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【ディープテック基礎知識①】SAR衛星が地球観測にもたらした革新とは?活用事例と開発企業を紹介

【ディープテック基礎知識①】SAR衛星が地球観測にもたらした革新とは?活用事例と開発企業を紹介

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ロケットが打ち上げられる度に大きなニュースになる宇宙ビジネス。そんな宇宙ビジネスの中でも、特に今後の成長が期待されているのが衛星開発です。これまで実用化が難しかったSAR衛星の開発が進むことで、従来の光学衛星ではできなかったビジネス展開が可能になりました。

新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第一弾では、SAR衛星を取り上げ、その特徴や活用方法、開発を進めている企業を紹介していきます。

SAR衛星とは

SAR衛星とは、合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar)のことで、航空機や人工衛星に搭載されるレーダーの一種です。電磁波の一種であるマイクロ波を地表に当てて、その反射を受信して地形を調べます。

SAR衛星には、地表をカメラで撮影する従来の人工衛星に比べて様々な利点があります。しかし一方で、システムが複雑でサイズも大きく、費用が高額なため実用化は難しいとされてきました。加えて、SAR衛星がとらえる映像はノイズが多かったこともあり、普及のボトルネックとなっていたのです。

しかし近年、技術革新や汎用部品の活用により『SAR衛星』の小型化・低価格化が急速に進みました。加えて、人工知能(AI)の活用などによる画像解析技術の向上もあってSAR衛星の実用性が急速に高まっているのです。

▲国土地理院で利用されているSAR衛星「だいち2号」(出典:国土地理院HP) 

SAR衛星の特徴と利点

これまで人工衛星と言えば、地表をカメラで撮影する「光学衛星」が一般的で、カメラで撮影するため夜間や悪天候では撮影できませんでした。その点、SAR衛星は地表に向けて照射して跳ね返ってきた電磁波を受信・解析するため、夜間や悪天候でも24時間観測が可能です。

加えて、SAR衛星は地形や構造物を立体的に観測でき、取得したデータは白黒になりますが、色付けするなど加工して分かりやすくすることもできます。これらの特徴から、SAR衛星は災害時の被害状況の把握や、農業・漁業・林業などの資源管理、環境監視など様々な用途に利用されているのです。

SAR衛星の応用例

SAR衛星は、その特徴と技術的な仕組みから、様々な用途に利用されています。その一部を見ていきましょう

災害時の被害状況把握

雲を透過し昼夜を問わず地球観測が可能なSAR衛星は、発災直後の被災エリアを広域に把握する手段として活用されています。

たとえば株式会社Synspectiveと国立研究開発法人防災科学技術研究所は、小型SAR衛星の災害対応への活用に向けた共同実証を行いました。小型SAR衛星を使った効果的な被災状況把握のフローを確立。現在は災害時の観測戦略の検討から緊急観測の依頼、衛星データ提供までの一連のフローの確立を目指しています。

参考:災害対策に小型SAR衛星コンステレーションを融合へ Synspectiveと防災科研、共同実証を開始|2021年度|報道発表|最新ニュース|防災科研(NIED)

農業・漁業・林業などの資源管理

SAR衛星は、農業・漁業・林業などの資源管理にも活用されています。たとえば、JAXAの陸域観測技術衛星2号「だいち2号」は、農業生産、作物生育状況、食料供給への貢献などに利用されています。衛星から得られる時系列データを組み合わせることで、特定の地域や作物の生育状態に関する指標を長期にわたって定量化し、作物の生育状態を簡単に視覚化しました。

参考:農業生産、作物生育状況、食料供給への貢献~環境が世界の穀物需給に与える影響について~ – JAXA 第一宇宙技術部門 Earth-graphy

また、一般財団法人リモート・センシング技術センター(RESTEC)は、農業分野におけるリモートセンシングデータの活用やスマート農業の促進に取り組んでいます。調査が必要な圃場の衛星画像を色分けして視覚的に判別できるようにして、農業行政関係業務の中でも負担の大きい現地調査業務を効率化しました。

