目指しながら、各国との連携も進めている(イーハン提供)
2025年6月26日に配信された「日経クロステック」のインタビューでは、同社のVice Predident、Ricardo Recio氏が「今はテスト段階だが、当社では初期の商用運航を開始したと位置づけている」と回答。一方で、商用運航の本格化のタイミングは名言せず、「商用運航開始」のプレスリリースによる正式発表は、7月25日時点ではされていなかった。
イーハンは、アルゼンチンの国営航空宇宙メーカーと提携したり、メキシコやスペイン、インドネシアでのテスト飛行を実施したりするなど、中国にとどまらず、各国との戦略的提携も進めている。
編集後記
「すでに商用運航を開始している」と話しつつ、正式発表がないイーハンに対して、ジョビー・アビエーションはドバイでの具体的な計画と2026年の運行開始時期を明確にしている。各社の先行アプローチが、「有人」と「無人」で異なっているのも興味深い。日本を含め世界各国でさまざまなプロジェクトが動いており、2026年には新展開が続々と始まるかもしれない。引き続き、業界の動向を注視したい。
(取材・文:小林香織)