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【ディープテック基礎知識⑭】脱炭素に欠かせない「バイオプラスチック」のメリットと問題点

【ディープテック基礎知識⑭】脱炭素に欠かせない「バイオプラスチック」のメリットと問題点

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2020年にゴミ袋が有料化されるなど、環境負荷の一因とされている石油由来のプラスチック。自然に分解されるには長い年月が必要になり、海などに流れてしまうと生態系にも悪影響を及ぼします。

そんな石油由来のプラスチックの代替として、環境負荷を減らせると期待されているのが「バイオプラスチック」です。新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第14弾では、このバイオプラスチックについて取り上げます。

どんなメリットがあるのか、どんな課題が残されているのか紹介していきます。

バイオプラスチックとは

バイオプラスチックとは、石油由来のプラスチックとは異なり、植物や微生物などの再生可能な資源を原料として作られたプラスチックです。環境負荷が低いだけでなく、生分解性のものもあります。

世界的に大きな注目を集めるバイオプラスチックですが、日本でも政府や企業がバイオプラスチックの開発や導入を積極的に進めています。2025年までに、プラスチック使用量の30%をバイオプラスチックに置き換えることを目標としています。

バイオプラスチックの種類

バイオプラスチックは、大きく「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の2種類に分類されます。それぞれどのような特徴があるのか見ていきましょう。

・バイオマスプラスチック

植物や動物由来の有機資源を原料として作られたプラスチックです。汎用樹脂といわれる幅広い製品に使われているPE(ポリエチレン)や耐熱性、耐衝撃性などの機能が強化されたエンジニアリング・プラスチックといわれる樹脂のPC(ポリカーボネート)等があります。

従来のプラスチックの原料である石油等の化石資源に比べて、バイオマスプラスチックは比較的短いサイクル( 1~10年)で再生産できる植物等の再生可能資源が使用されています。

・生分解性プラスチック

生分解性プラスチックには、化石資源を原料とするものとバイオマスを原料とするもの(つまり、バイオマスプラスチックでもある)があります。海洋プラスチックごみ問題の解決に向けては、やむをえず自然環境中に流出する場合には、生分解性が求められており、さらなる技術発展が期待されています。

バイオプラスチックのメリット

バイオプラスチックには、石油由来プラスチックと比べて以下のようなメリットがあります。

・環境負荷の低減

バイオプラスチックは、石油ではなく植物や微生物などの再生可能資源を原料として作られているため、石油由来プラスチックと比べて環境負荷が低いと言われています。CO2の排出量を減らせるほか、枯渇する石油資源の節約にも貢献できます。

また、バイオプラスチックの中には生分解性のものがあり、自然環境で分解されるため、海洋プラスチックによる海洋汚染の軽減にも効果が期待されています。

・機能性向上

近年、バイオプラスチックの研究開発が進み、従来の石油由来プラスチックと同等もしくはそれ以上の機能を持つバイオプラスチックが開発されています。たとえば耐熱性の高いバイオプラスチックは、電子機器や自動車部品に利用されますし、耐衝撃性のあるバイオプラスチックはスポーツ用品や建材などに利用されます。

さらに人体に優しいバイオプラスチックは、医療機器や化粧品にも利用されなど、徐々に用途が広がっているのです。

・バイオ経済への貢献

バイオプラスチックは、農業や林業などの第一次産業で生産されるバイオマスを原料として作られているため、バイオ経済の発展に貢献できます。

バイオ経済とは、石油などの化石燃料に頼らず、生物資源を有効活用した経済システムです。生物資源を有効活用し、経済成長と持続可能な社会の実現を目指しており、環境負荷を低減し、資源枯渇を防ぐことを目的としています。

・廃棄物問題への解決

バイオプラスチックの中には、生分解性のものがあり、自然環境で分解されるため、廃棄物問題の解決に貢献できます。従来の石油由来プラスチックは自然環境で分解されにくいですが、生分解性プラスチックなら数ヶ月から数年で分解されます。

特に回収が難しい海洋ゴミは生態系への悪影響などから問題視されていました。バイオプラスチックなら、万が一海に流れ出てしまっても短期間で分解されるため、環境への影響を軽減できると期待されています。

・社会的なニーズへの対応

近年、環境問題への関心の高まりから、環境負荷の低い製品やサービスを求める消費者が増えています。多少価格が高くても、環境負荷の低い製品を求める消費者のニーズに応えるため、企業にもバイオプラスチックなどを使った商品が求められているのです。

また、今後は環境負荷の高い商品には炭素税がかけられる可能性が高いため、バイオプラスチックの利用はビジネスにも直結するといえるでしょう。

バイオプラスチックの課題

様々な側面から期待されているバイオプラスチックですが、以下のような課題が残されています。

・コストが高い

石油由来プラスチックと比べてコストが高いことが最大の課題です。原料となる植物や微生物の栽培や培養にコストがかかることや、バイオプラスチックの製造技術が発展途上であることが原因です。

