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80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

80年代から途上国に輸出される『福岡方式』とは?温暖化防止にもつながる再現性の高いゴミ問題の解決策

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パリ協定で定められた「世界の気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑える」を達成するための指標として、先進国では「2050年までにCO2排出量をゼロにする」ことが目標になっています。これがいわゆるカーボンニュートラルですが、日本でも段階的な目標として2030年までにCO2排出量を46%削減することを目指しています。TOMORUBAの連載「カーボンニュートラル達成への道」では、各業界がどのように脱炭素に向けた取り組みをしているのか追いかけていきます。

今回取り上げるのはメタン排出削減の方法として期待が集まっている『福岡方式』です。福岡方式はその名の通り福岡で生まれたメタン排出削減メソッドですが、これが現在、世界に輸出されるほどのスタンダードになりつつあります。福岡方式はどのように優れていて、なぜ世界で採用されているのでしょうか。

福岡方式とは埋立地のガス生成を抑制する「準好気性埋立構造」のこと

埋立地のガス生成を抑制する技術「準好気性埋立構造」のことを『福岡方式』と称します。準好気性埋立構造は、埋立地において空気の流入を一定程度許しながらも、埋立地内部でのガス生成を抑制することを目的とする構造のことです。

出典:福岡方式 - 準好気性埋立構造とは?

福岡方式を採用することで、埋立地内部でのガス生成が抑制され、地下水や空気への汚染リスクを低減することが期待されます。また、抑制されるガスには温室効果ガスの一種であるメタンガスも含まれているため、ゴミ処理や埋め立て分野におけるカーボンニュートラルへの貢献にも期待されます。

福岡方式は導入ハードルが低く、温室効果ガスの削減にもつながる

福岡方式はもともと、花嶋正孝現福岡大学名誉教授により研究開発され、福岡市で実用化した技術です。福岡市は生ごみ主体の埋立場から汚濁水や臭気などの問題を抱えていましたが、昭和40年代後半から福岡大学と共同で浸出水の浄化を目的に埋立地改善の実験をはじめ、昭和50年に建設した新蒲田埋立場で実用化に成功しています。

可燃ごみを使った実験で、福岡方式によるごみ埋立は、嫌気性ごみ埋立に比べて温室効果ガスを50%以上削減できることがわかっています。

このように、福岡方式は決して最新技術と呼ばれるたぐいのものではありませんが、今なお以下のようなメリットがあるため重宝している技術となっています。

・自然界に備わっている自浄作用を活用し廃棄物を安定させる。そのため、機械や装置の面で技術的要求度は低い

・埋立廃棄物の分解が促進され浸出水が良質化する

・メタンガスの排出が抑制され、温暖化防止につながる

・安定化が促進されるため埋立地の早期活用につながる

・システムの基本となる工学部分が用意で資材の自由度も高く、費用対効果も高い

・建設・維持管理が容易

参照ページ:福岡方式 - 準好気性埋立構造とは?

アフリカ、アジアなどの発展途上国で導入が進む福岡方式

福岡方式は自然界の自浄作用を活用した埋立方法であるため、日本以外でも導入するハードルは高くありません。そのため福岡方式は、アフリカやアジアなどの発展途上国で数多く導入された事例があります。

福岡大学で福岡方式を指導している松藤康司名誉教授は、1988年に政府開発援助(ODA)の一環でJICAの衛生埋立の専門家としてマレーシアに派遣されて福岡方式での埋立を成功させています。松藤氏はそれ以降、JICAや国連ハビタット、福岡市、福岡大学などからの協力要請を受けて、イラン、中国、イタリア、ドミニカ共和国、ベトナム、ブータン、サモアなど13カ国で埋立場改善を行った実績を持ちます。さらに、福岡に120カ国以上の研修生を受け入れて、技術指導などを行っています。

カーボンニュートラル実現に向けて、発展途上国の対策が課題となっている中、福岡方式は実績のある温室効果ガスの削減方法として導入が進んでいるのです。

参照ページ:世界のゴミ問題は「福岡方式」が解決している

【編集後記】福岡方式は技術的要求が少ないところに勝ち筋があった

この連載ではついつい最新技術をテーマに取り上げがちですが、福岡方式は1980年代後半から現在にいたるまで発展途上国に輸出されている技術です。発展途上国がこぞって福岡方式を採用する理由はなんといっても技術的要求が少なく、自由度が高く、コスパ良く導入できる点です。カーボンニュートラルに貢献する最新技術を開発したところで、先進国でしか導入できないとなると影響力は半減してしまうので、福岡方式のようなハードルの低い技術がもっと流通することもインパクトにつながるでしょう。

