【ディープテック基礎知識⑩】エネルギー問題の解決を期待されている「太陽光路面発電パネル」。日本と世界の現状とは?
現在、世界が一丸になって取り組まなければならない「エネルギー問題」。どんなにEV車が普及し、ガソリンの使用量が減っても、発電する過程で環境に負荷をかけていては意味がありません。そのため、世界中で様々なクリーンな発電方法が注目されています。
その中でも、特に大きな注目を集めるのが「太陽光路面発電パネル」。道路に太陽発電パネルを埋め込むことで、新たな土地を必要とせず、土地の活用効率のよい発電方法として期待されています。
新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第10弾では、この太陽光路面発電パネルについて取り上げます。世界ではどのようなプロジェクトが進められているのか、日本でどのような企業が参入しているのか紹介するので参考にしてください。
▲MIRAI-LABOが提供する太陽光路面発電パネル「ソーラーモビウェイ」(出典:MIRAI-LABOホームページ)
太陽光路面発電パネルとは
太陽光路面発電パネルは、これまで設置できなかった道路面に太陽光パネルを設置可能にすることで、太陽光発電の普及率向上に貢献する革新的な技術のこと。路面で発電された電気はバッテリー式の蓄電器やEVの蓄電池へと充電できるようになるため、EV車の普及に大きく貢献すると期待されています。
具体的には、次のような特徴があります。
高い耐久性
発電パネルの上を車が通ることを想定して作られているため、重量や振動によって道路が変形しても耐えられるようになっています。また、日本の四季にも対応できるよう、暑さや寒さに耐えられるだけの耐候性を持ち合わせています。
安全性
スリップなどを防ぐため、パネルの表にセラミック片を混ぜた樹脂で覆うなどの工夫がされています。そのため、道路本来の機能を阻害することなく、太陽光発電を導入できるのです。
発電した電気を夜間の電気照明に
日中に発電した電気は蓄電池に貯めることができ、夜間の電気照明にも使用されます。そのため、パネルの開発とともに電気の貯留・供給システムの開発も進められています。
原発330基分の発電量
仮に日本全国の道路にパネルを導入した場合、原発330基分の発電が可能だと見込まれています。もしもそれが実現すれば、脱炭素を急加速できると期待されています。
注目される背景
なぜ太陽光路面発電パネルが注目されているのでしょうか。その背景には、以下の問題があります。
適地の減少
太陽光発電は、再生可能でクリーンなエネルギー源として注目されている一方で、日本では、太陽光発電の適地が年々減少しているのが問題となっています。道路に太陽光路面発電パネルを設置することで、新たな導入場所を確保することが可能となるのです。
災害への対策
災害大国と知られている日本では、災害時に送電線の鉄塔が倒れるなどして電気が送れないリスクがあります。災害時であっても安定して電気を供給するためには、電気の「使う場所」と「発生する場所」の距離を縮めなければなりません。市街地で発電できる太陽光路面発電は、災害時のインフラとしても期待されているのです。
低コスト
太陽光発電は、技術の進歩によって管理コストや発電コストが下がっています。他の発電方法と比べて、コスト面で優位性があり、今後さらに下がっていくと予測されていくことから、国をあげて普及を進めています。
太陽光路面発電パネルを導入するメリット
太陽光路面発電パネルには、以下のようなメリットがあります。
広範囲な設置が可能
道路面は広範囲にわたる上に、日中は長時間、太陽光を受けることができます。これにより、大量の太陽光エネルギーを利用し、大量の電気を発生させることが可能です。
スペースの有効活用
太陽光路面発電パネルは既存の道路を利用するため、新たな土地を確保する必要がありません。日本は決して国土が広いわけではなく、太陽光パネルを置くために自然を破壊して土地を確保するのも問題になっています。道路を利用すれば、土地利用の効率化に繋がるのです。
安定した電力供給
技術の発展により、近年の太陽光発電パネルは雨天時や曇天時でも一定の発電を維持できます。日中はずっと発電し続けてくれるため、安定した電力供給が期待されています。
太陽光路面発電パネルが抱える課題
様々なメリットが期待されている太陽光路面発電パネルですが、実用化に向けてまだまだ課題が残っています。どのような課題があるのか見ていきましょう。
技術基準への適合性
太陽光発電パネルを道路(車道)で利用するには、車両の荷重、気温や降雨等の自然環境などに耐えられる耐久性を確保しなければなりません。そのため、舗装に関する技術基準への適合性の確認が必要です。