具体例としてはバイオマスPEの場合、石油由来PEの約2倍の価格、バイオマスPETの場合、石油由来PETの約1.5倍の価格で販売されています。今後、技術が発展し低コストでの製造が可能になるか、炭素税の導入によって石油由来プラスチックのコストが上がれば、コスト課題も解消されるでしょう。

・性能が劣る

高性能なバイオプラスチックも開発されていると先述しましたが、一般的なバイオプラスチックは石油由来プラスチックと比べて性能が劣ります。具体例としては、バイオマスPLAは石油由来PETに比べて耐熱性が低く、高温になると変形することがあります。

環境負荷の少ない添加物の開発やナノ技術の向上により、今後は一般的なバイオプラスチックの性能も上がっていくでしょう。

・規格が統一されていない

バイオプラスチックの規格が統一されていないことも課題です。国際規格と国内規格の他に、様々な団体によって規格が制定されているため、リサイクルやコンポスト化が難しいという問題があります。

規格が複雑になると、専門知識が必要になるため企業に負担がかかり、結果的にコスト高へと繋がってしまうのです。また、安定供給が難しくなるなど、バイオプラスチックが普及するハードルとなってしまいます。

・従来のリサイクル技術が適用できない

バイオプラスチックのリサイクルが難しい場合があることも課題です。石油由来プラスチックとは分子構造が異なるため、従来のリサイクル技術をそのまま適用できず、新たなリサイクル技術は未成熟なためコストも高くなります。

また、バイオプラスチックには様々な種類があり、それぞれリサイクル方法が異なるのも課題です。今後、技術の発展とリサイクルのインフラが整備されることで、解決されていくと期待されています。

・環境負荷

石油由来プラスチックと比べて環境負荷が低いというメリットがありますが、製造過程でCO2を排出したり、水や土地などの資源を大量に使用したりする場合があります。原料となるバイオマスを調達するために、森林伐採や農地転換などが行われると、より環境負荷が増加する可能性もあります。

また、バイオプラスチックが分解される過程でメタンが発生するリスクや、製造過程で有害な化学物質が使用される点など、様々な点で環境負荷が指摘されています。

・食料との競合

バイオプラスチックの原料となるバイオマスは、植物や微生物由来の有機物です。バイオマスの主な用途は食料であり、バイオプラスチックの生産が増加すると、食料の生産量が減少する可能性があります。

また、バイオマスを生産するには農地や森林などの土地や水も必要になります。それらは食料を生産するためにも欠かせません。食料の競合にならないためにも、農業廃棄物や食料廃棄物を利用したバイオプラスチックの普及が期待されています。

バイオプラスチックスタートアップ

世界には様々な原料を使ってバイオプラスチックを開発しているスタートアップがあり、その中から3社を紹介します。

・Spiber (日本)

山形県鶴岡市に本社を置くSpiberは、世界初の人工合成による構造タンパク質素材「Brewed Protein™️」の量産化に成功したバイオベンチャーです。その特徴は石油由来プラスチックと同等の強度と柔軟性を持ちながら、生分解性であること。

現在はBrewed Protein™️を用いたアパレル、自動車内装、医療機器などの製品開発と、Brewed Protein™️の素材製造・販売の2つを柱に事業を展開しています。

https://spiber.inc/

・Notpla (イギリス)

Notplaは、海藻から作られたバイオプラスチックを開発するスタートアップです。水に溶けるフィルムやカプセルなどを製造しており、食品包装や化粧品容器などに利用されています

同社のバイオプラスチックは、海藻から抽出したセルロースを主原料に作られており、石油由来プラスチックと同等の強度と柔軟性を持ちながら、生分解性であることが特徴です。

https://www.notpla.com/

・Mango Materials (アメリカ)

Mango Materialsは、メタンガスからバイオプラスチックを生み出すスタートアップです。バクテリアを使ってバイオプラスチックのPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)を作り出しており、バクテリアの餌としてメタンガスを利用しています。

PHAは生分解性ポリマーであるため、海洋を含む自然環境下でも分解可能で、いわゆるマイクロプラスチック問題を誘発するリスクも少なくなります。Mango MaterialsはこのPHAを成形しやすいペレットの形で、さまざまな産業界に供給することを可能にしました。

https://www.mangomaterials.com/

編集後記

世界中が脱炭素に向かって動き始めている今、バイオプラスチックは私たちの生活に欠かせない製品となっていくでしょう。ただし、環境に良いだけでは乗り越えられないハードルもいくつかあるため、技術の発展や規格の統一などが求められています。今後、バイオプラスチックスタートアップがどのような存在感を放っていくのか注目です。

(TOMORUBA編集部 鈴木光平)

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