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ヨーロッパ・北米で拡大する再利用できる包装袋。フィンランド発スタートアップ・RePackの展望に迫る

ヨーロッパ・北米で拡大する再利用できる包装袋。フィンランド発スタートアップ・RePackの展望に迫る

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環境保護やSDGsの浸透により、持続可能なビジネスのあり方を模索する企業が増えている。環境先進国といわれる北欧諸国やアメリカでは日本よりもその傾向が強く、現地では「サスティナブルな商品であるか」を基準に選ぶ消費者も少なくない。

筆者が拠点を置く北欧では、莫大な資金を投入した環境保護対策のニュースをたびたび目にしたり、買い物に行けばヴィーガン食品があふれていたり、環境保護に配慮して当たり前というマインドが浸透しつつある。これは政府が主体となり企業や自治体を牽引、市民の意識レベルを引き上げてきた結果ではないかと予想される。

フィンランドに拠点を構えるスタートアップ「RePack」(リパック)は、繰り返し使える包装袋「RePack」を開発し、ヨーロッパのみならずアメリカ・カナダでも販路を広げている。これはオンラインショッピング時の包装に利用され、顧客は商品を抜き取ったあと、空の包装袋をポストに投函することで再利用可能な仕組みだ。

昨年以降、飛躍的に需要が伸びているeコマース関連の持続的なソリューションということで、日本マーケットからの注目も高いようだ。同社のPR担当者にRePackが生まれた経緯、環境への影響、ビジネス拡大の戦略を伺った。

商品を抜き取りポストに投函。20サイクル利用可能


RePackはアパレルブランド向けの再利用可能な包装袋で、防水性と耐久性にすぐれたやわらかいポリプロピレンで生成されている。念入りに清掃することで清潔さを維持し、最大20サイクル(往復40回)の配送に耐えられるという。

利用方法は以下の通りだ。

1、各ブランドがRePack(包装袋)に商品を梱包し、顧客に発送する。

2、受け取った顧客は、商品を抜き取った後、RePackを手紙サイズに折りたたみ、返送先の住所が書かれたラベルを貼ってポストに投函する。

3、使用済みのRePackはRePack社に戻り、同社が清掃して各ブランドに納品する。

サイズは、スモール(2.75ユーロ)・ミディアム(3ユーロ)・ラージ(3.5ユーロ)の3種類で、それぞれ100枚からオーダーできる。やや特殊なビジネスモデルで、単価は製品1枚あたりではなく、1サイクル(2回の郵送)あたりとなる。

多くのブランドでは包装パッケージをRePack一択にするのではなく、オプションとして導入しているようだ。たとえば、スウェーデン発の環境に配慮されたメンズアパレルブランド・ASKETでは、3ユーロの追加料金を支払うことでRePackを選択できる。


顧客側は追加料金とポストに返却する負担があるが、その代わりにインセンティブが用意されている。専用プラットフォーム上でRePack加盟店での買い物が10%オフになるほか、チャリティへ団体への寄付も可能だ。

このサービスの要は、顧客が期限通りにRePackを返却すること。現在のRePackの返還率は75%と課題はあるが、加盟ブランドと協力のうえ顧客とのコミュニケーションを改善するなどして、100%に近づけたいと話す。

同じ袋を“使い回す”という特性から、包装袋の清掃も徹底している。2020年以降は顧客、及びスタッフのコロナ感染のリスクを最大限に下げるため、空の袋を3日間放置した後、ナチュラルクリーニング材を用いて清掃する方法に変更したそうだ。

数年間の試行錯誤で発見したポリプロピレン素材


▲CEOのJonne Hellgren氏(写真中央)、共同創業者のPetri Piirainen氏  (写真右)、チーフデザイナーのJuha Mäkelä氏

2011年にヘルシンキで誕生したRePack。同社のメンバーはフィンランドの郵便局のプロジェクトに取り組んでいた経歴があり、物流センターで多くの時間を過ごしていた。そこで、チーフデザイナーのJuha Mäkelä氏はeコマース分野で持続可能なパッケージングソリューションが不足している課題に気づいたという。

「オンラインショッピングのパッケージには、捨てられてしまう素材が多く使用されています。そこで彼が思いついたのが、ヨーロッパで実施されているボトル・リターン・システム。フィンランドでは飲料用ペットボトルの90%以上が再利用のために返却されており、このモデルをeコマースの配送にも適用すべきだと考えました」

フィンランドやいくつかのヨーロッパ諸国では、スーパーマーケットの店頭などにプラスチックボトルや空き缶を収集する機械が置かれており、返却するとマーケットでの割引が受けられる。


▲RePackの公式HPより 

彼らは創業から幾度ものモデルチェンジを実施している。最初の製品が完成したのは2012年で、現在とは異なるダンボール素材が使われていた。その後、PVC、ポリプロピレンと素材を変更。2019年からは国内生産ではなく、中国で生産を開始している。この狙いはどこにあるのか。

