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【ディープテック基礎知識②】幅広い領域で利用される「ゲノム編集」の活用事例とは?国内スタートアップと併せて紹介

【ディープテック基礎知識②】幅広い領域で利用される「ゲノム編集」の活用事例とは?国内スタートアップと併せて紹介

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科学に詳しくない方でも、日常の中で「遺伝子組み換え」や「ゲノム編集」という言葉を聞いたことがあるでしょう。遺伝子を何かしら変化させるというイメージを持っている方は多いと思いますが、その技術が私たちの生活にどう影響するか理解しているでしょうか。

新規事業やオープンイノベーションに関わるビジネスパーソンなら知っておきたい【ディープテック基礎知識】の第2弾では、ゲノム編集を取り上げ、その特徴や事業展開における課題、開発を進めているスタートアップを紹介していきます。

ゲノム編集とは

ゲノム編集とは、生物が持つゲノムDNA上の特定の塩基配列を狙って変化させる技術のこと。遺伝子を切断、挿入、置換、削除することで、細胞の性質を変えることができます。

ゲノム編集と混同されがちな技術に遺伝子組み換えがあります。遺伝子組み換えとは、外来の遺伝子を細胞に導入して新しい形質を付け加える技術です。細胞に本来ない遺伝子を持ち込むことで、細胞の機能や特性を変化させます。例えば、バクテリアにインスリンの遺伝子を組み込んで、インスリンを大量に生産させることが可能です。

ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いは、細胞が元々持っている性質を細胞内部で変化させるか、外来の遺伝子を持ち込んで新しい性質を付け加えるかという点。ゲノム編集では、自然界に存在する可能性のある変異を人工的に誘発することができ、例えば、トマトの赤色素の遺伝子をゲノム編集で無効化することで、白いトマトも作れます。.

ゲノム編集の活用事例

ゲノム編集技術は様々な分野での応用が可能であり、それが世界的に注目されている理由でもあります。どのような分野で、どのように活用されているのか紹介していきます。

医療分野

まずは医療分野におけるゲノム編集の活用事例を見ていきましょう。例えば感染症対策として、ゲノム編集技術を用いてウイルスや細菌の感染力や毒性を低下させたり、免疫細胞の感染耐性を向上させたりする研究が行われています。

他にも再生医療では、iPS細胞やES細胞から作製した臓器や組織に対する拒絶反応を抑えたり、患者自身の細胞から作製した臓器や組織に必要な遺伝子を導入する研究も進められています。遺伝子治療の領域では、ゲノム編集技術を用いて、遺伝性疾患やがんなどの原因となるゲノムの変異を修復したり、治療に必要な遺伝子を導入したりする研究が行われています。

まだ実験段階のものが多く、臨床応用にはさまざまな課題や倫理的問題が残りますが、医療分野において革新的な治療法や診断法を提供する可能性が高いと期待されているのです。

農業・漁業分野

続いて農業・漁業分野におけるゲノム編集の活用事例も見ていきましょう。例えば水産養殖では、ゲノム編集技術を用いて、マサバの成長を促進したり、養殖環境に適応させたりする研究が行われています。

また、作物栽培では作物の耐性や品質を向上させたり、新しい特性を付与したりする研究も盛んです。畜産領域においては、家畜の生産性や健康を改善したり、新しい品種を開発する研究も行われています。

人類が直面する食糧危機の解決策として、多くの注目を集めているのです。

工業分野

工業分野におけるゲノム編集の活用事例としては、試薬、香料、化粧品、プラスチックなどの工業材料を、植物や微生物から生産する技術の開発が行われています。ゲノム編集技術を用いて、植物や微生物の細胞が持つ生合成能力を高めたり、新たな生合成経路を作り出したりすることで、高付加価値な工業材料を効率的に生産するためです。

また、植物の遺伝子改変の有効性を高める新規ゲノム編集技術「TiD」の開発も進められており、従来よりも高い精度と効率で植物の遺伝子改変を行うことができるようになりました。植物から高機能品やバイオ燃料などを生産する技術の開発に貢献すると期待されています。

ゲノム編集によって新しい素材や原料の合成など、新たなバイオリソースの開発が次々と進められています。

ゲノム編集の倫理的課題

人類が直面する様々な課題の解決策として期待を集めるゲノム編集ですが、一方で倫理的・社会的な観点から様々な規制がかけられています。ゲノム編集技術を普及させるために、それらの問題や規制をクリアしながら進めていくことが欠かせません。

例えば、ゲノム編集を人の生殖に用いることで、人の尊厳や優生思想、社会的差別などの重大な問題を引き起こす可能性があります。そのため、日本学術会議は、人の生殖にゲノム編集を用いることに関しては、倫理的正当性を認めることができないという提言を出しています。また、日本では、人の生殖細胞や受精卵に対するゲノム編集は法律で禁止されています。

一方、ゲノム編集は、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)と呼ばれるさまざまな問題を引き起こす可能性が注視されています。

「ゲノム編集によって作られた新しい生物や食品は安全か?」「ゲノム編集によって得られた知識や技術は誰が所有するか?」「ゲノム編集によって生まれた個体や種は自然界に影響を与えるか?」といった問題などです。これらの問題は、科学者だけでなく、一般市民や政策決定者も関わって考えていかなければなりません。

今後、ゲノム編集を利用していくには、その目的や方法、影響などを慎重に吟味し、適切に判断していく必要があるのです。

ゲノム編集に携わる日本のスタートアップ

世界的に研究が行われているゲノム編集ですが、その技術をビジネスに応用するスタートアップは日本にも存在します。その一部を見ていきましょう。

セツロテック

セツロテックはゲノム編集の研究開発受託サービスを提供する2017年創業のスタートアップ。ゲノム編集技術を用いて、農業や医療などの分野で新しい製品やサービスを開発しています。2022年には住友商事と資本業務提携を行っています。

https://www.setsurotech.com/

ペプチドリーム

ペプチドリームはDNAを「合成」し、ゲノムを「編集」する技術を持つ神戸大学発のバイオベンチャー。塩基編集技術「Target-AID」をコア技術として、創薬事業を展開しています。この技術は、DNAの切断を伴わないため、より正確で精緻なゲノム編集が可能にしました。

https://www.peptidream.com/

エディットフォース

エディットフォースは日本発のゲノム編集技術を事業化するために設立された九州大学発のスタートアップ。PPR技術というDNAだけでなくRNAも編集できる技術をコア技術として、農業や医療などの分野で新しい価値を創出しています。

https://www.editforce.co.jp/company/history/

リージョナルフィッシュ

京都大学発のスタートアップで、ゲノム編集技術を用いて水産物の品種改良を行っており、ゲノム編集で1.5倍肉厚にした「22世紀鯛」を開発しました。ゲノム編集食品として厚生労働省と農林水産省として受理されており、国の手続を経て上市する、世界で初めてのゲノム編集動物食品となります。

https://regional.fish/

(TOMORUBA編集部 鈴木光平)

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第1回:【ディープテック基礎知識①】SAR衛星が地球観測にもたらした革新とは?活用事例と開発企業を紹介