発電効率と費用対効果
太陽光発電パネルで利用するには、耐久性などを高めるために、通常の太陽光発電よりも効率が悪くなり、費用対効果が低い可能性があります。あまりに費用対効果が低ければ、全国に普及するのは難しくなるでしょう。十分な費用対効果を確保できるだけの発電効果が求められています。
既存の占用物件への対応
道路の地下には上下水道管、ガス管、通信ケーブル等の占用物が埋設されている場合があります。太陽光発電パネルを設置するには、これらの設備に対するメンテナンス工事も考慮しなければなりません。
貯留システムの構築
太陽光発電パネルで日中に発電した電気は、夜間の道路照明に使用されます。そのためには、発電だけではなく蓄電池に組み込んだ電気を貯留・供給するシステムの構築が必要となります。
海外での太陽光路面発電パネルの事例
海外では既に太陽光路面発電パネルの実用化に向けて、様々なプロジェクトが進められています。その内容を見ていきましょう。
オランダ
オランダでは、太陽光発電機能を備えた自転車専用道路「SolaRoad」プロジェクトが、2014年から行われています。2015年6月までの6か月間で総発電量は4700kWhに達しました。これは単身世帯の電気使用量の1.5年分に相当し、これを一年に換算すると、2~3世帯分の電気を賄うことができるとされています
フランス
フランスでは、「Wattway」という太陽光発電機能を備えた道路の開発プロジェクトが進められています。道路建設部門の世界的リーダーであるコラス社と、フランスの国立太陽エネルギー技術研究所(CEA-INES)との5年間にわたる共同開発により特許を取得したフランスの発明です。
発電パネルの表面には滑り止めが施されており、歩道と車道の両方に利用できます。発電した電力はバッテリーに蓄電し、夜間に横断歩道の白線や停止線を発光させたり、災害時に電子機器の非常用電源として使うこと等が想定されています。
ドイツ
ドイツでは、「PowerGround」というプロジェクトがあります。ベルリンのスタートアップ企業ROCSUN社によって開発されたもので、道路に埋め込み可能なソーラーパネルです。このパネルは、人や車が乗っても壊れない堅牢さを持ち、3.5tまでの重さに耐えられるように設計されています
加えて、BASF社との共同開発により、優れた耐摩耗性と機械的特性を提供し、製品寿命の延長を実現するポリウレタン(PU)が設計され最適化されました。これにより、道路の照明や街頭広告用のエネルギー源に使われるほか、電動自動車やバイクの充電スポットなどに使用していく予定です。
日本で太陽光路面発電パネルに関わる企業
日本では、次のような企業が太陽光路面発電パネルを開発しています。
F-WAVE株式会社
F-WAVE株式会社は、建築資材の製造・販売、太陽電池セルの製造・販売、エコハウスやゼロエミッションハウス向けの太陽光・熱複合システムを業務内容とする企業です。日本道路株式会社と路面型太陽光発電パネルを共同開発しており、2022年8月に日本道路東京機械センター構内で試験施工を実施しました。大型車両が通過や停車しても破損などの変化は見られず、日中発電した電気を蓄電池に充電して、夜間の照明に活用しています。
MIRAI-LABO株式会社
MIRAI-LABO株式会社は、太陽光路面発電パネル「Solar Mobiway」を開発しています。雨天時や曇天時でも発電できる安定性と、日本の四季に対応した耐久性のあるソーラーパネルです。
Solar Mobiwayで発電した電気をG-CROSS(リフィルバッテリー式の蓄電池)やEVリパーパス蓄電池へと充電することができます。この仕組みは、2022年度~2025年度にかけて日本パーキング、センコー、ENEOSなど一般販売に向けた実証実験及び先行導入を行っています。
東亜道路工業株式会社
東亜道路工業株式会社は、フランスのコラス社と提携し、太陽光発電舗装システム「Wattway」を開発しています。大規模な工事が必要なく、発電した電気は、街路灯やLED埋込照明、電動モビリティ、蓄電池に蓄電して非常用電源の確保など様々な用途で活用できます。
そして、Wattway の太陽光パネル、蓄電池を含んだ電気キャビネット、電気機器への接続をパッケージ化した「Wattway Pack」を提供しています。
https://www.toadoro.co.jp/business/product/201/
(TOMORUBA編集部 鈴木光平)
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