「現在のRePackは、古い冷蔵庫などをリサイクルした特殊なポリプロピレン素材を活用しています。ポリプロピレン自体は身近にあるプラスチックの中でもっとも一般的な素材ですが、これをリサイクルするのは容易ではなく、その工程で多くの廃棄物が発生してしまいます。

しかし、中国にある弊社のパートナー企業は廃棄物を出すことなくリサイクルポリプロピレンを生み出し、その素材からRePackを作り出すことができます。さらに、約20サイクルの役目を終えた後も、100%リサイクルが可能です。現状はプロトタイプやサンプルを作成するために材料を再利用しています。

これらの技術を持つパートナー企業はヨーロッパにはほとんどないことから、中国のパートナーと提携しました」

同社は、3年ほどの月日をかけて、長時間の使用にも耐えうる理想的な素材・ポリプロピレンをムダなく活用する術を発見したのだ。役目を終えても再びその素材を利用できる持続可能なビジネスモデルといえるが、彼らは現状に満足せず、新たなアップサイクルの方法を模索しているという。

ヨーロッパ内で高く評価され、北米へ進出


環境へのインパクトも大いに期待できる。同社の発表によれば、RePackのミディアムサイズを20サイクル使用した場合、カーボンフットプリント(生産から廃棄までのCO2の排出量)を使い捨てプラスチックよりも78%、ダンボールよりも75%削減できるとのこと。ゴミの重量は、同様の条件で使い捨てプラスチックよりも92%、ダンボールよりも96%削減可能だ。

革新的なビジネスモデルと環境への貢献が高く評価され、ヨーロッパ内での受賞歴も多い。2017年には北欧内で環境保護に対して模範的な取り組みや特別な貢献をした組織・企業・個人に送られる北欧理事会による環境賞を受賞。

国境を超え、ドイツ政府が資金提供するビッグプロジェクト・PraxPACKにも参加している。ドイツでは市民1人当たりのオンラインショッピングのゴミが年間約10kgにものぼり、問題視されていた。そこで、大幅なゴミ削減を目的にドイツ最大級のeコマース企業、Otto、Tchibo、Avocadostoreの3社と共同で、3年間にわたりRePackのインパクトを研究するそうだ。

現在ヨーロッパでは130以上のブランドがRePackを導入。2019年からは北米にも販路を広げ、CANADA POST(カナダの郵便事業を運営する公社) やUSPS(アメリカ合衆国の郵便事業を担当する公社)と契約、これにより顧客はカナダのどこからでも無料でRePackを返品できるようになったという。

「持続可能な包装オプションを求めていたアメリカ・カナダの企業から多くのアプローチがあり、北米への本格的な進出を決めました。現地に拠点を置くチームメンバーが物流を担当しています」

自らアプローチせずとも国外の巨大企業からオファーが届いたのは、ヨーロッパ全域で持続可能なビジネスモデルを得意としていることに加え、国境を超えていくつもの賞を受賞した実績があったからかもしれない。

20社以上の問い合わせ実績あり。日本展開はいつ?

パンデミックの影響により、世界中で急上昇しているオンラインショッピング需要。同時にゴミ問題への注目も高まっており、さまざまな解決策が生まれている。

膨大な包装ゴミが悩みの種になっているアメリカでは、Returnity(リターニティー)やLimeloop(ライムループ)といったスタートアップが再利用できる包装袋を開発、リサイクルしたプラスチックやビニールを原料に使用し、最大50〜200回利用できるという。ライムループは包装袋をオンラインで追跡できる機能も備える。

米アマゾン・ドット・コムもリサイクル率の向上に注力する。資金を投じ、100%リサイクルできるダンボール製容器やクッション封筒を開発したそうだ。

RePack社の日本展開について尋ねてみると、「すぐには難しいが、将来的には展開したい」と前向きな回答を得た。


「これまでに20社以上の日本企業から、RePackを利用したいという問い合わせが届いています。さらに、友人や家族宛の配達に使用する目的で購入したいという一般の方からの問い合わせや、ASKETなどヨーロッパのアパレルブランドの日本人顧客から励ましの声も届いており、日本での期待度の高さを感じています。日本市場をもう少し理解してから、ヨーロッパと同じような仕組みを作れたらと考えています」

すでにライバル企業と呼べるスタートアップが複数誕生しており、eコマースの大企業もゴミ問題の解決に本気の姿勢を見せている。本当の勝負はこれからというタイミングかもしれないが、RePack社の日本進出に期待したい。

編集後記

RePackの存在を知ったのはフィンランド在住の日本人のツイートだった。ユニーク、かつ環境へのインパクトがわかりやすい取り組みであり、利用した顧客にとっても、つい誰かにシェアしたくなる魅力があるようだ。フィンランド在住の筆者にとって念願叶っての取材となった。近い将来、日本でRePackが利用できる日が待ち遠しい。

(編集:眞田幸剛、取材・文:小林香織


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世界のスタートアップが取り組むイノベーションのシーズを紹介する連載企画。