他にも放牧牛の自動飼養システムや農作物の生育モニタリングにも衛星データを活用しています。

参考:農業 | 一般財団法人リモート・センシング技術センター

環境監視

SAR衛星は、環境監視にも活用されています。たとえば、小型SAR衛星を開発しているフィンランド発の企業ICEYEは、ブラジル政府と契約し、アマゾンの森林を監視しています。SAR衛星を使うことで、特定の森林エリアに絞った衛星画像を入手できるため、数日以内に違法伐採がなされている現場を突き止められるようになったのです。

参考:小型SAR衛星開発、天候に左右されない高解像度データを「素早く」届けるICEYE 災害監視、安全保障にも – TECHBLITZ

また、国土地理院は「だいち2号」の観測データを利用した解析を行い、地盤変動を監視しています。宇宙から地球表面の変動を監視する「干渉SAR」という技術を使い、地震や火山活動に伴う地表の変動を目で見える形で捉えられるようになりました。

参考:干渉SAR | 国土地理院

SAR衛星の開発に携わる企業

どのような企業・組織がSAR衛星の実用化に携わっているのか紹介していきます。

JAXA

JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、SAR衛星技術の研究開発を行っており、小型SAR衛星群による新たなサービス創出等に向けた共同実証を開始しています。

2021年には株式会社QPS研究所と九州電力株式会社との共同実証の開始を発表。小型SAR衛星3号機に軌道上画像化装置を搭載・実証し、軌道上で画像化されたSAR画像の有効性評価を含めた事業成立性を検証しています。九州電力が進めるSARデータを活用した電力設備や設備周辺環境の巡視点検、地域・社会の課題解決に繋がる新たなサービスの検討の支援を行っています。

参考:JAXA | 小型SAR衛星群による新たなサービス創出等に向けた共同実証を開始

NEC

NECは宇宙事業において半世紀以上の歴史があり、約80機の衛星を開発・製造し、世界の約300機の衛星に約8000台の機器も供給してきました。2018年1月には、日本では民間企業で初めて地球観測衛星「ASNARO-2」の打ち上げに成功し、この衛星がSARを搭載していました。

参考:衛星技術を防災・減災に活用し、安全・安心なまちづくりを実現する

また、NECは衛星SARとAI技術を組み合わせることで、設備点検に利用できる技術も開発。国土交通省が定める橋の点検項目のうち、目視では気づきにくい程度の「異常なたわみ」をミリ単位の精度で検知し、橋の崩落につながる重大損傷の発見を可能にしました。

参考:NEC、衛星SARとAIを活用し、橋の崩落につながる重大損傷を発見する技術を開発 (2022年7月6日): プレスリリース | NEC

Synspective

Synspective株式会社は、2018年設立の衛星による観測データを活用したワンストップソリューション事業を行うスタートアップ。2022年にはシリーズBラウンドによる第三者割当増資および融資により119億円の資金調達を実施しました。

内閣府「ImPACT」プログラムの成果を応用した独自の小型SAR衛星により、高頻度観測を可能にする衛星群を構築。そのデータの販売や、機械学習やデータサイエンスを用いた政府・企業向けのソリューションを提供しています。

参考:“国内最大規模*” Synspectiveが新たに119億円を調達累計資金調達額は228億円に|株式会社Synspectiveのプレスリリース

QPS研究所

QPS研究所は、福岡に本社を置く宇宙開発のスタートアップ。2005年に設立され、約20社の福岡を中心とした地場企業と共同で小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発しました。その製造費用は従来のSAR衛星の1/100で、重量も従来のSAR衛星の1/20。

現在、同社は「イザナミ」と「イザナギ」の2機の衛星を運用しています。毎年複数機の衛星を打ち上げる予定で、2025年までに36機の小型SAR衛星からなるコンステレーションを構築する計画です。

参考:[九州から宇宙へ]QPS研究所が小型SAR衛星2号機「イザナミ」打ち上げに成功! | お知らせ | 福岡市科学館

(TOMORUBA編集部 鈴木光平)

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