(TOMORUBA編集部 久野太一)


■連載一覧

第1回:地球の持続可能性を占うカーボンニュートラル達成への道。各国の目標や関連分野などの基礎知識

第2回:カーボンニュートラルに「全力チャレンジ」する自動車業界のマイルストーンとイノベーションの種

第3回:もう改善余地がない?カーボンニュートラル達成のために産業部門に課された高いハードルとは

第4回:カーボンニュートラル実現のために、家庭や業務はどう変わる?キーワードは省エネ・エネルギー転換・データ駆動型社会

第5回:圧倒的なCO2排出量かつ電力構成比トップの火力発電。カーボンニュートラルに向けた戦略とは

第6回:カーボンニュートラルに向けた原子力をめぐる政策と、日本独自の事情を加味した落とし所とは

第7回:カーボンニュートラルに欠かせない再生可能エネルギー。国内で主軸になる二つの発電方法

第8回:必ずCO2を排出してしまうコンクリート・セメントを代替する「カーボンネガティブコンクリート」とは?

第9回:ポテンシャルの高い洋上風力発電がヨーロッパで主流でも日本で出遅れている理由は?

第10回:成長スピードが課題。太陽光・風力発電の効果を最大化する「蓄電池」の現状とは

第11回:ロシアのエネルギー資源と経済制裁はカーボンニュートラルにどのような影響を与えるか?

第12回:水素燃料電池車(FCV)は“失敗”ではなく急成長中!水素バス・水素電車はどのように社会実装が進んでいる?

第13回:国内CO2排出量の14%を占める鉄鋼業。カーボンニュートラル実現に向けた課題と期待の新技術「COURSE50」とは

第14回:プラスチックのリサイクルで出遅れる日本。知られていない国内基準と国際基準の違いとは

第15回:カーボンニュートラルを実現したらガス業界はどうなる?ガス業界が描く3つのシナリオとは

第16回:実は世界3位の地熱発電資源を保有する日本!優秀なベースロード電源としてのポテンシャルとは

第17回:牛の“げっぷ”が畜産で最大の課題。CO2の28倍の温室効果を持つメタン削減の道筋は?

第18回:回収したCO2を資源にする「メタネーション」が火力発電やガス業界に与える影響は?

第19回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?米・独・英の特徴的な政策とは【各国の政策:前編】

第20回:カーボンニュートラル達成に向け、なぜ「政策」が重要なのか?仏・中・ポーランドの特徴的な政策とは【各国の政策:後編】

第21回:海水をCO2回収タンクにする「海のカーボンニュートラル」の新技術とは?

第22回:ビル・ゲイツ氏が提唱する「グリーンプレミアム」とは?カーボンニュートラルを理解するための重要な指標

第23回:内閣府が初公表し注目される、環境対策を考慮した「グリーンGDP」はGDPに代わる指標となるか?

第24回:カーボンニュートラルの「知財」はなぜ重要か?日本が知財競争力1位となった4分野とは

第25回:再エネ資源の宝庫であるアフリカ。カーボンニュートラルの現状とポテンシャルは?

第26回:「ゼロ・エミッション火力プラント」の巨大なインパクト。圧倒的なCO2排出を占める火力発電をどうやって“ゼロ”にするのか?

第27回:消費者の行動変容を促す「カーボンフットプリント」は、なぜカーボンニュートラル達成のために重要なのか

第28回:脱炭素ドミノを目指す「地域脱炭素ロードマップ」と「脱炭素先行地域」の戦略とは?

第29回:次世代原発の『小型原子炉』はなぜ低コストで非常時の安全性が高いのか?

第30回:『SAF』なら燃焼しても実質CO2排出ゼロ?廃食油をリサイクルして製造する次世代型航空燃料とは

第31回:日本は「海洋エネルギー」のポテンシャルが世界トップクラス。再エネの宝庫である海のパワーとは

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