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カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

カーボンニュートラル必達を掲げ『GI基金』に2兆円を造成。支援する分野や採択されたプロジェクトとは

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回のテーマは「グリーンイノベーション基金(GI基金)」です。GI基金は、カーボンニュートラルの達成を目指すために創設された大きな枠組みであり、国内の重要な政策を長期的に支援しています。このGI基金は日本の成長戦略の一環で、前例のない規模であることからビジネスへの影響範囲は広く、多くの人にとって理解しておいて損はないトピックと言えます。

NEDOに2兆円の基金を造成し、野心的な目標に挑む企業を支援

政府は、2050年カーボンニュートラル達成を目指すため、経済と環境の好循環につなげるための「グリーン成長戦略」を策定しています。そのなかで、エネルギー・産業部門の構造転換や、大胆な投資によるイノベーションといった現行の取組を大幅に加速することを目的に「グリーンイノベーション基金(GI基金)」を創設しました。

過去に類を見ない2兆円のGI基金をNEDOに造成し、野心的な目標にコミットする企業等に対して、10年間、研究開発・実証から社会実装までを継続して支援していくものとなっています。

出典:グリーンイノベーション基金事業(NEDO)

2020〜2030年の10年間で、野心的なプロジェクトを基金事業全体で横断的に支援し、「国際競争力」「実用化段階」「民間投資誘発額」等の指標をモニタリングしながらCO2削減効果と、経済波及効果を向上させることが目標です。

関連ページ:グリーンイノベーション基金事業(NEDO)

GI基金が2兆円の予算をあてる20のプロジェクト

ではGI基金に造設された2兆円の予算はどのように使われるのでしょうか。経済産業省のホームページでは以下のように説明されています。

支援対象

グリーン成長戦略において実行計画を策定している重点分野であり、政策効果が大きく、社会実装までを見据えて長期間の継続支援が必要な領域に重点化して支援

・従来の研究開発プロジェクトの平均規模(200億円)以上を目安

・国による支援が短期間で十分なプロジェクトは対象外

・社会実装までを担える、企業等の収益事業を行う者を主な実施主体(中小・ベンチャー企業の参画を促進、大学・研究機関の参画も想定)

・国が委託するに足る革新的・基盤的な研究開発要素を含むことが必要

引用:グリーンイノベーション基金 (METI/経済産業省)

要するに、ある程度の規模があり長期的なプロジェクトでなおかつ社会実装が見込まれる成長分野に予算が割り当てられるということです。

政府は、支援する分野を20のプロジェクトに細分化して、それぞれのプロジェクトに予算を配分しています。20のプロジェクトは以下の通りです。

1.洋上風力発電の低コスト化

2.次世代型太陽電池の開発

3.大規模水素サプライチェーンの構築

4.再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造

5.製鉄プロセスにおける水素活用

6.燃料アンモニアサプライチェーンの構築

7.CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発

8.CO2等を用いた燃料製造技術開発

9.CO2を用いたコンクリート等製造技術開発

10.CO2の分離回収等技術開発

11.廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現

12.次世代蓄電池・次世代モーターの開発

13.電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発

14.スマートモビリティ社会の構築

15.次世代デジタルインフラの構築

16.次世代航空機の開発

17.次世代船舶の開発

18.食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術の開発

19.バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進

20.製造分野における熱プロセスの脱炭素化

GI基金ではこれらのプロジェクトを実施する体制として透明性・実効性の高いガバナンス体制を構築しています。主に「グリーンイノベーションプロジェクト部会」「分野別ワーキンググループ」「経済産業省」「NEDO」の4つの組織が緊密に連携をとりながらプロジェクトを組成、実施、評価していきます。

参考ページ:グリーンイノベーション基金 (METI/経済産業省)

GI基金に採択された具体的な事業

すでにいくつもの有望な事業がGI基金により支援されています。

バイオベンチャーのちとせ研究所は、前述した20分野のうち「19. バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進」に対して「光合成によるCO2直接利用を基盤とした日本発グローバル産業構築」のテーマを提案し、実施予定先として採択されています。総事業費は約500億円、実施期間は2023年度から2030年度までを予定しています。

今回実施予定先として採択されたGI基金事業テーマでは、100haの生産規模にて経済合理性と環境持続性の双方を見据えた藻類生産技術開発と、CO2を直接原料として生産する藻類バイオマスを原料にした化成品や化粧品、燃料、飼料、食品などの幅広い用途開発を実施するとのことです。

参照ページ:NEDOのグリーンイノベーション基金事業に総額500億円規模のテーマが採択 -ちとせグループが運営する藻類産業を構築するプロジェクト「MATSURI」が規模拡大- | News

そのほかにも、自動運転スタートアップのティアフォーは20分野のうちの「13. 電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発」に対して「Microautonomy~集合的にスケーラブルな自動運転システムの創出」を提案し、採択されています。GI基金の事業規模は2022年度から2030年度までの9年間で254億円を予定しています。

ティアフォーはこれに加えて、既存株主であるSOMPOホールディングス、ヤマハ発動機、そして新たにブリヂストンを加えた3社を引受先としたシリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による121億円の資金調達を実施してこのプロジェクトの成功を目指しています。現行技術比で100倍以上の電力効率を達成可能とする自動運転ソフトウェアの開発を推進するとのことです。

参照ページ:ティアフォー、GI基金採択とシリーズB資金調達 総額400億円規模の自動運転ソフトウェア開発推進とリファレンスデザイン提供へ

【編集後記】大規模投資が結実するか

2023年度の一般会計総額が114兆3812億円と考えると、造成した2兆円に及ぶGI基金がいかに大規模であるかがうかがえます。GI基金は10年間にわたって研究・開発から社会実装までを支援する取り組みとして、成功すれば経済成長とカーボンニュートラルに対するインパクトは計り知れません。一方で、仮にプロジェクトの大半が失敗に終わってしまえば経産省やNEDOは責任を厳しく追求されるでしょう。大規模投資が結実するか否か、しっかりと注視していかなければいけません。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

第32回:80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

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